ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
サウザーは、ゆっくりとサウザンドジャッカーを持ち上げた。てっきり俺に斬りかかってくるかと思いきや、奴はその槍を、逆手に持ち替え、勢いよく地面に突き立てたのだ。
ガキィンッ!
鈍い金属音が、店内にこだました。瞬間、槍の穂先から黒い靄が噴き出し、床を這うように広がっていく。それは、さっきまで奴の背後に揺らめいていた怨霊の一部だ。
「なんだ…?」
俺は一歩後退した。黒い靄は、床を伝ってテーブルや椅子に絡みつき、やがて店内のあらゆる物体に浸透していく。
「これは…ポルターガイスト現象…!」
芹亜が、息を呑む声が聞こえた。
「違う。もっと悪質だ」
竜儀が、低く唸るように言った。
「あの怨霊の魂の一部を、器物に憑依させている。奴は今、この空間そのものを掌握したのだ」
次の瞬間、俺の目の前のテーブルが、ひとりでに浮き上がった。
「うおっ!?」
間一髪、身をかわす。テーブルは俺が立っていた場所をかすめ、壁に激突して木っ端微塵に砕け散った。さらに、椅子が四方八方から飛んでくる。厨房からは包丁が、棚からは皿が、まるで見えない手に操られているかのように、一斉に俺たち目がけて殺到した。
「ちっ…!」
俺はテガソードを抜き放ち、飛来する皿を叩き割る。
「ぐっ…! このままでは埒が明かぬ!」
「芹亜、伏せてろ!」
俺は、芹亜を庇うように前に立ち、飛んでくる物体を片っ端から斬り落とす。包丁、皿、箸、調味料の瓶。それらすべてが、殺意を持った凶器と化していた。
サウザーは、槍を地面に突き立てたまま、微動だにしない。ただ、その紫色の複眼が、冷たく俺たちを見下ろしている。
「どうした。これしきのことで音を上げるか」
奴の声には、嘲笑が混じっていた。
「この空間にある全ての物は、俺の支配下にある。逃げ場も隠れ場もない」
青木が、店内に満ちる怨霊の靄を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「これは…私の能力と、似ているわね」
その声は、いつもの柔らかな微笑みを浮かべたままだったが、その目だけは真剣だった。彼女の指先が、そっと宙を撫でる。すると、飛び交う皿や包丁の一部が、一瞬だけ動きを止めた。いや、正確には、彼女が自分の支配下に置こうとしたのだ。従属霊を植物状に変える、あの能力で。
「でも、これは…」
凛空の眉が、わずかにひそめられる。
「まさか、これほどの怨念を、器物にまで浸透させるなんて。私の霊よりも、ずっとしつこいわね」
彼女の周囲で、蔓状の霊が伸びかけたが、サウザーの放つ怨霊の靄はそれよりも強く、支配権を奪い返そうとする。二つの霊が、見えない綱引きをしているかのようだった。
その時だった。
「遠野」
竜儀が、一歩前に出た。その大柄な身体が、俺と芹亜、そして凛空の前に立ち塞がる。
「お前はそのお嬢さん達を護っておけ」
「なに?」
俺は思わず、怪訝な顔をした。こいつが俺に指図するだと? いつもはテガソードへの信仰だの奉仕だの、そんなことばかり口にしているくせに。
「今回は、お前が後ろで見ていた方が良さそうだ」
竜儀は、振り返らずに続けた。その声は、いつもの落ち着き払った調子だったが、どこか有無を言わせぬ響きがあった。
「奴の能力は、器物への憑依。接近戦を得意とするお前では、周囲の物体すべてを敵に回すことになる。それよりも、霊的な感応力を持つ者たちを護る方が、お前の役目だ」
俺は舌打ちした。頭では理解できる。サウザーの能力は、さっきの怨霊の軍勢とは違う。単純に斬りかかって倒せる相手じゃない。だが、それでも、仲間に前を任せて後ろに下がるのは、俺の性分に反する。
「…ちっ」
俺は、テガソードを鞘に収めた。
「しくじるなよ、竜儀」
その言葉に、竜儀は振り返って、ほんの少しだけ口元を緩ませた。あの無表情の男が、笑ったのだ。
「無論だ」
竜儀は、テガソードを掲げ、センタイリングを装填する。
「エンゲージ」
『クラップユアハンズ! ゴジュウティラノ!』
重厚な変身音と共に、竜儀の全身が装甲に包まれる。巨体がさらに巨大に、まるで恐竜のような威圧感を放つ戦士――ゴジュウティラノが、そこに立っていた。
「テガソード様に代わり」
名乗りを上げた竜儀は、ティラノハンマー50を召喚する。巨大な顎のような形状の重武器が、彼の手の中で鈍く輝いた。
「貴様の支配する空間ごと、叩き潰す」
サウザーが、初めて動いた。槍を地面から引き抜き、竜儀に向けて構え直す。
「面白い。その信仰心とやらが、どこまで通用するか、見せてもらおう」
サウザーが、サウザンドジャッカーを振りかざした。それに呼応するように、店内のありとあらゆる物体が、再び浮き上がる。テーブル、椅子、厨房から飛び出した包丁の数々、棚から落ちた皿の破片。それらすべてが、ゴジュウティラノ目がけて一斉に殺到した。
「竜儀!」
俺は思わず叫んでいた。全方位からの攻撃だ。いくら奴が頑丈でも、これだけの物量をまともに食らえば――。
だが、ゴジュウティラノは微動だにしなかった。
「ふん」
彼は、ティラノハンマー50を両手で握りしめ、ゆっくりと振りかぶる。その動作には、一切の迷いがない。まるで、これから行うことが唯一の正解だと確信しているかのように。
「テガソード様の御力を、見せてやろう」
次の瞬間、ゴジュウティラノはハンマーを、思い切り地面に叩きつけた。
ドゴォンッ!
