ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
中華風の怨霊が消え去った後、店内には重たい静寂が漂っていた。俺はオルカブースター5050を下ろし、倒れた男をちらりと見る。気を失っているだけで、命に別状はなさそうだ。サウザーの力に取り憑かれていただけか、それとも――。
「芹亜?」
俺が振り返ると、芹亜はまだ怨霊の消えた空間をじっと見つめていた。その目は、普段の怖がりな少女のものではない。金色の光を宿した、何かを見透かすような目だった。
「まだ…います」
芹亜が、静かに呟いた。
「さっきの怨霊、完全には消えてません。何かを、伝えたがってる」
彼女は、ゆっくりと前に進み出た。その足取りに、もう迷いはない。震えていた足は、今はしっかりと地面を踏みしめている。
「芹亜、無茶はよせ」
俺が止めようとすると、彼女は振り返って小さく首を振った。
「大丈夫です。この人、戦いたいんじゃない。ただ、誰かに聞いてほしいだけなんです」
彼女は胸に手を当て、深く息を吸った。そして、静かに口を開き、歌い始める。それは、言葉というよりも、魂に直接響くような旋律だった。
――憑依鎮魂歌。
芹亜の歌声が、破壊された店内に満ちていく。空気が震え、瓦礫の隙間から、再び黒い靄が立ち昇り始めた。さっきの中華風の怨霊だ。だが、その姿はさっきよりもずっと輪郭がはっきりとしている。
靄は、ゆっくりと人の形を取り戻していく。長い黒髪を頭上でひとつに結び、口元の左側には小さなほくろ。端正な顔立ちの、若い男だった。東洋の武官を思わせる衣装を纏い、その立ち姿には気品と威厳が漂っている。
「お前は…」
俺が問いかけると、男は静かに俺を見返した。その目には、もうさっきまでの邪悪な赤い光はない。代わりに、深い悲しみと、それでも消えない誇りが宿っていた。
「私は、周瑜。字は公瑾」
男――周瑜は、穏やかな声で名乗った。
「…周瑜?」
俺は首を傾げた。聞いたことのない名前だ。いや、もしかしたら歴史の授業で習ったのかもしれないが、俺の記憶には引っかからない。俺は元々、そういうのに疎いのだ。
俺の困惑した顔を見て、凛空がくすりと笑った。
「遠野くん、知らないの?」
「悪かったな。歴史は苦手なんだ」
「仕方ないわね」
凛空は、植物状の霊をしまいながら、ゆっくりと説明を始めた。
「周瑜は、今から千八百年ほど前の中国、三国時代の武将よ。呉という国に仕えた、若くして優れた軍略家。特に、赤壁の戦いっていう歴史的な大勝利を指揮したことで有名ね」
「赤壁…」
その名前だけは、なんとなく聞いたことがある。確か、曹操とかいうすげえ武将を、火攻めで撃退したとかいう話だ。
「でも、彼は志半ばで若くして亡くなった。三十六歳だったかしら。その無念が、怨念となって残っていたのね」
俺は、もう一度周瑜を見た。
「・・・なんというか、昔は色々と本当にあったんだな」
俺たちは、破壊された中華料理店の片隅で、周瑜という男の話を聞くことになった。といっても、椅子もテーブルもさっきの戦いで粉々だ。俺は倒れた棚の残骸に腰掛け、芹亜と凛空は壁にもたれ、竜儀は腕を組みながら立っている。まるで、妙な茶話会だ。
「改めて、助かった。礼を言う」
周瑜は、優雅な仕草で俺たちに頭を下げた。その物腰は、さっきまで怨霊として暴れていた存在とは思えぬほど、理知的で落ち着いている。
「で、なんであんたみたいなのが、あんな風になっちまったんだ」
俺が率直に問いかけると、周瑜は少しだけ眉をひそめ、遠くを見つめるような目をした。
「正直なところ、詳しい記憶はないのだ」
「記憶がない?」
芹亜が、そっと彼に近づいた。彼女はもう、怨霊に対しても怖がる様子はない。憑依鎮魂歌で対話したことで、相手の心の一端に触れたのだろう。
「はい。怨霊と化していた間のことは、断片的にしか思い出せぬ。ただ…」
彼は、床に倒れている男――サウザーに変身していた若者を見下ろした。
「この男の心に、何か焦りのようなものがあった。何かを急いでいる。何かを取り戻そうとしている。その強い執着に、私の魂が共鳴してしまったのだろう」
「焦り…」
俺は、気を失った男の顔を見た。筋骨隆々の巨躯。オールバックの長い黒髪。一見、強面の若者だ。だが、その顔には、どこか切迫したものが刻まれている。何かに追われているような、あるいは、何かを追いかけているような。
「それで、サウザーの力とあんたの能力が、妙に噛み合ったってわけか」
竜儀が、静かに分析を始めた。
「ああ。ユニバースライダーの力は、変身者の願いや執着に応じて出力が変わる。この男の焦りが、サウザーの支配欲と結びついた。そこに、私の軍略が加わった」
「軍略?」
俺が聞き返すと、凛空が補足した。
「周瑜はね、ただの武将じゃないの。戦場全体を見渡して、敵味方の数や地形を把握し、最適な陣形を組む軍略家だった。つまり、空間全体を支配するサウザーの能力と、周瑜の軍略が合わさったから、あれだけ強力なポルターガイスト現象を起こせたってことよ」
なるほど、と俺は内心で納得した。サウザーの能力は、周囲の物体を支配すること。そこに、戦場全体を掌握する軍師の頭脳が加われば、そりゃあれだけ厄介なことにもなる。
「でも、あなたはもう、焦ってないんですね」
芹亜が、周瑜の目をまっすぐに見つめながら言った。彼女の瞳の奥で、金色の光が静かに揺れている。
「はい。君の歌が、私の心を鎮めてくれた。君は、私の業に触れ、それを否定せず、ただ受け止めてくれた」
周瑜は、芹亜に向かって深く一礼した。その所作は、まるで主君に仕える忠臣のようだった。
「礼を言う、相葉芹亜。君の声は、不思議だな。私の火を消さず、ただ包み込む」
その言葉を聞いて、芹亜は少しだけ照れたように微笑んだ。