TS転生人外ロリ、厭世魔法少女の使い魔になる 作:蓋然性生存戦略
とある日。
エスカが倒れた。
無事に大規模侵攻作戦の第一段階を終えた頃だった。
「ぁ……」
ふと、ばたりと倒れたのだ。
「エスカ?!」
「エスカちゃん?!」
幸いだったのは、私たちにあてがわれた、個別の天幕の中だったこと。
不幸だったのは、私もヴェスも、エスカの不調に気付けなかったこと。
糸が切れた人形のように倒れ込んだエスカの体は、酷く冷たかった。
死人かと間違えるほどで、普段は少し熱いくらいの体温は、今は影も形もない。
「……ぉなか、すいた……」
倒れたエスカから、絞り出された言葉。
空腹を訴えるそれは、尋常ではなく切実だった。
しかし、同時におかしい。
エスカはちゃんと、毎日3食おやつ付きで食べている。
普段から人よりも多く。
今日も変わらず食べており、普段通りならば空腹で倒れることなどありえない。
つまり、何かいつもと異なる何かがあったということだ。
心当たりはある。
大規模侵攻作戦において、エスカはいつもの何倍も働いた。
いつも以上のパフォーマンスを見せているのだから、何かしらの問題が起きてもおかしくはない。
ないのだが……急に倒れるほどの空腹に至るかと言われれば、疑問は残る。
いかにエスカが魔人とは言え、生物である以上はストッパーがあるはずだ。
そうでなければ生物として破綻している。
だから、どこかで危機管理本能が働くはずなのだが……考えても分からない。
ひとまず食べ物を与えているが、復活の兆しは見えない。
「ど、どうしましょう?!私は人間から生まれた人造魔人なので、人間の食事でも大丈夫なようになっていますが、エスカちゃんは純正ですし……!!」
「……純正?もしかして……」
「先輩?」
ふと、ヴェスの口から漏れた単語に反応する。
そうだ、純正の魔人だというのなら。
私は思い立って、指先を切って、滴る血をエスカに与えてみた。
私は人間で、最強の魔法少女だ。
そして、魔物は喰らったものを取り込む性質がある。
つまるところ、真正の魔人であるエスカには、私の血肉を与える方が効率がいいのではないか?
そう考えた。
果たして結果は……
「んむ……ぉぃしぃ……んむ……」
……私の人差し指を咥えて離さなくなってしまった。
だが、体温が急速に戻っている。
やはりこれが正解だったらしい。
どれだけ情緒が人であろうとも、魔人であることには変わりないということだろう。
尤も、私の指を咥えて、安心し切ったように血を啜り続ける姿は、少し癒されるものがあるが。
「もしかしてですけど」
「ええ、多分そういうことでしょうね」
「「慢性的な栄養不足」」
私とヴェスは、そう結論付けた。
人間の食事を好むが、人間の食事では恐らく足りていないということ。
人よりも多く食べるのがその証左かもしれない。
エスカはやはり魔人であり、人の血肉を喰らわねば正常な機能を果たさないのだろう。
命に関わる偏食個体っぷりに呆れる他ないが、別に血を拒むわけでもなさそうなのが幸いか。
栄養が足りていない状態でいつも以上のパフォーマンスをしたのだ、それは倒れるだろう。
今までのも、ギリギリ収支はマイナスだったのではないだろうか。
エスカの今後の扱いも、もっと考え直さなければならないようだ。
「本能で暴れたりとかしなくて良かったですね……」
「本当にね。手遅れになる前に気付けて良かったわ」
もし、もしこれよりもひどく悪化して、理性を失って暴れるようなことがあった場合。
私は無傷でエスカを止められる自信がない。
私が無傷、ではなくエスカが無傷で済む、という意味でだ。
エスカは強い。
正常な機能を果たしていない状態で、脅威度A下位を軽々と屠り、恐らくは脅威度規格外にすら善戦することが可能だろう。
ならば、であるのならば。
ひとたび本能のままに暴れ、人間の血肉を啜り、喰らった時。
エスカは脅威度規格外の中でも上位に位置する存在となるだろう。
それこそ、私しか止められない、未曽有の大災害だ。
事前に予防する必要がある。
それを、今回まざまざと実感させられた。
「おなか、いっぱい……」
エスカは、体感で200mlほど私から吸い上げたのち、満足したのか口から離して、眠ってしまった。
およそ献血一回分。
それで満腹になるのかと思ったが、よくよく考えたらだいぶ吸われたと感じた。
人間、そうそう血を提供することはできない。
それはこの私であっても例外ではなく、血を流し過ぎれば死ぬ。
それは人間という種族が越えられない、絶対的なルールだ。
「……輸血パックでも常備しておかないといけないかしら……」
「……ここまで大規模かつ長時間、力を行使したことが無いから気付かなかったことですから、もしかしたら緊急時に先輩が血を与えるくらいで済むかもしれませんよ?」
「希望的観測は要らない。その緊急時がどれくらいの頻度になるか、それが問題」
「……ですよね」
やはり、輸血パックか何かは必要だろう。
そして、それを保管する設備も。
造血剤などにも手を出すべきか。
少なくとも、エスカを切り捨てるという選択肢は、私には無かった。
目が覚めると、知らない天井だった。
あー、意識が落ちる前何してたっけ。
そうだそうだ、禁足地の大規模侵攻作戦に参加してたんだっけか。
で、途中で腹が減って仕方なくて、天幕に戻ったまでは良いんだが……そこで記憶が途切れてるな。
空腹で倒れたか?
