もしも、日記編のシルフィの能力に死に戻りがあったら? 作:あえch
「ルディ、ルディ?」
ボクは囁いて、愛しの人の背中に抱きついた。
その背中は、大きくて温かい。
ボクが名前を呼ぶのは、一生を共にすると誓った、ボクの最初で最後の特別な人。
「だーいすき」
ボクの短い言葉が木霊する。
声は反響して、ルディの耳に届く。
届いた声。反響した幸せは、次へと繋がっていく。
「ふふっ。シルフィ、俺も……」
愛しの人の手が、ボクの頭に触れる。
温かくて心地良い。
温もりをくれる世界で一番の彼は、ボクにこんな言葉を残してくれる。
「愛してるよ」
翌日、ロキシーが魔石病にかかった。
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「なんで、なんで、ボクのこと見てくれないんだよ……」
ロキシーが亡くなって、ルディは変わった。
「うるせぇよ。近付くんじゃねぇ」
お酒を飲んで、髭を生やして。
ヒック、ヒックというシャックリと酒臭さが、ボクとアイシャちゃんの鼻を擽る。
「ルディ、ボクを抱いて……「だから!黙れっつってんだろ!」
ルディが怒鳴る。
ボクの視界が、少し濡れる。
「……」
黙る。
「……っ!」
喋ろうと口を開く。
「……」
でも、声は出ない。
ボクは開いた口を閉じて、下唇を噛む。
血が出るほど力強く。
「うるへぇ、ロキシー。うぅ、ロキシー……」
ルディは、ボクを頼ってくれない。
それだけが、真実だった。
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アリエル様とクーデターを起こす。
ボクの昔の夢、恩人のアリエル様を王にする。
そのための戦い、クーデター。
ルディに言おうかとも迷ったが、言わなかった。
だって、ルディはボクを頼ってくれないから。
だから、ボクもルディは頼らない。
「ルディが居なくたって、ボクには仲間が居る」
言葉を吐いて、覚悟を決める。
その証明。ボクは、久々にサングラスを掛けた。
薄黒いサングラス。まるで、今のボクとルディの関係を表したようなサングラス。
「ルディ……」
最悪だ。
もうルディを頼らないって決めたのに、こんな時でもルディのことを考えてしまう。
ルディ、ルディ。
ボクの頭の中は、旦那さんのことでいっぱいで。
クーデターという戦いの前なのに、ボクが思い描くのは、ルディとの幸せの日々。
ご飯を食べて、一緒に魔術の勉強をして。
ルーシーを抱っこして、ルディと我が子のほっぺをプニプニする。
そんな、幸せな日々。
「……帰ったら、ルディと幸せになろう」
美味しいご飯を食べて、ルディと眠る。
ボクが思い描いたのは、そんなたった一つの幸せ。
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クーデターを起こした。
相手はダリウス。問題なく勝てる。
そう。普通に戦えば、普通に勝てるはずだった。
「弱いねぇ」
「……え?」
ルークが斬られた。
音も立てず、沈んだ。
「なんだ、水神の私が来る必要なんて無かったじゃないか」
相手は老婆。
水神と名乗る剣士。
彼女の剣先には、赤い鮮血がべっとりとへばり付いてる。
ベッタリと付いてる。ルークと、そしてボクの血が。
「あ……」
水神と、老婆の前に佇む北帝。
ボクは、その二人を視界に映して、死んだ。
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ボクの人生が終わった。
幸せ……とは言えなかったかもしれない、ボクの人生。
でも、幸せだったかな?
だって、ルディに出会えたんだから。
ルディと結婚出来たんだから。
幸せ、幸せ。
でもなぁ、欲を言えば、ルディと生きたかったなぁ。
少しの後悔。
もしかしたら、そんな後悔が、ボクの罪と言える苦しさが、この時、奇跡を起こした理由だったのかもしれない。
「シルフィ、シルフィ!起きなさい!」
「んー?」
目を覚ます。
この、死人としては有り得ない行動が、ボクの有り得ない奇跡を示す。
「あれ?アリエル様?」
「何を寝ぼけているのですか?本当は、あなたを連れて行きたくはないのですが……ルークにあなたが居ないと始まらないと言われて、すみません」
「え?いや、え?」
「シルフィ、お願いします!私に……」
「……」
「国を!力を!与えてください!!!」
始まるクーデター。
地獄と呼ぶにはあまりにもぬるい業火が、今正に始まろうとしていた。