男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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42話「盗聴デート」

「〜♪」

 

 

 ここ最近の授業は講師の先生の都合で午前中に終わることが多かった。なのでその後はゆっくりと学食を摂ってはロビーに顔を一度出して自室へ戻り、お茶を入れお菓子をつまみながらノートを広げて、復習と予習とに優雅に取り掛かる。

 

 それもあってか、自室に籠ってばかりでなくお茶とお菓子のために一人で外に出る事もある。もちろん、デートの下見もある程度は兼ねてって所はあるけれどね。

 

 

「こんこん、ミコちゃんいますか?いますよねお茶を啜る音聞こえますし」

 

 

 そう寛ぎながら勉強していたところに、プライバシー皆無な先輩の声が聞こえる。声の主は十中八九フレスノ先輩だろう。当たり前だけど勉強机から玄関扉まで、お茶を啜る音が聞こえる程近いわけでも壁や扉が薄いわけでもない。

 

 

「はいはい、なんでしょうか盗聴先輩」

 

「ハハハこの。いやぁちょっと依頼を受けたんですけどね、是非ミコちゃんにも付き合って欲しいなと思いましてやってきたんです。暇そうですし」

 

「ふむ?とりあえずここじゃ何ですし、中にどうぞ。先輩にもお茶お淹れしますよ」

 

「おぉミコ茶!」

 

「なんかそれ嫌な感じするのでやめてください」

 

 

 玄関を開け、そのまま先輩を自室に通す。

 すると先輩はすぐにでも勉強机の椅子ではなくベッドの方に腰をかけて物色を始めた。

 ……は!?なんで物色してるのこの人!?

 

 

「《重力制御》ふんっ!何やってんですかフレスノ先輩!?」

 

「ぐえっ、バレたか……!」

 

「いやバレるクソもないでしょ、やめてくださいよ!?盗聴先輩から盗難、いや強盗魔女に名前変わりますよ!?」

 

「それはミコくんの匙加減でしょう、キミが私の呼び方が変わってほしくないならキミが呼び方を変えなければいいのです。そう、私が何をしても!」

 

 

 いい加減なことを言うので魔法で先輩を無重力状態にしてから放り出して制止する。

 マジで何やってるんだこの人……

 

 

「えへ、いやぁミコくんはどういう趣味なのかと思いまして」

 

「プライバシーくらい気にしてくださいね。いつも人様の生活盗聴してるからって人として大切な道を踏み外してはいけませんよ」

 

 

 少し腹を立てながらも魔法を解除し、サイドテーブルにティーポッドとカップを置いて二人の分を注ぐ。すぐにも部屋に湯気が立ち昇って、ダージリンの良い香りが広がった。尚、お茶菓子のクッキーはフレスノ先輩の分はない。

 プライバシー無視してくる人にお茶菓子は無しだ。

 

 

「あーんミコくん私にもクッキーを」

 

「もぐもぐ……失礼な人にはあげません。それで、要件は?」

 

「けほん。依頼への協力をして欲しいという話ですね」

 

 

 軽く駄々を捏ねながらもフレスノ先輩は咳払いと共に態度を切り替えて話だす。

 

 

「まぁそう大した依頼ではないんです。ゴシップ好きな学生がいましてね、ミスティコっていうんですけど、彼女から学園内のゴシップを調べて欲しいとお願いされまして」

 

「それならフレスノ先輩だけでもいいんじゃないですか?お得意の盗聴魔法で何とかしてくださればいいじゃないですか。僕が手伝うまでもなくないです?」

 

 

 

 少し嫌味を込めて返答する。フレスノ先輩、というか魔女全体がそういうきらいがあるけれど、何も言われなければ他人のプライバシーを軽視する傾向があるんだよね。

 特にフレスノ先輩はその面が少し強いのか彼女が扱う通信魔法の研究の副産物で生まれた盗聴魔法の日常的使用はいい例だろう。

 

 日常的使用が具体的にどういうものかって?

 この人、寮棟の個人の部屋の中だろうとお構いなしに中の音全部聞いてる。会話もお風呂もトイレも全部聞こうと思えば聞けるって言ったら……分かりやすいよね?

 

 

 

「けほんけほん。いやぁけほん。いやいやいや盗聴だなんて人聞きの悪いですね、あれはあくまで日常的な情報収集かつ魔法のテストであるからして、決して盗聴などと、ずず……ぶは、あっつぁ!」

 

「ふー……で、なんで僕に?」

 

 

 先輩に大柄な態度をとりながらお茶を啜る。この頃、ススピロを始めとして自分の中で全てにおいて敬うべき相手と、ある程度砕けても良い相手と、軽んじても良い相手というものの区別がつくようになってきた。

 

 というわけでどうせロクでもないか、どうでもいい理由だとタカを括っていたら……

 

 

 

 

 

 

「えーっと、そのね。まぁ……ほら、体よくデート出来るじゃないですか?」

 

「……はえ?」

 

 

 

 驚きのあまりカーペットにカップが落ちて染みが広がる。動揺を隠すために一口お茶を啜ろうとするも口は空を吸った。

 

 珍しく口ごもりながら話すかと思えば、で、デート??

