「うわあああああん!」
「み、ミコちゃんどうしたの!?」
「急に泣いちゃいましたよどうするんですか先輩……!」
「私に言われても!?」
ミコちゃんは私たちの声に驚いて泣き出しちゃったんだけど……流石に性転換してからほんの僅かのやり取りだけで、まさか彼が心身共に
暫くの間、ただおろおろして意味もなく「どこか痛いの」とか聞くしかなかった。
「失礼しま……え、だ、誰その子……!?」
「はっ、アンちゃんいい所に!」
しかしそこへ。かちゃりとノブの回る軽い音を鳴らし、圏域外派の中でも最も魔法薬学に精通した大先生、アンちゃんがやってくる。
困惑した様子で。
「しかも泣いてる……!?」
「聞いてアンちゃん、あのね、ミコくんにTS薬飲ませたんだけど」
「TS薬……!?」
「なんか急に泣き出しちゃって」
「どう言うこと……!?」
うん、まぁそりゃそういう反応になるよね。
しかしそこはアンちゃん。薬と聞くや否や、テーブルに置かれたTS薬を手に取ってじぃっと観察する。続いて懐からお皿を取り出すと思えば数滴の溶液を垂らすと、溶液はじゅっと音を立てて蒸発し、霧のように立ち昇らせた。
「えいっ」
アンちゃんはその霧に頭を突っ込み、霧は頭に纏わりついて吸着……吸収?されていった。このお皿は魔法道具らしく、液体を揮発させると同時に情報として霧に変化させ、情報の霧に頭を突っ込むことで直接情報を獲得出来る!……というものらしい。アンちゃん作なんだって。
「えっと……なるほど。このTS薬は命属性ランク2、魔女の変容を一時的に異常活性化させる事で性転換させるみたいです。だから今のミコちゃんは……えっと、身体だけじゃなくて精神も引っ張られているってことになるのかな……?」
「変容で精神も変わるなんてありますっけ!?」
「あ、あるにはあると思いますっ普通は緩やかに変化するってだけで……!」
「ぐすっ、ふえええええ」
「わ、わかった!つまりなるほどそういう事か……!よしよしミコちゃん怖かったねごめんね、びっくりしちゃったね!」
つまりミコちゃんは私たちのオーバーリアクションに驚いた事で泣き出したという事になる、というかそれ以外考えられないので!魔女の変容で痛みは伴わないはずだし!
「ひぐっ、うぅぅ」
「ブハッ幼女の泣き顔かわよっ」
「フレスノ先輩……?」
「いや違うんですアン、これはあくまで事故でしてね?」
「アンおねえちゃん……」
「お姉ちゃん……!?」
デジャブ。
顔を覆いながら喜びの様相を呈するアンちゃん。声が大きくないから今回はびっくりさせずに済んだけどね、良かった良かった。
「えっと、そうだ!ミコちゃん甘いもの食べたくない?」
「……食べたい」
「よしよし、じゃあ美味しいケーキを食べよう」
「ケーキ……!」
ケーキと聞くと、赤く腫れた目元をこすって目を輝かせる。まだ目がうるうるとしているけれど、普段の彼以上に甘いものに関心を寄せているのが目で見て取れる。
「ほー、リーベ先輩これいい所のケーキじゃないですか。いつの間にこんなものを?」
「校長先生からの罰の依頼を受けた帰りにちょっとね。依頼主がたまたまケーキ屋さんだって聞いたから買わせて貰ったんだ」
「おっきいショートケーキだ〜!」
「ぐふっ」
「り、リーベ先輩……!」
やった、やったと言いながらぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。なんだこの可愛い生き物は……!私の彼氏、いや今は彼女か。超絶可愛すぎる。
危うく気を失いかけながら彼女をソファに座らせて、ショートケーキのホールを切り分けフォークを渡す。もちろん、フレスノちゃんとアンちゃんにもね。
「お手てをぱっちん、いただきます!」
「「……!?」」
謎の掛け声と共に手を合わせてからミコちゃんは食べ始める。前から手を合わせていただきますって言ってたけど、更に謎の行動をしている。可愛いけど理解の追いつかなさの方がやや勝る。なにそれ日本の文化でいいんだよね!?
