無為ヶ浜に戻ってきてすぐ、俺たちは正義実現委員会の二人に案内され役所に戻ってきた。彼女達に言われるままついて行くと、誰かが先の扉から出てきた。
「おぉ! ルイさん方!戻ってきたんですね! それで、クラーケンは? どうなりました?」
なんと、部屋から出てきたのは市長さんだった。
「うん! バッチリ退治してきたよ!」
「おぉ!! それはよかった! これで今年も海開きができる! 本当にありがとう皆さん! なんとお礼を言っていいやら」
市長さんは本当に嬉しそうに俺たちに頭を下げ、喜んでくれた。
「そういえば、スラりんやゲレゲレはどちらに?」
「あぁ、あのペット達なら別の部屋で眠っているよ。ティーパーティーの方達が来るまで一生懸命戦ってくれたからね」
「よかったぁ〜」
と胸を撫で下ろしたユメ先輩。
それを聞いて俺達も肩の荷が降りたような気がした。
案内役の正実の子を蚊帳の外に話していると、突然咳払いが聞こえた。
「……よろしいでしょうか?」
「おっと、これは失礼。邪魔をしまいましたね。ティーパーティーの方は、この中にいらっしゃいます。ではまた後で」
市長さんは申し訳なさそうに微笑むと、そのまま会釈を残して去っていった。
すぐに部屋へ通されるのかと思いきや、正実の生徒の一人にその場で待機するよう促され、彼女だけが先にドアの隙間から中へと消えていった。
「呼んでおいて、ここで待たせるんですね……」
「な」
ホシノの不機嫌そうな態度に、俺が心の中で共感を示したその時、入室していた正実の生徒が扉を開けて戻ってきた。
「……お待たせいたしました」
さて、ついにトリニティの生徒会とご対面か……はてさて、どうなるかね。ユメやホシノの件もそうだが一番の問題はサクラコだ。シスターフッドは政治に干渉しないことを方針としている。故に、ティーパーティーでも内情を把握できない学園の内部組織だ。
だが、案内役の生徒の口から発せられた一言は、俺たちの予想を大きく裏切るものだった。
「では、ここからは瀧本様お一人だけでお入りください」
「……え?」
突然の名指し指定に、その場を包んでいた緩やかな空気が一瞬で凍りついたのだった。
□□□
「戦闘からの帰還、お疲れ様でした。トリニティ総合学園生徒会、ティーパーティーのフィリウス分派の幹部を勤めております、桐藤ナギサと申します」
「どっどうも、瀧本ルイです! よろしくお願いします」
あの後、ホシノと多少言い合いを挟んだが、最終的に俺は彼女と一対一で対談することを受け入れた。まあ、サクラコやホシノが同席して変に腹を探り合うよりは、俺一人で話を聞く方がややこしくならないし都合が良いのは確実だ。
ただ、何聞かれるのかわからないのが不安だ。
「戦いから戻って来たばかりのところ、お時間をいただき感謝します」
「あ、ありがとうございます」
緊張で自分でもなんで言ったのかわからない言葉を返す。カップの紅茶を一口飲むと優雅に紅茶のカップを置いたナギサは、ガチガチに緊張している俺の様子を見て、微笑を浮かべた。
「そう固くならず、どうぞ楽になさってください」
「す、すみません。こういう格式高い方との対面は慣れてなくて……作法もさっぱり分からないので、どうしても緊張しちゃって」
俺が冷や汗を拭いながら正直に打ち明けると、彼女はくすりと小さく笑った。
「作法など気にされなくて結構ですよ。この場を設けたのも、ただ単に感謝を言いたかっただけですから」
「あはは……。でも、お礼なら俺以外の三人もそうなのでは? 俺一人だけに感謝を送るのは少し違うかと。別に、あの中の代表ってわけでもないし」
「あら、そうでしたか。では、後ほどあの方々にも直接御礼を申し上げに参りましょう」
「はい、お願いします」
一瞬、会わせていいのか? と考えたが変に隠して勘繰られるよりは吉だと思い、素直にお願いすることにする。
「……では、そろそろ本題に入りましょうか」
部屋の空気感が微かに張り詰めるのを感じ、俺はナギサを見つめながら身を引き締める。
「今回のクラーケン討伐の件に関して、いくつか聴きたいことがございます。………全て、答えていただけますよね?」
流石は時期フィリウス分派代表様、なんて風格と圧だ。一年生でこれならば、並の生徒達を黙らせられるのではないか、と思ってしまうほど。
ひとまず俺は、彼女の話を聞くことにした。聞かれたことはこれだ。
一つ、なぜ今回のクラーケン退治を引き受けたのか? 二つ、どこの勢力なのか? 三つ、他学園の生徒会を連れて来たのか? 四つ、俺がいったい何者なのか?
