ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「あーあ、やっちまったなぁ」
変身を解いた禽次郎が、自分の手を見ながら苦笑いしている。アマゾンオメガの緑色の粘液のようなエネルギーが、まだ指先に残っているのか、彼はしきりに服で手を拭っていた。
「あんなにムキになっちゃってさ。なんかさー、あの姿になると理性が吹っ飛ぶっていうか、殺るか殺られるかって感じになっちまうんだよな。ゴジュウイーグルとは大違いだぜ、まったく」
お前な、と俺はため息をついた。
「自覚があるなら最初からやるなよ。あんな剥き出しの暴力、見てるこっちがハラハラするんだよ」
「へへっ、悪ぃ悪ぃ。でも、あの硬い甲羅じゃ普通のやり方じゃ勝てねーし、しゃーないでしょ?」
しゃーねえじゃねえよ。まあ、実際あのフルアームズを崩すにはあの野性味溢れるやり方しかなかったかもしれないが、やられ側の身にもなってみろ。
俺たちは、石畳に転がっている多良場住猥を見下ろした。シザースへの変身はとっくに解除されている。だが、彼はまだ体育座りのまま、ガタガタと震え続けていた。その目は虚空を見つめ、口からは意味不明な呟きが漏れている。
「剥がされた…甲羅が…僕の甲羅が…」
「おい、大丈夫か?」
俺が声をかけると、多良場はビクリと肩を跳ねさせた。
「い、いらない! 触るな! もう剥がさないでくれぇぇっ!」
「いや、触ってねえよ…」
完全にトラウマだ。禽次郎のあの容赦ない甲羅剥ぎ攻撃が、彼の精神に深い傷を刻み込んでしまったらしい。物理的なダメージよりも、よっぽど厄介な後遺症が残りそうだ。
「ざまぁみろって感じじゃねーか」
朱莉が、竹刀を肩に担ぎながらケラケラと笑う。
「あんな硬い殻に閉じこもってるから、中身まで腐っちまうんだよ。ちょっとは風に当たりな」
「う、うるさい…俺の甲羅は…先輩を守るための…」
まだ言ってるよ。こいつ、よっぽど甲羅に執着があるらしい。いや、その甲羅=守りたいものという図式が崩されたことがショックなのか。
その時だった。
「おや、珍しく賑やかじゃないか」
山門の方から、飄々とした声が聞こえてきた。雪庭だ。あの胡散臭い坊主は、いつもの僧侶の法衣ではなく、なぜかエプロンを着用していた。そして、その両手には妙に重そうな発泡スチロールの箱が抱えられている。
「お帰りなさい、和尚。どこ行ってたんだよ」
朱莉が聞くと、雪庭はニヤリと笑った。
「ふふふ、今日の夕飯の買い出しだよ。近所のスーパーでとんでもない掘り出し物を見つけてね」
彼は俺たちの輪に入ってくると、ドンッと箱を地面に置いた。そして、誇らしげに蓋を開ける。
「じゃじゃーん! 特大のタラバガニとズワイガニだ! なんと半額だったぞ!」
箱の中からは、氷と共に茹でられた真っ赤な蟹たちが鎌を振り上げるように鎮座していた。確かに特大だ。足なんて俺の腕くらいありそうだ。
「うおっ! マジかよ和尚! 食う食う!」
朱莉が目を輝かせる。禽次郎も「マジでー!」と喜びの声を上げた。だが――。
「……」
一人だけ、空気が凍りついた男がいた。
多良場だ。彼は箱の中の蟹を見た瞬間、顔面蒼白になり、口をパクパクさせたまるで陸に打ち上げられた魚だ。
「かに……カニ……カニィィィィッ!」
彼は絶叫した。そして、後ずさりながら立ち上がり、寺の塀をよじ登ろうとする勢いで逃げ出そうとした。
「おいおい、どうした多良場? 蟹嫌いだったか?」
雪庭が、きょとんとした顔で聞く。こいつ、わかっててやってるな。絶対わかっててやがる。
「近づけるなぁぁぁ! 甲羅! ハサミ! 茹でられる! 俺が茹でられるぅぅぅっ!」
多良場は半狂乱で山門を飛び出していった。その背中は、「助けてくれ」と叫んでいるように見えたが……まあ、あれは仕方ないだろう。甲羅を剥がされた直後に大量の甲羅持ちを見せられたら、そりゃトラウマも刺激されるってもんだ。
「……おい雪庭」
俺はため息をつきながら言った。
「てめえ、わざとだろ」
「さあてね。仏の慈悲は時に残酷な形を取るものさ」
雪庭は涼しい顔で答え、蟹の足を一本引きちぎった。
「さあ諸君、今夜は蟹パーティーだ! 遠野吠も、食べ残しは許さんぞよ!」
「……蟹、喰った事ねぇ」
俺はそうぼやきながらも、漂ってきた芳醇な海水の香りに腹の虫が鳴るのを感じていた。まったく、この寺にはロクな奴しかいねえ。でもまあ、蟹は嫌いじゃない。
逃げていった多良場の悲鳴が遠くで聞こえた気がしたが、俺たちは気にせず蟹を囲むことにしたのである。