ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
こちらは、前作の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア』の続編となります。
こちらでは、現在放送中のゴーストコンサートのアニメ版を元にしながらも、吠がこの世界の戦士であるユニバースライダー達と戦いを繰り広げます。
また、活動報告にて、新たな募集も行っていますので、皆様の応募、お待ちしています
こちらで募集を行っています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=338911&uid=45956
日差しが、やけに重かった。
頭のてっぺんから押さえつけられてるみたいで、歩くたびに熱がじわじわ身体の奥へ沈んでいく。シャツの背中はもうとっくに張りついていて、襟元から入る風もぬるい。
「……暑っ」
思わず漏れた声は、情けないくらい乾いていた。
スマホを見れば、面接までまだ少しある。急げない距離じゃない。だが、このまま歩き続けたら先にこっちが潰れる気がした。
「ちょっとだけ……休むか」
道の脇にあった小さな公園へ入る。遊具は少ない。昼間だからか、人の姿もほとんどない。蝉の声だけが、無駄に元気だった。
空いていたベンチに腰を下ろした瞬間、脚から力が抜けた。
「はぁ……」
熱い。
とにかく熱い。
空気も、地面も、息も、全部が熱を持っていて、逃げ場がない。自販機でも探すべきだったかとぼんやり考える。でも立ち上がる気力が出ない。
額を手の甲で拭って、空を見た。
白い。
夏の空ってこんなに白かったか、と思う。
「……熱いな」
独り言みたいに呟いた、その時だった。
ぞわ、と。
背中を細い氷の指でなぞられたみたいな感覚が走った。
「……っ?」
熱さとは別の、妙な冷たさ。
耳鳴りとも違う。眩暈とも違う。けど、身体の内側だけが急に何かおかしくなったみたいで、視界がぐらりと揺れた。
「なんだ、これ……」
立とうとした。無理だった。
ベンチの端を掴んだ指に力が入らない。景色の輪郭が溶ける。公園の緑も、空の白さも、全部が一度に遠のいた。
「おい、待て……」
誰に言ったのかも分からないまま、俺の身体はそのまま前に倒れた。
「……っ」
目を開けた瞬間、喉の奥が焼けつくみたいに渇いていた。
地面じゃない。どうやらベンチの上で寝転がっていたらしい。身体を起こすと、頭がずきりと痛んだ。
「最悪……」
反射的にそう呟いて、鞄を探る。入れておいたペットボトルが指に触れた時だけ、少し安心した。
蓋を開けて、一気に流し込む。
ぬるい。けど、今はそれでも十分だった。
「……熱中症かよ」
そうとしか思えなかった。
実際、暑かった。倒れるだけの理由はあった。少し休んで、水を飲んで、まだふらつく頭を押さえれば、それで説明がつく――はずだった。
なのに。
「……何だ?」
顔を上げた瞬間、胸の奥に小さな引っかかりが残った。
公園は、同じだ。ベンチもある。木もある。柵もある。何かが劇的に変わってるわけじゃない。
けど、空気が違う。
いや、空気っていうより、景色のつながり方がおかしい。
「気のせい、か……?」
自分に言い聞かせるみたいに立ち上がる。
足元は少し重い。でも歩けないほどじゃない。だったら、とりあえず人のいる方へ出た方が早い。ここで一人で首を傾げてても、どうにもならない。
「……行くか」
公園を出る。
その先で、違和感は一気に輪郭を持った。
走っていく車が、まず違った。
「……は?」
音が妙に静かだ。見た目も、知ってる車よりどこか洗練されすぎている。角の丸みも、光の反射の仕方も、全部が少しずつ未来寄りで、なのに現実感だけはやけにある。
「何だよ、あれ」
通りを見回す。
