ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
爆煙が晴れると、そこには白衣の男が無様に転がっていた。変身は強制解除され、男の手から滑り落ちた紫のライドウォッチが、石畳の上でカツンと乾いた音を立てる。
俺は無言でそれを拾い上げた。ルパンライドウォッチ。歴史を盗み、英雄気取りで暴れ回った男の力。だが、悪くねえ。これで義経の刀も取り返せた。
「ふう…」
杏子が変身を解除した。緑と黒の装甲が光の粒子となって飛び散り、そこにはまた、お団子頭のミントグリーンの目をした少女が立っていた。ただ、その顔色は少し蒼白で、膝が微かに震えている。一人でWの力を使った反動か。やっぱり無理をしてたんだな。
「大丈夫か?」
俺は声をかけた。
「はい! なんとか!」
杏子は弱々しく笑って見せたが、その手はしっかりと腰のジクウドライバーに添えられていた。そして、彼女はドライバーからライドウォッチを取り出した。
俺はてっきり、彼女がそれをしまったと思った。だが、杏子はその歩みを、角乃の方へ向けたのだ。
「あの…角乃さん」
「何よ? 痛い目に遭ったならおぶってあげるわよ?」
角乃は髪をかき上げながら、いつもの高飛車な態度で応じる。だが、その目は杏子の蒼白な顔を気遣うように細められていた。
杏子は首を横に振り、差し出した手のひらに二つのライドウォッチを乗せた。
「これ、使ってください」
「はあ?」
角乃の眉がつり上がった。
「あんた、何言ってんの? これ、あんたの変身アイテムでしょ? なんで私に渡すわけ?」
そりゃそうだ。俺も驚いた。こいつ、必死に「仮面ライダー」の正体を追って、手に入れた力だろ? それをポンと渡しちまうのか?
杏子はミントグリーンの瞳を真っ直ぐに角乃へ向けた。
「仮面ライダーWは、二人で一人の仮面ライダーなんです」
「二人で一人?」
「ええ。風と闇、二つの記憶と力が重なって初めて完全になる。私一人じゃ、どうしても半分しか使いこなせない。さっきの戦いで、それがよくわかりました」
杏子は自嘲気味に笑った。さっきの変則的な弾道や、時折生じていた動きのズレ。あれは全部、一人で二つの力をねじ伏せていた代償だったのだ。
「でも、角乃さんなら…」
杏子は言葉を続けた。
「ガッチャードの錬金術で、混ぜ合わせることができる。二人分の力を、一人で無理やり押さえつけるんじゃなくて、ちゃんと調合して使えるのは角乃さんです」
「…ふん」
角乃は腕を組み、鼻を鳴らした。だが、その視線は杏子の手にあるウォッチから離れなかった。
「あんた、バカじゃないの? 自分の力を手放してどうすんのよ。名探偵の資格を返上する気?」
「探偵はやめません! でも、力は使う人を選ぶんです。この子たちが選んだのは、私じゃなくて角乃さんかもしれません」
杏子はにっこりと笑った。その笑顔には、迷いがなかった。
俺は黙ってそのやり取りを見ていた。こいつ、ただの元気なガキじゃねえ。自分の限界を知って、より良い形に導くことができる。それは探偵としての勘だけじゃねえ。何かもっと深い、優しさみたいなもんだ。
「わかったわよ」
角乃はついに観念したように、手を差し出した。その指先がウォッチに触れようとした瞬間、彼女はピタリと止まった。
「でも、なんで私なわけ? 吠くんとか瑠衣ちゃんじゃダメなの?」
鋭い問いだった。確かにそうだ。俺だってテガソードは使えるし、瑠衣だって霊獣を使いこなしてる。
杏子は首を振った。
「吠さんは獣です。直感で動くから、二つの力を同時に制御するより、一つの力をぶつける方が合ってます」
うぐっ。言い返せねえ。
「瑠衣ちゃんは霊を扱うのが得意です。でも、この子たちは霊じゃない。記憶の風と闇です」
なるほど。霊媒師に風と闇は荷が重いってことか。
「そして角乃さんは…」
杏子は少し言いよどんだ。
「誰かと一緒にいるのが上手ですから」
その言葉に、角乃の動きが止まった。「誰かと一緒にいるのが上手」。ハイクラスを気取るあの女にとって、それは一番屈辱的で、一番図星な言葉だったのかもしれない。
「…チッ」
角乃はウォッチを掴み取った。
「勘違いしなさいよね。あんたが使えないから私が引き受けてあげるだけなんだから!」
「はい! よろしくお願いします、相棒!」
「相棒じゃないわよ! バカ!」
罵りながらも、角乃はウォッチを丁寧にポーチに収めた。
俺はルパンウォッチを弄びながら、ふと思った。
力は持ち主を選ぶ。そして、持ち主も力を選ぶ。
それが正解かどうかはわからねえ。だが、あいつなら案外、使いこなすかもしれねえな。
「さあ、帰るぞ。雪庭の爺さんも待ってるだろ」
俺は背を向けた。
「あ! 待ってくださいよ、お犬さん!」
「狼だって言ってんだろ!」
奇妙なチームの、まずは最初の仕事は終わった。だが、俺の背中には、まだ重い借りが残っている気がした。