今はもう、腹は膨れてるんだが。
いやなんで?
なんか食わせてくれたんかな。
意識がもうろうとしてて覚えてないわ。
「エスカ、目が覚めた?」
「うん……私、どうなってた?」
「空腹、というより、慢性的な栄養不足で倒れたの。あなた、人間の食事を好むだけで、根本は純粋な魔人だから、主な栄養供給源は人間の血肉なのよ」
「えっ……」
マジ?知らんそんなん……。
いや確かに俺は人外だけどさ。
え?神様モドキさん?
ちょっとそれは聞いてないって言うか。
「……何をそんなに驚いてるのよ。魔人なのだから普通でしょう?」
「……人間とか、食べたことない……」
「……記憶にないだけじゃない?魔人って魔物が人間を食べないと生まれないのよ」
「えっ」
「言ってなかったかしら」
ちょっと待って。
それは知らん知らん知らん情報過ぎる。
え、じゃあなんすか、俺の肉体って人食いってことっすか!?
転生する前の肉体のこととか俺知らねえよ!?
「まあいいわ。ともかく、今後の対策として、エスカにはいつもの食事の他に、輸血パックか何か飲んでもらうから」
「……うそーん」
「ホントよ。今回は私の血を飲ませたけど、そう何度も血を啜られたら流石に私も失血死するわ」
「……ごめんなさい、ありがとう」
「良いわよ別に」
ご主人の血を飲ませてもらったから回復したのか。
なんてことだ、おいは使い魔として恥ずかしか!!
まあそれはさておき。
そうか、俺ってばやっぱりモンスターの類なんだな。
まあ自分から望んでそういう風に転生したわけだが。
うーん、もしかして俺、人間社会で暮らす人外ムーブが難しい!?
いやまあ別にええねんけど。
少なくともご主人が生きてる間は大丈夫だろ。
HAHAHA。
「エスカ、この際だから言っておくわよ」
「ん」
「不調ならちゃんと言ってちょうだい。いざという時倒れられても困るの」
「ん……」
「先輩」
「……それから、あなたは私の使い魔なんだから」
「……んっ!!」
珍しいな、デレたぞ!!
っしゃぁ!!これからも頑張ります!!
なんでぇ、ご主人も可愛いところあるじゃないの~~。
ほら、今日は何が食べたい、言ってみぃ?
いっぱい作ってあげるぜ……!!
「ともかく!一旦安静にしてなさい」
そんな。
今の俺はやる気に満ちているというのに。
具体的には脅威度Aに囲まれても無傷で済みそうなくらい漲っているのに。
「そんなやる気に満ちた顔をしてもだめ。そもそも第一段階はクリアしてるの。第二段階が実行されるまでは待機よ」
「……わかった」
「ああもう、露骨に落ち込まないでちょうだい。あなたは別に戦うことだけしか出来ないわけじゃないでしょう」
「それもそうだった。家事クソ雑魚のセラフとヴェスとは違う」
「ねえ、なんで今言葉で刺したの?今私励ましてたわよね?」
「……?事実」
「もう良い寝ろ!!」
「……ついでのように私も刺されたのですが」
ほげぇ!!
とまあ、時間は過ぎまして。
作戦第二段階実行前。
ふぅむ、困った。
身体が血の味を覚えてしまったのか。
それとも満たされた感覚を覚えてしまったのか。
腹が!減った!!
普通の食事じゃ満たされない!!
さて困った。
普通の輸血パックを飲み干しても思ったより腹は膨れないし。
ただ、たまに貰えるご主人の血はめっちゃ美味いし腹が膨れるんだよな。
もしかして、ご主人の血が異常なまでに栄養価が高すぎるのでは?
俺は訝しんだ。
我慢できないほどではない。
ではない、が……うーむ。
ヘルプが欲しい。
具体的にはこの肉体を作った制作者にヘルプして欲しい。
なんかこう、ない?
頼む、神頼み!!
