ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

11 / 32
彷霊界へ

 雪庭に案内されて足を踏み入れた瞬間、空気の手触りが変わった。

 

 ただ冷えるとか、湿っているとか、そういう話じゃない。鼻に入る匂いが薄いくせに、気配だけがやたら濃い。視界に映る木立も地面も森と大差ないはずなのに、どこか色が浅くて、現実が半歩ずれた場所へ押し込まれたみたいだった。

 

「ここが彷霊界だよ」

 

 雪庭がいつもの穏やかな声で言う。

 

「人間界と幽界、その境目みたいな場所だ。慣れるまでは、あまり一人でふらつかない方がいい」

 

「慣れたくなる場所じゃねえな」

 

 思ったままを返すと、前を歩いていた朱莉が鼻で笑った。

 

「びびってんのかよ。さっきまで威勢だけは良かったくせに」

 

「はっ、言ってろ。気持ち悪い場所だって言っただけだ」

 

「同じようなもんだろ」

 

 そう言って、朱莉は肩に担いだ伊吹丸を軽く持ち直す。体格に似合わない大太刀なのに、こいつが持つと妙に馴染んで見えるのが腹立たしい。

 

 口は悪い。けど、足取りに迷いがない。彷霊界みたいな異空間に入っても、こいつは最初から喧嘩の真ん中に立つ気満々だった。

 

「吠」

 

 雪庭が呆れ半分の声を投げてくる。

 

「見学だからといって、気を抜くなよ。ここでは何が出てもおかしくない」

 

「分かってるよ」

 

「本当に分かってるやつは、そんな顔で朱莉と張り合わないんだけどね」

 

「そっちが吹っかけてきてんだろうが」

 

「知らねえよ。受けて立ってんのはあんたじゃん」

 

 朱莉がにやりと笑う。その顔を見てると、どうにも黙っていられない。似たような気質だと、自分でも分かるから余計に面倒だった。

 

 その時、空気の奥で何かが軋んだ。

 

 音じゃない。気配だ。彷霊界の薄い景色の向こうで、何かがこちらに気づいたみたいに濁る。

 

 朱莉の顔つきが一瞬で変わる。

 

「来るぞ」

 

 次の瞬間、木々の間から人影のようなものが滲み出た。輪郭の定まらない霊体。けれど数がいる。三体、五体、いや、もっとだ。ぼやけた腕を伸ばしながら、こっちへにじり寄ってくる。

 

 朱莉が伊吹丸を振り上げる。

 

「どうだぁ、あんたがどんな力を持っていようが、こっちの方が上なんだよ!」

 

 啖呵と同時に踏み込む。大太刀が風を裂き、先頭の霊をまとめて薙いだ。鈍い手応えも断末魔もない。ただ、斬られた影が煙みたいに散る。

 

 速い。力任せに見えて、ちゃんと急所を断ってる。

 

「はっ、言ってろ! 俺の方が多く狩ってやるよ!」

 

 売り言葉みたいに返して、俺も地を蹴る。真正面からぶつかる気だった。見学? そんなもん、霊が出た時点で吹っ飛んでる。

 

 横から迫った一体を蹴り飛ばし、別の一体の腕を払う。実体が曖昧でやりにくい。だが、押し負けるほどじゃない。

 

 朱莉が笑いながら叫ぶ。

 

「だったら見せてみろよ!」

 

「あぁ、見せてやるよ――エンゲージ!」

 

 吠え返しながら、俺は腰のテガソードへ手を伸ばした。

 

 前に手に入れた鎧武のライダーリング。あの果実みたいな異様な力が、今度は俺の武器になる。

 

 リングを抜き、テガソードへ装填する。

 

「ぶわははははっ、なんだよそれ! 蜜柑の侍で本当に勝てるのかよ!」

 

 朱莉が腹を抱えそうな勢いで笑った。こっちだって最初はそう思った。思ったけど、笑ってる場合じゃない。

 

「うるせぇ! 見てろよ!」

 

 上空で光が弾けた。

 

 巨大なオレンジが、まるごと頭上へ落ちてくる。何度見ても意味が分からねえ。意味が分からねえのに、そのまま俺の身体へ重なり、果実の断面みたいな装甲になって噛み合っていく。

 

『ライダーリング! 鎧武! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!』

 

 音声と共に鎧が閉じる。肩、胸、腕、脚へと甲冑めいた意匠が走り、俺の視界が一段鋭くなる。

 

 鎧武。

 

 自分で変身してるくせに、やっぱり妙な気分だった。

 

「ほんとに蜜柑の侍になりやがった!」

 

「だから見てろって言っただろ!」

 

 叫んで、そのまま霊の群れへ飛び込む。

 

 手には大橙丸。振れば重い。けれど鈍くはない。鎧武の身体そのものが、斬るために組み上がっている感じがする。前へ出るたびに、果実の鎧がぐっと噛み合う。

 

 朱莉が別方向から斬り込み、俺がその死角を潰す。息が合ってるわけじゃない。むしろ互いに勝手に暴れてるだけだ。なのに、不思議と噛み合う。こいつが前を開ければ、その先に俺が入れる。俺が押し返した霊を、朱莉の伊吹丸がまとめて刈る。

 

「そっち遅えぞ!」

 

「うるせえ! あんたが斬り損ねたのを片づけてやってんだろ!」

 

「勝手に拾ってろ!」

 

「言われなくても拾うっての!」

 

 怒鳴り合いながら斬る。何だこの戦い方、と思う。けど悪くない。気に食わねえ相手のくせに、背中を見て動ける感じだけは妙に腹立たしかった。

 

 後ろで雪庭が、深いため息をつく気配がした。

 

「二人とも、戦闘中に気を抜くな」

 

 呆れた声だった。

 

「競ってる場合じゃないよ」

 

「気抜いてねえよ!」

 

「抜いてねえって!」

 

 声が揃った瞬間、自分でも笑いそうになった。

 

 霊の最後の一体を、朱莉の伊吹丸が真っ二つに裂く。遅れて俺が踏み込み、逃げかけた残滓を大橙丸で叩き潰した。

 

 静かになる。

 

 彷霊界の薄い風が戻る。さっきまでいたはずの霊の気配だけが、すうっと引いていく。

 

「どうだぁ!」

 

 朱莉が肩で息をしながら、伊吹丸を担いでこっちを見る。

 

「あんたがどんな力を持ってようが、こっちの方が上なんだよ!」

 

「はっ、まだ言ってんのかよ。数で言えば俺の方が多く狩ってるだろ」

 

「何だと!?」

 

「そこまでにしておけ」

 

 雪庭が一歩前へ出た。苦笑しているくせに、目はさっきまでよりずっと鋭い。

 

「……終わった、とは思わない方がよさそうだ」

 

 その言葉で、背筋が先に反応する。

 

 彷霊界の空気に、別の気配が混じった。

 

 霊じゃない。さっきまでの残滓とも違う。もっと輪郭がはっきりしていて、妙に現実感があるのに、立っているだけで夢みたいに掴みどころがない。

 

 木立の向こうに、小柄な影が一つ立っていた。

 

 女子高生――に見える。だが、ただの少女じゃないと一目で分かる。彷霊界の景色の中で、そいつだけ別の理屈で存在しているみたいだった。

 

 俺は大橙丸を構え直す。

 

 朱莉も伊吹丸を下ろし、雪庭の気配が静かに沈む。

 

 新しい気配が、ゆっくりとこちらを見た。

 

 ユニバースライダー。

 

 そう思った瞬間、彷霊界の空気がまた、少しだけ冷たくなった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。