男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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7話「問題です、1+1は幾つでしょう」

「問題です、1+1は幾つでしょう」

 

「……はい?」

 

 

 あれから少し経ったある日のこと。

 次の授業へと歩いている僕の目の前に、薄くキラキラとした羽を持つ女の子が立ちふさがっていた。

 

 

「問題です、1+1は幾つでしょう」

 

「2、かな?」

 

「ブッブー!」

 

 

 田んぼの田とか11かな。

 なんて思った、その時。

 

 

「うわっ、わわあああわああががが!?」

 

「キャハハハハ!引っかかった引っかかったー!」

 

 

 僕に電流走る。

 いや、文字通り痺れる何かが頭からかけて全身を突き抜けて全身が軽い痛みと痺れと痙攣を起こしている。

 

 なんだこれ!?

 

 

「ゲホッ、ゲホッ、何したのキミ!?」

 

「こーんな悪戯も知らないなんてまだまだだね!バイバーイ!」

 

「ま、待てっ!?ぐっまだ痺れて……!」

 

 

 女の子は羽ひらつかせて逃げていく。

 追うにも痺れが取れない僕は追う事が出来ない。悪戯にしてはやりすぎだ、てかなんだこの悪戯。魔法か?変に力入ったのか腰が痛いし……!

 

 

「つつ……」

 

「あれ、ミコちゃんじゃないですか」

 

「あぁフレスノせんぱ……ぎゃあああ!?」

 

 

 腰、腰が痛い!いぎぎぎ、痛い痛い痛い痛い!

 なに、何事!?

 

 

「何!?ど、どうしたんですか!?」

 

「こ、腰、がああっ!」

 

「腰!?腰がどうしたんです!?」

 

「痛いんです!!」

 

「も、もしかして、ミコちゃん──」

 

 

 

「──魔女の一撃、貰った?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ひぃぃん……」

 

「許せないね」

 

 

 僕はあの後動けなくなり、偶然その場で居合わせたフレスノ先輩に担いで貰って現在。

 いつものロビー、そのカーペットの上で横たわっている。

 腰が、とても痛い。

 

 

「何なんですかあれぇ……」

 

「フェイの子が走り去ってましたけど、もしかして悪戯されたんですか?」

 

「何ですかフェイって……」

 

「よ、妖精です。ドワーフとかエルフとか、お話でよく出てくるじゃないですか……ああいう幻想的な種族は正式名称を『ル・フェイ』って種族として分類されているんです。妖精、妖人(ようじん)、フェイ、フィーとか、色々略称もありますけど……」

 

「違うな。奴らはそんな曖昧な区切りでの種族じゃない。そもそも世界から──」

 

「まぁまぁムネメ先輩、そんな事よりミコちゃんの心配しようよ~」

 

「あははっ……いだっ!うぐぅぅ」

 

 

 痛すぎて笑えてくる。でも笑って少しでも動くと雷が走るんだよね。

 痛まないように考えると1mmたりとも身体を動かさないように全神経を使う必要が出てくる。

 そうすると逆に冷静になって、極限の集中力が身につく良い修行に──い”ったァい!!

 

 

「フー……フェイの奴から何をされた?」

 

「何、って……雷の魔法を食らいました」

 

「雷か。だとしたら妙にピンポイントだな、フェイと言えども悪戯のために魔法を突き詰める奴は少ない」

 

 

 思案に耽るように煙を深く吐く。

 

 

「電気で腰の筋肉をどうこうしてるんじゃないんですか?」

 

「悪戯のためにそこまで詳細に指定して、ぎっくり腰以外の損傷をほぼ出さないのは逆に高度な魔法だ。お前、それ以外に何かされなかったか」

 

「えーっと……よくある言葉遊びをしました。1+1は幾つでしょう、って」

 

「「ああ~~……」」

 

 

 この場の全員が口を揃えて何かを察した声を出す。

 なに?

