銀河英雄伝説 帝国騎士の誉れゴットフリート   作:猫バロン

6 / 11
第六話 青春と初めての宇宙

 

 

帝国暦477年 帝都オーディン近郊 帝国軍士官学校

 

ゴットフリート・フォン・マッケンゼン

 

 

「…であるからしてこの様な戦局においては…」講義を進める教官の声を遮るように終了時刻を告げる鐘の音が鳴った。

 

「ちょうどいいところまで進めたな。本日はここまでとする、予習と復習をしっかりと行うように。」そう言うと、年配の教官が講義室を出た。

 

俺は教科書や筆記用具などをまとめると椅子から立ち上がり大きく伸びをした。

それから俺は横の席で机に突っ伏して寝ているフリッツの頭を軽く叩いた。

 

「起きろ、フリッツ。あれほど寝るんじゃないと言ったのに寝てどうするんだ。来年は卒業だぞ?それに期末考査は近いぞ。」

 

「…ん?…もう終わったのか」寝ぼけてあくびをしながら、そんなことを言うフリッツにザムエルが呆れたように言う。

 

「ゴットフリートの言うように試験が近いんだぞ?寝てどうする?」

 

「…わかってはいるんだが…どうもあの教官の話は眠くなる。守ってばかりどうすると言うんだ、攻撃こそ最大の防御だろ。」開き直ったような口調で言った。

 

「確かにフリッツは攻撃においてはかなり優秀だが…守勢においてはあんまりだからな…ゼムエルほどまでとは言わないが、攻勢ばかり強くて、守勢にもろいのは、なんとかしないとまずいぞ。去年の評価で散々言われたじゃないか」そう俺が言うと彼は、さらに開き直ったような口調でこういった。

 

「シュミレーションは、艦隊司令官になることを想定してやるものだろ?俺みたいな平民上がりじゃ40を過ぎてようやく戦艦の艦長がせいぜいだろう。そんなものはなってから心配すればいいのだ」どこか誇らしげに言った。

 

そんな彼を見て、俺とザムエルは互いに視線を合わせて互いにため息をついた。そして俺は言った。

「それは無責任だと俺は思うがな。俺たちは軍人になるんだろう?それも士官学校を卒業して職業軍人になろうって言うんだ。部下を持つと言う事はそれだけ責任があると言うことだと俺は思うがな。」

 

俺がそう言うと、フリッツはどこかバツの悪そうな様子になった。

 

「まぁこれも勉強だ。嫌いなことや苦手なことでもやらなくちゃならない、俺たちの怠惰が部下の死につながるんだ…そんなに悲しそうな顔するなよ。苦手な事は誰でもある俺たちがいるんだから、頼れよ?」フリッツの肩に手を置いてさらに続ける

 

「お前はいい奴だ。将来はきっと攻勢に長けた優秀な軍人になるだろう。関わりがないとわからないかもしれないが、意外と優しいところがある。そんな男は部下を大事にすると軍人になると俺は思う。そういう上司に部下は命を預けてくれる。だから将来の部下たちを裏切らないためにも、頑張ろう」最後の講義が終わったためか、他の候補生たちは皆、講義室にはいなかった。夕日が窓から照らしつけていた。

 

「…すまない。俺は大事なことを忘れていた様だ…先月、シミュレーション大会で俺達と対戦した貴族の連中がいたろう?…その時の対戦相手が門閥貴族の奴でな…『貴族である私の方が将来出世する!覚えてろよ!』と大会終わりに言われてな…。俺らしくないとも思ったんだが…どうにもやさぐれていたようだ…すまない、ゴッドフリート、ザムエル。」ひどく申し訳なさそうに言った。

 

「誰だってそう思うことはあるさ。ゴッドフリートも言ったが俺たちを頼れ。仲間じゃないか」ザムエルがそう言うとフリッツは、気を取り直して、大きな声で俺たちに礼を言った。

そうして俺たちは夕食の時間も近いことがあってが、揃って食堂に向かった。

 

 

本当にこんなやりとりを見ていると、改めてこの2人と友人になったと言うことが不思議になった。

原作においては、ワーレンとヴィッテンフェルトは、特別仲の良いといった描写はなかった。これも同室になったおかげなんだろうか?

