俺の名前は、橘重宗。とある地方の警察署で事務職員をしている。年齢は25歳。
しかし気づけば赤子に戻っていた。生まれて間もない赤子だった。
どうなってんだよ!?…全くわからない!
状況を整理するために少し冷静になるあたりを確認すると、どうやら今は揺り籠の中で寝かされているようだ。俺の寝かされている籠の周りにはなぜか多くの花が備えらていた。
どういうことか様々な色の美しい花が飾られている。花瓶だけが置かれているものもあるが、その多くには花がいけられている。
だが赤子になってしまったことについて考えると理由はどうであれ俺は自分が転生したとのだと思うに至った。高校生の頃に一度大病を患って以来これといった病気をすることはなかったはずだが。
事故なのか病気なのか殺されたのかわからないがとにかく転生していた。
気付けば身体縮んでしまっていた!コ⚪︎ン君かよ!と動揺とパニックのあまり自分でボケとツッコミをかましていた。何とか再び落ち着いて周りの様子を伺うと日本にあるような部屋とは異なる作りの部屋だった。中世または近世ヨーロッパのどこかにありそうな質素ながら美しい作りの部屋だ。
しばらくするとドアの外から足音が聞こえてきた。ドアが開けられるとそこには泣き腫らし赤い目をしているが美しい赤毛の女性が立っていた。無意識のうちに女性に向けて手を伸ばしてしまいその様子に気づいた女性は手にしていた花瓶を落としてしまった。床に落ちた花瓶が、粉々に砕け、陶器が壊れた音が部屋中に響いた。数秒ほどのフリーズ状態から女性はこちらに向かってゆっくりと壊れ物でも扱っている様な慎重さで近寄ってきた。
「ゴットフリート…?」そう呼び抱き抱えられた。
その瞬間に強い安心感を覚えこの女性が自分の母親であると実感した。安心感からか笑みを浮かべ笑い声をあげていた。その瞬間に母は大粒の涙を流しながら笑っていた。
「ゴットフリート…!!」
そう言いながら強い力で思い切り抱きしめられた。
ちょっと!?お母さん!?苦しい!!死んじゃう!!そう俺は訴えるも赤子では言葉では話せず伝えようとしても意味のない唸り声として口から出るだけであった。。そんなことを思っていると母はどこかに向かって俺を抱き抱えながら先程の慎重さからは考えられない程の速度で走り出した。
いやマジで!?早い!早い!赤ちゃん抱えて走ったら危ないから!!走らないで!!
母さんは俺を抱き抱えられながら部屋飛び出し階段を駆け降りリビングと思われる場所に到着した。
怖い…もう走らないで…死んじゃうよ…気分が悪くて目を開けることはできないが母さんが大声で男性と女性の名前を呼んでいるのがわかった。
「貴方…バルドル!アーデルハイト!どこにいるの!?」
バルドル?アーデルハイト?ドイツ人みたいな名前だな?それも現代より前の。じゃあここは昔のドイツで俺は過去のドイツに転生したのか?母さんの服装からして中世から近世に入るか入らないか位のドイツだとは思う。
そんなことを考えてうっすらと目を開けると5、6歳ほどの女の子の手を引いた30半ほどの立派な髭を生やした金髪碧眼の男性が中庭から扉を開けてリビングに入ってきた。二人とも目元が赤い。
「…どうしたんだマリア?そんなに慌てて。…ゴットフリートを連れ回してはだめだ。…安静にさせなければ。」と髭の男性が。手を繋がれた女の子はただただ泣いている。しかし、目で母にどうしたのかと訴えている。
「二人とも!この子を…ゴットフリートを見てちょうだい!」そうすると二人が俺を見つめる。
えっと…こんにちは?…喋ることは出来ないが笑顔で二人を見つめる。すると、バルドルと呼ばれている男性は満面の笑みを浮かべて笑い声をあげて俺の頭を撫で始めた。
「ゴットフリート…目が覚めたのか!…お父さんの顔が見えるかい?」そう言って俺のことをとても優しいい目で見つめる。
勿論見えるんだけど。めちゃくちゃカッコいい髭だな。金髪碧眼で身長も高いし、俺の姿とはえらい違いだな。昔読んだドイツ騎士が登場する物語の登場人物みたいだなぁ。何と言えばいいんだろうか…男ならば誰だって騎士や英雄に憧れるものだろう?まさにそれを体現したような人物なんだ。そんなことを考えていると無意識のうちに髭に手を伸ばしていた。
「ゴットフリート髭が気になるのかい?」また頭を撫でられる。ゴツゴツしているけど優しい手つきで頭を撫でてくれた。この人が俺の父親なのか。とても優しそうな人だな。