 

 

「ぷくくっ。お前、やられたな」

 

「よくある奴ですね」

 

「ごめん、教えなかった私が悪いかも」

 

「ご愁傷様です……」

 

「何ですかそのはんの──いたはァっ!」

 

 

 転じてアン先輩の言葉通り、ご愁傷様です!なんて雰囲気になってムネメ先輩なんかは笑い出す。僕は一体全体何をされたんだよ!?

 

 

「わ、私の回復魔法でまた治るかなぁ?《治れ(ハイレン)》……どう?」

 

「う、う、う……」

 

 

 リーベ先輩が僕の腰に手をあてて魔法を唱えると……だいぶ痛みが和らぐ。それでもまだ痛むけど、う、動ける。動けるぞ!

 

 今気が付いたけど、リーベ先輩の回復魔法の効き目がすごいのって僕が男の魔女だからなのかもしれない。ほら、せ……液と魔力は異性に対しては高い効果を発揮するって言ってたし。まぁ黙ってるけどさ。

 

 

「わぁ!?もう動けるんですか!?」

 

「な、何とか……まだすごい痛いですけど……」

 

「やっぱり私、回復魔法上達したんだなぁ!」

 

「ふっ。それで次はどうする。やられたままで終わるのは──圏域外派(オレたち)らしくないぞ」

 

「いやそれはリーベ先輩とムネメ先輩だけ……と言いたいですけど、私も仕返しするのには賛成ですよ!」

 

「あの、その前に僕が受けた悪戯が何なのか教えてくださいませんか」

 

 

 テーブルに掴まって何とか立ち上がりつつ、僕は質問の言葉を吐き出す。

 うん、動けるようになっただけでまだ痛い。ガチで痛い。走るのは無理。またあの速度で逃げられたら絶対捕まえられない。いや、そもそも僕が走っても捕まえられるのか?

 

 

「それはねぇ、前にも話した"現象"なんだよ」

 

「ギックリ腰の現象って事ですか……」

 

「うん。それも悪戯に使える、ね。」

 

 

 ひとしきり喜んで僕の介助をしつつ、リーベ先輩は解説を続ける。

 

 

「他にも形式があるんだけど、共通しているのは相手に対して『誰もが分かりきった単純な質問をする』ことだね。で、これは質問の答えを決めておく必要があるの。質問された人の返答がこの決めておいた答えと違っていた場合~」

 

魔女の一撃(ヘクセンシュス)を喰らう、って事だ。ふっ」

 

「笑わないでくださいよ。というかそれ、滅茶苦茶悪質じゃないですか。しかも強すぎませんか?」

 

「だ、大丈夫です……この現象はアストヒク内でしか発生しないんです。噂だと、アストヒクの歴代校長が定着させた現象らしいです……」

 

「えぇ……」

 

 

 悪質すぎる。校長が犯人って嘘だろ何考えてんだ。お前がギックリ腰になれよ。

 

 

「でも、一度この現象を受けると二度と受けなくなるんです。質問内容を変えたりしても同じですね」

 

「水疱瘡か何か?」

 

「ふふ、ミコちゃんは物理世界から来たから例えが分かりやすくていいね……」

 

「アン先輩も物理世界から来たんですか?」

 

「うん。私もミコちゃんと同じで物理世界から来たの。他のみんなは魔法世界で生まれ育ったけどね」

 

 

 ちなみに物理世界は僕たちがいた世界の事。日本とかアメリカとかある普通の地球の領域。

 魔法世界は何でも、結界とか色んなものでそっくりそのまま隠したりワープさせてるだけで、同じ地球上に存在する地続きの土地らしい。有名どころだとバミューダトライアングルとか、禁則地とかが入口になってるんだとか。

 

 

 

「で……やるか、復讐。」

 

 

 

「そんな仰々しい言い方じゃないですけど、やられっぱなしは悔しいです。やります……!」

 

「いい度胸だ。ふっ、今回の新入りは中々いいな」

 

 

