勝利の女神:NIKKE 時空を超えた鬼神は何を成す 作:イオハ
コラボイベントと異なり、GE側の成り行きも後日投稿します。
短いですが、お楽しみください。
地上を彷徨う複数の人影があった。
量産型ニケの小隊だ。指揮官を含め六人。
損傷は皆無。出撃したばかりなのだろう。
それでも――
彼女たちの表情は芳しくなかった。
「指揮官急いでください!あと少しで身を隠せるエリアに到着します!」
「急いでいる!だが私は生身の人間だから君たちよりもパフォ-マンスが低いんだ!」
よく見ると彼女たちは急いで移動しているようだ。そのあとを追いかけるように大きめの砂ぼこりが彼女たちに迫っている。
その正体は――
「どうしてこのような場所にロード級ラプチャーが複数体群れているのでしょうか!?」
「知らん!泣き言を言う余裕があるなら足を動かすか、私を抱えて移動してくれると移動効率が上がると思うのだが!」
「抱えることは可能ですが、即時対応できる人員が減るので推奨されません!自力で走ってください!」
「指揮官!救援要請は!?」
「先ほど出したが、アークとの距離を考えるとどれだけ早くてもあと30分以上はかかる!」
彼我の戦力差は明らか。迎撃する選択肢を取ることができず撤退しつつ身を隠す場所を探しているようだ。
量産型ニケ5名が指揮官を囲うような陣形を維持しつつ、猛然と追走してくるラプチャーから可能な限り離れようとしている。
「10時方向に見える廃墟エリアで隠れるのはどうだ!?」
「あのエリアは規模がそこまで大きくありません!仮に身を潜めた場合、ロード級ラプチャーが複数体いるあの集団にはすぐ見つかってしまいます!」
「ならばあのエリアに潜まず、デコイを配置しながら通り抜けるのはどうだ!?」
「それなら有効かと思います!」
この危機的状況でも諦めずに策を練り、意思疎通をこなせているのはやはり彼が優秀な指揮官ということの証明なのだろう。
その策を瞬時に理解し即座に行動へ移れる彼女たちも、量産型とはいえ少なからず場数を踏んできた熟練のニケである。
エリアに侵入すると同時に3名のニケが散開し、互いに近すぎず離れすぎずの位置にデコイを配置していく。
残った2名のニケと指揮官はデコイを撒く彼女たちの邪魔にならないように、しかしすぐに合流できる位置取りをしつつ廃墟エリアを進む。
不幸中の幸いとして、廃墟エリアにラプチャーは存在しなかった。
そのおかげで彼女たちのデコイ配置がスムーズに完了し、速やかに合流した。
ほどなくして廃墟エリアを通過したニケ小隊。
ラプチャー群の進行は廃墟エリアに入って途端、目論見通り止まった。
しかし撒くまではいかず、間もなく追従を再開した。
「有効ではありましたが、やはりといいますか……一時凌ぎにしかなりませんでした!」
「十分だ!先ほどアークから合流地点の位置情報が送られてきた。距離にして約5キロ。」
「ラプチャーに追いつかれる前に合流地点に到着は可能です!ですが、合流地点に救援部隊が到着しているかは定かではありません!」
「仮に私たちが先に到着したとしても、合流地点で迎撃している間に救援が間に合うのを祈るしかない。0だった希望が1に変わったんだ。……気張るぞ!」
『了解!』
約5キロの距離を走破し合流地点にたどり着いたが、まだ救援部隊は到着していなかった。
それでも慌てずに周辺に散らばっている鉄骨などの廃材を組み合わせ、簡易的な遮蔽物を作成しラプチャーを迎撃する体制を整える。
しかし数的にも敵のランク的にも勝てない。できるだけ近づかせないようにし、救援が到着するまで凌ぐしかない。
懸念点はいくらでもある。ラプチャーの増援、救援部隊が別のラプチャー群と遭遇し到着が遅れる、もしくは全滅する可能性だってある。
