ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
前回の中華料理店での一件から、一週間が過ぎた。
寺での生活は、相変わらずの惰性で回っている。雪庭の奴は相変わらず胡散臭いし、芹亜は相変わらず霊と話しているし、俺は相変わらず借りを返すために動いている。そう、何も変わっていないはずなのだ。
だが、一つだけ違うことがある。この寺の境内が、やけに騒がしいのである。
「そこだぁっ! 食らえ、禽次郎アッパー!」
「おせーよ! そんな大振りな突き、当たるわけねーだろ!」
境内の石段の前で、竹刀が激しく打ち合う音が響いていた。一人は、黄色いメッシュの入った髪を揺らしながら、軽快なフットワークで飛び回る猛原禽次郎。もう一人は、身の丈ほどの大太刀……じゃなくて、今は竹刀を振り回しながら、猪のように突っ込んでいく村山朱莉だ。
俺は縁側に座り込み、その喧嘩同然の剣道練習を眺めていた。というか、見てないと怪我するのは俺の方だ。飛んできた竹刀の先端が、鼻先をかすめる。
「危ねえな、お前ら! 寺の境内をサバンナにするな!」
「うっせえ! こいつが避けすぎなんだよ!」
「んだと! 避けるのも実力のうちだってーの!」
……まったく。この二人が揃うと、耳の奥がキンキンする。でも、悪くねえ。こういう馬鹿騒ぎも、今の俺にはちょっとした息抜ぎになってるのかもしれない。
その時だった。
山門の方から、のっそりとした影が現れた。制服の上に、少し古めかしい演劇部のジャージを羽織った男子高校生。見た目は真面目そうだが、どこか視線が定まっていない。
「おや、客か?」
禽次郎が竹刀を止めて、汗を拭いながら声をかけた。
「何の用だ。住職なら留守だぞ」
俺がぶっきらぼうに言うと、青年は俺たちを一瞥し、それから短く言った。
「俺は、多良場。多良場住猥」
「…なんだ、その名前は」
思わず聞き返してしまった。タラバズワイ? 蟹か?
「天馬薫と同じ学園の、演劇部だ」
多良場は、それだけ言うと、仁王立ちになった。
「ここに、西園寺楓ってのがいるって聞いた。俺は、スカウトしに来た」
「またかよ…」
俺は頭を抱えた。あの天馬って女に続いて、今度は蟹男か。演劇部ってのは、こんなにしつこいのか?
「おい、あんた。楓ちゃんはもう決まってんだよ。天馬って女の劇に出るってな」
朱莉が竹刀を肩に担ぎ、不機嫌そうに言った。
「あんたみたいなのが来たって、変わんねーよ」
「知ってる」
多良場は、表情を変えずに言った。
「でも、俺はあんたを諦めるつもりはない」
その目には、妙な執念が宿っていた。まるで、一度噛みついたら離さない蟹のような……いや、名前のせいか。
「俺には、あんたが必要なんだ。俺の舞台に」
こいつもまた、面倒なのが来ちまったな。俺はため息をつきながら、縁側で茶を啜る雪庭の方をチラリと見た。あの坊主、全部わかってて放置してやがるな。
多良場は、西園寺がいないと知っても、態度を変えなかった。いや、むしろその瞳の奥の執念の炎が、チリチリと音を立てて燃え上がったように見えたのは、俺の気のせいだろうか。
「俺には、あんたが必要なんだ。俺の舞台に」
まるで壊れたレコードのように、同じ言葉を繰り返す。こいつ、頭の中身は全部その「舞台」とやらで埋め尽くされているのか。
「あのさぁ、聞いてんの? 楓ちゃんは今、ここにいねーって」
禽次郎が竹刀を小脇に挟み、両手を広げてオーバーに肩をすくめた。
「つーか、男の執念深さってのも程があるだろ。しつこいって言われてんの、わかんない?」
「うるせえ」
多良場は、低く唸った。その声は、先ほどまでの無愛想な挨拶の時とは違う。もっとドス黒く、獣が喉の奥で威嚇するような音だった。
「俺は、先輩の舞台を取り戻す。そのためなら、何だってする。邪魔する奴は、全部敵だ」
「へっ、敵だぁ?」
朱莉が、竹刀を肩から下ろし、ニヤリと笑った。喧嘩っ早い彼女のスイッチが入ったらしい。
「お前みたいな俯瞰のなさそうな奴に、敵面してられるとムカつくんだよ。その薄っぺらい根性、伊吹丸で叩き直してやろうか」
一触即発。俺は、ため息をつきながらも、テガソードの柄に手をかけた。
「俺の舞台に、脇役はいらない」
多良場は、懐に手を伸ばした。その動作には、迷いがなかった。まるで、こうなることが最初から決まっていたかのように。
現れたのは、ライドウォッチだった。
表面に刻まれているのは、鋏の刃を模した鋭い意匠。仮面ライダーの力が宿るアイテムだ。
「おやおや、またそっち系かよ」
禽次郎が、少し嫌そうな顔をした。
「ユニバースライダーってのは、どうしてこう、次から次へと湧いてくるんだ?」
「來たぞ、厄介なのが」