TS転生人外ロリ、厭世魔法少女の使い魔になる   作:蓋然性生存戦略

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TS転生人外ロリ、眠れる

困った。

エスカを怒らせてしまったようだ。

 

「エスカ、悪かったから……」

「……」

 

色々と、面倒な勢力を全て黙らせていたら、連絡を取るのを忘れていた。

その結果として、帰ってきたら呆れた様子のヴェスと、憔悴した様子のエスカがいた。

エスカは随分と心配していたようで、私の無事を確認するや否や取り乱し、事情を説明したら表情が抜けた。

 

……まあ、私が悪いか。

電話の一本くらいはする余裕はあったかもしれないし。

 

で、エスカが怒った。

私の頬を張った後、私の手を握って離さなくなってしまった。

エスカ、あんまり強く握られると私もそれなりに痛いのだけど。

変身してない生身の私は、一般人よりちょっと強いくらいでしかないのだけど。

握り潰さんとばかりに力を込められると少し辛いのだけど。

あと、ハイライトの消えた目で見つめるのはやめて欲しい。

得体のしれない恐怖を感じるから。

 

ヴェスに助けを求めて視線を送る。

が、見事なサムズダウンを見せつけられ、味方はいないと察した。

この後輩、私を慕ってくれてはいるが、辛辣な時はとことん辛辣である。

基本そういう時は私が悪いのだが。

……まあ、私が悪いか。

 

「……何かあったかと思った」

「私に何かがあると?」

「……実際何かを処理してた」

「必要なことだったの」

「……3年前、ヴェスと組んでなお追い詰められた実績がある」

「魔王に準魔王級の群れに馬鹿どもの裏切りよ?たかが人間相手するだけで追いつめられるわけないじゃない」

「……せめてヴェスを連れてって。知らないところでひとりで問題に向かわないで」

「……それは悪かったわ。次からは二人とも連れてく」

 

随分と心配させてしまったようだ。

反省しなければ。

 

「ん……」

 

手の力が緩んだ。

少しは許してもらえただろうか。

 

「夕飯のハンバーグに熱を通したニンジンを添えるだけで許してあげる。もちろんお残しは許さない」

 

ごめんなさい、エスカ。

熱を通したニンジンだけはダメなの、本当に許して。

 

 

 


 

 

 

 

ご主人が帰って来た。

何事もなかったかのようにぴんぴんしている。

とりあえずよかった。

何事も無ければそれでいい。

安心して泣きわめいてしまったが、ご主人が無事なら自分の恥などどうでもいい。

全く、連絡も寄越さずどこに行ってたんだか。

一週間も音信不通でどれだけ心配したことか。

ほら、俺は落ち着いたから説明してくれ。

ご主人の事だから仕方のない事情があったとは思うが、しかしそれでも気になるのは気になるのだ。

 

「ウロヴォロスの討伐に関して、色々とうるさい勢力がいてね。エブラナと協力して黙らせてたのよ。一旦落ち着いたから帰って来たんだけど……ヴェス、もしかして私、やらかしたかしら」

「ええ、まあ、ハイ。とりあえず先輩はエスカちゃんに殴られても文句は言えませんよ」

 

……。

…………はあああああああああああああああああ!?

おまえ、おまおまおまえ!!

お前さァ!!

なんでそういう大事なことを一人でやっちゃうかなあ!!

お前分ってんのか!?変身してないご主人とかおれでも制圧可能な脆弱な生き物なんだぞ!?

エブラナとやらが誰かは知らんがどこの馬の骨ともわからん奴と一緒に一人で行くんじゃないよ!!

ほんとコイツ、ホンマこいつ!!!

叩くぞお前!?

 

「セラフ……っ!!」

「え、エスカ?」

「この、ばかぁ!!!!!」

 

渾身のビンタ。

加減など知らぬ。

どうせ死にはしない、痛いだけだ。

お前のほっぺに紅葉を作ってやるぜ!!

ベチーン!!

 

「……ごめん」

「ン"ッ!!!」

 

フンヌゥ!!

謝ったってすぐには許さぬ!!

ご主人が好きなハンバーグだって、誕生日ケーキだって作ったのに!!