簡易的に神棚でも作って二礼二拍一礼でもすれば出て来ねーかな。
やるだけやってみるか……迷惑になるから自分の部屋で。
「神様、何とかなりませんか、食事事情……」
そんな事を願ってみると、一枚の紙きれがひらひらと振って来た。
マジかよ、本当に通じたのかよ。
紙切れを読む。
『キミの身体は具体的には人の血肉ではなく、食事に含まれるエネルギー……仮称として魔力と呼ぶけれど、魔力を摂取さえしてしまえば生きていける身体だ。
人でなくとも、魔物を踊り食いすれば十分以上の魔力が得られるはずだよ。
それかもしくは、魔物から採取できる魔心石を粉末にして経口摂取すれば良い。
ちなみに、キミのご主人はその時代のバグを超えたイレギュラー個体なので、魔力含有量はその時代のどんな存在よりも高い。
正真正銘、キミにとって最高級食材だ、大事にしたまえよ』
マジかよ、そういうコトは最初に言ってくれよな。
しかし、魔物の踊り食いか……流石に抵抗あるな。
ご主人に魔心石とやらがどれくらいの値段なのか聞いておこうか。
高かったら踊り食いだな。
はぁ……。
結局、俺が一番食費がかさんでるな。
全く、世話してるつもりで世話になってちゃ意味ねーわ……でも俺美味い飯の方が喰いてーよ。
絶対に美味い飯になるようにしてやる……燃えろ俺の美食魂!!
魔物飯を極めるぞ、おー!!
なお、試しに踊り食いした結果、割と美味かった。
これは調理のし甲斐があるな。
魔物肉のハンバーグとか作ったら美味いかな?
今度試すか。
「エスカ、返り血が酷いわよ」
「次から気を付ける」
「……輸血パックじゃダメだった?」
「膨れない、美味しくない。魔物は割と美味しい、膨れる。ご主人の血が一番だけど、何度も貰うわけにはいかないから」
「……そう」
げ、またディスコミュニケーション!!
おい、神様!ちょっと言動矯正ツールのアップデートお願いできませんか!!
曇った顔は嫌なんです!!
俺は曇らせスキーじゃねえ!!ハピエン厨だぞ俺ぁ!!
「試しに踊り食いしただけ。今度から調理する」
「……一応言うけれど、人間には猛毒だから、魔物の肉は」
「……覚えておく」
マジかよ、これをウマウマと食えるのは俺だけ!?
なんてこったパンナコッタ。
孤独なグルメだぜ……まあ、間違えて出したら困るから一緒に作るのはやめよう、そうしよう。
でもご主人は深刻な顔をやめてくれないな。
そんな悲壮な理由じゃねーのに。
「お腹が空いて、役に立たなかったらダメだから。魔物を食べて万全に整える。それが今の私の仕事」
「……ねえ、エスカ」
「なに」
「どうして、私に尽くしてくれるの?最初は私が無理矢理使い魔にしただけなのに」
なんだ、そんなことか。
「セラフは雑魚。家事全般、生まれたての私に負けるクソ雑魚。しかも最初は辛気臭い顔しかしてない。私がお世話するしかないと思った」
「……なによ、それ」
「さぁ?生まれる前の意識かもしれない。でも、それ以上でもそれ以下でもない。それに、私もセラフがいないと人間の娯楽が得られない。うぃんうぃん」
「……はぁ、色々悩んだ私がばからしいわ」
「なに」
「あなたは私の使い魔で、私の守るべき仲間。それで良いわよもう。これからもよろしく」
「ん」
なんだろうな。
何か悩みに区切りがついたような。
そんな晴れやかな顔だ。
「あ、そうそう、関係ない話になるんだけど」
「ん?」
「エスカもヴェスって呼んでるけど、あの子ちゃんと名前あるわよ」
「そうなんだ」
「カンナ=ギユウ。あなたを拾う前、3年前は、私の座を譲ろうと思っていたの」
え?ヴェスちゃんってそんな強いの!?
ご主人の後釜ができるくらいに!?
しらそん……こわ……。
・カンナ=ギユウ
ヴェスペルベルちゃんの本名。
なんか一定層はどこかで見覚えがある気がする名前なのは気のせいです。
超強い、ご主人の次くらいには強い。
が、魔人化にあたり、今は調整中につき弱体化している。
「なんかしっくりこないんですよね」とのこと。
・エスカ
なんと栄養不足であったことが判明したTS転生人外ロリ。
人外が人間の食事で足りるわけねーだろとは神の言。
良心はあるので仮称魔力が多く含まれる食事なら何でもよい。
一番はご主人の血肉!!は?
エスカちゃんは優しいので魔物食に走った。
・ご主人(セラフ=カルテンコル)
なんだかんだでかめの矢印を向け始めていることに無自覚な最強魔法少女。
自分を持ち直してくれたエスカに対して非情になれない弱点を抱えた。
食費とか気にしないで良いからとか思っている。
なお、魔物を食べ始めたので魔物としての本能が目覚めたのかと勘違いし始めているが別にそんなことはない。
ついでに本能で暴走することもない。
全ては杞憂である。