機動戦士ガンダム まじかる☆バスク・オムくん 〜俺のゴーグルは全てを『みるみるー』している〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0087年6月。地球連邦軍の拠点、ホンコン・シティ。公式記録において、この地はカラバの輸送機アウドムラを追撃するサイコ・ガンダムと、それを迎え撃つカミーユのZガンダム(Mk-II)が市街戦を繰り広げ、甚大な被害を出した悲劇の戦場として知られる。
だが上空のアレキサンドリアから広域索敵を開始した俺バスク・オム大佐のゴーグルは、都市の煙よりも深刻な『天敵』を検知していた。
「みるみるーッ! ……み、みるみるーッ!! な、なぜ視えんッ! このゴーグルの天敵……『湿気』だとォーッ!?」
亜熱帯特有の、じっとりとした香港の空気。水分を含んだ大気は光を屈折させ、俺のみるみるーを著しく妨げる。特に、逃亡を続けるベルトーチカやエマ・シーンら女士官たちが纏う『地球の夏の装い』は、俺のゴーグルにとって、一年戦争時のア・バオア・クー以上に過酷な妨害(ノイズ)を強いていた。
「視えんッ! 視えんぞォッ! 湿気で膨らんだ布が、肌との境目をぼやけさせているッ! これでは……彼女たちが『何色のパンツを穿いているのか』、正確に判定できんではないかァーッ!」
鼻から溢れる『刻の涙』が、熱帯夜の湿度と混じり合い、ゴーグルの隙間から不快なぬめりとなって滴り落ちる。公式には『カラバ掃討』を命じている俺だが、その実、この香港作戦は、高湿度環境における『みるみるゴーグルの限界試験』という、あまりにも個人的で孤独な人体実験の場でもあったのだ。
「カミーユ・ビダン、そしてフォウ・ムラサメ。貴様たちのニュータイプ能力……いや、その『若さ』という名の汗が、この戦場の解像度を下げていることに気づかんのかァーッ!」
サイコ・ガンダムの巨体が香港の摩天楼を粉砕する。その熱源の向こう、フォウの被検体パンツが、闘争の汗でぴったり肌に張り付いているのを、俺のゴーグルは一瞬だけ捉えた。それはもはや服ではない。悲しき強化人間という『個』を包む、薄皮一枚の絶望だ。
「認めんッ! こんな『蒸れ』の中に、人類の革新などあってたまるかァッ! 宇宙へ戻るのだ……。汗が瞬時に凍りつき、パンツの柄がクッキリと透けて見える、あの冷たい真空へッ!」
公式設定において、サイコ・ガンダムは自爆に近い形で沈黙する。だが崩れゆく要塞機を見下ろすバスクの胸中にあったのは、不完全な観測に終わった『焦燥』と、重力圏がもたらす『湿った妨害』への激しい嫌悪であった。
「ジャジャジャ……ジャマイカンッ! 全艦、大気圏を離脱するッ! この重力に魂を引かれた者たちの『湿り気』など、もう見ていられるかァーッ!」
アレキサンドリアが重力を振り切り、成層圏へと突き進む。物語はいよいよ、木星からの帰還者とアクシズの女帝が交錯する、冷徹なる三つ巴の戦域へと突入する。そこには、バスクのゴーグルですら予測し得なかった、二つの『難攻不落のパンツ』が待ち受けていた――ッ!