誕生日に帰ってこないし!!

連絡のひとつだって寄越さないし!!

魔王さえいなければ負けるわけないしみたいなツラしてるし!!

もう、もう!!

ほんとにもう!!

 

――ポカポカポカポカ

 

「エスカ、焼いたニンジンだけは勘弁してちょうだい、他のなら何でも食べるから……」

「だめ」

 

ふん、この家の食事事情を握っているのは俺なんだからな。

怒らせたらどうなるか、その身に刻み込んでくれるわ!!

 

「ヴェ、ヴェス……」

「私は助けませんよ」

「そんな……」

「口説き文句みたいなこと言った直後に音信不通になったんですから、先輩が全面的に悪いですし」

「くど!?」

「自覚なしとは恐れ入りましたよクソボケ先輩」

 

そうだよ、責任取れよオラァ!!

えいえい、えいえい!!

 

「……私の事は遊びだったんだ」

「ちがっ」

「嘘だったんだね……」

「違うからっ」

「焼いたニンジン食べてもらうね……」

「エスカちょっとふざけ始めた?」

 

バレたか。

 

「仕方がないので許してあげる。ツギハナイ」

「あ、はい……」

 

もう良い時間だ。

夕飯の仕込みはしてある。

パパっと作って一緒に食べよう。

 

「改めて。おかえり、セラフ」

「……ただいま」

 

とりあえず休んでもらわないとな。

ご主人も頑張って来たのは分かってるからな。

お風呂の支度もしておいて、と。

 

しかし、安心したからか眠くなってきたな。

諸々終わったらひと眠りするか。

ここんところ眠れてなかったしな。

ガッツリ眠れば疲れも取れるだろ。

俺はきちんと休める、シゴデキ人外だ。

自覚があるならちゃんと休むさ……。

 

 

 

 

――と、思っていた時期が俺にもありました。

 

 

 

何故か眠れない。

身体は眠いと訴えているのに、眠ることができない。

な、なぜ……。

時刻は既に零時を回り、相談するにもご主人を起こしたくはない時間。

市販の眠剤が効くか分からない以上、眠れぬ夜を過ごすべきなんだが……。

 

ヒマだな。

ゲームでもするか?

でもご主人、気配に敏感だからな……。

何も考えずごろごろしてようか。

そのうち眠れるかもしれな「エスカ?」ご主人?

 

「セラフ、どうしたの?」

「それはこっちの台詞。いつまでも起きてる気配がするから様子を見に来たんだけど……眠れないの?」

「……うん」

「そう。よっこいせ」

 

え?

ちょっと待ってご主人?

いきなり俺を抱き上げてどうしたんだ?

 

「一緒に寝るわよ。あなたのベッドじゃ狭いから私のベッドで」

「え?え?え?」

「あなたが眠るまでいくらでも付き合ってあげるから。安心なさい」

 

ちょっと、同じベッドで眠るのは良くないと思います!!

俺中身男だか、ら……あれ?

なんか、すごく、まぶたが……。

 

「ごめんなさいね。おやすみ、エスカ」

「……ぅ」

 

おやすみ、なさい……。

 

 

 


 

 

 

やはり、無茶や心労などが祟っていたのだろう。

私が帰宅した後、表面上は持ち直したが、根本的なところでは全く立ち直っていなかったのだ。

思えば、短い間にエスカの身に降り注いだ災難は多い。

心に負った傷は、浅くはないはずだ。

半分くらい私が原因な気がするが、マッチポンプと言われるのは癪なので考えないことにする。

 

「すぅ……すぅ……」

 

エスカを自分のベッドに横たえて、私もその隣に潜り込む。

エスカは翼などをしまう技術を手に入れてから、ほぼ人間と変わらない姿で日常を過ごすことが多くなった。

きっと窮屈だろうに、私に合わせて日々を過ごしている。

思えば、あの時点で既に、エスカなりの好意の表れだったのかもしれない。

おかげで今、私はエスカの隣で横たわることができている。

 

「ねえ、エスカ。私はあなたのことを何も知らない。何故旧オート禁足地にいたのか、何故私を主と認めているのか、何故私を心配してくれるのか。あなたは魔人で、その事実は揺るぎのない事実のはずなのに」

