「おえぇぇぇ!」
「うわぁぁぁ先輩が吐いた……!ふ、袋、布巾……!」
「くそ、こんな事になるなら中継機用の魔法道具作っておくんでした、魔法工学苦手なのにかまけてたせいでこんな……おえー気持ちわるっ」
感知範囲を広げるための魔法道具は作っても、複数人との通信を同時に行うための魔法道具なんて用意しているはずもなく私は今苦しんでいます。アンが介助してくれているおかげで何とか頭を動かせていますけどね。
「次はどこに繋ぐんですか……?」
「細かい戦場はヒルフ派と幾つかの友好的な派閥が請け負ってくれたので、朝顔区の学園長と夜顔区のアストライア先生に繋げて状況を共有します……学園長なら自力で把握できてるかもしれないですけどね、うぷっ」
『むっ、それは本当かフレスノくん。感謝する、おかげで私も動きやすいというものだ。連絡が入った!生徒は全員寮棟の自室に避難しろ、戦闘が得意な者は不得意な者を守れ!今寮棟は結界が強化されているから安全だ、道中は私も目を光らせる。さぁ急げ!』
天まで轟く声でその場で夜顔区に侵略に抵抗している生徒へと指示を出しました。通信魔法に一定以上の音量をカットする機能をつけておいて正解でしたね、多分今の聞いたら鼓膜ぶち破れています。日頃の爆発騒動への対策がこんな所で活きてくるとは。
『フレスノくん、ヒルフくんかリーベくんに昼顔区と夕顔区へそれぞれ応援に行ってくれと伝えてくれないか?朝顔区と夜顔区は学園長と私がそれぞれ抑えられるが、それでこの規模の襲撃だと一区までだ。学園内で生徒の中で最も有力な二人に応援を頼みたい』
「先生、それは不可能です。現在ヒルフとリーベ先輩は同圏域外派所属のムネメ先輩とミコちゃんと共に、黒幕と思われるジロフソニアという生徒と交戦中です。また昼顔区に関してはヒルフ派が集結し対応してくれています」
『ジロフソニア……?確か僻地からの転入生で黎明の位階だったな。その四人がかりで未だ鎮圧出来ていないという事は容疑者としては十分怪しい。分かった、夕顔区はこちらで何とかして──』
『必要ありません、アストライア先生』
「うわっ学園長!?私まだ回線繋いでないのに何でそっちから割り込めるんですか!?」
この学園長、さては私の魔法解析して通信に割り込んだな!?原理はともかく暗号化して通信傍受と干渉防いでるはずなのにおかしいよこの人!
『ふふ、ごめんなさいフレスノさん。今は緊急事態だから先生を大目に見てくださいね。さてアストライア先生、夕顔区に関しては心配不要です。夫を向かわせましたので彼一人で対処が可能でしょう、先生は夜顔区に集中してください』
『夫……まさか、カエデ殿か!』
「カエデ?って学園長の夫!?え、夫さん戦場に出していいんですか!?夫でしょ、家の奥に入れて守って差し上げるべきでは!?」
『ふふふ、私の彼はそんな弱々しい存在ではないですよ。フレスノさんが知らないのも無理はないですね、けど先生はご存知ですよね?私の彼の異名を。』
『「
「はぁ!?」
夫婦揃って夜の位階ってマジで言ってます?てか男で夜の位階に行けるってすごいですね、単純な知識だけでなく戦闘能力に複数属性の混合技術が必要って話ですし、学園長が名札付きなのに対して旦那さんは同じ夜でも異名なの変わってますねほんと。
『ちなみに火鳥風日というのは私が考案しましてね?カエデくんが火のように熱く鳥のように羽ばたき風のように気ままで日のように私を照らしている事からつけたんです。私の故郷の日本には花鳥風月という言葉がありましてそれを文字ったんですけど彼も喜んでくれてそれ以来彼も時折そう名乗ってくれてそれを聞くたびに私のアイデアを彼は喜んでくれているんだなぁと実感するんですけど実際彼は確かに美しく明美ですが燃え盛る火の如く苛烈な一面もありましてそういう点でも火という置き換えが……』
「あの……惚気話はいいんで、とりあえず夕顔区は大丈夫なんですね?」
学園長ってミステリアスな雰囲気で冷酷合理主義者なイメージありましたけどこんな惚気る人だったんですね、ちょっとうざくて親近感湧きますね。
『失礼。はい大丈夫です。夜顔区はアストライア先生が、朝顔区は私が。昼顔区はヒルフ派とその他派閥の協力があるとの話でしたが生徒だけでは不安ですので教員も昼顔区に向かわせます。例のジロフソニアさんに関してはヒルフさんとフレスノさんの方が教員よりも戦闘能力は秀でていますのでお任せします。救援要請があれば私に連絡をお願いしますね』
「分かりました。では学園長、アストライア先生、ご武運を!」
『フレスノくんも無理しないように。
◆◆◆
と・は・い・え。
気になりますよね、学園長の旦那さん!カエデって名前でしたよね気になる!というわけで夕顔区の音を拾ってみようと思ったのですが……パチパチと燃えて小さく爆ぜる音が多いですね、カエデさんの声も魔力も知らないのでピンポイントで合わせたり通信かける事できないですしどうしますか。
「ねぇあなた、私の旦那にしてあげるからこんな学園なんか捨ててこっちについてよ。あなたの事一生苦労させないよ?こんな危ない所に投げ込まれてあなたの妻は酷い魔女でしょ?」
「別にここ、危険じゃないだろ?」
「……あ、ほら見て!花粉に操られた魔女があなたに杖を向けて──」
「洗脳魔法の被害者か、ふんっ」
炎の吹き出すけたたましい音とほぼ同時に、肉の断ち切られる音と焼ける音が続く。私でなければこれが四つ同時に起きている──つまり一瞬にして四肢を奪い去った事には気がつけなかったでしょう。
「え、う、嘘この死体」
「とりあえず動けなくしただけだ、死んじゃいない。あー、『天使』だっけ?そいつらも一応生かしてあるよ、大丈夫」
「ひっ!」
「暴動、侵略?暴力沙汰起こす理由があるのかもしれないけど、まぁ今悪行してるのが悪いからさ。お前も『天使』なんだろ?とりあえずお縄について沙汰を待てよ。俺の斐音ならそう悪いようにはしない……だろ、多分。恐らく。きっと。メイビー。」
「や、やだやめて来ないでお願いだから!」
そしてまた炎と切れる音と焼ける音が鳴って、パチパチと燃えて小さくだけが残るようになりました。どうやら先ほど音がしなかったのは、彼が既に夕顔区にやってきた敵を全て無力化していたから、だったようですね。化け物か……
「はぁ……早く帰って一緒に風呂入りてぇな……」
そんな呟きを最後にまた環境音だけの夕顔区へ戻りました。しかし何はともあれこれで全区の対応完了、あとは黒幕を倒すだけに!そうすれば事態は収束するはずです!
それにしても私の通信魔法がこんなにも役に立つとは思いませんでした。やはり遠隔の情報伝達手段は最強、このまま発展させて既存の特許共をぶちのめしてやろうじゃないですか!
……あれ?何か一つ忘れているような。まぁいっか!