TS転生人外ロリ、厭世魔法少女の使い魔になる 作:蓋然性生存戦略
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
さて。
あれからしばらく。
ざっと十年ほど。
俺達は、次元の歪みの中に居を構えていた。
なんでかって?
俺もご主人も、暴力に訴えすぎたらしい。
色々あって、二年くらい前に、人間社会を追い出されてしまった。
まあ冷静に考えるとそうだわな。
だって気に食わなければ皆殺しショータイムが始まるもんな。
人間様は怖くて仕方ないわな。
後悔はしていないが反省はしている。
別にネットも繋がるし食事は不自由していないし、ご主人もヴェスもいる。
煩わしい人間がいないので、むしろ快適とすら言える。
……俺も随分と染まって来たな、ご主人の色に。
あとそれから、ご主人が人間を辞めた。
というより、とっくの昔に辞めていたらしい。
曰く『英雄と同じステージに入り込んでた』とか。
英雄って人外のことを指す言葉だったのか、知らなかった。
何はともあれ、寿命が伸びたとか。
人外故に寿命が長そうな俺、歓喜。
ご主人、最後の最後までお世話すっからな!!
で、ヴェスちゃんと俺は変わらずです。
たまにヴェスの部屋から『もう付き合っちゃえよ!!』って声が聞こえるけど変わんないっす。
漫画かなんか見てるんだろ、知らんけど。
……はい、誤魔化しません。
多分俺とご主人のことだろう。
いやそりゃさ、俺はご主人のこと好きだよ。
多分Like寄りのLoveに変化してるよ。
でもさあ、クソボケご主人がさぁ、俺のこと妹みたいな目で見てくるわけ。
脈が感じられないわけ。
玉砕するつもりもない俺としては現状維持が一番なわけで。
だってこう、なんか嫌じゃん。
ギクシャクするの。
だったら俺が我慢すれば良いわけで。
まあはい、ヘタレと呼ぶなら好きにしろ。
この幸せが崩れ去るなら俺はヘタレで良い。
「とか言って辛いのはエスカちゃんですよ?」
「いきなり心を読まないで、ヴェス」
「まあまあ……で、ほんとに告白しないんですか?」
「しない。私は……このままでいい」
「私はそうは思いません。いいですかエスカちゃん。私は先輩とエスカちゃんにもっと幸せになってもらいたいんです」
「……なんで」
「2人が好きだからですよ?ぶっちゃけ私、未練とか今微塵もないんですが、もし仮に今死んで、心残りができるとしたら、2人の幸せです」
「……」
ヴェスちゃんさあ。
キミよく人たらしって言われない?
「2人とも、独りなんです。私はきっと、先輩とエスカちゃんと同じ道は歩けない。どこかで力尽きるでしょう」
「滅多なこと言わないで」
「まあ聞いてくださいよ。別に私はエスカちゃんが思うほど強くないんですよ。自分の幸福を他人に縋る、その程度の弱い人間です。そんな人間が、何十、何百年も正気でいられると思いますか?」
「……」
「そうなった時、2人が独りのままじゃダメなんです。2人が孤独ではなくなってないといけないんです。じゃないと先輩もエスカちゃんも、壊れてしまう」
「……言い切るんだね」
「2人は強いですが、どこまでも感情豊かな人間ですからね。壊れて、暴走して、その後に悔やむようなこと、あって欲しくないんです」
「ずいぶん先を見てるね、ほんと」
ヴェスの言葉は、とても重たい。
ただの想定、予測でしかないはずなのに。
まるで実感がこもっているかのような重さだった。
「孤独は人を壊します。私の知る、明るくてお人よしな先輩は、たったの3年で粉微塵に消え去りました。この意味がわからないほど、エスカちゃんは愚かではないでしょう」
「……」
そうか。
ヴェスは、以前のご主人を知っているから。
人は容易に変わってしまうことを知っているから。
だから恐れているんだ。
自分がいない、先の未来を。
「告白する、しないはエスカちゃんの自由です。私にとやかく言う権利はありません。ですが、独りではないと、孤独ではないと、お互いに示してください。2人が不幸な結末を迎えてしまったら、私は死んでも死に切れません」