店の看板が薄く発光している。ガラス越しに見える端末も、街灯も、信号脇の表示も、見たことのない形をしていた。大げさなSFみたいに派手じゃない。だから余計に気味が悪い。普通の顔をして、知ってる街並みから一歩だけ先へ進んでいる。
「……冗談だろ」
歩いていく人たちの手元に視線がいった。
何人もが、手首を軽くかざして何かを確認している。店先でも、改札みたいな場所でも、いちいち財布を出していない。腕に何かつけてるのかと思ったが、遠目じゃよく見えない。
知らない。
けど、向こうはそれを当たり前に使ってる。
その当たり前の中に、俺だけが入れていない感じがした。
「……またかよ」
気づけば、そう口に出していた。
昔、知らない世界に迷い込んだ時も、最初はこんなだった。何が違うのか分からないまま、当たり前だけが噛み合わなくて、気づいた時には一人だけ取り残されてる。
あの時より、まだ静かだ。
だからこそ、嫌だった。
「落ち着け」
自分で言う。
「まだ、そうと決まったわけじゃねえ」
言いながら、半分はもう分かっていた。
これは単なる寝起きの眩暈じゃない。熱で頭が回ってないだけでもない。目の前にあるもの一つ一つが、少しずつ自分の知ってる世界からずれている。
しかも、そのずれ方が嫌に自然だ。
「……腹減った」
だからこそ、先に出たのはそんな言葉だった。
笑えてくる。
世界が違うかもしれないって時に、最初に気にするのが空腹かよ、と。
けど空腹は嘘をつかない。胃は容赦なく現実を突きつけてくる。
「とりあえず、何か食わねえと」
そう呟いて、俺は通りの先へ目を向けた。
少し離れた場所で、湯気が上がっていた。小さな露店らしい影が見える。
香ばしい匂いが、熱気の中をまっすぐ流れてくる。
「……あれなら」
足が、そっちへ向いた。
腹が鳴った。
さっき飲んだ水で喉の渇きは少しだけましになったが、空っぽの胃までは誤魔化せない。熱気を孕んだ風が頬を撫でていく。見上げれば、見慣れない形の看板が光っていて、その下に小さな露店が出ていた。
並んでいるのは串に刺さった焼き物らしい。湯気と香ばしい匂いが、空腹をまっすぐ殴ってきた。
「……安い、のか?」
値札らしい表示を見ても、数字の横についている記号に見覚えがない。だが、店の作りも屋台の規模も大きくない。少なくとも高級店って感じじゃなかった。
俺は露店に寄って、適当に一つを指さした。
「これ、くれ」
店員は愛想よく頷いた。何かを端末に打ち込んで、それから当然みたいな顔で手元を示す。
「キャブレでお願いします。MiucSウォレットでも――」
「……は?」
聞き返すと、店員は一瞬きょとんとしてから、今度はもう少しゆっくり言った。
「お支払いです。キャブレか、ウォレット認証を」
意味が分からねえ。
いや、言葉そのものは分かる。だが、肝心の単語が頭に入ってこない。キャブレ? ウォレット認証? 何だそれ。
俺は黙ってポケットに手を突っ込み、小銭を数枚出して見せた。
「これでいいだろ」
店員の顔が固まった。
「……え」
それから、出した硬貨と俺の顔を交互に見る。
「いや、えっと……それ、何ですか?」
「何ですか、って金だろ」
「いや、現物通貨……? え、本物? いやでも、使えませんよ? ここ、登録決済じゃないと――」
また知らねえ単語が増えた。
店員は困ったように笑っているだけで、こっちの腹も状況もどうにもならない。周りを見れば、通りすがりの奴らはみんな手首を軽くかざして、当たり前みたいに買い物を済ませていく。
それが余計に苛ついた。
昔も、こんな感じだった。
知らねえ場所で、知らねえ仕組みの中に放り込まれて、こっちだけが取り残される感覚。あの時ほどじゃない。あれに比べりゃ、まだ全然ましだ。だからこそ、ここで怒鳴るのは違うって分かってる。
分かってるけど、腹は減るし、頭はまだ重いし、目の前で話が通じねえのは普通にいらつく。
「……もういい」
小銭を握り直して背を向けると、店員が慌てた声で何か言った。たぶん呼び止めたんだろうが、無視した。
