「「ミコくん、女の子になってみない!?」」
「……はい?」
チクタクと時を刻む時計の音が静かに響くロビーで、紅茶を啜りながら本を読むという優雅な午後の一時を過ごしていた所に……リーベさんとフレスノ先輩が目をカッ開いた面持ちで入室する。
その第一声は、挨拶でもなく性転換の提案だった。
えっと、何で?
「ふっふっふ、ついに手に入れたのですよミコくん。そう、性転換のポーションを……!これが中々手に入らなくてですね、市を地道に探してついに手に入れたのです!!」
「初デートした時に立ち寄ったお店覚えてるかな、昼顔区にあるすごいポーション作ってた子のお店。あそこに行ったら丁度売っててね……!あるだけ買い占めてきちゃった!」
リーベさんは何本もの試験管をテーブルに並べる。その中には淡い黄色の液体が保存されており、怪しげに揺蕩っていた。なお何故飲ませたいかもどんな原料なのかも語るつもりはないらしい。
「それ……飲んでも大丈夫なんですか?」
「女の子になる以外は大丈夫だと思いますよ!効果時間は一日らしいです。丁度いいくらいですね!」
「ふーん……」
薬と先輩たちを見つめて、思案する。
正直に言うと……ちょっと興味があった。
今でも結構満足はしてるけど、実際女の子の身体になったらどんな感じなのか気になるじゃん。もしかしたらリーベさん達みたいにすごーいボディになるかもしれないし、あと髪色が変わったりしたりするのかなって。
「まぁ、いいですよ」
「オ?ミコくんちゃんその感じだともしかしてもしかして女の子に元から興味が──」
「飲む気無くすような煽り方しないの!」
「いったぁ!」
「……けほん。」
拳骨の起きる現場から目を逸らしつつ、試験管を一本手にとる。きゅぽん、とコルクが抜ける快音を鳴らすと中の液体の香りが漂った。香りはオレンジのような柑橘類の甘酸っぱい香りがして、そこだけで評価すると薬にしては美味しそうに思える。
「服用するんですよね?」
「だね、ぐいっといっちゃって!」
「んくっ──うえぇ!」
流石に怖いので、恐る恐るまずは舌先に含む程度にポーションの味を確かめる。なるほど、不味い。とんだ詐欺もあったものだ、この香りからすれば美味しいはずだろ。山菜をろくに灰汁抜きしなかった時のような酷いえぐ味が舌先を塗り潰す。
「んぐーっ!」
これ以上味わいたくないため一気に飲み干す。不快なものが喉を通る。幸い舌触りそのものはサラっとしているため、味が酷い以外には後遺症が残らなかった。
「まっっっず……」
「そんなに不味いんだこれ」
「灰汁抜きしてない山菜味って感じですかね……」
「ただの爆弾じゃないですかそれ」
三人して試験管を手に取り内容液を見つめる。
食品の成分表示表を見ているような気分だ。
「ん、んん?」
服用してから十分ほどした頃だろうか、全身に違和感が生じる。
むず痒いだけで痛みはない、のだけれど──
「あれ……ミコくんなんか縮んでいってない?」
目線が低くなっていく。急激に下がるわけじゃないけどじわじわと占めて頭一個分くらい下がっていって、それと同時に全身もよりほっそりとしていって……
「あえ?」
僕は、わたしになっちゃった。
「こ、これは小さくて可愛い……!あととてつもなく犯罪臭がしますね、魔女社会にゃ違法なんてないですけど!」
「み、ミコくんどう?女の子になった気分は」
「……」
何となくお部屋を見渡してから自分の身体を見つめる。お胸は相変わらず無くて、更にお股も無くなったから寂しい感じがする。それ以外はあんまり変わらないかなぁ?
「あんまり変わらないかなぁ、リーベお姉ちゃん」
「「お姉ちゃん!!??」」
わたしの感想に二人のお姉ちゃんは大声を出して。
「ひっ……!?うわあああああん!!」
その声に驚いて、わたしは泣き出しちゃった。
……これから一日、僕はわたしとして過ごすことになるのだけれど。ポーションの作用は魔女の変容を強めるもので、僕が潜在的に持っていた願望を反映するものらしく。
その結果、わたしが圏域外派の全員を振り回すことになるのだった。