銀河英雄伝説 帝国騎士の誉れゴットフリート   作:猫バロン

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第八話  熊親父とその懐刀

帝国暦478年 軍務省 第6会議室

 

ゴットフリート・フォン・マッケンゼン

 

俺は、出頭を命じられた軍務省の第6会議室で椅子に座りある人物の来訪を待っている。

 

一週間前の騒動で理由はともかく門閥貴族の一門の今回の首魁の男と、取り巻きどもを5人まとめて病院送りにしたことで厄介なことになってしまった。

 

騒ぎを聞きつけた近隣住民の通報を受けた警察により身柄を拘束されて軽い事情聴取の後に、憲兵隊に身柄を拘束された。

 

正直に言ってやったことは全く後悔していないが、アリーゼや我が家のことを考えると何も考えずに行動してしまった自分の愚かさが恥ずかしい。本来ならば、不名誉除隊か軍刑務所に収監されるはずであったが愚かにも貴族の馬鹿息子共はルドルフ大帝(尊称などつけたくもないが)像がある広場で犯行に及んだ。

この行為を問題と捉えた一部の(ある意味で)良識的な憲兵の助け、首魁が属する門閥貴族の敵対貴族の活動、さらに助けた女性が貴族によって危害を加えられることを恐れずに証言をしてくれた。

 

 

俺を助けるために今回のことを美談の様に宮廷に広めてくれたアリーゼの友人であるべストファーレン男爵令嬢には頭が上がらない。貴族社会において門閥を形成するほどの貴族家を敵に回すような行いをした彼女の勇気と今回の恩は決して終生忘れてはならない。…最も彼女とアリーゼには憲兵隊から解放されて帰宅した際に、こっ酷く叱られた。特に男爵令嬢には「お母様とアリーゼのことをどうするつもりなの!?やったことは立派ですけどもう少し考えなさい!?」と本気で怒られた。

 

 

更に彼女から話を聞けば俺は本当に危ない立場だったのだ。首魁の属する門閥貴族の当主がこの事実を消し去るために動き、俺の上位貴族に対する不敬罪や、被害女性やその家族を亡き者にする為に秘密裏に動いた。しかし、とある人物が動いたことにより最悪の事態が回避された。その人物については後述する。

 

 

…冷静になって見れば、一番申し訳なかったのは母上に対してだ。勿論、被害者女性や男爵令嬢に対する感謝の気を持っており本人達には個別に会った際に、深く謝意を述べて頭を下げた。被害者女性はむしろ恐縮した様に家族総出でお礼を言われた。彼女の家族は父親と幼い妹しかおらず、あの日彼女は風邪で寝込んでいる父親の為に薬を買って帰る途中だったようだ。

 

 

しかし、男爵令嬢の場合は、「謝意はいずれ形あるものを頂くわ」と言われて内心、アンタはどこのそばかすの革命家提督だよとツッコミを入れたのであるが…。

 

話しを戻そう…。

 

 

母上は俺の助命嘆願の為に父上と親交があった高級軍人達に頭を下げて回ったそうだ…泣いて詫びたが…困った様な穏やかに笑って「立派ですよゴットフリート」といって許してくれた。俺は母上の顔を見ることは出来なかった。

 

それにフリッツやザムエルも来てくれた。フリッツは自分が酔い潰れていたことで、俺に加勢出来なかったことを酷く恥じていた。最もそれ以上に俺のことを心配していてくれたが。あまりにも必死な様子が少しがおかしくて、俺は笑ってしまった。

 

ザムエルは関心はしないが、よくやったといった感じだった。最も彼は“顔を隠してやればよかったんだ”と冗談めかして言って、フリッツを唖然とさせていたがその顔がおかしくて、俺とザムエルは顔を見合わせて大笑いした。

 

一通り笑い終わると、2人は俺に向かって語った。「「もしも何か本当に困ったことがあるなら力を貸す。それが親友だ」」2人は練習してきたんだろうか…一言一句間違えず声を揃えて、俺に言った。

 

不覚にも、俺はこの時に涙を流してしまいそうになった…俺は本当に良い親友たちを持ったものだ。

 

もっとも俺がほとんど罰を受けなかったのは男爵令嬢のおかげ以上に最大の要因がある。軍部のとある人物が庇ったことが理由らしい。この人物が先ほど話した被害女性とその家族を擁護した人物だ。

 

 

 

