機動戦士ガンダム まじかる☆バスク・オムくん 〜俺のゴーグルは全てを『みるみるー』している〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「――俺は、嘘が嫌いだ。とりわけ、軍服という名の『着込みすぎ』がなァッ」
熱い。眼球が、脳みそが、内側からグツグツ煮えている。
宇宙世紀0079年11月30日。南米アマゾン川流域、地球連邦軍総司令部ジャブロー。ジオン公国軍による史上最大規模の降下作戦。歴史に刻まれるその日、ジャブローの空を埋め尽くしたのは、ガウ攻撃空母から吐き出された無数のモビルスーツ――ドムやザクの群れだった。
「バ、バスク大尉ッ、避難してください、第6ゲートが突破されましたァッ!」
部下の叫び声が、熱風にかき消される。連邦の防空網を突破したジオンの意地が、地下深くへと迫っていた。轟音。振動。そして――至近で誘爆したザクの核融合炉。太陽の表面みたいなドギツい閃光が、俺の目玉をむごたらしく焼き払った。
「……あ、ああ……あッ……」真っ暗。完全なる闇。
だが、俺は諦めなかった。俺という男の執念は、核の火でも焼き切れんッ。俺は傍らの技術士官の襟首をむんずと掴み、血を吐くように咆哮した。
「……持って、こいッ……開発部の……あの『ヘンなゴーグル』を、今すぐだァーッ!」
それは連邦が極秘試作した、一点物の光学デバイス。焼けた俺の視神経に直接つないで、映像を脳ミソに叩き込むという、とんでもないシロモノだ。装着した瞬間――俺の視界は、ピカーンと再起動した。
だが。だがだ。そのゴーグルには、開発者すら知らぬ、とんでもない裏機能(バグ)が眠っていたのだッ。試しに、目の前で介抱してくれる看護兵の少女へ焦点を合わせ、俺は思わず心の中で念じた呪文を、口に出していた。
「……み、みるみるーッ!」
ボワッ。少女の真っ白な白衣が、しゅるるるっと、まるで存在しなかったかのように透けて消えた。現れたのは――官給品の、味気ないけれど清潔きわまりない、白いパンツであったッ。
「ぬわーッ!! パ、パンツじゃ〜〜〜〜っ!!!」
鼻の奥から、消防ホースもかくやという勢いで熱い液体が噴き出した。眼球を焼かれ、視界を失ったこの絶望のドン底で、俺はなぜか天にも昇る心地であった。核の爆炎が吹き荒れる地獄の底で、俺だけがひとり、ぐへへ、と鼻血をまき散らして笑っていたのである。
「こ、これが……地球連邦(われわれ)の、秘めたる底力(ポテンシャル)かッ! みるみるーと唱えれば、壁も、服も、みんなスケスケなのだッ!」
「大尉ッ、鼻血が! 傷が深いんですッ、動かないで!」少女が泣きながら俺を抱きかかえる。だが彼女は知らない。抱きしめられたその至近距離で、俺のゴーグルがもう三回連続で『みるみるー』を発動していることを。
「……ふ、ふん。規律(ガバナンス)がなっていないな」俺は震える声で呟いた。「下着が、白すぎるッ! もっとこう……水玉とか、しましまとか、そういう『主張』が必要なのだッ! これからの連邦には、全人類のパンツを一枚残らず把握する力が要るのだァーッ!」
看護兵は俺の狂気に怯え、後ずさった。だが、確信した。服とは嘘だ。制服とは、着込みすぎた見栄だ。他人が必死に隠した『中身』を、みるみるーの一言で丸裸にする。これこそが、重力に縛られた俺たちが、ニュータイプなどという超能力者に対抗できる、唯一にして最強の『聖戦』なのだッ。
――そして俺は、まだ知らなかった。この『みるみるー』の呪文には、恐るべき副作用があることを。唱えるたび、鼻血の量が二倍になり、興奮のあまり心臓がドックンドックンと変な音を立て始めていたのである。
「……見ていろよ、ジオンの連中。貴様らの分厚い装甲の下に、どんな情けない布切れが隠されているか。俺が、このゴーグルで全部……全部……ぬわーッまた出たッ鼻血がァーッ!!」
介抱の手を振り切り、俺は立ち上がった。全宇宙をスケスケにする、孤独でスケベな伝説が――今、ここに開門(ゲート・オープン)したのである。
だが運命は残酷だ。この日俺が透視した『白パンツ』の少女こそ、後に俺の運命を狂わせる、あの女だったとは――バスク・オム、この時まだ、何も気づいていない。