 

…本当にあっという間だった。俺たちは同室と言うこともあってかすぐに意気投合し仲良くなった。当初、俺は原作にも出てきた有名な登場人物ということだけで、どこか気後れしてしまっていたが、なんて事はなかった。彼らも俺と同い歳の候補生だった。勉強の面でも、様々な事でも切磋琢磨して助け合ってきた。お互いに馬鹿なことをして助け合ったり、前世とは全然違った青春と呼べるような時間だった。

 

フリッツが惚れていた学校受付の女性兵がロイエンタールと付き合い始めて悲しみ、さらにすぐにロイエンタールが直ぐに捨てたと言うこともあって、余計に嘆き悲しみ、殴り込みをしようとするフリッツをザムエルと2人で羽交締めにして止めたり。

 

俺が陸戦総合格闘技大会の学生部門に出場して激戦の末、陸戦科のエースに勝ち優勝したことで来賓客の装甲擲弾兵副総監のオフレッサー大将から危うく強制的にスカウトされそうになり。肩に手を置かれて恐ろし顔で

『マッケンゼン候補生だな…名前はしっかり覚えたぞ」と熊のような声で言われて3人で顔面蒼白となったり。

 

三年生から父上のように髭を伸ばし始めて最初の頃は、毛が生え変わる時期の鹿のようだと言って2人に大笑いされたり。

 

ひょんなことからあの鉄壁ミュラーと呼ばれるナイトハルト・ミュラーと面識を得て仲良くなったり。

 

自由惑星同盟の言語試験のテスト勉強の為に自室にいる間は、同盟語で三人でやり取りをしたり。

 

切磋琢磨しながら試験勉強を深夜まで行う為に、巡回が来ていないか交代で見張りをしながら勉強したり。

 

毎年行われるシミュレーション大会で3人でチームを組んで、1年生から3年生までなかなか良い成績を収められて、今年は優勝するなど本当にいろいろあった。…どれもどれもが本当に大切で楽しい思い出だ…。

 

来年でいよいよ卒業となるが、本当に2人が同じ部屋の住人でよかったと心からそう思う。

 

しかし、フリッツが、最近どこが投げやりだったのはそういうことだったのか…。聞いても、はぐらかすばかりで、教えてはくれなかったが。

俺も先月のシミュレーション大会の後に、初戦で、戦い完封なきまでに叩きのめした貴族の馬鹿息子供には言われたが、フリッツもそうだったのか。

 

卒業を意識する時期と言うことだけあってか普段学校の講義に参加せずに、与えられた大きな部屋をとっくに抜け出して実家に行っていた彼らもどうやら強制的に学校に来させられたようだ。さらに何を考えたのかシミュレーション大会にも突然参加することになり、初戦で惨敗することになった。…ここまで馬鹿な奴がいると思わなかったが…。

 

廊下を3人で並んで歩きながら食堂に向かっていると、ザムエルが真面目な顔で言った。

 

「いよいよ来月だな」

 

「そうだなぁ。いよいよ宇宙に上がれる。2年時の地上にある練習艦でシミュレーションとは訳が違う。楽しみで仕方がない。」

 

フリッツが腕を組み、しみじみとした表情で、そういった。

帝国軍士官学校において、最終学年になると練習艦を用いて航海出る。引率の教官複数人が付き添い候補生を数百人規模で行い現役の兵士を指揮することになる。言い方は悪いが最終学年前の最後のイベントと言うようなものだろうか。もちろん卒業旅行のようなものではなく、卒業評定に関わる重要なものだ。この航海で優秀な成績を収めた者は、今までの成績と換算ではあるがほぼ確実に任官先の希望が通ると言われている。

 