「……わかった」
俺は……どうすべきか。
10年前、出会ったばかりの頃のご主人を思い出す。
荒んでたな。
今にも死にそうだった。
フィジカルが強いから死ななかっただけだ。
もし、もし俺たちの間に何かあって。
またご主人が一人になったら。
そうだな。
ご主人は、セラフ=カルテンコルという人間は、きっとまた荒れるのだろう。
そうなり得る可能性を、俺たちはまだ秘めている。
我慢は毒だということを、俺はすっかり忘れていた。
感情の摩擦は、一度擦り切れれば戻ることはない。
そうだな。
ハッキリさせてしまおう。
ハッキリさせてしまえ。
全く、お世話しているバブちゃんに諭されるとはな。
俺も焼きが回ったか。
「行ってくる」
「グッドラック」
エスカに、大事な話があると言われて呼び出された。
こんな次元の歪みで過ごしていて、特段何か変わるようなこともあるまいに。
エスカと出会って10年、次元の歪みに追いやられて2年。
特に代わり映えすることはない。
『もうそんなに言うなら環境は作るから次元の歪みにでも引き籠っててよ……』と、疲れた顔で大統領に言われたのは懐かしい記憶だ。
良かれと思って裏社会を掃除してあげただけなのに。
それはともかく。
エスカが大事な話だと前置きするのだ。
しっかりと聞かないと。
きっとエブラナ辺りから重要な伝言でも貰ったのだろう。
指定時刻よりも10分早く、リビングのソファに腰掛ける。
エスカもすでに席についていた。
どうせ私たちだけだ、待つ必要もない。
私はエスカを促した。
「それで、エスカ。話って?」
「単刀直入に言う。好き、恋愛対象として」
「……は?」
予期せぬ話題に、思考がフリーズする。
いや、たしかに、大切だけど。
「10年前からずっと好き。最初は親愛だったけど、今は恋してる。脈が無いのは分かってるけど、それでも伝えておく」
真剣なまなざしで。
真直ぐと私の眼を見ている。
どこに私を好きになる要素があったのか、全く分からない。*1
「……なんで?」
「……本気で言ってる?」
「私を好きになる要素、あった?」
「……」
「エスカ?」
何か間違えただろうか。
周囲の空気が、一気に冷えた感覚がある。
確かに、私はエスカの事を妹のようにしか見ていないが。
大切であることには変わらないが。
しかし恋路に発展するようなことはなかったと断言できる。*2
「ふふ、ふふふふ……」
「え、エスカ……?」
「表出てよ、セラフ。久しぶりに怒ったよ」
「待ってエスカ、今の私たちが喧嘩するのはマズ……」
「コテンパンに負かして性的に食べてあげるから覚悟してね」
「せっ!?」
エスカ、本気で言ってる?
ねえ、エスカ?
そもそも私たち女同士……!
「ふん!!」
「《
咄嗟に魔法を発動。
被害の出ない場所へと転送し、攻撃を受け止める。
「エスカ、落ち着いて?!」
「よーくよーくわからせる必要があるのに、落ち着ける?」
「私が悪かったから!!」
「何が悪かったか分かってないくせに!!」
それを言われると弱い。
けど本当に分からないのだ。
何故?なぜ?ナゼ?
ただ、私は、大切なだけなのに。
「セラフの、バカァ!!」
「っ!」
エスカの通常攻撃……と呼ぶには骨密度が高すぎる特大骨バット。
殺意はない。
だが殺傷力はある。
私かヴェスでなければ受け止めきれない威力だ。
「勘違いさせるようなことばっかりするくせに!」
「こっちをその気にさせたくせに!」
「セラフはちっとも見ようとしない!!」
「この、クソボケトンチンカン!!」
エスカとて、考えなしではない。
私が受け止め切るのを前提として振ってきている。
それはそれとして重い。
「ヴェスが正しかった、我慢してたらもっと溜め込んでた。だからもういい、我慢しない。《
「エスカ?!何を口走ってんの?!」
そんな目で見られてるとは本当に思っていなかった。
私が悪いのか?
