【完結済】機動戦士ガンダム まじかる☆バスク・オムくん 〜俺のゴーグルは全てを『みるみるー』している〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0088年2月22日。グリプス戦役最終局面。公式記録において、エゥーゴのエマ・シーン中尉は乗機ガンダムMk-IIにて、ティターンズを離反したレコア・ロンドのパラス・アテネと凄絶な相討ちを遂げる。そして木星帰りの男パプテマス・シロッコは、巨大モビルスーツ『ジ・O』を駆り出撃するも、カミーユ・ビダンのZガンダムが解き放った人知を超えた精神エネルギーを受け、その野望とともに撃破された。
だが、崩れゆくドゴス・ギアの艦橋で、なおも執念のごとくゴーグルの焦点を宇宙の彼方へ彷徨わせていた俺――バスク・オム大佐は、この瞬間、信じ難い『気配』を捉えていた。
「……み、みるみるー……ッ!」
ノイズだらけのモニターの隅、崩壊するコロニーレーザーの宙域で、俺のゴーグルは奇跡的にそれを捉えていた。白きガンダムMk-II。そのコクピットに、あの日ジャブローで俺を介抱し、あの日以来一度もこのゴーグルの網膜から消えたことのない、『三段ホックの白』が――確かにあった。
「エ、エマ君ッ! 貴様、レコアの黒い情念を前にしてもなお、そんな古臭い官給品の白を穿いておるのかッ! 見栄も気取りもない、ただ愚直なまでに己の責任を果たそうとする……その頑固すぎる『三段ホック』の輝きはッ……!」
鼻の奥から溢れる『刻の涙』が、割れたモニターの破片に真紅の模様を描く。レコアのパラス・アテネが放つ憎悪のビーム、そしてMk-IIの放つ一撃が交差し、両機は爆炎に包まれた。
「視えた……視えたぞエマ君ッ! 貴様のその、死線を前にしても一ミリも乱れぬ三段ホックの気高さがァッ! これこそが、規律を失い、欲望に溺れたティターンズに欠けていた……真の『中身』ではないのかァーッ!」
だが、惨劇はそこで終わらない。パラス・アテネの残骸に歩み寄ったエマを、爆発の衝撃と飛び散る装甲の破片が襲う。実弾の破片がノーマルスーツを切り裂き、彼女の身体を穿つのを、俺のゴーグルは残酷なまでに超高倍率でズーム補正していた。
「あ、あわわわ……やめろッ! 破片よ、それ以上彼女の『白』を傷つけるなッ! 俺の『みるみるー』以外の物理的な干渉で、彼女の聖域を汚すことは許さんぞォーッ!」
俺の絶叫も虚しく、エマの生体反応は弱まり、カミーユのZガンダムの手によって救援されていく。そしてその直後、戦域の渦中で巨大な『光』が弾けた。
カミーユの放つオカルティックなオーラを纏ったZガンダムが、ウェイブライダー形態でシロッコの駆るジ・Oの胴体を真芯から貫いたのだ。
「ば、馬鹿な……ッ! ジ・Oの重装甲すらも貫く、あの常軌を逸した精神の光はなんだッ!? ……いや、違うッ! 視える……視えるぞシロッコッ! 貴様が最期に纏っていたのは、部下の女たちに強いた『完璧すぎる統一感』の黒でも、木星帰りの高邁な理想でもない……ただの『何も穿いていないに等しい、スカスカの自尊心』だったというのかァッ!」
ジ・Oのコクピットの中で、カミーユの怨念に身を捩らせ、精神を崩壊させていくシロッコの姿。他人の心を支配し、上から見下ろしていた男の『中身』は、死の間際においてあまりにも空虚で、何一つ誇れる『パンツ(芯)』を持っていなかった。
「孤独だ……エマ君。貴様は最期まで、俺の『みるみるー』などという卑しい欲望を突っぱね、己の正義に殉じた。だが、貴様が遺したあの頑固な白だけが、この狂った戦場の中で、俺が唯一『本物』と認められたパンツだった……」
ドゴス・ギアの艦橋に、新たな炎が上がる。ジャマイカンを失い、シロッコが潰れ、そしてエマ・シーンすらも星となった今、俺のゴーグルにはもう、追うべき『中身』は残されていない。
次に俺を待ち受けているのは――パラス・アテネを失い、自暴自棄となったレコア・ロンドのパラス・アテネの残光、あるいは彼女の艦を襲う最後の爆風だけである――ッ!