 僕は杖を杖にして、皆さんと一緒に犯人捜しを始める。

 ……言葉としては正しいと思うんだけど、杖を杖にするってなんだか違和感があるね。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 かなり歩いて、歩いて、歩いた。この学園広すぎる、人探しも楽じゃないぞ。

 途中から腰の痛みが酷くなったのでそこからはリーベさんにおんぶして貰う事になったし。

 悔しい。情けない。くそぉ。

 

 その代わり、進展はあった。僕たちも闇雲に探し回るんじゃなくて、特徴と悪戯の噂を聞いてその活動域を絞っていったからだ。

 そして彼女は丁度今授業を受けていると聞いて、教室の前で出待ちをしている。

 

 

「ふ~、やっと終わった~!さーて、次はどいつに悪戯しよっかな~」

 

「見つけたぞ妖精!」

 

「げぇ、この前の──ぷふふー!なにそれ、おんぶして貰ってるの!?」

 

「うるさい!誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」

 

「あはははは、いひひーー」

 

「フー……俺たちもいるぞ、マリシオ。」

 

「げぇ、ムネメ!あとその子背負ってる奴リーベ!?復讐鬼が何故ここに、まさか自力で捜索を!?」

 

「うちの子によくもやってくれたね!」

 

「に、逃げろー!」

 

 

 ムネメさんがマリシオと呼んだ妖精は飛ぶように、というか文字通り飛んで逃げていく。羽あるもんね、最初に悪戯された時もそうだったし。

 

 

「おいリーベ、ミコを貸せ。」

 

「え?あ、うん。」

 

「え、何するんですか?」

 

 

 ムネメ先輩はおんぶされている僕のローブの首根っこを掴む。猫かな?にゃーん。

 

 

「お前、自分に積もった恨みは自分で晴らすべきだと思わないか。」

 

「え、あぁ確かにそうですね。でもどうやっ──」

 

「全身を魔力で固めろ」

 

「え?」

 

「フンッ!!」

 

「にゃあああああああああああ!?」

 

 

 この人、投げやがった!?しかもすごいスピードなんだけど!怖すぎ!

 

 あ、でもマリシオが見える。

 

 

 

 ヒュウウウゥゥゥゥゥゥゥン……。

 

 

 

「ん?なんだ──はァ!?」

 

「《杖よ現れよ》───喰らえ、悪戯妖精ェ!」

 

「ぐぼぁーー!!」

 

 

 僕は身体をよじりながら杖を出現させ、スピードのままにマリシオの背中を強打する。

 ナイスヒット、ホームラン!

 妖精よ、卑怯とは言うまいな!先に悪戯してきたお前が悪い!

 

 

「きゅう」

 

「やったーー!!……ってあれ、止まらない!?」

 

 

 やばい止まらない、壁に激突する!

 

 

「ふっ。よくやったミコ」

 

 

 ムネメ先輩は打ち倒したマリシオをすごい加速度で通り過ぎた僕を、再び首根っこを掴んで捕まえて止めてくれる。

 

 この人さっきまであっちにいなかったっけ!?

 

 

「俺の考えだとお前は弾丸として飛んでいくものだったが、杖でぶん殴るとはな。いい度胸だ。ふふっ」

 

 

 あ、笑った。いつものニヒルな笑いじゃなくて、微笑ましいって感じの笑顔。

 ムネメ先輩って、かっこいいけど少し近寄り難いってイメージだったけど、こうして見るとちゃんと可愛いんだな。

 

 ……え、人ぶん殴るのを見るのが微笑ましいって事?

 

 

「さて。」

 

「他に犠牲者が出ても困るから~」

 

「ロビーに連れて行って、お仕置きしましょう……!」

 

「「おーー!!」」

 

 

 

「……お仕置き?」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ほれほれ、自慢の羽がこれじゃあシールノートですなぁ」

 

「り、リボンも付けちゃいましょう」

 

「お星さまもつけて~、これで聖夜の羽飾り(クリスマスフェーダー)の完成だね!」

 

「ひぃん」

 

 

 マリシオが大きな棒に、腕を上に、足を下にと拘束された姿で、綺麗な羽にシールを張ったり、リボンを結んだり。頭に星の飾りを置いたりされている。

 

 ……なにこれ??