熱い。
風も、地面も、人の気配も、全部がじっとり肌にまとわりつく。
「ったく……何なんだよ、この街」
吐き捨てるみたいに呟いた時だった。
「あの」
すぐ後ろから、女の声がした。
振り向く。
そこに立っていたのは、同じくらいの年頃の少女だった。買ったばかりらしい紙包みを両手で持って、少しだけ遠慮がちにこっちを見ている。
その顔を見た瞬間、胸の奥が小さく跳ねた。
ほんの一瞬だけだ。
目元の柔らかさか、こっちを見上げる時の空気か。理由は分からない。ただ、幼馴染みの顔が脳裏を掠めた。
似てる。
いや、違う。全然別人だ。
なのに、面影だけが変に引っかかった。
「……何だよ」
思ったより刺々しい声になった。
少女は少し肩を揺らしたが、それでも引かなかった。
「これ。よかったら、食べる?」
差し出されたのは、さっき俺が買おうとしたのと同じ串だった。
俺は思わず眉をひそめる。
「何で俺に」
「困ってるみたいだったから」
「それだけで?」
「……それだけじゃ、駄目?」
言い返しかけて、止まった。
押しつけがましくない。善意を振りかざしてる感じでもない。ただ本当に、見かねて声をかけてきたらしい。
余計に調子が狂う。
「変なもん入ってねえだろうな」
「入ってないよ」
「即答かよ」
「私も食べてるし」
そう言って、少女は自分の分の串を少し持ち上げて見せた。確かに、もう一口かじってある。
俺は包みと少女の顔を見比べた。
腹は減っている。警戒はしている。けど、このまま突っぱねるほど意地を張る理由もない。
「……いいのかよ」
「うん」
「じゃあ、貰う」
受け取ると、指先にまだ熱が残っていた。
一口かじる。表面は香ばしく、中は思ったより柔らかい。塩気が舌に広がって、その瞬間、ようやく少しだけ人心地ついた。
「……美味い」
ぼそっと零すと、少女はほっとしたように笑った。
「よかった」
その笑い方まで少しだけ似て見えて、俺は妙に落ち着かなくなる。
気まずさを誤魔化すように、俺は串を持ったまま訊いた。
「お前、この辺の奴か」
「うん。そうだけど」
「さっきの店の話、分かるのか」
「キャブレとかMiucSのこと?」
「……それだよ。その辺の単語が、さっぱり分かんねえ」
言うと、少女は目を丸くした。
「え、じゃあ……本当にこの街の人じゃないんだ」
「そう見えるか?」
「うん、かなり」
「だろうな」
否定する気にもなれなかった。
少女は少し迷うように視線を泳がせて、それから小さく頭を下げた。
「私は、相葉芹亜」
「……遠野吠」
「遠野、吠……」
名前を確かめるみたいに繰り返してから、芹亜はまたこっちを見た。
「吠くん、でいい?」
「勝手にしろ」
「じゃあ、吠くん。ほんとに大丈夫?」
大丈夫じゃない。
知らねえ街で、知らねえ仕組みに囲まれて、腹一つまともに満たせない。そういう意味では最悪に近い。
けど、それをそのまま口に出すのも何か違った。
俺は串の最後を飲み込んで、短く息を吐く。
「……借りが出来たな」
「え?」
「今度、返す」
芹亜はきょとんとして、それから少しだけ困ったように笑った。
「そんな大げさなことじゃないよ」
「俺にとっちゃ、そうでもない」
言ってから、自分でも少し意外だった。
でも嘘じゃなかった。
この街に来てから、何も分からないまま立っていた俺にとって、差し出された一本の串は、思っていたよりずっと重かった。
芹亜が小さく笑った、その直後だった。
鼻の奥に、ぴり、と細い刺激が走る。
焦げた臭いとは違う。もっと乾いていて、削れた金属の粉を熱いまま吸い込んだみたいな、硬い匂いだった。
「……火花」
呟いた瞬間、背中の奥が先に反応した。
こういう匂いは知っている。ただ何かが燃えた時のものじゃない。力と力がぶつかって、金属が擦れて、殺気まで混ざった時に生まれる、戦いの匂いだ。前の世界で嫌というほど覚えさせられたせいで、考えるより先に身体がそれを拾ってしまう。