「…そういえば2年のときには聞かなかったな。ゴッドフリートは宇宙に上がった事はあるのか?」フリッツがそう聞いてきた。

 

「いや俺も今回が初めての宇宙になる…正直に言えば少し緊張している」俺はそう言うと、フリッツは豪快に笑った。

 

「どんなに難しい課題でも涼しい顔しているお前が宇宙は怖いか」同じようにサムエルも優しい表情で笑っている。

 

「ああ怖いさ。昔、母上に教わったんだ。美しすぎるものは、危険を阻んでいるとね。食虫植物なんかがいい例だろう。だから気をつけなくちゃいけないんだ。宇宙の星星の美しさと言うものは美しすぎるんだよ。それに俺はなぜか宇宙に心魅かれている。人間は、宇宙じゃ機械の世話にならなくちゃ生存することが出来ないのにな。…まぁそれ以上に俺も楽しみなんだけどな」

 

俺がそう言うと、フリッツザムエルも笑顔を浮かべてから、なんとなく理解したような顔をした。

 

「まぁとにかく無事に帰ってこよう。それに俺は少し安心した。フリッツはともかく、ゴッドフリートも宇宙を初めてだって知ってな」そう言うと、フリッツは「どういう意味だ!?」1人で憤慨していた。

 

その様子がおかしくて、俺とザムエルは笑ってしまった。最初は少し怒っていたが、すぐにフリッツも俺達と同じように笑い始めた。なんとしても無事に帰ってきたいものだな。俺はそんなことを考えながら、部屋に教科書や筆記用具を置いてから2人と一緒に食堂に向かった。

 

大食堂に入ると本日最後の講義を終えてその足で来た候補生達でごった返していた。配膳の列は既に大渋滞で今並び始めても食事にありつけるのはいつになるかわからない位だ。数百人の生徒がそれぞれ会話しているのだから、あちこちからいろんな会話が聞こえてくる騒がしい喧騒に包まれている。

 

「…相変わらず…すごい数だ」ザムエルが言った。

 

「時間をずらしてくるべきだったか?…しかし今のうちに食べておかないと、食事が残り物になるからなぁ…暖かい食事を取りたいと言うのは皆んな同じなんだろう」と語るフリッツ。

 

「まぁそれもあるだろし、期末考査が近いというのもあるんだろう。…さっさと夕飯を食べて勉強がしたいって言うのはみんな同じなんだろう」俺がそんなことを言うと全員で食堂の配膳の列に並び食事用のトレイを持った。

 

「…なんだよ。今日も…豆と野菜のスープかよ。…硬いパンに…あのまずいソーセージか…せめてまずくてもいいからもう少し量を増やして欲しいな」本日のメニュー表を見ながらフリッツがそんなことを言った。

 

「まぁ確かにな……せめて夕飯ぐらい腹いっぱい食べたいのは俺も同じだ……最近聞いたんだが幼年学校から進学した奴曰く、軍関係の学校ではどこもこんな食事らしいぞ。校長閣下や教官達、あとは貴族の師弟達はもっとうまい食事を食べてるからな。…校長達は仕方ないとしても、同じ学生でここまで贔屓されると嫌になるよな」と俺が語るとザムエルが驚いて声をかけてきた。

 

「…珍しいなゴットフリートが、食事に文句を言うなんて」ザムエルがそう言った。

 

「こないだ戦史の講義でナポレオン・ボナパルトを勉強しただろ?彼の残した格言の1つに、『軍隊は胃袋で動く』と言う言葉があるんだよ。…それだけ戦争においては、兵士の士気や戦闘能力の維持の為には食料の確保、つまりはロジスティックが何よりも重要であると彼は言ってるんだよ。…俺たちも仮にも軍人だ正式に任官していなくてもな。…生徒の中には食う為に軍人になったやつだっているんだ。せめて飯ぐらい腹いっぱい食べさせてやれよと思っただけだよ」と俺が語ると2人はまたいつもの病気が始まったよといった表情をしている。

 

