機動戦士ガンダム まじかる☆バスク・オムくん 〜俺のゴーグルは全てを『みるみるー』している〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0079年12月。ジャブロー防衛戦を辛くも生き延びた連邦軍本部は、安堵と焦燥に包まれていた。だがその喧騒から隔絶された地下の暗室で、俺――バスク・オム大尉は、暗闇の中でひとり、赤く明滅するゴーグルのダイヤルを狂ったように回していた。
「……計算が合わん。なぜだ。なぜ、これほどまでに『白』しかないッ!」
廊下を行く士官たちに向かって、俺は何度も何度も呪文を唱えた。「みるみるー! みるみるー! みるみるーッ!」
だが、透けて出てくるのは、来る日も来る日も、判で押したような真っ白なパンツばかり。水玉も、しましまも、花柄も、いっこうに出てこない。
「白、白、白ッ……この軍隊には『個性』というものがないのかァーッ! ジオンの女士官どもは、もっと気合の入ったやつを穿いているという噂だぞッ!」
俺は鼻から溢れ出そうになる熱い液体を指でぬぐい、歯を剥き出しにした。ジャマイカンをはじめ周囲の連中は、俺が戦後処理の激務で「目を血走らせている」と畏怖しているようだが、見当違いも甚だしい。俺は今、連邦軍の根幹を揺るがす重大な欠陥――『パンツの柄の多様性喪失による士気の減退』という、軍史に残る危機に直面しているのだッ。
「みるみるー……ふん。あの女性中尉の歩き方、少しぎこちないな。官給品のゴムがきついのだろう。パンツ選びのミスが、戦場での判断を狂わせるということに、なぜ誰も気づかんのだッ!」
俺は机をバンバン叩いた。公式記録には、この時期のバスク・オムは「軍紀の維持に異常な執着を見せた」と記されることになるだろう。ジャミトフ・ハイマンが俺に目をつけたのも、この執拗なまでの『管理意識』を評価してのことだという(本当の中身を知ったら卒倒するだろうが)。
その時、ゴーグルが一人の看護兵を捉えた。第1話で俺を介抱した、あの白パンツの少女だ。「みるみるー」。相変わらずの、清らかな白。だがその不器用なまでの潔白さが、今の俺には、滅びゆく連邦の最後の良心のようにすら見えた。
「……甘いな、エマ君。……いや、今はまだ名も知らぬ看護兵よ。貴様のその『白』を、俺がいつか、絶対的な規律の『黒(ティターンズ・カラー)』で――ぬぉっ、いや、待て、黒パンツもそれはそれで……ぐへへ……」
ゴーグルの奥で脳内演算が限界に達し、鼻血が滝のように流れた。宇宙世紀0080。一年戦争が終結へ向かう中、俺の『聖戦』はまだ端緒についたばかり。次なる戦場はオデッサ。マ・クベの野心が渦巻くその地で、俺はジオンの真のパンツ文化をこの眼で確かめてやるッ。
「ジャマイカンッ! オデッサへの移動準備を急げッ! 輸送機の中での『みるみるー(検閲)』も怠るなよッ!」
鼻血を拭い、俺は吠えた。だが――俺はまだ知らなかった。オデッサの地で待ち受けていたのは、連邦の白など瞬時に吹き飛ばす、目もくらむような『しましま』の衝撃だったことを。運命の車輪は、もう止まらない。