TS転生人外ロリ、厭世魔法少女の使い魔になる 作:蓋然性生存戦略
これから黒ひげの船全部沈めていこうぜー!!
By windrose海賊と化した作者
魔王を倒してから早ひと月。
まずい。
何がまずいって?
家事に支障が出ている。
まさか本能が理性を上回るとはな……。
魔王との戦いの後、俺はご主人に対して恐怖を覚えるようになった。
頭ではわかっちゃいるが、どうしてもご主人が怖い。
ご主人の力を理解してしまったからこその即離脱ではあったが、理解してしまったからこそ今俺はデバフを受けている。
元素すら崩壊させてただのエネルギーにするとか正気の沙汰じゃないよ。
あんなもの向けられたら俺は生きるのを諦める。
正直に言おう!理性で頑張って抑えてないと俺はご主人を襲っちまう!!
本能がご主人を消せと叫んで仕方ないんだ!!
ざっけんなコラ、俺はご主人のお世話をするんだよ、鎮まれ本能!!
とは意気込むものの、結構つらい。
最近は食事もなかなか喉を通らない。
不調もぽつぽつ確認できている。
ご主人の血をちょっとずつ貰うことで何とか持ちこたえているが、正直そろそろ限界も近い。
本能を抑える理性を保っていられるか。
それが怪しいところだ。
一度出かけて魔物の踊り食い……も、今は難しい。
最寄りのダンジョンこと旧オート禁足地の歪みが消し飛んでしまったので、必然的に遠出する必要がある。
そして俺は使い魔の身なので、遠出するにはちょっと申請書類を用意する必要がある。
確実にご主人にバレるわけだな。
できればそれは避けたい。
が、背に腹は代えられない。
そろそろご主人……に直接は無理なので、ヴェスちゃんを通して相談しておこう……。
うっうっ、おいは恥ずかしか!
本能に打ち勝てぬ使い魔など、必要ない!!チュドーン!!
……などと自分をごまかしている俺の姿は、お笑いだったぜ……。
いやさ、つらいよ、はっきり言って。
ずっと衝動に抗い続けるには、俺の精神はちょっと弱い。
擦り減る毎日だ。
どうしたもんかなあ。
とりあえず、朝の家事は済ませたし、昼まで寝よう。
おふとん〜愛しのおふとん〜。
「エスカちゃん、寝るんですか?」
「ん」
ヴェスちゃんや、帰って来たのかい。
今日は任務だと聞いていたが。
「ここのところ無理してますよね。先輩も心配してましたよ」
「ん……」
それを言われると弱いね。
いやまあ実際無理してるんだが。
流石にもう先送りにはできんか……。
「事情は聞いてますし、私がなんとかできる問題でもありませんが、何かあれば相談してください」
「……明日にでもちょっと遠出して魔物食べてこようかなって」
「分かりました。先輩には話を通しておきます。付き添いは私で良いですか?」
「うん」
「そのように伝えておきます。お大事にしてください」
すまんな、ヴェスちゃんや……。
ご主人の事、俺は好きなんだけどなあ……どうやら肉体は恐怖に勝てないらしい。
ご主人の元を去る方が良いのかもしれんね。
決めたことを投げだすようで心底心外だが、実行力を失っているうえに逆に心配されているようではな。
このままでは悪影響しかないだろうし。
悔しいなあ。
俺ァ弱い。
弱過ぎる。
精神的に年下の二人に負けてる軟弱者だ。
生きてる世界が違ったと言われればそれまでだが、それを言い訳にしたら本格的にダサい。
ので、これ以上ダサい姿は見せないようにクールに去るぜ……。
というわけでお昼寝明けにそのことを伝え、
「エスカ。私の庇護下にない魔人がどうなるか考えたことはある?」
「…………」
無事却下されました。
そうだった、ご主人の圧倒的お暴力があるから俺は許されてるだけだった。
いやでもご主人以外の魔法少女なら対応できるしなんとかならん……?