どうやらその人物が上層部に掛け合ったらしい。今回の騒動が原因なのか軍務省に出頭した際に人事局長であるハウプト中将から直接この話を聞かされた。犠牲の祭壇に捧げられる羊を見る様な目で見られはしたが…嫌な予感しかしない…。

 

話を戻そう。今回のことは幸運以外の何ものでもない。それは十分理解している。この世界は、生まれた身分が全てであるような世界である銀河帝国ゴールデンバーム王朝だ。もしも俺がただの平民であったら、良くて間違いなく社会秩序維持局によって強制収容所か矯正区に送り込まれていただろう。…いや…死んだ方がマシか。

 

だが結果から言えば、なんとか軍への残留を許された。それでも今回の騒動で近衛兵への任官は取り消しとなった。

これに関しては別に気にしてはいない。元々自分から望んでいた部署ではないのだから。だがやはり気になるのが俺を庇ったという何処ぞの変わり者のことだが…まさかな。

 

それに正直言って、この部屋はひどく落ち着かない。うまく言葉にすることはできないが、違和感を感じる。

その違和感を言葉にすることができないことが余計に不快感を感じる。

 

 

そんなことをああでもないこうでもないと考えていると扉の外から聞こえる様な大きな足音が響いてきた。慌てて立ち上がるが、その前に扉を蹴飛ばす様に開けて大柄な大将と中肉中背の准将が入室してきた。

 

直ぐさま起立して敬礼をする。2人も敬礼を俺に返した。

 

………なんで俺の願いは何時も叶わないんだろうな…。それなのに嫌な予感は何時も当たる…その大柄な人物をあらてめ見つめる。

 

二メートルに近い巨漢で逞しい骨格を有しており、側にいるだけで威圧感を感じる様な強靭な筋肉が前身を鎧の様に覆っている。

その男は、ズカズカと歩みを進めて、乱暴にソファーに座り込んで熊のような声で話しかけてきた。

 

「久しいな。マッケンゼン候補生…いやマッケンゼン少尉。貴様は相変わらずの様だな。」うなるようにして笑いだす男、装甲擲弾兵副総監オフレッサー大将が話した。

 

「大将閣下もお元気そうで何よりです。今回のことに対しては厚く御礼申し上げます」そう言って、俺は深々と頭を下げた。

 

「フン…俺にも考えがあっただけのこと。」

 

失礼な言いようだがこの原始人から、そんな言葉が聞けるとは思わなかった。

 

考えがあるだと?怒りに任せて、突き進んで穴に落ちるような奴がか?…だとすると、俺のことを助けるように助言したのは横にいる男か?原作でこんな男はいたか?俺は横目にその男を見る。

 

中肉中背で焦げた様な茶髪。歳は30後半と言ったところだろうか。しかしその肉体は必要最低限の筋肉のように思えるが戦うために、必要なだけの筋肉といったような肉体のように感じる。どこか狼のような雰囲気を漂わせている。

 

俺は改めてオフレッサーを見る。この熊親父、一体どういうつもりだ?この親父が俺のことを庇ったということは俺のことを装甲擲弾兵の部隊へ所属させたいということだと思うが…。だが、それだと俺の希望が通ることになる。…よくわからないな。なぜ第三希望とはいえ通らなかった希望先が今回通ったんだ?

 

更に気になることがもう1つ。オフレッサーの顔にはアニメで描かれたような傷がないことだ。

士官学校時の総合格闘選大会の時もそうであったがその時は今後直ぐに戦傷を負うのだろう思っていたが、どうやら未だ負っていないようだ。

 

確かに原作小説開始までまだ時間はある。外伝に関してもそうだ。だが、この男が戦傷を負う程の戦いが原作でこの先にあったのだろうか…確か原作では、同盟軍兵士のビーム銃による傷だったはずだが…本当にわからないことだらけだ。

 

 

「何やら思案している様だがそれ程気にすることはないぞ…貴様の使い方は既に考えている。

おいウルフェンベルク挨拶してやれ」

 

「はっ。お初にお目にかかる。今回、装甲擲弾兵副総監部隷下、第124旅団の旅団長に任命されたディートリヒ・ウルフェンベルク准将だ。卿には私の副官を務めてもらうことになる。よろしく頼む。」

 

そう言って手を差し伸べてきたので慌てて握手をした。

 

「こちらこそよろしくお願いいたします。」

 

「卿とは前から会ってみたいと思っていた。閣下が白兵科の生徒でもないのに“将来が楽しみだ”とおっしゃっていたからな」准将はオフレッサーを見ながら言った。

 