 

 

「あ、あの、動揺しすぎじゃないですかミコくん?」

 

「そそ、そりゃあだって」

 

「リーベ先輩といつもデートしてるでしょう?その先だって──」

 

「それ以上言ったらぶっ飛ばしますよ!?いやリーベさんの時だって緊張しますけど、デート!?え、これ二股?浮気?それともそういうドッキリ??恋愛感情を盾にした悪戯は悪質です、本当にぶっ飛ばしますよ!?」

 

 

 フレスノ先輩は混乱する僕に苦笑いを浮かべながらも僕のお菓子をつまんで、手のひら大の石状の魔法道具を取り出し起動させた。

 

 

『ミコくん本人が嫌がらないなら、私はフレスノちゃんもお付き合いすることには異論ないよ。あ、でも出来る限りミコくんのプライバシーは守ってあげるんだよ?』

 

「これ録音機器みたいな魔法道具ですか……えぇ……」

 

「えぇ。とのことです」

 

 

 魔法道具からはリーベさん声を録音した事質が流れる。

 そういえばこの前の上手くいかなかったデートの時にそんな感じのこと言ってたな。そうか、魔法世界は複数の妻がいる事には本当に不思議じゃない価値観なのか。

 

 全然慣れないというか罪悪感が勝手に一人歩きしてるんだけど!

 ……いや、というかデートの許可取る前に僕のプライバシー守ってないじゃん。

 

 

「で……ど、どうなんですか?」

 

 

 照れながらも先輩は答えを待っている。

 普段の周囲を振り回す姿と今のしおらしい様子でのギャップがすごい。可愛いとは思わないけど態度のギャップがすごい。何でこの所業からのこの告白で照れる事が出来るんだ?かなり大胆な照れ隠しだな。

 

 

「今後はプライバシー守ってくださいね?」

 

「えっと、はい。すみませんでした」

 

「じゃあ先ずは今日の……依頼こなしつつのデート?から、始めましょう」

 

「いやったーー!!」

 

 

 

 

 

 

 目の前の彼女はいつもの笑顔の調子へと帰還していく。

 いざ一人の女性としてフレスノ先輩を見ると、ハツラツとして活動的な側面と知的な探究者という側面を併せ持っている魅力が、記憶の戸棚からふつふつと浮かび上がる。

 

 けれど正直に言えば、女性としての魅力は今まで意識していなかったからそれも少し曖昧な印象。それでもフレスノ先輩だけに心を寄せている点も確かにあって、それは気やすさだった。

 

 悪い言い方になるけれど……仲が良いのに軽んじて接する事が出来るという点は、悪友のススピロや少し特別な枠の友達であるプロトとも違って、ありがたい存在でもあった。

 それにプライバシーがないという所で言っても、時には踏み込みづらい領域にも入ってきて、本当は見つめないといけない事実を見つめるように言ってくれるから。辛くはあるけど有り難くもある。どうせ僕へのプライバシー無視程度なら折檻して終わりでいいし。

 

 

「それでは一緒に調査しましょうね、ミコくん!」

 

「えっと、はい。よろしくお願いします」

 

 

 そうして勢いのままコップを置いて、僕たちは手を繋いで部屋を出た。

 

 

 

 ところで、僕がオッケーの返事を出した後に、薄らと部屋にあったフレスノ先輩の魔力が消えていくような気がしたんだけど、あまり気がつきたくなかった事に気がついてしまう。

 

 部屋から出ると、再びフレスノ先輩の魔力を感じるのである。

 それも全体──廊下に限らず寮棟あるいは校舎にすら。

 

 然るのちに僕は、フレスノ先輩は盗聴する際に魔法を使っているのではなく、常に盗聴魔法を作動させているという事を知ることになるのだった。

 

 

 

 この人、洗脳魔法よりもやばい事してないかな。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 噂集めといっても、探偵のような噂を直接何人もの生徒から聞いて収集するような作業ではなく、指を耳に添えて感知範囲内……といっても学園の敷地面積全体だけど。とにかかその中の音を拾い、それっぽい情報を集めている。

 

 デートと銘打っているとはいえ依頼は依頼。ただ一人暇を持て余すのもどうかと思いフレスノ先輩に盗聴魔法を教えてもらって、その作業に僕も参加しているのだけれど。

 