「安全な寝床すらない状態で生きていける?本当に?そりゃ正面戦闘なら私とヴェス以外に勝てる人間はいないでしょうけれど、あなた相手ならやりようはいくらでもあるわよ。そのうえ魔物も相手にするの?悪いけど、あなたじゃ無理よ」
「うっ……」
ぐうの音も出ない。
そうか、無理か……。
「……エスカなりに考えた末のことだとは分かっているけど、許可できないわ。一応言っておくけど、もう軽く扱えるような存在じゃないの、分かって」
無理とわかって落ち込んでいる俺。
そんな中、ご主人はそんなことを言う。
へいへい、嬉しいけどもう俺は足手纏いだぜ?
「わたし、もう足引っ張るしか出来ないよ……?」
「私はそうは思わない」
「今にも襲い掛かりそうなのを抑えてるんだよ……?」
「知ってる」
「もう自分で制御できるかも分からないんだよ……?」
「何度だって取り戻してあげる」
……勘違いしそうになるだろ、やめろよな。
「そこまでする必要が無い」
「ある。私の大事な使い魔だもの」
「ヴェスがいる」
「大事なものは一つだけじゃない」
「私は都合のいい駒だって」
「最初はね」
……良いのか?
俺はするぞ、勘違いを。
良いんだな?
言っておくが俺は今弱ってるしめんどくさいと思うぞ、本当に良いんだな?
「……一度しか言わないから、よく聞きなさい」
「……」
「私の"使い魔"は生涯でただ一人。エスカ、あなただけよ」
ごめん、ちょっとむり。
感情が抑えられない。
「《
……大変だった。
理性的なストッパーが無いエスカを相手にするのは本当に大変だった。
普段のエスカは理性が働いている分、弱体化していると言ってもいい。
いとも容易く実行される殺意の奔流は、この私を以てして無力化に難儀した。
結果として、少々エスカにけがをさせてしまったが……。
「ん……ぁ……おなか、へった……」
「はいはいあれだけ暴れたものね。私の血でも舐めてて」
「んぅ……」
エスカを抱き上げて、切った指先を彼女の口に突っ込む。
あれだけ震えていた身体は、今は逆に安心しきったように脱力している。
まるで赤子のようだ。
その姿は心配になるほどで、同時に愛おしくもある。
私だけなのだ、エスカを抱えてあげられるのは。
私しか、この子を受け止めてあげられない。
魔人として生を受けながら、人の心を生まれ持ってしまった、力強くも打たれ弱い、矛盾を抱える儚い
お世話されている分、私はエスカの不安を受け止め続けなければならない。
今回はもう、大丈夫だろう。
本能に刻み込めばいいだけの話だ。
私は決して、エスカの命を脅かさないと。
力尽くではあるが、安心させる。
私がエスカにできることは、それだけだ。
きっと、この感情は並々ならぬものに分類されるのだろう。
私はエスカに決して軽くない感情を抱いている。
それが恋慕と呼ばれるものであるかは、まだ判断できないが。
エスカが自らを軽く使うことが、あまり許せない自分がいる自覚がある。
きっとこれからも許せないし、この先も咎め続けるだろう。
すでにどちらが保護者かわかったものではない状態だが、一応後見人みたいな立ち位置にいるのは私だ。
それらしいことは、していかないといけない。
世間の阿呆どもから、私は守らなければ。
差し当たっては、不本意ではあるがエブラナに協力を要請しないといけない。
信頼も信用もしていないが、下心がないのは知っている。
信に足るか否か。
それはこれから次第だ。
携帯端末を起動して、エブラナを呼び出す。
「エブラナ?私だけど」
『《エンドロール》さん?今どこに……?』
「ちょっと荒野にね。思いっきり動ける場所が欲しかったのよ。それはともかくとして、ちょっと手を貸してくれないかしら」
『あなたが、私に……?!うぅ、これは夢でしょうか……!!』
「馬鹿どもが騒いでるのは知ってる。さっさと黙らせて日常を送りたいの。そっちも余計な茶々は面倒くさいでしょう?」
『……はい。現在、《イゼロ》、《異魔特捜研》、《国捜連》、その他機関が事態に動いています。規格外魔人ウロヴォロスの出現および討伐に関しまして、様々な思惑が動いているものかと』
チッ、国捜連まで動いてるのか。
面倒なことこの上ない。
まあ、ウロヴォロスが初めて出現した旧オートスタンピードは、私が住むアセリア以外の国も間接的に参加している。
無関係ではいられないだろう。
少なくとも、圧倒的武力を誇る私は各国にとって目の上のたんこぶだ。
枷をつけておきたいという思惑も動いているに違いない。
馬鹿な奴ら。
私が怯むわけないというのに。
「イゼロの聴取は受けるわ。特捜研は突っぱねて。どうせウロヴォロスのサンプルが欲しいとかでしょ、そんなもの残ってるわけない。国捜連は思惑が判明してから判断する。その他の機関に関しては適宜対応。調整は任せるわ」
『……っ!分かりました、任せてください。その他現場指揮官の不手際も証明しておきます』
「そこまではしなくても……」
『正直に話します。本来ならば、私は協会そのものを見捨てるべきなのでしょう。今回で二度目の致命的な不始末。もはや存続すら危ういですがそれでも私は踏みとどまらなければなりません』
……なぜこいつはそこまでする?