その言葉を聞いて、オフレッサーを見ると、准将と視線を交わしていたが直ぐに俺と目が合った。慌ててそらしたが面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「確かに貴様はそこらの軟弱な小僧共よりは使い物になるだろうが自惚れるなよ?」

 

そう言うとオフレッサーはわざとらしく咳き込んでから准将に視線を向ける。

 

「准将すまんがこの小僧と二人きりにさせてくれ。話がひと段落したら卿の元に向かわせる。あいにくと、この小増と話さなくてはならんことが多くあるからな。」

 

「はっ。承知致しました。」そう言って見事な敬礼をしてから准将は会議室から退室した。

 

「さて…」オフレッサーが俺のことを睨みつけるように鋭い眼光で見つめた。

 

「貴様は今回俺がどれ程、骨を折ったか分かるか?あの哀れな娘とその家族を保護し、あの馬鹿どもの相手…。並大抵のことでは無かったのだぞ。怒り狂う馬鹿貴族どもの親や親族、主君の相手をすることはな」うんざりとした表情を浮かべながら言った。

 

「はっ。副総監閣下のお骨折りにより小官が不名誉除隊となるところ救って頂いたと伺っております。」

 

俺は改めてオフレッサ―に対して深々と頭を下げた。しばらく頭を下げた後に向き直った。

 

「ですが閣下。無礼を承知で申し上げますが小官は今回の騒動に対して自らの行動が誤りであったとは思いません」俺は胸を張って答えた。

 

俺の言葉をオフレッサ―は表情を変えずに黙って聞いていた。しばらくして大きなため息をついて椅子に深く座りなおした。目頭を右手で軽く押した後に両腕を組んで黙り込んでしまった。

 

…確かにゴールデンバウム朝の帝国騎士の生き方としては落第点だろう。今回の騒動は自分が考えている以上に幸運だった。一歩間違えれば俺は母上やアリーゼを連れて亡命するしかない事態に陥っていた可能性…いや俺だけではなく2人も共に命を奪われていたかもしれない危険なことであったというのは痛いくらいに自覚している。

 

…何度も考えさせられるが冷静に考えればあいつ等が、あの女性に対して行っていたこと気に留めることなく無視するべきであり、それがある意味正しいことであったと思う。むしろ多くの者たちが見て見ぬふりをすることだろう。それがゴールデンバウム朝銀河帝国での賢い生き方なのだから。

 

だがあの様な非道で許しがたい行為を見逃してしまえば俺は二度と騎士を名乗ることはできなくなる。…いや騎士である以前に男として自分よりも非力であり弱い立場の人間に対して権力や富に物を言わせて力ずくで意のままにしようとするやつ等から助けを求める者の声を無視することは俺の性分…いや騎士としての矜持が許さない。

 

他者から大切なものを奪う者を無視すればそいつ等以上に悪辣な存在になり果てるだろう。

さらに亡くなった父上に二度と顔向けできなくなるだろう。騎士としても男としても。

 

俺は誓ったのだ…あの日に父の…家族の墓前で。だからどのようなことがあろうとも俺は父上達やご先祖様達に対して行った誓いを破るようなことはできない。

自らがどれ程の不利益や不名誉を負ったとしても騎士たらんと願った初代様を裏切るようなことは何があろうともできない…。自然と拳には力がこもっていた。

 

熟考していたことで気付かなかったが目を開いて俺の顔をオフレッサ―はまじまじと見つめていた。俺の様子に気づいたのだろう再び大きなため息をついてオフレッサーは語った。

 

「…俺は貴様に文句が言いたくて残したのではない。それに今回の件について何か含むということもない。…俺でも貴様と同じことをしただろうしな」

 

俺は驚いた。この男は原作で言われるような粗野で野蛮な石器時代の勇者という様な印象を受けなかった。むしろ俺の発した言葉の真意を見抜いている様な気がした。

 

更に話しぶりからすれば、俺がこの会議室に入室以前から感じている違和感を理解しているように話している。

 

新米少尉の俺をいきなりウルフェンベルク准将の副官に据えるという正直に言えば異常な人事に納得できる理由があるのかもしれない。

 

少なくとも准将の副官を建前に前線へ出し俺を謀殺しようとするような考えを持ち合わせていないことが分かった。

 

「まずは場所を変えるぞ。ここでは何処かの馬鹿共のせいでオチオチ話も出来んからな」俺は粗々しく立ち上がるオフレッサ―の後に従って部屋を出た。

 