私が悪いんだろう。
半ばパニックに陥った私は、エスカの接近に対応できない。
「んッ!!」
乱暴に、唇を貪られる。
息すら許してくれない蹂躙。
どうにか引き剥がしたけれど、エスカの目はすでに獣のそれで、しかしそれでも美しさは損なわれていない。
「セラフが悪いんだよ」
「え、エスカ……まって……」
「今日が下剋上の日」
妖艶に笑うエスカは、やっぱり綺麗だった。
「で、負けたんですか。先輩やっぱそう言う方面雑魚ですよね」
「わかってるから言わないで……」
翌日。
私は朗報を聞きました。
エスカちゃんが熱烈な告白をして勝ち取ったそうです。
しかも主従逆転させたらしく。
告白くらいで意思が揺らぐような主人は主人に非ず、だそうです。
主従契約魔法を逆転させられるとは笑いますね、笑い事じゃありませんが。
存在の格で言えば同格以上だってことですよこれ。
私、置いてかれてませんか既に。
頑張らないといけませんね。
「まあ先輩が悪いです。この天然人たらし」
「うっ……そんなに?」
「自覚がないのがタチ悪いですね」
「そう……」
まあ、エスカちゃんが勝ち取ったのなら朗報です。
焚き付けた甲斐がありました。
見てられないんですよ。
10年前から我慢しようとしてそれとなくアピールしてるエスカちゃんの姿なんて。
それをことごとくスルーするクソボケ先輩のことなんて。
これ見せ続けられる私の気持ちになってくださいよ。
楽しくて悶え過ぎて大変でしたよ。
でも流石に長すぎるので終わらせたわけですが。
……これでもう、憂うことはありませんね。
先輩たちは支え合って生きていけます。
私の役目は終わりです。
元々、長くはなかったんです。
私は《ヴェスペルベル》が残した残響。
それが実験に呼応して、復活したように見せかけただけの偽物。
最初から、役目を終えたら消える存在だったんです。
ここまで余生を過ごせたのも、ひとえに先輩の強さがあってのもの。
それももう限界を迎えています。
ただの魔物へと変貌するのも、遠くはないでしょう。
なのでまあ、人間社会に復帰する一助として、最後にこの命、ご奉公に使わせてもらうとしましょう。
「どうか、お幸せに、先輩」
「何を言ってるの。あなたもよ」
「私は十分幸せでしたよ」
「……そう。ありがとう」
「こういう時だけ察しがいいんですから。その察しの良さをもうちょっと他に配ってください」
「……善処するわ。ヴェス、いえ。
「はい。全て、全て報われました」
さよなら、先輩。
その日。
俺たちは別れを済ませた。
規格外魔人を一柱、撃滅した。
ああ、これが評価されて人里に戻れるわけか。
やってくれる。
「戻ってなんかやんない」
「ええ、私たちの家はあそこなのだから」
きっと俺たちは、何度でもこの苦い思いをするのだろう。
悠久に続くこの命が、果てない限り。
ロクデナシが幸福を得る対価は、決して小さくないから。
「いっそのこと闇堕ちする?」
「やめなさい。ちょっといいって思っちゃったでしょ」
「ふふ、破滅の道でも構わないよ」
「バカね。ふいにするほど私もボケてないわ」
最後まで、ヴェスはおせっかいを焼いて、消えていった。
それを無碍にするほど、俺たちはバカじゃない。
ちゃんと、ちゃんと幸せに生きる。
その義務がある。
だから、これでこの話はおしまいだ。
これから先、火の粉を振り払って慎ましく生きるだけの、そんな余生しかないのだから。
~~Fin~~
というわけでね、またしても駆け足ですが(作者恒例駆け足エンド
人間社会に帰化できなかった二人の物語、少し苦くも幸せになった物語として書かせてもらいました。
結局、殺戮者は社会には溶け込めないのです。
どれだけ心根が善良だったとしても、一度歪めばどうしようもない摩擦を生む。
まあかと言ってバッドエンドが良いかと言われれば作者はハピエン厨なのでこうなりました。
長々とあとがきを埋めるのもアレなので、これにて。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。