ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「仮面ライダー」
その単語が、俺の背筋を氷のように冷やした。
俺は反射的に一歩踏み出し、杏子の胸倉を掴みかねない勢いで間合いを詰めた。
「てめえ、その言葉をどこで知った?」
「えっ? い、痛いです! お兄さん、近いってば!」
杏子はルーペを落としそうになりながら、後ずさる。だが、俺は引かない。仮面ライダー。それはただの都市伝説なんかじゃねえ。時間を駆け抜け、歴史を書き換える力を持つ戦士たち。そして、その中心にあるのが――。
「ライドウォッチだ。てめえ、持ってるのか?」
俺の低い問いかけに、杏子は目を白黒させた。
「ら、ライドウォッチ? 何ですかそれ? 時計みたいなやつですか? 私はただ、古い記録を読んで仮面ライダーの伝説を知っただけで……!」
「伝説、ねえ」
俺は凄んだままの体勢で睨み続ける。こいつがただのガキならいい。だが、もし時間を操るあの時計――ライドウォッチを持った奴が裏で糸を引いてるなら、話は別だ。俺たちが追ってる盗人も、ただの泥棒じゃなくなる。
「ちょっと! 何やってんのよ、犬!」
背後から角乃の甲高い声が飛んできた。彼女はヒールで小石を蹴飛ばしながら、俺と杏子の間に割って入る。
「未成年に詰め寄るなんて、ハイクラス名探偵の風上にも置けないわね!」
「てめえ、こいつが言った『仮面ライダー』って単語を聞き流せるのか? 時間の支配者だぞ」
「知ってるわよ。でもね、今はそっちよりこっちが優先なの」
角乃は右手の爪を磨きながら、杏子の方を指差した。
「この子、『歴史の影』が消えてるって言ったわよね? どうせそれ、私たちが探してる義経の刀と同じ匂いがするんでしょ?」
杏子はコクコクと頷く。「はい! 花の匂いのする泥棒です!」
「でしょ? だったら、今は敵じゃないわ。協力して、犯人を追うの」
「はあ? 協力だぁ?」
俺は眉をひそめた。この俺と、あのハイテンション女と、オカルト探偵ごっこのガキか? 噛み合うわけがねえ。
「文句ある? 犬は黙って臭いを追えばいいのよ」
「犬じゃねえって言ってんだろ!」
「あの! 私もちゃんと役に立ちます! 聞き込みも現場検証も、探偵事務所で修行中なんで!」
杏子が元気よく手を挙げる。その無邪気さが逆に胡散臭い。だが、俺の鼻が告げている。このガキの周囲に漂う花の残り香と、盗人の匂いが重なっているのは事実だ。こいつをほっとけば、勝手に事件の核心に飛び込んで怪我をするか、あるいは俺たちより先に真相に辿り着くか。
「……勝手にしろ」
俺は舌打ちをして、踵を返した。
「あんたが足手まといになったら、その時は容赦しねえからな」
「はい! よろしくお願いします、お狼さん!」
「狼だ!」
妙なチームが結成された。義経の刀を追う俺たちと、歴史の影を追う少女。こいつが言う「仮面ライダー」の伝説が、この盗難事件とどう関わってくるのか。
俺は再び地面の匂いを嗅いだ。冷たい花の香りは、さらに深い山の奥へと続いていた。
山道の果てにあったのは、朽ち果てた社だった。苔むした鳥居が傾き、腐った注連縄が風に揺れている。その境内のど真ん中で、男は笑っていた。
「ひひっ、ひひひひっ!」
白衣だった。かつては真っ白だったかもしれないそれは、今は泥と返り血と、得体の知れない黒い染みでまだらになっている。眼鏡のレンズの片方が割れ、そこから狂気じみた眼光が覗いていた。
そして、その手には。
義経の刀。
あの細身の太刀が、白衣の男の手で無造作に振り回されている。刀身には薄く光る何かが纏わりつき、それが男の狂気に呼応して脈動しているように見えた。
「見つけたぞ、このクソ泥棒!」
俺は低く唸りながら、社の石段を駆け上がった。
「あ? お客さんかな?」
男は振り返った。その顔に貼り付いた笑みは、人間のそれじゃなかった。まるで壊れた能面みたいに引きつっている。
「これは素晴らしい! 伝説の武将・源義経! その魂が凝縮された霊刀! ここから抽出できる『歴史の影』の純度は計り知れない!」
男は刀を愛でるように頬ずりをした。その動作ひとつひとつが、蛇が獲物を締め上げるみたいに粘着質で吐き気がする。
「歴史の影…!」
俺の後ろで杏子が息を呑んだ。
「やっぱり! この人が『影』を消してた犯人なんです!」
「ふひひ、消えてなどいないさ! 私が抽出し、抽出し、抽出し続けているだけだ! 偉人たちの未練、怨念、そして栄光! それらを切り取って新たな薬品の原料にする! これぞマッドサイエンスの極み!」
狂ってやがる。完全にイカれちまっている。