魔法学園アストヒク敷地内、とある区の隠蔽されたボロ小屋の地下ロビー。
そこには学園長のお膝元にありながら、傲岸不遜にも企みを働く者たちがいた。
彼女たちの名は「ヤルダバオート・パリセード」
共通の目的により集まった魔女にして……ここ魔法学園にて今後、一波乱二波乱を呼び起こす「サバトの素月」である。
「さて、定例議会の時間だ」
彼女らの中で最も若く、また最も強い権力を持つ少女は、絹を撫でるように滑らかで美しい声色でもって号令をかけた。
「ヤゾーさんの姿が見えないが、何かあったか?あの人が欠席するなんて珍しい」
最も偉い少女より二つ離れた席に座る、長身で妖しげな気配を纏う赤毛の女性が疑問を投げる。彼女への返答は末席に位置する翡翠色の麗しい女性によって返された。
「正課後の生徒への対応が忙しいため、今回は欠席するとの連絡が入っていました、エローアイオス。どうやら彼女にとっても予想外な反応だったようです」
「なるほど。しっかしガキ共の世話をあいつがねぇ、ガキがガキの世話をするなんて中々面白い図だな?しかもあのヤゾーさんが。はははは!」
「鎮まれエローアイオス。ヤゾーの件は理解した。だがサバダイオスよ、アドーニンはどうした?連絡があるのであれば別だが、おそらくそうではないのだろう?」
末席より二つ手前に座す、荘厳な気配を発する鷲鼻の老婆は、未だ衰えない真っ赤な髪を振り払い、妖しげなエローアイオスに続いて翡翠色のサバダイオスへと答えを求める。
その答えが十全でない、あるいはそもそも存在しないのであれば──厳罰を下す裁判官のような、十全な怒りを内に沸き立たせながら。
「アドーニンからの連絡はありません、サバオート。」
「またか。相も変わらずふざけているなあの小娘は。我々は協力関係にあるからこそ存続している事をよもや忘れてはいまいな……?」
サバダイオスの返答に、サバオートはその真っ赤な髪を由良立たせ怒りを露わにする。先ほどエローアイオスに静粛にと求めた張本人は怒髪天を衝き、いつでも大声を出す準備が出来ているようだった。
「サバオートもどうか落ち着いて。今回の欠席者はヤゾーとアドーニンの二人だけなようですね?進行を続けて下さい、スア、サバダイオス」
アスタファイオスと呼ばれるサファイアのような美しい青の髪と瞳を持った女性は、最も若く最も権力のある──スアと呼ばれる、翡翠色の少女とまた翡翠色のサバダイオスへと進行を促す。
「ハオートからは何かあるかい?」
「
スアは群青色の瞳を持った金髪のハオートへと声をかけるが、ハオートはスアへと心底丁寧に、そして簡潔に言葉を述べて報告を終わらせた。
全員の確認が取れた事に頷くとスアは一つ咳払いをして、声高らかに宣言を行う。
「スア、ハオート、エローアイオス、アスタファイオス、サバオート、サバダイオス。以上七名の出席をもって今回のヤルダバオート・パリセードの議会を開始する」
「真なる神を、阻むために。」
「「真なる神を阻むために!!」」
杯を掲げるスアの声に続き、六人もまた杯を掲げその言葉を復唱する。
彼らが共する目的のために。
それを機に共同計画の進捗の報告、また調査結果。あらゆる情報が飛び交うその議会が始まった。しかしそれはある意味互いを結び、縛り上げる糸を引っ張り確認する作業と同じだった。
故に欠席したヤゾー、そしてアドーニンと呼ばれる魔女たちは信用を一つ欠する事を意味する。それ故か、あるいは日頃の行いか。こんな話題まで持ち上がる。
「アドーニンを抹殺しておいた方が良いのではないか?」
騒然とはしない。ある意味当然の議題といった様子で誰もが真剣に賛成か反対か、あるいは放棄するかの意見を述べていく。
幾つかの討論の末、最終的にスアによってその案は否決された。
「どれほど稚拙とはいえ、置けば全てに効く駒を早々に手放すのは勿体無いというものさ。何よりあれは、ぼくの悪性よりもよりずっと悪質で悪辣だろうからね。参考としてもまだ手元には欲しい」
スアの決定に意を唱える者はいない。
議会は続く。彼女らの目的が果たされるまで幾度でも。
これが、最低でも黄昏の位階以上でなければ対応不当と類される現象難度「サバトの素月」たちの活動記録。複数人で計画し実行するというごく普通の組織。
それは凡人が成し得る妥協点で、けれど彼女たちには他の素月と異なり確かに頼る術があった。
故に、例え最期にその月が沈むとしても……
彼女たちは天へ至ろうと、もがき続けるだろう。