「お前はほんとに戦史狂いだなゴットフリート。俺は単純にもっとうまい飯が食いたいと思っただけなんだがな…お前と話してると歴史に基づいて正論を言ってくるから背筋が伸びるぞ?」と少しふざけたように、勉強はこりごりだと言った表情で語るフリッツ。

 

「確かに補給が大事な事はよくわかるが、ゴッドフリートの戦略・戦術理論講座はいつの間にか歴史の勉強になってしまうからな。確かに配属されるならお前のように部下のことまで考えてくれる指揮官の元が俺もいいと考えるが」と顎を擦りながら深く考えるような表情をして語るザムエル。

 

「おいおい勘弁してくれよ。俺の方こそザムエル見たいな軍人の部下になりたいんだぞ?…まぁフリッツの部下になると…俺はお前に感化されそうで怖いけどな」と俺が肩をすくめて答えるとザムエルはフリッツを見て「…確かに」とつぶやいた。

 

「お前ら2人。また俺を馬鹿にしてるな?」とジト目で言ってくるフリッツに対して、「馬鹿にしてるんじゃなくて、それだけフリッツが前線で指揮を取る猛将になりそうだって言ってるんだよ。後方ではなく自らも部下と一緒に死地で戦う軍人には部下が感化されやすいんだよ」と語るとザムエルも覚えがあるのか「確かにその通りだな…」と薄ら寒そうな表情を浮かべた。さらに俺は言葉を続けた。

 

「3人揃って『猪突猛進!突破前進!前進!前進!ガハハハハハ!』とか肩組みしながら言い出しそうで怖いんだよ…いくらお前が攻勢が得意でも、戦場にいる部下全員が、そういう思考の奴らになってみろ。艦隊が簡単に崩壊するぞ?」といつぞやのシュミレーションで3人で放課後に行った勉強会でフリッツが考案した超攻撃特化型艦隊(黒槍騎兵艦隊《シュワルツランツェンレイター》以上の攻撃特化艦隊)の末路を例に挙げて説明した。

 

「戦争なんて、いくら時代が進んでもやり方なんてそんなに変わっていないんだよ。だからどうしても、過去の歴史を引用しながらの説明になってしまうんだ。古来から飢えた軍隊が戦争に勝ったためしはないからな。…考えてもみろよ。今は学校の量も少なくて、まずい食事に対して文句を言っているけど…宇宙空間で食い物がなくなってみろ…最悪だぞ」俺が言うと「その通りだな」と2人もうなずいた。…特にフリッツは先程の話がよほど効いたのか神妙な表情をしていた。

 

そんなことを話していると食事の配膳の最前列に到着した。思っていたより早く食事が食べられそうだ。3人で他の生徒たちを避けながら、何とか座れる場所を確保して3人で夕食を始めた。

 

「だとするなら、俺はどうすればいいんだろうか?攻勢には自信があるが、防御に関してはあまり自信がないぞ?」とフォーク てソーセージをまずそうに、食べながら語るフリッツにザムエルが答えた。

 

「俺やゴッドフリードが言っているのは、偏りすぎるなと言っているだけだ。勿論、用兵には癖や得意な戦い方がそれぞれあるだろ。偏りすぎずに長所を活かせれば問題ないんだ。3人ともそれぞれ用兵の癖が異なるんだ。今年のシミュレーションの大会の決勝戦を思い出してみろ3人がそれぞれ互いの長所を発揮しながらお互いの短所のフォローを行っただろう?あんな風にすればいいんだ。あの時はすごく戦いやすかっただろ?」と語るザムエル。

 

「確かにその通りだった… 1人で戦闘指揮を取る時よりも、はるかに戦いやすかった…俺も思う存分に戦えた」と語るフリッツ。

 

「俺もあの時は戦いやすかった…俺達の中で一番指揮を取るのが練達しているのは間違いなくゴットフリートだ」とザムエルが語ると、フリッツも「その通りだ」とうなずいていた。

 