しかしここで耐える以外に選択肢がないのも事実。たとえ可能性が低いとはいえゼロではないのだ。それに賭ける以外に方法はない。
ラプチャーの群れが、彼らを蹂躙せんと機械の駆動音を響かせながら近づいてくる。
ニケと指揮官による悲壮なる覚悟の元、決死の防衛線が幕を開けた。
―――――
「指揮官!戦闘が始まって既に30分経過しています!救援はまだなのでしょうか!?」
「援護射撃がないということはまだ来ていないということだ!」
「言い回しに余裕を感じるのは気のせいでしょうか!?こちらの残弾は2割を切りかけております!これ以上の戦闘は厳しいです!」
「指揮官の私が悲壮感を漂わせていたら君たちの士気が下がるだろう?救援の方は間に合うのを信じるしかない!もう少し耐えてくれ!」
ラプチャーの規模を考えれば通常10分も維持できない戦力にもかかわらず、辛うじて戦線を維持できているのは、指揮官の指揮能力と量産型ニケの汎用性の高さによる立ち回りの上手さと彼女たちの熟練度、そしてラプチャーの増援が来なかったことに起因する。
しかしどれだけ指揮が良くても、どれだけ立ち回りが上手く互いをカバーしあうことができても、相手との性能差が大きすぎる故に撃破できない個体がどうしても出てくる。
複数体いたロード級の内1機を迎撃初手で幸運にも破壊に成功したものの、他の個体群は仕留めきれず膠着状態に移行した。
下位個体は撃破しているものの、肝心のロード級は火力不足で撃破できず、じわじわと劣勢に陥っていた。
「指揮官!足止めも限界です!弾薬もですが、損耗が激しくこれ以上の戦闘は……っ!」
「諦めるな!死ぬ一歩手前まで足掻き続けるんだ!」
弾薬が底をつきかけ、ニケたちは互いにカバーをするために移動を繰り替えしていたのが災いし、脚部の被弾や過負荷による不調が出ていて動くことが困難な状態だった。
指揮官もここまでの移動で体力を消耗しているうえに防衛線の指揮による肉体的精神的疲労が限界に達そうとしている。
それでも諦めない。
自分たちの死が確定するその瞬間まで、彼らは今できる最善を尽くし続けていた。
―――――
「……指揮官。残弾ゼロです。私たちが足止めしますので、アークへ逃げてください。」
「無理だな。ボロボロの君たちでは足止めにもならない。仮にここから離れることができたとしても無事にアークにたどり着く可能性はゼロだ。救援部隊は影も形もない……ここまでだな。」
弾薬が尽き、装備も半壊し満身創痍なニケたち。
傷こそないものの、限界まで指揮し肉体も精神も限界で動くことも厳しい指揮官。
対してラプチャーは武装の損傷や関節部の一部破損などはあるものの、ロード級は最初に撃破した一体以外は健在。
下位階級のラプチャーも数こそは減っているが、まだ存在している。
「お前たちだけでも逃げれるのなら逃げろ。」
「……私たちも脚部ユニットが破損していて高速移動は不可能です。それに…」
「それに?」
「指揮官を見捨てた臆病者になるつもりはありません。最後までお供します。」
ニケたち全員が頷いている。指揮官と彼女たちの絆の深さがうかがえる。
指揮官は疲れた顔で、好きにしろ。とつぶやき、壊れかけた遮蔽物に背中を預け、空を仰ぎ目を瞑る。
自分たちの命を刈り取らんと、機械の死神たちがゆっくり近づいてくる。
(近づいてくる速度が遅いな…罠を警戒しているのか?奴らにそんな知性なんてあったか?)
(それとも、こちらの抵抗がなくなったからじわじわと嬲り殺そうってか?趣味が悪いぜ……。)
疲労の限界でまともな思考が頭を回らず、ぼんやりと物思いに耽り自らの死を待っている……。
「指揮官……」
ニケたちの指揮官の身を案じるか細い言葉。体力の限界もあり、指揮官は彼女たちの言葉を最後に意識を手放しかけていた。
――ガキィインッ!