 

眠りに落ち、答えることのないエスカに、私は問いかける。

まるで、私を立ち直らせるためだけにやって来たかのようで。

当然、答える声はない。

直接問えない自分が腹立たしい。

 

だが、恐ろしいのだ。

 

それを問いかけた瞬間、エスカがどこかへと消えそうな気がして。

きっとそんなことはないはずなのに、どこかでその可能性が拭えなくて。

私は、ずっと問えずにいる。

 

ずっと、目を逸らし続けた疑問がある。

エスカは、魔人ではないのではないか。

 

魔王がほざいていた妄言。

神の落胤。

エスカがそうだというのなら。

魔人というカテゴライズそのものが間違っているのではないか。

人ではなく、魔物ではなく、魔人ですらない。

この世でただ独り、完成されているが故に孤独な存在。

 

「だとしたら、あなたの隣にいることができるのは、私とヴェスだけなのかしら」

 

もう一つ、目を逸らし続けている疑念がある。

私は、もう歳を取らないのではないか。

3年前から、容姿が全く変わらない。

身長が伸びることも無ければ、縮むこともない。

突出し過ぎたが故の隔離。

常世からの逸脱。

 

かつて存在したという大英雄も、その強さと維持し続ける若さで、周囲を困惑に陥れたという。

前例があるのなら、あり得ない話ではないだろう。

 

かの英雄に届いたとは思わない。

あの時代は、真の英雄が群雄割拠していた時代だ。

今の腐り始めている世と同じとは思えない。

 

ただ、同じ土俵の入り口に立っているかもしれない。

そんな予感はある。

 

だからだろう。

きっと、大英雄と同じ道を辿るのだろう。

かの大英雄は、その最後を確認されていない。

ある日、誰もいない場所に旅へ出ると良い残し、伴侶とともにアルスガルから消え去った。

私も、いつかはそうなるだろう。

 

その時、私の隣にエスカとヴェスがいたのなら。

私はきっと幸せ者だろう。

 

その夢を、終わらせない。

 

「一緒に頑張ろうね……おやすみ」

 

私はエスカの額を撫でて、眠りに就いた。

 

 

 


 

 

 

「昨夜はお楽しみでしたね?」

「ヴェス?」

「ちがっ」

 

起き抜け一番。

ご主人の部屋からご主人と一緒に出てきた俺は、ヴェスちゃんにからかわれた。

ご主人は理解してなさそうだが。

 

「……先輩はもうちょっと勉強が必要ですね」

「なんの」

「エスカちゃんの方が理解してる顔してるのどうかと思うんですよ。人間社会歴バブちゃんですよエスカちゃんは」

「いったい何のこと!?」

 

ご主人さァ、ホントにハイティーン?

もしかして戦いにしか知識を蓄えなかった人?

 

「エスカちゃんなら分かると思いますが」

「ヴェス、私に説明させないで」

「エスカちゃんから説明させることで先輩の反応のレベルが上がると思いませんか?」

「私の羞恥心を考慮しなければオッケーだと思うよ。考慮して」

 

ヴェスちゃんが完璧にからかうモードに入ってる。

ダメだこいつ。

なおご主人は戦力外。

分が悪いにもほどがあるぜ!!

 

「何もなかった、それでいいでしょ」

「え!?先輩、告白まがいのこと言って1週間も放置したくせに自分のベッドルームに連れ込んで何もしてないんですか!?」

「添い寝しただけだけど!?」

「それはそれでどうかと思うんですけど」

「ヴェス」

「はいはい、からかうのはこの辺にしておきます。手紙が来てますよ」

 

全く、本題はさっさというべきだぜ。

 

「どこから?」

「エブラナさんからです」

「後回しにしていた勢力の片づけでも終わったかしらね」

 

あー、そういえばそんなんやってたな。

良い報告だと良いけど。

 

「……異魔特捜研が暴走したァ?」

 

あんまりよくなさそう。




・ご主人の弱点:熱を通したニンジン
生ならいける。
熱を通すと途端にダメ。
一日寝込むレベルで苦手。
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