 どうやらこの魔法、単独で音を集めるんじゃなくて各地に設置した魔法道具の範囲内の音を回収する事と、人の声を始めとして特定の音だけを拾うようにフィルターを作る事がメインらしい。ここら辺は電波の中継地点と似ているような気がして、魔法と科学は似通うのは本当なんだと感心させられる。

 

 

 

「といっても何だか……」

 

「ビビっと来るのがありませんねぇ。研究成果奪ったチュエちゃんがまさかのアナヒット入学試験落ち、おねしょした魔女の布団が空を飛んでいた、飼育中の男の魔女が逃亡、話題沸騰中の軽食屋。ありきたりって感じですね」

 

「物理世界出身からすると未だに慣れませんけどね?そっか、落ちたんだあの子……まぁ流石にそれは自業自得だな」

 

 

 

 人を陥れてまでして勝ち取ろうとするも成らず、恥を隠そうとするも隠せず、支配しようとするも逃げられ、人の不幸でもなくごく普通の話題まで。

 

 最早ここまで来ると魔女にとって何が「ゴシップ」というものなのか分からなくなってくる。そもそもゴシップの意味としてはこれらの情報でも合ってはいるのだろうか……

 

 

 

「もうちょっとこう、ビビっと来る情報が欲しいですね。正直身の回りの情報なんかよりも大事件な空気のする情報の方がおもしろ……けほん、価値が高いですから」

 

「直しても直さなくても酷いですね」

 

「はははまさかそんな事は……オッ、一個面白いものがありましたよ。何でも例の外部講師の一人が、授業中に生徒を一人『帯の魔女』とかいう魔女の部屋に送って、死なせたとかもしくは殺したとか何とか」

 

 

 

 フレスノ先輩の口調からして、外部講師は夜の位階の先生方のことなのだろう。ソフィア先生は優しいからそんな事はしないと思いたいけれど、不安な気持ちは拭えなかった。特にその死亡した生徒がプロトだったらなんて、いやな想像が頭を過るから。

 

 

 

「というわけで、今回の納品情報はこの夜の位階の外部講師としましょう!探りまくりますよ、ミコくん!」

 

「大丈夫かなぁ……」

 

 

 格上の人の身辺を探るとか嫌な予感しかしないけれど、遠く離れた場所から聞く分には問題ないかと気を抜いた。

 

 そして見事なまでに、その嫌な予感は的中した。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

『バシレイア、会議はどうでしたか?』

 

『クラティラか。気になるなら戻ってソフィアの議事を確認しろ……と言いたいところだが、教えてやるか。』

 

 

 波長が合い外部講師の声を拾う事に成功する。片方は鈴のような小さく可愛らしい声を持ったクラティラという少女で、もう一人のバシレイアという者は荘厳で厳格な、低い声の老婆だった。

 

 

『神器の在処はまだ判明していない。絞り込めてはいるが、現段階では地下にあるというのが最も高い可能性の一つとして結論付けられた程度。お茶会の動きは確認されておらず、学園長に露呈した気配もない』

 

『大きな進展はなし、と』

 

『うむ。それとお前たちに対する処分についても軽く討論が起きた』

 

『……まさか、たった一回欠席しただけで?』

 

 

 軽やかな振動を止めた鈴の、カチッとした硬い金属の冷ややかな声が伝わる。

 

 

『いいや。確かに信用を一つ欠いた事は確かだが、お前に対してはそう問題視はされなかった。特に向かない教職の役を負う以上はある程度こうなる事も予想は出来ていたからな』

 

『……まさか、またジロフソニアが欠席したのですか?』

 

『あぁ。』

 

 

 鈴は大きくため息をついて、老婆もそれに続く。ジロフソニアという人物に関して、二人の悩みの種は共通しているようだった。

 

 

『ところで……』

 

『はい?』

 

 

 老婆は悩みの種に沈んでしまった声色を浮かび上がらせて、まるで可愛い子供を見るかのように上擦った声で続けた。

 

 

 

 

 

 

『このちんけな魔法はなんだろうな?』

 

 

 

 

 

 

「っ、今すぐ回線切って!」

 

 

 フレスノ先輩の声と同時に魔法を中断させる。

 あの瞬間、明らかにこちらと視点が合っていた。盗聴の魔法であって、会話するためのものではないから姿も声も分からないはずだけど……それでも背筋が凍るような感覚に襲われる。

 

 

「……もしかしたら魔力くらいは、覚えられてしまったかもしれませんね」

 

 

 冷や汗を浮かばせながらフレスノ先輩は呟く。

 

 デートも兼ねてなんて気楽に耳を澄ませた人の不幸を掴む行いは、とんだ災いの種を掴む事態となった。

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