一瞬の静寂を破るかのように金属に何かが激しくぶつかる音が聞こえた。
音の大きさに失いかけていた意識が戻ってくる。
「……なんの音だ?」
「――し、指揮官……ロード級ラプチャーに穴が。」
「……なんだって?」
動くのも億劫な身体に活を入れ、遮蔽物越しにラプチャーのいる方向を確認すると。
そこには動かなくなったロード級ラプチャーの骸が一つ転がっていた。
よく見るとコアが破壊されている。
「援軍か?」
「い、いえ。周囲に人影は見当たりません。レーダーを確認したのですが、そちらも反応ありません。」
「レーダーの作的範囲は?」
「エブラ粒子の濃度から、およそ半径2キロです。」
いったい何が…そうやり取りをしている時、会話をしていたニケが咄嗟に耳元に手を当てた。
「……指揮官、わずかですが銃声のような音がしました。」
「銃声?まさか……っ!?」
狼狽えながらも、指揮官が結論を口にしようとした瞬間。
――ガキィンガキィンガキィンガキィンッ!
先ほどと同じような衝突音が4連続で響く。
指揮官たちが状況を確認すると、残っていたロード級ラプチャーのコアがすべて撃ち抜かれていた。
「馬鹿な……たった一撃でだと……っ!?」
「指揮官!ロード級ラプチャーを失った小型ラプチャーたちが退いていきます!」
指揮系統を失ったラプチャーたちは蜘蛛の子を散らすかの如く逃げて行った。
「……どうやら助かったみたいだな。」
「そのようですね……。指揮官。先ほどの衝突音から遅れるように、銃声のような音が確認されました。時間にして約8秒ほどのズレです。」
「なんて距離から狙撃してやがる……。」
約8秒の時間差での銃声となると、最低でも2.5キロは離れている。
しかし今のこの気温に風向きで開けた場所なら最長2.9キロ、約3キロ離れた位置からの狙撃となる。
「私たちでもそこまで距離の離れた対象に命中はできません。ましてや不規則に動く対象のコアを連続で撃ち抜くなんて……。」
そう。このような超長距離精密射撃が可能なのは特化型の中でもさらに上澄みの存在。アブソルートのような超エリートニケにしか不可能だろう。
「味方なら既に通信が来ているはずだ。敵なら私たちはすでに死んでいる。」
「つまり、指揮官はラプチャーでもアークでもない、第三者による攻撃だと?」
「それ以外考えつかないだろう。うわさに聞くピルグリムの可能性は大いにある。だとしたらこちらに接触はしてこないだろう。」
「了解しました。では今のうちに可能な限りの応急処置を行い、移動可能になり次第デコイを散布してまいります。」
「頼んだ。」
こうして、とあるニケ小隊と指揮官は生き延びた。救援部隊が来たのは応急処置を終え、デコイの散布が終わりこの後をどうするかを考えるころになってからだった。
――――――
場所は変わり副指令室。アンダーソンはシフティーから当該作戦の報告を受けていた。
「救援部隊が到着する前に、謎の人物による超長距離射撃により部隊は生存。か……。」
「はい。救援部隊が到着したころにはすべてが終わった後のようでした。聴取を行った結果、当該指揮官はピルグリムによる援護射撃以外考えられない。と。」
「ふむ……。」
アンダーソンもピルグリムによる援護射撃以外考えられないとは考えているものの、ほとんど接触してこなかった者たちが間接的にとはいえこのような真似をするのか疑問が思考を妨げる。
(他に可能性があるとすれば……まさか。)
「シフティー君。合流地点周辺のデータを確認できないか?できれば当該作戦時間のものがいい。」
「少々お待ちください……。確認できました。エブラ粒子の影響が少なからずあるものの、これといって目立った数値異常は見当たりません。データを送信いたしましょうか?」
「頼む。」
送られてきたデータを精査していく。
すると、とあるデータの数値に僅かながら変化があるのが確認できた。
「やはりか……。シフティー君。至急、カウンターズを招集してくれ。」
「了解しました。15分後に到着予定で招集いたします。」
通信が終了し、アンダーソンは椅子に腰かける。
デスクに置かれたタブレットには、D-WAVEの数値が平均値から逸脱した値が表示されていた。
「ロード級ラプチャーを一撃で、しかも遠距離で正確に撃破する戦闘力の高さ……。」
アンダーソンはため息をつく。
今回の来訪者はいったいどんな世界の住人なのか。
カウンターズが到着する短い間ではあるが、彼は思考の海へと旅立った。