そうして父さんの顔をしばらく見ていると父さんに手を引かれて付いてきた女の子が俺に向けて手を伸ばして俺のほっぺたを触ってきた。「ゴットフリート?大丈夫なの?」泣いていたことが原因だと思うがとても目が腫れていた。母さんによく似ているが綺麗さよりも可愛らしさがある赤毛の女の子だ。
「ゴットフリート解らないとは思うがお姉ちゃんは、お前のことが心配でお前が生まれて以来ずっと毎日泣いていたんだよ。」そう父が言ってきた。…なるほど。生まれて直ぐだが病弱でいつ死んでもおかしくなかった。生きてはいるが、生まれてからずっと寝ていたようだ。アーデルハイトお姉ちゃんは弟思いの優しい子なんだな。
「貴方、直ぐにゴットフリートを病院に連れて行かなくちゃ行けないわ。直ぐに着替えきて。」先ほどの様子から少し落ち着いた様子の母が父にそう伝えた。「では私は着替えてくるよ。」そう言って父はリビングを後にした。
「アーデルハイトはポムズ婦人がもうすぐ買い物から帰って来るからお留守番をお願い出来るかしら?」そう母が姉に伝えると。「私もついて行ってはだめなのお母様?」と舌足らずの口調で縋るように姉は母に尋ねた。
「アーデルハイトはお姉さんなんだからポムズ婦人のお手伝いをしなければいけないわ。ゴットフリートが生まれた時に『お姉さんはお手伝い頑張る!』と言っていたでしょう?」そう諭すように母は姉に伝える。「でも…」と俺の様子を伺いながら口籠る。すると母が姉と視線を合わせるために俺を抱えて屈んだ。「ゴットフリートのことは病院の先生に診てもらえば大丈夫よ。生まれてからずっと寝たきりで産声すらあげずに目を覚まさなかったこの子が起きてくれたのは貴方がお姉さんとして大神オーディンにお祈りしたからなのよ?」
……ちょっと待った!今大神オーディンて言った?え…ドイツはキリスト教国だろ?歴史的に見てもドイツ人が北欧神話の神々を日常的に崇拝している時代なんてあっか?ナ◯スのオカルト親衛隊ではないだろうし…わからん。それにこの時代がいつ頃なのか断定出来ない。それ以前に産声一つ上げてないのに今までよく生きてたなぁ俺…どうしたものだろうか。
部屋の内装も家族の名前もドイツ風でこの場所がドイツ文化圏またはドイツ文化の強い影響を受けているのは間違いない。そんなことを考えていると。姉は母の言葉に納得したようで俺と母に手を振って別れの言葉を述べると玄関から自分の名前を呼ぶ声の方に走って行った。
しばらくすると父さんは外出用であろう服装に着替えて階段から降りてきた。「マリア?わざわざ病院にいかずとも先生に、来てもらっては如何だろうか?」父さんは心配そうに俺の頭を撫でながら母さんにそう伝えた。「ダメよ、バルドル。フロイト先生は忙しいお方だし、他にも沢山の赤ちゃんの面倒を診ているのよ?ゴットフリートだけを特別扱いすることはできないわ。」母さんは父さんに穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
両親は見るからに貴族か特権階級の人間だと思うし、先ほどのポムズ婦人はおそらくお手伝いさん?ではないかと思う。いや、分からないがマティアスさんの奥さんなのだろうか。それに明らかに両親は平民ではないけど、横暴なことをする様な人ではないようだ。よくわからないけどやっぱり19世紀あたりのドイツ帝国だろうか。だとすると、やはり父さんも軍人なのだろうか。この時代のドイツ帝国では軍人は半ば特権階級として君臨しており、多くの貴族が軍人だった。
「わかったよマリア。車を家の前に回すよ。少しの間だけど待っていてくれ。」そう言うと父さんは玄関から外に向かって行った。…車?詳しくは分からないけど19世紀の末期なら車はあったか?でも人を乗せて安全に運べる様な代物では無かったはずだが…いや…車は全然詳しくないからわからない。
「ゴットフリート?お外が気になるの?それともお父様が恋しいのかしら?お父様が来るまで待っていましょうね。」優しい笑みを浮かべ俺をあやしながら母は俺に言った。父さんが玄関から車に向かって行ってもしばらくの間、玄関を見つめている俺に母さんは不思議に思ったのだろう。そりゃそうだよな…。赤ちゃんらしいことしとこ。そんな馬鹿みたいなことを考えていると玄関の先からエンジン音が聞こえてきた。
父さんが運転する車は、前世でも見た黒塗りの高級車の様なデザインであった。だけど、こんなに未来チックなデザインじゃないぞ。どうなってるんだ…本当に車には詳しくないからわからないけど、なんか性能良すぎない?なんでこの時代に車の中に冷暖房がついてる訳ないよな?