お互いの利になると思って呼び出しただけだというのに。
私は気になった。
「……なぜ?」
『3年前の惨事が起きるのを見過ごしたのは他ならない私です。同じことは繰り返させません。絶対とは言えませんが、しかし出来うる限り抗います。それが私の贖罪ですから』
返されたのは、そんな言葉。
ああ、そうか。
だから私は、エブラナだけは許していたのか。
「……ひとまず、その言葉を信じてみるわ。今まで悪かったわね」
『いえ。あなたの当時を思えば当然のことです、セラフさん』
関係性を修復しよう。
少しずつ、一歩ずつ。
私の幸福を、今一度手にするために。
「さて、何をすればいいか言ってちょうだい。何をすべきかは、あなたが一番よく分かってるでしょう?」
『先導はお任せください。自慢ではありませんが、協会を立て直した実績を証明して見せます』
気がついたらご主人のベッドで寝かされていた件について。
俺もうこれ立派なヒロイン枠だろもう!!
どっちが保護者かわかんねーなおい!!
そうか、俺大事にされてんだな。
あんだけ暴れたのに腹パン一発だ。
ジクジクする……でももう痛くない……!
何をどうやってもご主人には勝てない。
その事実が本能も再確認できた以上、余計なことはしなくなった。
不意打ちなら勝てるとか思ってたお前の姿は、お笑いだったぜ。
全部止められましたが何か。
なんなら移動以外《終極天》使われてないが。
舐めプですよこれは!!
一周回って服従のポーズ。
ガス欠でご主人に抱っこされて指舐めてたバブちゃんだーれだ!
俺!俺俺俺ェ!!
でももういいかと思ってしまう俺がいる。
ご主人、責任とって♡
家で色々作って待ってるからさ……!
「起きましたか、エスカちゃん。調子はどうですか?」
「万全」
「とてもそうは見えませんが」
「気持ちは絶好調」
「無理はしないようにお願いしますね。先輩の悲しい顔なんて見たくないですから」
「分かってる」
とりあえず誕生日も近かったよな、誕生日ケーキの下準備から始めようか……!
とか思ってました。
ご主人が音信不通になるまでは。
「セラフ……帰ってきて……」
「先輩のことなので大丈夫だとは思いますが」
「おいてかないで……」
「エスカちゃんも大概矢印デカいですよね。無自覚なだけで」
情緒こわれる。
・音信不通ご主人
とりあえず無事、連絡が取れないだけ。
ただしエスカちゃんの情緒は壊れるものとする。
・ヴェス
先輩単体なら大丈夫でしょって思ってる。
分厚い信頼がそこにはある。
それはそれとして何やってんの馬鹿先輩って思ってる。
・エスカ
お察しではあったが割と依存しがち。
大事にされてるとわかると露骨にめんどくさいやつになる。
まだライク、行きすぎただけのライク。
・色々探りを入れてくる機関
大まか「エンドロール邪魔くせえ」と「ウロヴォロス研究させて!」と「ちょっと被害がデカすぎるんやないけ?」と「隠滅隠滅!証拠隠滅!!」の四つに分かれてる。
最大勢力は「エンドロール邪魔くせえ」だが「研究させて!」と「被害デカすぎ」の勢いにちょっと負けてる。
最後の方々は今滅殺されてるとこ。