「い、いただきます」
続いて私たちも一口含む。クリームがサラっとしているのにしっかり甘さを感じて、イチゴの甘酸っぱさが甘味の二重奏を奏でる。スポンジもフワフワとしててとっても美味しい。
「〜♪」
ニコニコ聞きなれない鼻歌を歌いながら、お行儀よくフォークでケーキを切り取りまた一つ口へ運ぶ。幼女化しているといっても知識や作法はそのままなのかもしれない。普段も食べ方が綺麗なんだよね、デートの時に食事した時もマナーが分からないとは言ってたけど普通に食べれてたし。
「ごちそうさまでした……」
またぱちんと手を合わせて食事の終わりを告げる。けどどうも視線がちらついていて、私たちのケーキを見ている……うん、まだ食べたいんだね。分かりやすい。普段もこうやって分かりやすいなら甘やかしやすいんだけどなぁ!
「ふふ、まだ食べる?」
「……!いいの!?」
「いいよ、好きなだけ食べなさーい!」
「わーい!」
また1ピース切り分けられて。
結局ミコちゃんはムネメの分のだけ残して全て平らた。
幼女の甘味欲、恐るべし。
食べ終わって休む間もなくミコちゃんは衣装部屋に飛び込む。何しているのと開けようとせども、開けちゃダメ!と返ってきて。私たちは唐突な待ちぼうけを喰らわされる。
「じゃじゃーん!」
暫くするとフリフリ緑色のワンピースに身を包んだ天使がロビーに舞い降りる。頭にはヘッドドレスを身につけて、足には可愛いローファーを履いている。くるんと回ると裾が靡いて、ニコっと太陽のような笑顔を彼女は浮かべる。
普段はこんなフリフリの可愛い系なんて、私たちが言わないと着ようとしないのに……願望の姿って事はやっぱり本当は着たかったのかな?
「可愛いね〜!」
「えへへ」
「んふ、可愛いねっ」
変な笑いが込み上げてくる……私の彼氏が可愛すぎる、これ私許されていいのか?こんな幼女の彼女とかもう魔女裁判にかけられて有罪判決出てもおかしくない。
「フレスノ先輩……?はっ!」
「……」
「気を失っている……!?
そういえばフレスノちゃんはロリータ系好きだったね、あまりにの尊さに意識を手放したみたい。気持ちは分かるよ、普段素っ気ないのに今じゃこんな明るい笑顔を振り撒いてるんだもん。ギャップ萌えが超超超すごい。
普段の笑顔は愛想笑いか微笑みの延長線上って感じだし、ね。
可愛い可愛いと皆で褒めたり笑顔でいると、ミコちゃんは私の前にお座りして、頭を胸に預けて寄りかかる。普段はこんな目の前にお座りしたり寄りかかることも、胸に触れようともしないのに。
「よしよしよしよし〜!」
「えへへへ」
頭を撫でると嬉しそうに縮こまる。綺麗な黒髪がすらりと降りてて小さな頭と合わさり撫でているこっちも気持ちがいい。少し手を止めると振り返って催促して。また少し手を止めると頬を膨らませる。もちもちのほっぺが膨らむ姿は小さな風船のようで愛らしさが際だっていた。
「あ、ムネメししょー!」
「……なんだ、どうなってる?」
第二の驚愕者が扉を潜って和やかな世界に来訪すると、ミコちゃんはすぐさまぴょんっと飛び出して抱き着いた。ムネメは思わずいつも咥えているタバコを落として、空いた口が閉じる事の無いままぽかんとしてる。
……子供は、制御できない。