俺は弾かれるように顔を上げた。
「どうしたの?」
芹亜が怪訝そうに問いかけてくる。けれど説明している暇はなかった。匂いはもう薄くない。近い。放っておけば面倒なことになる、そんな嫌な確信だけが先に立つ。
「悪い、借りはまた今度返す」
「え、ちょっと――」
制止の声を背中で聞きながら、俺はその場を蹴った。通りを駆け、角を曲がり、細い道へ滑り込むたびに匂いは濃くなる。熱を帯びた空気が奥から流れてきて、鼻先を刺した。
そこで、甲高い金属音が鳴った。
反射的に足を止める。壁際へ身体を寄せ、音のした方へ視線を向けた次の瞬間、路地裏の奥で火花が爆ぜた。
「――っ」
先に目に入ったのは、ぶつかり合う二つの刃だった。
片方は幅が広く、どこか生き物の牙みたいに見える。もう片方は細く鋭く、無駄をそぎ落とした光の刃みたいだった。真正面から噛み合ったそれらの間で、白い火花が散る。さっき嗅いだ匂いの正体は、まさにこれだった。
その刃を握る二人のライダーは、見た目からして真逆だった。
一人は、鮮やかすぎるほど色の乗った装甲をまとっている。つやのある表面は菓子みたいでもあり、妙に生々しくもあった。腹の辺りには口を思わせる意匠が見えて、どこか人間離れした不気味さがある。
もう一人は逆だ。暗いスーツの上を赤い光が走っていて、輪郭まで人工的に見える。逆手に構えた剣も含めて、全身がやけに冷たく見えた。
けれど、そこまで違うのに、腰だけは同じだった。
「……ベルト」
時計盤みたいな中央部。そこから左右へ広がる重たい枠。脇には小さな時計のようなものが、機構の中へ半ば埋まるように収まっている。見た目も規格も、そこだけぴたりと揃っていた。
押し合ったまま火花を散らし続ける二人のうち、色鮮やかな方が先に口を開いた。
「へえ、やっぱり面白いね。君のそれ、予想以上だ」
声音は軽い。軽いくせに、聞いていて背筋が冷える。楽しんでいるのが分かるからだ。
赤い光を走らせた方は、刃を押し返しながら鼻で笑った。
「気色悪いな。御託はいい、さっさと寄越せ」
「嫌だよ。欲しいものは手元に置きたいだろ?」
「俺もだ」
そこで一気に力がぶつかった。
路地裏の空気が張り詰める。どちらかが完全に押しているわけじゃない。拮抗している。それでも、ただの力比べじゃないことだけは見ていて分かった。片方は面白がって奪おうとしていて、片方は渡す気なんて微塵もなく、奪われるくらいなら切り捨てるつもりでいる。
嫌な戦いだった。
次の瞬間、二人は同時に刃を弾いて後ろへ飛ぶ。靴底が地面を擦る音が、狭い路地に鋭く響いた。
短く空いた間の中で、互いに腰へ手が伸びる。
ベルトに収まっていた時計型の装置、その上のボタンが押された。
『ガヴ!』
『ファイズ!』
低い音声が、壁に反響する。
「……ガヴ。ファイズ」
思わず口の中で繰り返した。
あいつらの名前か、少なくともそう呼ばれているらしい。正体までは分からない。けれど仮に呼ぶなら、それで十分だった。
その時だ。
鮮やかな方の頭が、ふっとこちらを向いた。
遅れて、赤い光を走らせた方も同じ角度で止まる。
胸の奥が冷える。
見つかった。
「見物客か」
鮮やかな方が、面白そうに言う。
「面倒だな」
赤い方は短く吐き捨てた。
「うん、面倒だ」
軽く頷くその様子に、ぞっとする。互いを殺し合いそうな空気だったくせに、そこだけ妙に息が合っていた。
二人の視線が、まっすぐ俺へ突き刺さる。
さっきまで互いに向けていた殺気が、一瞬でこちらへ流れてきた。向きが変わっただけで、重さはまるで減っていない。
鮮やかな方が手の中の刃を軽く振り、残った火花を払った。
「どうする?」
「決まってる」
赤い方が逆手のまま刃を構え直す。赤い光が路地裏の闇に浮いて、ひどく冷たく見えた。
「見られた以上、帰す理由がない」
冗談じゃない。そう思った時には、俺ももう壁から背を離していた。
「……やっぱ、そうなるかよ」