「勘弁してくれよ…。俺は2人が指揮してくれた方が、はるかに戦いやすかったぞ?」と語る。…本当に勘弁してくれよ…銀河英雄伝説の作中でラインハルトに認められる程に有能な提督で、作中を通して常に戦火を潜り抜けて最後まで生き残って元帥にまで昇進することになった2人にそんなことを言われると、嬉しいと思う気持ち以上に頭を抱えたくなる。

 

……俺は2人の用兵家としての癖を知っているから、2人が戦いやすいように指揮を行っただけだ。もちろんこれは前世の記憶によるものが大きい。2人が、その後の戦いにおいてどのような戦い方をしたのかと言うことを知っているから、2人が行いそうな戦い方ができるように戦場を整えただけだ。それに俺の指揮に対してそれ以上の成果を上げてくれたから今年の大会は優勝することができたんだと俺は思っている。確かに2人と一緒に過ごしていて、原作以上に人となりを知れていると言う自信はあるが、2人にそんなことを話せるわけないしな。そんなこちらの苦悩を知らないで2人は語り始めた。

 

「いや、本当にお前が指揮を取ってくれると戦いやすいぞ。…戦術シュミレーションだけを例として用いるのは以前お前が言っていたように、やめたほうがいいのかもしれないが本当に戦いやすかった。ゴットフリートがあそこまで気を遣ってくれた。おかげで俺は思う存分!相手の側面に攻勢を仕掛けられたんだ!」と語るフリッツ。

 

「あの決勝戦で、俺の艦隊とゴッドフリートの艦隊で横陣形で巧みな防御を行いながらゆっくりと後退して、敵の消耗と疲労それに忍耐力のピークになるのを誘いながら攻勢限界点に達したところを予備戦力として後方に展開していたフリッツの艦隊が高速で側面からの攻撃を仕掛けたから俺たちが優勝できたんだ。見事な艦隊運動と用兵だったぞ?」と俺の顔をまっすぐに見ながら語るザムエル。

 

「そうだ!お前のような奴が指揮官だったら、俺はもっと攻勢に専念できるんだかな!ガハハ」と豪快に笑うフリッツ。

 

2人は神妙そうな表情を浮かべている。俺に「「頼むぞ(!)。未来の艦隊司令官閣下(!)」」と肩を叩いてくる2人に思わずにはいられなかった。

 

 

……それは本当に俺の胃に穴が開くからやめてくれ…確かにラインハルトが元帥府を開いた時に呼ばれるくらいの有能な軍人になりたいとは思っている。だが…フリッツの面倒を、この先も見なくちゃいけないとなったら…間違いなく、俺はいろんな意味で頭がぶっ壊れる。それにお前もだぞザムエル…お前みたいな有能な奴にそんなこと言われて喜んで有頂天になれるんだったら、俺はどれ程幸せかと思ってるよ。

 

…俺は喜び以上にお前たち2人のその信頼の方が怖くなるよ…原作で活躍していたお前たちと違って、俺は実際に戦った事は無いんだぞ…今現在は同じかもしれないけど、将来的にお前たちは《獅子の泉の七元帥》に選ばれるほどのポテンシャルを秘めてるんだぞ?と未来のことを考えると、不安でいっぱいになった。

 

…自然と拳に力が入った…そして父上との会話を思い出す。…それでも俺は父上との約束を守り「良き騎士」を目指すんだ!家族を守って…この銀河英雄伝説の世界を生き抜いてやるんだ…それにこの2人とは、歳をとってからも3人で会って酒を飲みながら馬鹿話がしたい。…覚悟を決めろ…ゴッドフリート…お前はもう橘重宗じゃないぞ…帝国軍人を志す、1人の男として…帝国騎士ゴッドフリート・フォン・マッケンゼンとして!…そんなことを考えていると。2人が心配そうにこちらを見ていた。

 