あらかた聞かれそうなことを聞かれた。特にやましいこともないため、ひとまず全て正直に答えた。
「……では、ここには海水浴に来ただけで市長に頼まれて退治しただけと?」
「はい。だって、あんなのがいたらのんびり泳げもしないじゃないですか」
「ほっとけなかったのも一つの理由ですけど」と付け足して説明する。たったそんだけの理由でろくな見返りも求めず助けた事に、少し意外な反応をしていた。
「では、我々ティーパーティーの格を落とすためではなかったと、そういうことでいいんですよね?」
「落としたところで俺に全く得がないですし、興味もないです。それに、こういうのは早期解決が一番ですから」
「ですが、キヴォトスの外の人間である貴方が倒したと言うには信じがたいです。だってアレには、迫撃砲や戦車ですら効果がありませんでした」
「魔物によっては銃弾で倒れる奴もいるよ。今回は相手が悪かったってだけだ。あぁいう奴には、俺らみたいな昔の武器とか魔法がよく効くんだ」
「そうですか。……なら、ピエールさんの力があれば倒せたのでしょうか?」
「…………ピエール?」
ちょ待てよ!? 今あなた、ピエールって言いませんでした??
「……あの、それってもしかして、スライムナイトですかね?」
「?……えぇ、確か本人がそういう種類だとおっしゃっていましたが」
「本当か!! あのスライムナイトがここにいるんだな!! それで、ソイツは今どこに!!?」
「お、落ち着いてください!? ピエールさんなら今、外で剣の素振りを「サンキュー!ちょっと行ってくる!」えっえぇー!?」
「い、行ってしまいました……」
話の途中なのにも関わらず、俺はナギサを置いて外へと急いで駆け出したのだった。
辿り着くと、役所の後ろで剣を振るスライムナイトを見つけた。
「君がピエールか?」
「む?」
ガシャッ、と相手がこちらを見るのと同時に鎧の軋む音が響く。
「何者だ?」
「初めまして、ナギサさんから話を聞いて来てみたんだ。よろしく、俺は瀧本ルイって言うんだ」
「これはご丁寧にどうも。私はスライムナイトのピエールだ」
握手を求めて手を差し出すと、快くその手を取ってくれた。おお!これが本物のスライムナイトか、手袋越しだけど手が小さいし、しっかりと握力がある。そして何より、全体が可愛いし頼りになりそうだ。
「見たところ、君は冒険者のようだね? 頭に輪っかが無いが、私と同じ外の世界の出身か?」
「そうだね。ただ、君とは別次元のだけど」
「そうか。…君も剣を嗜むのか?」
「ん? まあ、剣が一応メインかな。でも他のもよく使うから」
「同じ剣士と思ったが、違ったか」
「ルイー!」
「ピエールさん!」
話し込んでいると、後ろからサクラコとナギサが走って来た。
「突然出ていかれたのでビックリしました」
「どこに行ったのかと探してみれば、ここだったのですね」
「あ、ごめんなさい! つい興奮していてもたっても居られずに……」
「そんなにピエールさんが気になったのですか? もしかして、魔物にも詳しい?」
「まあ、ある程度は詳しいかなと思います」
と言っても、モンスターリストの豆知識読んでる読んでないがマチマチあるけど。
「そういえば、魔法のこと言った時ナギサさん、結構自然に受け入れましたよね。もしかして……?」
「はい。ピエールさんが私の傷を治した際に知りました」
だから信じたのか。
「ルイ」
ふと、サクラコから名前を呼ばれる。だが、その声音には少し黒いものを感じた。振り向くと、案の定サクラコは怒っていた。……微笑を浮かべて。
「ナギサさんから聞きましたが、話の途中で飛び出したそうですね?」
「非常に反省しております。礼儀の無い軽率な行動だったと反省しております。ナギサさん、先程は申し訳ありませんでした」
即座に謝罪の態勢をとり彼女に向かって頭を下げた。普通に許してもらえたが、その件を知ったピエールが怒り出し「無礼者が!!」と剣を激しく振られ、まんまと嫌われてしまったのでした。
□□□
「では、話も無事終わりましたし、私達はこれで」
再度、ユメとホシノを含めた全員で集まり話し合った。