 

 

「芸術だな」

 

「えぇ……?お仕置きっていうとこう、説教とかお尻を叩くとか、そういうのなんじゃないんですか?」

 

「え、ミコちゃんそっちの方が良かった?じゃあ今からでも──」

 

「いやいいですいいです!このままで!」

 

「そう?」

 

 

 僕に気を使ってこんな変なアートを作ってただけなのか!?え、じゃあ僕に気を使わない場合って何するの?流石にお尻叩くとかだよね。いや別にそれを望んでるわけじゃないけどさ。

 

 

「良かったなマリシオ、ミコが優しい奴で。一部の芸術派閥、血気盛んな武闘派。それと、奴本人はやらないだろうが──最近台頭してきているヒルフ派の誰かでなくて。あるいはミコが相手でなかったら……」

 

「ヒッ!」

 

「もし奴らに手を出していたら……お前は今頃。芸術か、サンドバッグか、あるいは生き地獄にあっていただろうな。リーベとミコの慈悲に存分に感謝するんだな」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!も、もう二度と悪戯しませんから!許してください!」

 

 

 何そのすごい物騒なワード。

 え、この学園の派閥ってそんな物騒なものまであるの?怖すぎない?

 

 

「えっと、何ですかその派閥……?」

 

「はぁ……色々あるんですよ。一部の芸術派閥は魔女とか魔法生物とか、要するに生き物を使って作品を作ろうとするんです。武闘派はシンプルで、相手がズタボロになるまで痛めつけるか、もっと過激なら殺してしまいます」

 

 こめかみを抑えながらフレスノ先輩は話す。どうもこの手の問題あるいは過激な派閥は学園全体での悩みの種なようだ。

 

 

「ヒルフ派は……ちょっと言い表すのが難しいですね。こっちは女子グループの形式なんですけど、頭目の魔女の影響力が強すぎて学園許可制の派閥と規模が並んでるんですよ」

 

「カリスマ、って事ですか」

 

「まー、そういう事。嫌んなるんだよね、最近は問題起こしてるし」

 

「問題?」

 

「ヒルフ自身も好き勝手やってるんだけど、それと同じくらい取り巻きの子たちも好き勝手やってるの。カリスマの暴走っていうか……そういう風にしろってヒルフが指示を出す時もあるんだけど、大体は取り巻きの子たちが『ヒルフ様のために~!』みたいな感じに勝手に行動して、色々迷惑行為してるの」

 

「さ、最近はそれが顕著なの。わ、私も席を取られてたし。お友達も、トイレで水かけられたとか言ってて……」

 

「先生に協力してやれ、って言われても平気で無視する子もいますよね~」

 

「うわぁ……」

 

 

 すっごい生々しい。こっちの方が現実的な女子グループって感じがする。

 現実って嫌なんだなやっぱ。この派閥がこんなに仲良しで本当に良かった。

 

 

「まぁそれくらいなら優しい方だが。とにかく、お前は自分が可愛ければ二度と悪戯をするんじゃないぞ」

 

「はい!はい!やめます!」

 

「ミコからはあるか」

 

「私からは……うーん、特にないです。仕返しはしましたし、お仕置きも注意もしましたし。満足ですよ」

 

「ならこのまま外に運び出して展示しちまうか。その内誰かが解いてくれんだろ」

 

「……え!?」

 

 

 その後、僕たちは飾りが解けないようにマリシオを外へと運び出した。

 展示物は二日ほど続いて、中々評判の良いちょっとしたデートスポットになったらしい。

 うん、デートスポット?女の子同士で付き合ってるのかな……?

 

 とはいえそんな良い評判のせいで誰も解いてくれなかったらしく、放置されお漏らしまでして泣いていたので、こっそり夜中に開放してあげた。

 

 

 

 ごめんマリシオ、僕はまだこの学園が、薄情の極みって事を理解しきれていなかったらしい。

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