「どうしたんだよ。急に黙って?」と尋ねてくるフリッツと「…何か気に触ることでも言ってしまったか?」と尋ねてくるザムエル。2人とも、心の底から心配した表情と申し訳なさそうな表情でこちらを見てきた。……大事な友人に心配かけてどうするんだよ。と内心、自分に向けて叱責してから2人に俺は話し始めた。

 

「単純に1ヵ月後の、宇宙に思いを馳せてただけだよ。…早く行ってみたい と思ってさ。2人と一緒に宇宙に行くことができそうで楽しみなんだよ。」

 

これは事実だ1人の銀河英雄伝説のファンとして…いや…最高の親友、2人と一緒に宇宙に初めて行くことができる。こんなにうれしいことはない。宇宙はどれほど綺麗なんだろうな。そんなことを考えて笑顔を浮かべながら語りかける。2人とも笑顔を浮かべてくれた。本当に俺なんかにはもったいない位、良い友人達だ無事に帰ってこよう…父上どうか…3人が再び家族に再会できるようにヴァルハラから見守って下さい…。俺は御守り代わりに持ち歩いているあのハンカチが入った胸ポケットを抑えながら、そんなことを考えた。

 

 

 

 

帝国暦477年  帝都オーディン軍事宇宙港

 

1ヵ月後

 

ゴットフリート・フォン・マッケンゼン

 

 

いよいよ初めて、宇宙に飛び立つ日がやってきた。今回宇宙に飛び立つのは第三学年の候補生達だ。もちろん全員を一度に宇宙にあげるとなると、膨大な数になってしまうため、スケジュールを組み、割り当てられたメンバーで宇宙に向かうことになる。割り当ては主に同部屋の候補生達を複数まとめて宇宙に送ると言うものである。そして、それぞれの艦に分乗して練習航海に向かうことになる。

 

我々は早朝には士官学校の校庭に集合して点呼と健康状態の確認を行いながら軍の用意した兵員輸送車に乗り込んだ。向かったのは帝都オーディンの郊外にある帝国軍の軍事宇宙港だ。わかりやすく説明するならば、OVA版でラグナロック作戦が発動してライハルトとヒルダが並んで出征する帝国軍艦を見送っていた場所と説明すればわかりやすいだろうか。しかし、ライハルト達、つまりは帝国軍の上級将校や政府の高官や皇帝が閲兵する場所に近い場所には艦隊司令官の旗艦や戦艦などの艦が優先的に配備される為、我々士官学校候補生が乗艦する艦は宇宙港のかなり外苑部に位置する場所だ。

 

我々候補生が乗り込む練習艦は間も無く退役を迎えることになる一世代前の旧式駆逐艦だったりするのだが、門閥貴族の師弟達と彼らの家系に仕えている帝国騎士の家の者及び、門閥貴族の取り巻き達は後日それぞれの家が用意する艦(戦艦クラスの大型艦船)で宇宙に向かうことになる。彼らは我々と違い練習航海とは名ばかりの家の者が全て行う宇宙旅行に向かうことになる。

 

門閥貴族の家臣の家系はともかくとして、その取り巻きはどうなんだ?…仮に取り巻きではなくなったらどうなるんだ?と考えずにはいられなかった。…そんなことを考えながら、2人と一緒に歩いていると俺たちが乗り込む練習駆逐艦が見えてきた。…原作開始時点の駆逐艦とは異なるライハルトが中尉時代に乗艦したハーメルンⅡと同型の旧式だ。大きさは、前世において海上自衛隊の艦船をイベントで近くで見たことがあったから、そこまで変わらないなと言うものであったが、問題は別のところにあった…数だ。

 

銀河英雄伝説において戦艦や提督達の旗艦にばかりが注目されているので忘れられがちであるが、最も数が多いのは帝国・同盟問わずに駆逐艦だ。…旧式ではあるが駆逐艦が明らかに三百隻や五百隻では少ないと感じるほどの数が配備されていた。…さらに上空ではこれから任地に向かう為に宇宙へ上がっている艦や、逆に修理や補給の為に宇宙から降下している艦がドックに入港したりしていた。これはあくまでもこのセクションの光景であり、全体の光景とは比べ物にならないだろう…それでもその光景はまさに壮観だった。