ナギサからは、お礼を兼ねて改めて招待したいと言ってくれたが、ホシノの強い推しもあって丁重に断らせてもらった。この時のナギサは、純粋に礼をしたいのだろうが他のトリニティ生は陰湿だから何をされるかわからんし、ユメに何かあればキレたホシノがトリニティを滅ぼしかねない。言い過ぎな気もしなくも無いが、今のホシノにはやれるだけの凄みがある。なにより、ゲヘナが警戒する程ならトリニティも同じのはず。下手なことはよそう。
「お疲れ様でした。お仕事、無事に終わるといいですね」
「っ!? はい、ありがとうございます。それでは、皆さんも楽しんでください」
そう言い残し、リムジンに乗ったナギサは正実の戦車部隊と共に無為ヶ浜から出発したのだった。
「……ふぅ、ようやく終わったぁ〜〜!!!!!!」
ようやく全てが終わり、俺はその場で脱力して倒れた。時刻は既に17時を過ぎようとしていた。日が傾き夕方になりそうだった。
「よく頑張りましたね、ルイ」
脱力した俺にしゃがみ込んで顔を覗くサクラコ。彼女の優しい微笑みが、ほんのり赤いひでりを浴びて美しく映った。
「そういえばですが、本当にもらってよかったんですか?」
ホシノが心配そうに聞いてくるその理由は。
「褒賞、本当に私達だけでよかったんですか?」
今回の件について、ティーパーティーの名義でお礼金をもらう事になっている。彼女達がそれを気にしている理由は、それをもらうのがアビドスの二人だけという事だ。
「別にいいよ。俺は稼ごうと思えば洞窟篭ればいいし。サクラコもお金に困ってるわけでもない。かといって欲しいものも俺たちには無いんだ」
「でしたら、お二人がもらった方が良いと思ったのです」
これは、サクラコと一緒に決めたこと。俺も貰えるものは貰っとく精神ではあるが、今一番金銭を求めているのはホシノ達だ。なら、彼女達にあげた方がいい。
「……理由はわかりますが、納得いきませんね」
理解はしてくれたみたいだが、それでも何も無いのがホシノ的には気に入らないらしかった。
「……じゃあ、ホシノ達に代わりに返してもらおうかな?」
と、俺はホシノ達に提案をするのだった。
□□□
時刻は深夜。
無為ヶ浜から遠く遠く離れた別自治区の海岸で、二つの怪しい影が船を止めていた。
「なんとか回収できたようですね」
赤いローブに身を包んだ不気味な異形の男が少女に尋ねる。
少女は一瞥した後、すぐに倒れた黒の制服を着た少女を見る。
「今は気絶しているようだが、あのことを覚えられていたら面倒ですね」
「心配せずとも、彼女が覚えていることはないでしょう。理性を失って暴れ回ったのですから」
「だが、もしもという可能性もある。とりあえず目覚めるまで待って、もし覚えているようなら始末しよう」
「おや? 今すぐではないのですね」
「今でもいいが、今は研究者として結果を見たいのだ」
「なるほど」
そこで話が一度切れる。
「……おや? この子供は不思議な宝玉を持っていますね」
目覚めるまで待っていると異形の男がそんなことを呟いた。少女は、倒れるそれから出て来た宝玉を拾い上げ、昇る月にかざす。それは、とても神秘的で神々しい真紅の輝きを放っていた。
「この宝玉はもしや……?」
「何か知っているのか?」
「……いえ、似た宝玉を目にしたことはありますが。まあ、関係はないでしょう。貴方が持たれては? 悪魔に相応しい良い赤ですからね」
「そうか。お前が戸惑った物だから少し気になっているし、ありがたくもらうとしよう。しかし、なぜこんな物が?」
「おそらく、あの姿からここに流れ着く際、引っかかっていたか、謝って飲み込んでいたか」
「どちらにしろ、何かに使えるかもしれん。……む、こいつにつけた腕輪はどうした?」
そこで、少女につけていたはずの金の腕輪が無いことに気が付いた。
「放ってもいいでしょう。見られたところで、それがなんなのかなどわかるはずもありませんし。今頃焼け焦げて、使い物にならないでしょう」
「まあ、あの腕輪急拵えで用意した物だからな。やはり、特別な腕輪でなければダメか」
「そちらの捜索は私にお任せを、貴方は学園と研究に力を入れてください」
「うむ。では頼んだよ」
「ほっほっほ。では、また会いましょう」
———雷帝殿。
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そろそろ登場する転職でルイが最初になる職業を投票で決めようと思います!(ストーリーに支障無し)
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