機動戦士ガンダム まじかる☆バスク・オムくん 〜俺のゴーグルは全てを『みるみるー』している〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0088年2月22日、グリプス戦役は終結の刻を迎えた。公式記録において、ティターンズの旗艦ドゴス・ギアはレコア・ロンドの手によって沈められ、組織の象徴であったバスク・オム大佐は爆炎の中に消えたとされる。連邦軍内部から興ったエリート選民組織は、指導者をことごとく失い、歴史の表舞台から退場を余儀なくされた。
だが、崩壊し、宇宙の塵へと還るドゴス・ギアのブリッジ。白光に包まれるバスクの意識は、肉体という『重力』から解き放たれ、未知の領域へと到達していた。
「おおお、これがッ、これがニュータイプたちが口にしていた、精神の共鳴(シンクロニシティ)というやつかッ! ゴーグルの素子が焼き切れた先に……物理的なレンズを介さぬ『全宇宙みるみるー』の刻が来たのだァーッ!」
ゴーグルの隙間からこぼれ落ちる『刻の涙』は、無重力の中で真紅の真珠となり、光り輝く粒子の渦へと溶けていく。バスクの魂は、グリプス2から放たれる圧倒的な熱量をアンテナにし、戦域に散るすべての生命の『内側』を同時に知覚していた。
「視えるぞ、カミーユ・ビダンッ! 貴様のその、危うい青さを象徴する瑞々しいパンツの鼓動ッ! そしてハマーン・カーン、貴様が隠し持つ、あの少女の残滓を封じ込めた、最高級の気高い黒がァッ! あの日、みるみるー不能だった黒が、今なら視えるぞォーッ!」
バスクの主観において、宇宙世紀の歴史とは、軍服という『見栄』で己を包み、嘘を重ねてきた人類の歴史に他ならなかった。30バンチで失われた命も、ジャブローで焼かれた自らの網膜も、香港で苦しんだ湿気も、すべてはこの『真実の光』に至るための、長く孤独なみるみるーの道程だったのである。
「あわわわ……素晴らしいッ! 全人類がその『中身』を隠すことなく、ありのままを晒し、理解し合っているッ! 憎しみも、嫉妬も、そしてピントのズレすらも存在しない……これこそが、ジオン・ダイクンが夢見た、真の革新ではないかァーッ!」
公式には、地球圏を深い混迷と悲しみに包んだグリプス戦役の終焉。しかし、昇天するバスクの網膜には、全宇宙の士官たちが、そして全人類が、一枚の布の隔たりもなく手を取り合い、互いの『ありのまま』を尊重し合う輝かしい未来が投影されていた。
「エ、エマ君……見てくれているか……。俺はついに辿り着いたぞ……。あらゆる装束を超え、等しく尊い……『嘘のない宇宙』に……ッ!」
ドゴス・ギアの爆発が、暗黒の宇宙を一瞬だけ昼間のように照らし出す。その光の中に、鼻血を流しながらも、誰よりも慈愛に満ちた笑みを浮かべた独裁者の姿があった。バスク・オムは消えた。だが、彼が夢見た『全人類が真実で繋がる』理想は、形を変え、後の世に語り継がれることになる……。
「あわわわ……これが、ニュータイプの、夜明けか……みるみるー……」
――そして。遥かな時を超え、シャアの反乱の折、アクシズを押し返す無数の光の中に、一瞬だけ、鼻血を流したゴーグルの残像が混じっていたという。それが人々を守る『善意の光』だったのか、それとも最後の最後まで全人類をみるみるーしようとした執念だったのか――それを知る者は、もう誰もいない。