…馬鹿共とは一体誰だ?…それにこの部屋では、お互いに踏み込んだ話をしなかった…何度か話そうとはしたが、俺もなぜか、話さないほうがいいような口にはしないほうが良いような気がして言葉には出さなかった。

オフレッサーに続いて歩みを進めると軍務省を出た。

 

…正直言って軍務省は未だに来るのが辛い。

 

どうしてもあの日を思い出してしまうから…この出入り口付近のロータリーで父上と姉上、マティアスは殺された…。

 

 

 

俺はそんなことを考えながら前を歩く熊親父についていく。

 

しばらく歩くと駐車場に一台の車が停車していた。車の後部座席に乗っていたのは、ウルフェンベルク准将だった。

 

強面の運転手が車の扉を開け、俺たち2人が乗り込むと扉を閉めて、すぐさま発進した。

 

「お疲れ様です閣下。どうやら黒のようです。目はありませんでした」と准将が熊親父に言った。

 

「やはりな…この俺も舐められたものだな」面白くなさそうに吠える様に熊親父が言った。

 

正直会話についていくことができなく、俺は不思議そうな顔をしていたと思う。俺の様子に気づいた准将が俺が疑問に思っていたことに対して答えをくれた。

 

「少尉。貴官は今多くのことを疑問に思っていると思う。まず最初に私たち2人の会話が一体何なのかと言うことになると思う。そうではないかね?」

 

「…はい閣下。黒とは一体何のことなんでしょうか?それからなぜ今回はわざわざ軍務省に呼び出されて、あの会議室に通されたのでしょうか?装甲擲弾兵総監部で話をすれば一度で済んだのではないでしょうか?」

 

「やはりそう思うか…今回あの会議室を指定したのは我々ではない。さらに上の人間だよ。部屋に入った時から、きな臭いとは思ったが…」 准将は手を顎に当てて深く考え込んでいる表情をする。

 

「あぁすまない。貴官の最初の質問に答えていなかったな。黒と言ったのはこれだよ」

そう言って、ポケットから黒い機械を取り出した。これは…。

 

「…盗聴器でしょうか?」

 

「その通り。これはあの会議室に仕掛けられていたものと同じ種類のものだ。盗聴器以外にも監視カメラがあるかもしれないから、ポケットに入れた検査装置を使ったら反応が出たということだ。

それを閣下に目配せで教えたのだ。それに気づかれた閣下が『2人にしてくれ』と私に言ったのだ。

貴官と話すことがあると言っていたがあれは、この場で話す事は何もないよと言う意味でな」

 

軍務省内で白昼堂々と盗聴器を仕掛けるだと…。それも上位の者が指定した部屋にか…。きな臭いな。つまりかなりの大物が装甲擲弾兵副総監部と敵対しているということだ。

どうやら俺は着任早々、かなりの厄介事に首を突っ込もうとしているようだ。

 

「つまり…。小官を軍務省に出頭を命じられたことを、利用して敵対者がどのような罠を仕掛けてくるか試したと言うことでしょうか?」 

 

准将と熊親父が面白そうに視線を交わした。オフレッサーに関しては熊のような笑い声をあげている。 

 

「やはり聡いな。閣下が期待しているというのも間違いではなさそうだ」

 

やはり准将はオフレッサーの懐刀と言った存在なのだろう。俺が原作で知っている熊親父の人物像と大きく違う様に思える。だが上層部または敵対者から監視されるほどの理由は一体何なんだろうか?

敵とは一体誰なんだろうか…。詳しい話が聞ければいいのだが。

 

そんな会話をしている内に車は装甲擲弾兵総監部に到着した。

建物は何処かの元帥府程に大きな建物ではないが重厚な作りで、かなり大きな建物で見るもの全てを威圧するような作りだ。

 

 

車から降りて建物に入ると2人の後についてエレベーターは使わずに階段を登り3階の副総監部のオフレッサーの執務室に入った。3階全体が副総監部になっているようですれ違う誰もが屈強な体をしている。熊親父と准将が目に入ると綺麗な敬礼をしている。階級が下である俺が本来は先に敬礼しなくてはならないが、俺の様子を気にすることもなく、彼らは自らの職務に戻っていった。建物は、有事の際は立て籠もれるように、ひどく入り組んだ作りになっていた。…最も白兵戦でオフレッサーを敵に回したい馬鹿はいないと思うが…。やれやれ薮からは何が出てくることやら…。

 

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