耳をつんざく轟音。同時に、衝撃波が円形に広がり、床のタイルをめくり上げながら四方へと奔る。その衝撃は、迫り来る物体の群れを、まとめて粉々に粉砕した。テーブルも椅子も包丁も、すべてが木っ端微塵となって宙を舞い、やがて雨のように降り注ぐ。
「なに…!?」
サウザーが、初めて動揺の声を上げた。無理もない。空間を支配していたはずの物体が、衝撃波一つで無力化されたのだ。
「まだだ」
ゴジュウティラノは、そのままティラノハンマー50を、サウザー目がけて投げつけた。巨大な顎のようなハンマーが、唸りを上げて回転しながら飛んでいく。
サウザーはとっさにサウザンドジャッカーで防御したが、重量級のハンマーはその槍ごとサウザーを吹き飛ばした。奴の巨体が、店の奥の壁に激突し、棚が崩れ落ちる。
「ぐっ…!」
その隙を、ゴジュウティラノは見逃さなかった。
彼は一気に間合いを詰める。巨体でありながら、その踏み込みは恐竜の突進のように重く、速い。跳ね返ってきたティラノハンマー50を空中でキャッチし、そのままサウザーへと迫った。
サウザーを壁に叩きつけ、ゴジュウティラノがハンマーを振り上げた。これで決着か――俺はそう思った。だが、次の瞬間、竜儀の動きが止まった。
「どうした、ゴジュウティラノ」
サウザーが、瓦礫の中からゆっくりと立ち上がる。その声には、先ほどの動揺はもうない。むしろ、何かを企んでいるような、不気味な余裕が漂っていた。
「…なぜ、笑っている」
ゴジュウティラノ――竜儀が、低く問う。彼の手の中で、ティラノハンマー50がかすかに震えている。いや、震えているのではない。あれは――。
「気づいたか」
サウザーは、紫色の複眼をぎらつかせながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「先ほどの接触。お前のハンマーが俺の槍に触れた時、俺はその一瞬で、怨霊の一部をお前の武器に憑依させていたのだ」
「なに…!?」
竜儀が、ハンマーを手放そうとした。だが、もう遅い。ティラノハンマー50が、彼の手からひとりでに飛び上がり、空中で不気味に回転し始めた。
「テガソード様の武器が…!」
竜儀の声に、初めて焦りが混じる。黒い靄が、ティラノハンマー50を包み込み、その形状を歪ませていく。ティラノサウルスを模した打撃部の顎が、ガチガチと音を立てて動き出し、金色だった装甲が、じわじわと濁った黄緑色へと変色していく。
「まさか…!」
芹亜が、両手で口を押さえた。彼女の瞳の奥で、金色の光が激しく揺れている。
「武器そのものが、変身を…?」
その通りだった。ティラノハンマー50は、怨霊に侵食され、ひとりでにゴジュウティラノの姿を模倣し始めたのだ。だが、それは俺たちの知る竜儀の姿とは、あまりにもかけ離れていた。
まず、その配色が禍々しい。本来のティラノの黄緑色は濁り、金色はくすみ、全身に黒と暗灰色の装甲が這い回っている。頭部には、ティラノサウルスの頭骨を思わせる金色の突起が生え、両目は赤く発光している。口元には、黒い裂け目と鋭い牙が並び、まるで笑っている怪物の顎のようだった。
両肩には、赤銅色の爪や骨が重なったような大型装甲。腕部にも、筋肉や獣の外皮を思わせる節状の装甲が追加されている。胸部は黄緑色の硬質装甲で覆われているが、その中央には、黒く侵食された中核部が露出し、脈打つように不気味に点滅していた。
「これは…」
凛空が、蒼白な顔で呟く。
「武器が、偽りの戦士になった…?」
「違う」
俺は、テガソードの柄を握りしめながら、その怪物を睨みつけた。
「あれは、偽物じゃねえ。竜儀の力そのものを、怨霊が乗っ取ったんだ」
邪悪ゴジュウティラノ――そう呼ぶしかないその存在は、ゆっくりと首を回し、俺たちを見据えた。その赤い発光眼には、理性のかけらもない。ただ、破壊と侵食だけを目的とした、怨念の塊だった。
「おのれ…!」
竜儀が、素手のまま邪悪ゴジュウティラノに立ち向かおうとする。俺は、とっさに彼の肩を掴んで止めた。
「待て、竜儀。武器を奪われた状態で、あれに突っ込む気か」
「だが、あれは私の力だ。テガソード様から授かった、私の…」
「わかってる。だからこそ、ここは一旦引くぞ」
俺は、邪悪ゴジュウティラノとサウザーを交互に睨みながら、芹亜と凛空を背後に庇った。
「芹亜、お前はどう見る」
「あれは…あの武器に宿っていた、竜儀さんの戦いの記憶を、怨霊が乗っ取って形にしたものだと思います。つまり、能力は本物とほぼ同じ。でも、制御する意思がないから…」
「暴走する、か」
サウザーが、邪悪ゴジュウティラノの背後で、ゆっくりと腕を組んだ。