男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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53話「善を夢見る魔女」

「アドーニンが脈打つ瞳の座標を絞った」

 

「ほう」

 

「へぇ」

 

 

 私たちの星の王女様は素晴らしい結果を告げます。

 正直に言って、先日のアドーニンによる単独行動は目に余るものでした。

 地脈に寄生し学園の魔女に危害を加えるという脅威であると思わせる行動。

 挙げ句の果てに生徒の返り討ちに遭い学園長が隔てる異界に幽閉されるという怠惰。

 

 あまりにもお粗末で勝手な行動でしたが、どうやら功罪相殺が許される程度の成果はあったようです。鉄仮面の判官女王様(サバオート)の顔が緩んでいるのがその証拠でしょう。

 

 

 

「やはりこの学園に流れる脈は神器から流出しているものだった。寄生した際、脈を遡上した先に尋常ならざる気配を察知したようだ。その先の調査結果は共有よりも先に、幽閉されてしまって分からないけれどね」

 

「ふむ、自分本位な小娘と言えども役には立ったようだな。あの時のスアの判断は正しかったというわけ、か。まさかこれ程大胆で直接的に位置を絞りこんだとはな。最早襲撃でしかないが」

 

「やるぅ。ところでよ『天使』を勝手に使ったのは誰だ?あれは本来議会で承認を得てから行使するもんだろ。アタシはなぁ〜んにも聞いてないぜ?」

 

「どうやら私が前回欠席した際に決まっていたわけではないようですね。サバダイオス、スア、これはどういう事ですか。『天使』は共有戦力のはずですよ」

 

 

 

 エローアイオスと、前回欠席したヤゾーが「天使」の使用について説明を求めています。これは道理ですね、私も気になっていた点でした。

 

 「天使」は我々ヤルダバオート・パリセードの保有する戦力であり、本来は決戦時にのみ使用する数にものを言わせるための兵のはず。使用するにも議会で承認を行う必要があります。

 

 

 

「申し訳ありません。私(わたくし)の独断で使用させていただきました」

 

 

 挙手をしたのはハオートさんでした。

 

 

「……ハオートさんが?寄りにもよってなんでアンタがアドーニンの単独行動なんかに手を貸したんだ?いや、あんたの先見性は信用してる。だがそれにしたってあの脳みそお花畑女だぞ?手を貸す必要なんて────」

 

「アドーニンが動く直前に『天使』を使用するためハオートが有する占有権限の行使を確認しています。占有権限はそれぞれ一人に割り当てられた権限のため、今回の行動は違反にはあたりません」

 

「ふむ……」

 

 

 ハオートさんは常々未来を知るかの如き先見性を持って行動しています。直前まで、あるいは終わってからでなければその考えを共有してくれないのが玉に瑕ですが……

 

 

「私がアドーニンに手を貸したのは言うまでもなく、『天使』を使用しなければ今回の結果まで行き着く事はあり得ず、また脈打つ瞳の絞り込みはおろか、学園側に我々の存在を明確に感じさせる結果しか齎さないと判断したためです」

 

 

 彼女は判然と続けます。

 

 

「アドーニンの行動に気がついてからは手数の不足について、占有権限を行使して『天使』を使用する事を提言しましたが彼女は耳を貸しませんでした。ですので私が代わって占有権限を行使いたしました。『天使』使用の理由は以上になります」

 

「ありがとうハオート。きみのおかげでアドーニンは徒労ではなく成果となって努力の水を費やせた。ぼくはこの件について、占有権限をハオートの使用ではなくアドーニンの使用に挿げ替えたいと思うのだが、皆はどうかな?」

 

 

 スアさんとヤゾーが賛成に。

 エローアイオスとサバオートが反対に。

 サバダイオスはいつものように、既に天秤が釣り合っているのなら棄権を。

 

 

「ふむ……」

 

 

 そうして今回は、天秤を崩す一票が私の手に握られました。

 

 

「私アスタファイオスは、賛成します」

 

「決まりだね」

 

 

 今回は成果になったとはいえ、あまりにもリスクが大きすぎる行動を議会外で勝手に実行するアドーニンよりも、先見性の広いハオートさんが再び占有権限を有する事こそが最高善になるでしょう。

 

 

 

 

 

 

「さて最後だ」

 

 

 それから議会も進み、大詰めになりました。

 

 

「アドーニンの処遇について、どうする。」

 

 

 処分、救出、放置。

 下されるのはいずれかの一つ。

 

 

「────ではアドーニンについては放置とする。議会でアドーニンを使用する事が決まるまではもう気にする必要はない」

 

 

 短い討論の末、アドーニンは放置される事になりました。

 けれど。

 

 

「お待ちください」

 

「何かな、アスタファイオス」

 

 

 待ったをかけさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

「議会の決定が放置としても、私個人で彼女を救出する事は認めて貰えますか?」

 

 

 

 

 

 

「はぁ!?おい勘弁してくれアンタの頭にも花粉さんがつきやがったのか?いやまぁアンタも大概頭おかしいとは思ってたが、まさか脳みそお花畑が二名様に増えるとはな。世も末だぜ……」

 

 

 エローアイオスは不満そうですね。

 

 

「彼女に処分の決定が下っていない以上はまだアドーニンは仲間であり、かつ重要な立ち位置にあります。最初にスアがこれ以上の情報が共有されていないと仰いましたので、残りの情報を回収する意味でも合理的であると思います」

 

「それはお前の主義によるものだろうが……まぁ、私は構わん。一人で行って一人で死んでも私らは知らぬからな。下らん事でまた『天使』を使わんで欲しいものだが」

 

「ふふ、心配してくれてありがとうございますサバオート」

 

 

 ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまいましたね。言葉こそ厳しいですけれどサバオートはよく人を心配してくださる善い人なのです。

 

 他のメンバーも私個人で動くことを禁じるまでではないようですね。

 皆さん、やはり心根は善良なのです。

 

 

「ではアスタファイオスによるアドーニンの救出は黙認という事で。もしきみが学園の公敵として発覚してしまえば、ぼくたちはその時の状況に応じて敵対するという事は忘れないようにしたまえよ」

 

「勿論です、スア」

 

「では。」

 

 

 こうしてその日の会議は終わりました。

 ヤルダバオート・パリセードは神に至るために集まった魔女の集い、サバトの素月です。私も以前まで、現象難度として指定されるような魔女は悪人であると思っていましたが……こうして当事者になれば、必ずしもそうでないということが良く分かりますね。

 

 さて……

 アドーニンに説教をするためにも、早速動く事にしましょうか。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 その日の晩のこと。

 夢を見ました。

 

 

「母上、見てください!」

 

 

 今は亡き、誇り高き母上の顔がそこにありました。




 お待たせしました。
 祖父の葬式とかインフルワクチンの副反応とかで死にかけていましたが何とか書いた分だけ投稿再開します。
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