ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

113 / 114
刀盗難事件

寺の境内に、似合わない香水の匂いが漂っていた。

 

「だーかーら! 現場保全は基本でしょ? あんたたち、足跡くらい残さないで歩きなさいよ!」

 

階段の下で、一河角乃が腰に手を当てて喚いている。黒を基調にしたファッションに、ユニコーンのモチーフの金色のネックレスが光る。その出で立ちは、この古びた寺の境内と云うよりは、高級ホテルのラウンジの方が百万倍は似合っているはずだ。それが、埃っぽい土産物の前に仁王立ちして、名探偵のごとく指図をしているのだから、世の中わからない。

 

「ハイクラス&ラグジュアリー名探偵の出番ってわけね。この事件、絶対に私が解決してやるわ!」

 

やけにハイテンションだ。俺は縁側に座り込み、その光景を眺めながら深いため息をついた。うるせえ女だ。さっきから「私のエスパー能力がピクリと反応したわ!」とか「この美しい指紋採取テープを見て!」とか、独りで騒ぎまわっている。呆れて言葉も出ない。

 

俺の隣で、市川瑠衣が黙って座っていた。小さな体に不釣り合いな振袖、無表情な顔。手には虎の剥製を乗せている。彼女は角乃の騒ぎなど耳に入らない様子で、ただ淡々と状況を見つめていた。

 

「必要?」

 

ぽつり、と瑠衣が呟く。

 

「あの騒ぎ、何のため?」

 

「知らねえよ」俺は肩をすくめた。「目立ちたいだけだろ」

 

雪庭が庫裡から飛び出してきたのは、三十分前のことだった。いつもの軽妙な顔色がなく、青褪めている。『義経の刀が盗まれた』、それだけを告げるだけで、言葉少なに奥へ引っ込んでしまった。義経。

 

「ねえ、瑠衣ちゃん! ちょっとこっち来て! この窓枠の擦り痕、絶対にプロの仕業よ!」

 

角乃が手招きをする。瑠衣は動かない。ただ、黒い瞳で盗難現場の柱をじっと見つめていた。

 

「義経の刀」瑠衣が言った。「霊刀? それとも、ただの鉄?」

 

「ただの鉄なわけないでしょ! 歴史的価値も霊的価値もハイクラスよ!」

 

「そう」

 

興味なさげに呟いて、瑠衣は立ち上がった。虎の剥製が、小さく喉を鳴らす。

 

「瑠衣、探す。お父さん、困ってるから」

 

「お、おう。頼むよ」俺は頷いた。

 

角乃が鼻を鳴らして近づいてきた。「あんた、やる気あるわけ? 名探偵の助手なら、もっとシャキッとしなさいよね」

 

「てめえが勝手に決めた役割だろ。俺はただ、借用書を返したいだけだ」

 

「まあいいわ。それより、現場を見て。犯人はここから侵入して……」

 

角乃の解説を聞き流しながら、俺は盗まれた刀の空虚な台座を見つめた。義経の刀。それを盗むような輩がいる。芹亜にはまだ言わねえ方がいいか。そう考えていると、背筋に冷たいものが走った。

 

霧の向こうで、誰かが笑ったような気がした。

 

「おい」俺は声を上げた。「話は後だ。まずは探すぞ」

 

「そうよ! 名探偵の力、見せてあげるわ!」

 

角乃が指を鳴らし、瑠衣が無言で頷く。俺は面倒くささを噛み殺しながら、寺の奥へと足を踏み出した。

 

縁側で爪を研いでいた俺は、角乃に呼ばれて渋々、本堂の中へ足を踏み入れた。線香の煙が薄く漂い、そのせいで余計に埃っぽく感じられる。だが本当に埃っぽいのは、姉ちゃんのユニコーンの香水が線香と喧嘩しているせいだ。これがまた、鼻の奥を突く。

 

「遅い! 何グズグズしてんのよ!」

 

角乃が腕を組み、仁王立ちで俺を見下ろす。

 

「あんた、犬でしょ! だったら、警察犬みたいに盗人の臭いを嗅ぎなさいよ!」

 

「犬じゃねえ」

 

「ええーっ!? 嘘でしょ!? だって、その手とか耳とかしっぽとかモロに犬じゃない! 今すぐ臭いを辿りなさいよ! これもハイクラスな推理のためなんだからね!」

 

「てめえ、人の事を勝手に犬扱いすんな!」

 

言い争っていると、瑠衣が黙って俺の袖を引いた。相変わらず感情の薄い顔で、虎の剥製を俺に向ける。

 

「警察犬、やらないの?」

 

「やらねえよ!」

 

「だってさ」瑠衣は角乃に向き直る。「吠は、普通の犬じゃないらしい」

 

その「普通」って言葉のアクセントが微妙に引っかかるが、今は追求している暇がない。

 

俺は諦めて、仕方なく、台座の周辺で鼻を利かせる。樟龍の嗅覚は舐めてもらっちゃ困る。何せ獣のセンタイリングだ。線香と埃と、ユニコーンの姉ちゃんの香水――それをかき分けて、確かに、異質な臭いを捉えた。

 

「…こいつだ」

 

「え!? 本当にわかるの!」

 

「うっせえな。ちゃんと残ってんだよ」

 

刀が置かれていた台座の周辺に、微かに残る煙のような臭い。嗅いだことのない、冷たい金属の匂いに、何故だか鼻の奥を焼く花の香りが混ざっている。俺は床に這いつくばって臭いを辿り、本堂を出て、庫裡の裏手へ向かった。

 

「すごい! さすがは私の助手兼警察犬ね!」

 

「だから犬じゃねえって言ってんだろ!」

 

「はいはい、わかったわかった。ちゃんと辿りなさいよ」

 

「信用してねえな、この女…」

 

「当たり前でしょ。あんた、顔は怖いし態度も悪いし、鼻だけが頼りなんだから」

 

「てめえ…!」

 

「二人とも、喧嘩してる場合?」

 

瑠衣が冷めた声で割って入る。虎の剥製を抱えたまま、さっさと先に進んでいた。

 

「痕跡、こっち」

 

「さすが瑠衣ちゃん! あなたも優秀な助手ね!」

 

「…助手じゃない。瑠衣は、瑠衣」

 

結局、庫裡の裏手の壁に、外から何かでこじ開けたような細い傷があった。匂いはここから境内の外へと続いている。

 

「ふーん、なるほどね。結構手際がいいわ」

 

角乃が顎に手を当てて、わざとらしく考え込むポーズを取る。

 

「この傷のつけ方、プロの仕事よ。それに、呪術的な痕跡もある。この手口、前にパリで見たわ」

 

「パリ?」

 

「あんた、知らないの? あの連続美術品窃盗事件。犯人は必ず花の香りを残すのよ」

 

「…へえ」

 

「もっと驚きなさいよ!」

 

驚く気力もねえ。俺は匂いの先を見据えた。寺の裏山へと続く小道に、かすかな煙の残り香が揺れている。

 

「追うぞ」

 

「よし! ハイクラス&ラグジュアリー名探偵、一河角乃の事件解決よ!」

 

「…うるせえ。ついてくんな」

 

「ついてくわよ! 助手のくせに何言ってんの!」

 

「俺はてめえの助手になった覚えはねえ!」

 

そう言い争いながらも、三人で裏山へと足を踏み入れた。瑠衣は相変わらず無表情で、俺たちの後ろをトコトコとついてくる。

 

蝉の声が、やけに遠くで聞こえていた。義経の刀――それが何を呼ぶのか、その時はまだ、俺にもわかっていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。