 

俺だけではなく、ザムエルやフリッツ…さらには今回一緒に宇宙に上がることになる、他の候補生たちもその光景に目を奪われていた。

 

慣れているのか教官は我々候補生に声をかけ、それぞれが指示に従いながら自分たちの乗り込む駆逐艦に足を踏み入れた。

 

正直言って、どのような指示を現役兵に出していたのか、どのような対応をしていたか詳しい内容は思い出せなかった。確かに指示は出したと思うし、教官からも問題なしと言葉をもらったのだが俺を含めた3人はそれどころではなかった。…緊張と、わずかな興奮そして、それ以上の喜びの気持ちでいっぱいだった。この駆逐艦に、俺たち3人と同じように乗り込んだのは候補生は30人。それぞれの部署に交代で配置されるのだが、他の班とは人数が異なる俺たち3人が最初に配置されたのは艦橋だった。

 

気づけば、駆逐艦は宇宙に向かって動き出していて、そしてあっという間に宇宙にまで登っていた。気を遣ってくれたのか駆逐艦の艦長と随伴している教官が、試験開始までの間は、艦橋から離れてた展望デッキに向かう様に指示を出してきた。3人でそこに向かうと星々の大海が広がっていた。

 

 

…………初めて自分の目で見た宇宙空間は言葉にするのが難しいほどに美しかった。星々は様々な色を浮かべながら瞬いてはおらず圧倒的な輝きを放っていた。もちろん知識としてオーディンから見上げる星空には、どのような星が存在していて、どのような星座が浮かぶのかと言う事は知っているつもりだった。しかしそれは、知識で知っているものと実際に自分の目で見るものとでは全く違った。

 

そして圧倒的なその星の数、前世においては叶わなかったほどの、まるで星の海の中を泳いでいるような、星々の大海を渡っている様な、そんな感動を覚えた。この感動は、言葉では表せることができない程までに本当に美しいものだった。

 

地上で見上げていた星は、遠い記憶の残像に過ぎなかったことを思い知らされた。どこまでも広がる宇宙の深淵に灯るその光に対して息を飲むことしか、俺たち3人はできなかった。

 

「…安っぽい小説には言葉にできないほどの感動や美しさなんて言葉があるけど、あれは本当だったんだな…」と俺は思わず2人に語りかけた。しかしその視線は、展望デッキに釘付けだった。俺は無意識に宇宙の星々に向かって手を伸ばしていた。

 

「…本当だな。…俺たちはこの海で戦うことになるんだな」と珍しく感動した表情を浮かべているフリッツが俺と同じように宇宙を見つめながら、そんなことを言った。

 

「…フリッツ…お前相変わらずだな…確かに戦うことになるかもしれないが、それ以上に感動するとかもっとましな言葉を選べないのか?」と困ったような優しい表情を浮かべて語るザムエルも、視線は宇宙に釘付けだった。

 

宇宙と言う名の永遠が、俺たち3人だけに語りかけているようなそんな心境になった。…後日聞いた話ではあるが、2人も同じような気持ちになったと語っていた。…何度も口にすることになるが、この航海訓練は重要なはずであった筈なのに俺たち3人は全くと言っていいほど何かをしたと言うことを覚えていなかった。…初めて目撃した。あの美しい宇宙に心を奪われていた。

 

1週間の訓練航海自体は何事もなく無事に終わることができた。無事に試験を終えて教官から優れた評価を3人とも得ることができて安心したと言う気持ちはあった、それに自分たちが今まで勉強していた内容を実践して、活かすことができたと言う達成感も確かに存在した。それでも、俺たち3人の心はあの美しい星の海に釘付けだった。

 

俺は早くあの星々の海に行きたくなった。…もしかしたら、あそこに行けば父上や姉上、マティアスにもう一度会えるような気がしたから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。