男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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35話「プロトとの話の続き」

「ミコ様ですね、こちらへどうぞ」

 

 

 カフェ「メントル」に入店し名前を告げるとプロトが先に僕の名前も伝えていたため、すぐにも個室へと案内される。店内は銀で作られた魔法道具が幾つも並べられており、騒然としないまでも幾つかは働いて、幾つかはただのインテリアになっていた。

 

 

「やぁ、早かったねミコ。それにふふっ……いや悪い、そんな可愛らしい服を持っているとは思わなくってね」

 

「なに、私が可愛い服着てたら悪いの?」

 

「いいや全くもって。さ、まずはお茶を飲もうか」

 

 

 僕が頬を膨らませると、またくすっと笑って席に促した。僕だって最初は抵抗したんだよ?結局、可愛いものは可愛くていいね、という結論に達しただけで。

 ちなみに着替えてきたのは大きめのシャツの上に、薄めな水色でやや厚手のワンピースを重ねたもの。魔法で温めなくても暖かいし可愛いから最近気に入っている。

 

 

「さて、ミコ」

 

 

 プロトは既にテーブルに届いていたティーカップからコップへと流麗にお茶を注ぎ、僕と自分の分とで配り一口お茶を含んだ。

 

 

「神々と、あとは魔法使いについて共有したい……んだっけ?私にそんな語り合える程の神様の知識なんてないよ?」

 

「そこは気にする必要ないさ。アストヒクという名前に聞き覚えはあるね?当然あるだろう。ここ魔法学園アストヒクの学園名だからね。」

 

「……もしかして?」

 

「流石ミコ、この流れですぐに話の意味を理解してくれたようだね!そうとも、この学園の名を冠する者は実在し、その者は神だったのさ!」

 

 

 へぇ、と相槌を打って僕も紅茶を一口含む。

 

 

「となると他の大きな機関も同じなのかな。確かアナヒット、ヴァハグン、メハシェファって所が内地の中でもトップクラスに大きいんだっけ?私は行ったことないんだけど、たまーに聞くんだよね、特にアナヒットはアストヒクより高度な学校みたいな話だし」

 

「その通り!いや全くもってその通りだよ。他にも神の名を持つ機関なり施設なりは存在するが、そうとは限らないものも勿論ある。しかし重要なのはそれら大きな機関の大抵が、その創設にその神々が実際に関わっているという事なんだよ」

 

「神様が天界から降りてきて啓示を〜……的な?」

 

「いいや、言葉通り創設時さ。つまりこれらは大昔も大昔から存在していて、神々の時代だとか御伽話で語られる世界から存続している歴史あるものなんだよ」

 

 

 なんだか馴染みのある話のような。日本も古事記、日本神話?から天皇がそのまま続いている事になってたり三種の神器があったりするし、その規模がずっと大きくなったようなものなのかな。

 

 

「すごいねぇ」

 

「ふむ、反応が薄いね。まだ怒っているわけでもないようだけど、きみにはあまり興味を唆られない話だったかな?」

 

「あぁいや、私の故郷の日本って国もそんな感じで大昔から続くありがたい存在がいらしてさ。物理世界でも魔法世界でも、形は違えど続くものがあるんだなぁって、ちょっと感慨深くって。」

 

「なるほどね、となるとある意味で君は神の国の住人だったわけだ」

 

「……ありがたいって意味ではそうなるね。僕にとっては幸福だとか満足のいくような場所ではなかったけど」

 

 

 他の国と比べたら、遥かに良質な国だという意見は知っている。

 でも、あそこは僕を助ける人間は、助けられる人間はいなかった。

 

 

「それで。本当は何を話したいの?ただ神々の名前と、魔法使いの名前を共有したいだけなのかな、それとも本題が別にあったりする?」

 

「いつにも増して鋭いね。その通り、本題があるのが見透かされてしまった以上はさっさとそちらへ入ろうか」

 

 

 プロトは満足げにレモンケーキを口に運ぶと、その本題というものを語り出した。

 

 

「きみは今の魔法世界をどう思う?大変な努力が必要とはいえ、やろうと思えば魔女は神々にいくらでもなれてしまうようなこの世界を」

 

「まぁ、良くは思ってないかな。例の本にする神も好きではないし。日本には八百万の神々っていう概念があるんだけど、それが実際に迷惑してきたらこんな不愉快なのかってだけで」

 

「ならもし、もしもの話だ。もし神々によって世界をこれ以上変えられないように出来るとしたら……きみはどうする?」

 

「うーん……」

 

 

 その時のプロトの顔は印象的だった。

 いつもと変わらない目の形に、唇。声色だってきっと平常的で変わり映えのない人を魅了するものだったと思う。

 

 でも、この時だけ。

 プロトは他人に、人生相談を持ちかけているような、不安を抱えているような気配を纏っていた。外見から見えるものとは異なる雰囲気だったから少し言葉に迷った。

 

 もしこの質問がプロトにとって大切なものだとしたら?

 僕は同意し賛同してあげるべきなのだろうか。あるいは僕の意見を言えばいいのか、あるいは当たり障りのない言葉を並べ立てればいいのか。

 

 僕も一口、レモンケーキを口に運ぶ。

 ケーキの味は少し、酸味が強かった。

 

 

「もしそう出来る権利が僕にあったとしても、僕はしないかな」

 

「……そうか」

 

「それが害を止める選択であっても、完全に他人の欲求を排斥してしまうのは違うと思う。それが例え他人を害するものであっても、害する自由を奪ってはいけないと、僕は思うよ」

 

 

 僕は自分の意見を選択した。これが彼女にとって良い答えになるのかは分からない。だから、せめてもの誠意としてこの時だけ僕と名乗って。

 

 プロトの不安げな気配は消えていた。僕の答えがどんな意味になったのかは分からないし、不安そうなのは僕の勘違いだっただけかもしれない。少なくともそれでこの日話すことは終了した。

 

 あとは本題の前の話に戻った。神々の名前だとか、魔法使いの名前だとか。そういった単純な知識の共有だけがされる。興味深い話ではあるけど、プロトが本当に話したかったのはあの一つだけな事が、そんな会話の中で一言一言を交わすたびに確信していった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまた、ミコ」

 

「うん。また次の授業で会おうね、プロト」

 

 

 カフェ「メントル」を後にする。

 太陽が雲に隠れたせいか、少し肌寒い。保温魔法を入れて僕は圏域外派のロビーへの帰路を辿る。寮棟につく頃には白いものが積もっていた。

 

 そうして空を見上げて、プロトの事を考える。

 はたして僕が彼女へ助言が出来たのかはやはり分からないけれど……

 

 

 

 きっと彼女は、僕がどう答えても自分の道を変えることは無かったのだと思う。

 それが例え肯定されるのであれ否定されるのであれ、彼女はただ、他人に自分の考えを知って欲しかったんだろう。

 

 僕と彼女との少しだけ奇妙な友情は、まだ長く続く。

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