父さんが気遣って「まだ5月といえど今年はまだ寒いし、生まれて1カ月のゴットフリートには良くない。暖房を付けるよ。」って言った時ビックリしたぜ。
………あれだな。これ絶対ドイツ帝国じゃねーわ。全然分からん!車窓から見える街並みは出発した時の様な造りのちょっと大きい位の屋敷がほとんどだったけど、今走っている辺りは庶民的な家が多い。だけど多くの家に庭があって比較的裕福な地区なんだと思う。綺麗な花を沢山咲かせている庭もあった。
あれは確か…思い出せないなぁ。何の花だったかな…見覚えがあるんだけどなぁ。すると両親が話し始めた。
「ゴットフリートは眠そうだったけど大丈夫みたいだね。」
「そうね。なら私が今どれほど嬉しいか分かるかしら?」
「勿論だよ。車を運転していなかったらたら『大神オーディンよ!感謝します!』と言って両手を天に向かって伸ばしていたよ。」
「あらあら、ふふふ。でも貴方?それなら車はいつもみたいにマティアスに運転を頼んでもよかったんじゃないの?」
「いやいや、ダメだよマリア。確かにマティアスは私の親友であるけど君とゴットフリートを乗せて私が運転して連れて行きたいとマティアスにお願いしたんだ。最初は家族で車に乗りたかったんだ。後で謝らないとね。」
「まあ…。アーデルハイトが聞いたら。『お父様なんて嫌い!私は家族じゃないのね!?』と言って嫌われてしまうわよ?」
そう母さんがニコニコしながら言うと父さんの顔は直ぐに青ざめ始めた。
おいおい…しかし…また大神オーディンかよ。…………いやいや……まさかそんなハズはないだろう。
こういった転生モノの話ってなんか神様的な存在に会って始まるのがセオリーだろうが。
別に俺Tueーしたいわけじゃないが……だとしても銀河英雄伝説の世界?ありえないだろう。
俺、銀英伝大好きで学生の頃に、二次創作も書いたし、あの世界に行ったらあれをしたい。これをしたい、あの人に会いたいとか、そんなことばかり考えていたし、大学生時代の頃、同じ銀英伝が大好きな友達と集まっては、「主砲斉射!三連!」とか「ファイエル!」とか酒飲んで酔っ払っては言って笑い合っていたし、銀英伝の提督の中の旗艦にもしも絶対に乗らなくちゃいけないなら誰にするとか言って盛り上がったっけな。
特にアイツ…。
酒は全く飲めないココアが大好きな友は元気だろうか。大学を卒業してから1度も会えていないなぁ。……もうみんなには会えないのか…。
…でも色々考えたけどありえないだろう。確かに今起きている事は間違いなく俺は転生したということだと思う。だけど、そんな自分が望んだ世界に生まれ変わるとかそんな都合のいいことあるか?昔読んだ主人公最強の小説とかご都合主義、全開のお話だろ。
そんなことはありえない、ありえない。もしも大人のように手が動いていたら。そんなのあり得るわけないだろと、ないない、とジェスチャーを顔の前でしていただろう。
すると父は信号が赤になり、車が止まると俺の顔を見て話しかけてきた。「もう直ぐ病院に着くよ。その病院は昔、叛乱軍との戦争で功績を上げた、お前のお祖父様が時の皇帝陛下から下賜された報奨金で建てられたんだよ。お前のお祖父様が、率いた艦隊は素晴らしい武功を挙げて大将に昇進したんだ。その時に叙勲の話もあったんだけど、お祖父様は断って、この首都オーディンに子供向けの病院を作ってくれたんだ。」
「あなたそんなことを言っても、ゴッドフリートにはまだわからないわよ。」穏やかな笑みを浮かべながら母さんはそう言った。そう言われて、父さんは照れてるようなはにかんだ笑みを浮かべていた。
………………………まじかよ!?!?
叛乱軍との戦争!?それに皇帝陛下!?それに首都がオーディン!?本当に銀英伝の世界なのか!?
俺は、母さんの腕に抱かれながら心の中でそう叫んだのだった。
大人の心を持った赤子のことを遥かなる天空より眺めている神がいた。
カラスを肩に乗せ、大きな帽子を深くかぶり杖を持ち鋭い1つの眼光で、赤子を見つめる。しゃがれた声でしゃべりだす。
その声は決して大きくはないが大地を揺るがす様な声であった。
【面白きこともあるものだな…まさかこのようなことになるとは…ならば、儂に見せてみよ…悲運な若人よ。】
神は自らが座った玉座に杖を立て掛け立ち上がる。天空のさらに天空…天を崇めるようにして、両手を伸ばす。すると数百羽と言えるような大量のカラスが神の周りを回り始める。
神は獰猛な笑を浮かべて言った…
【新たな物語(サーガ)を歴史に刻んでみせよ!それが喜劇となるか悲劇となるかは、お主次第だ!】
神の狂ったような笑い声が響き渡った。