ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
彷霊界の空気は、霊を斬り伏せた直後だってのに、少しも軽くならなかった。
消えたはずの気配の跡に、別の何かが静かに入り込んでくる。匂いじゃない。もっと曖昧で、けれど確かに皮膚へ引っかかる違和感だった。目の前の景色そのものが、誰かの寝息の中へ沈み込んでいくみたいな、嫌な感覚。
木立の向こうに、小柄な影が立っていた。
制服姿の、どこにでもいそうな女子高生。なのに、普通じゃない。彷霊界の薄い色の中で、そいつだけが妙に輪郭を保っていた。現実から半歩ずれたこの場所に、逆に自分の方を馴染ませているみたいで、見ているだけで気持ちが悪い。
「……何だ、あいつ」
朱莉が伊吹丸を肩に担ぎ直す。
その声に、少女はゆっくりこっちを見た。
驚いてる顔じゃない。怯えてもいない。ただ、自分の前に現れた人間を、何の任務対象なんだろうって確認してるみたいな目だった。
その瞬間、鼻の奥へ妙な気配が刺さる。
前に嗅いだ。ライドウォッチ。指輪に変わった、あの異質な力の残り香だ。
「てめぇ……」
俺は大橙丸を下げずに、一歩前へ出る。
「ユニバースライダーだな」
少女の睫毛が、ほんの少しだけ揺れた。
次の瞬間には、表情そのものが変わっていた。
ぼんやりした女子高生の顔じゃない。そこに立っていたのは、任務に入る直前の兵士みたいな、冷えた顔だった。
「正体を看破された以上、対応を変更する」
声音まで違う。
さっきまでの年相応の気配が、一気に消える。空気がぴんと張った。
少女は腰のジクウドライバーへ手をやり、見覚えのある時計型のアイテムを右側へ装填した。
『ライダータイム! 仮面ライダーゼッツ!』
響いた音声のあと、夢の底から這い上がるみたいな、妙に滑らかな変身音が重なる。
光は派手じゃない。むしろ逆だ。景色の上へ薄い膜を重ねるように、少女の輪郭が静かに書き換わっていく。装甲が生まれるというより、そこに“そういう戦士がいた”って形へ現実の方が寄っていくみたいな変身だった。
仮面ライダーゼッツ。
現れた姿は確かにライダーだ。だが、夢の残滓をそのまま着込んだみたいに、どこか実感が薄い。
「厄介そうじゃねえか」
思わずそう漏らすと、朱莉が舌打ちした。
「呑気に観察してんじゃねえよ。来るぞ!」
言われるまでもない。
ゼッツが一歩踏み出した、その動きそのものに違和感があった。速いわけじゃない。けれど、こっちとの距離の詰まり方が変だ。歩いた分より、近づいて見える。
俺は大橙丸を握り直す。
鎧武のリングで重なった力は、まだ身体に馴染んでいる。ゴジュウウルフの獣じみた踏み込みに、鎧武の剣の重さが乗る。この感覚は嫌いじゃない。
「行くぞ!」
地を蹴る。
真正面から、一気に間合いへ入る。斬る。まずはそこからだ。大橙丸の軌道がゼッツの胸元を真っ直ぐ割りにいく。
だが、当たらない。
「……っ」
ゼッツは受けなかった。避けたわけでもない。
振り下ろした刃の前に、さっきまで何もなかったはずの“影”が、一枚の布みたいにめくれ上がったのだ。黒い幕のように引き伸ばされたそれが、俺の刃を滑らせる。
「何だ、それ!」
「障害物を利用しただけだ」
淡々と返しながら、ゼッツの手が横へ払われる。
その動きに合わせて、足元の霧が細長く引き伸ばされた。帯みたいに白い線となって俺の脚へ絡みつく。
「ちっ!」
力任せに引き千切る。霧のくせに、妙に手応えがあった。現実のものじゃない。けど無視できるほど弱くもない。
そこへゼッツが踏み込んでくる。
武器――ブレイカムゼッツァー。見慣れない輪郭のそれが、音もなくこっちの喉元へ滑る。俺は大橙丸で受ける。火花は散らない。代わりに、ぶつかった空気がぬるく歪んだ。
重くない。なのに、刃の角度が掴みにくい。
「戦いづれえな、おい!」
「こちらに都合がいい戦場で戦う。それだけのことだ」
言ってる内容は単純なのに、やってることが単純じゃない。
ゼッツの左手が、今度は空を掴むみたいに動いた。
その直後、背後の木立の影がべろりと剥がれる。黒い生地を乱暴に引き抜いたみたいに伸びたそれが、横から俺の腕へ巻きついた。
「まだ来るかよ!」
身体を捻り、強引に引きちぎる。その勢いのまま大橙丸を薙ぎ払う。ゼッツは半歩退いた。だが、それで終わらない。退きながら、今度は地面に落ちていた霊の残滓みたいな薄い光を指先で掬い、それを刃の前へ薄膜みたいに広げてくる。
斬ってるはずなのに、感触が一瞬遅れる。
うざい。
まともに剣戟へ付き合う相手じゃない。周りにあるものを片っ端から夢の小道具みたいに引っ張り出して、盾にも罠にも変えてくる。
「吠!」
雪庭の声が飛ぶ。
「正面から噛みつくだけだと、相性が悪いよ!」
「分かってる!」
分かってる。分かってるが、それで止まる気もない。
こういう読みにくい相手ほど、身体ごと距離を潰すしかない。
俺は地を蹴り直した。大橙丸だけじゃない。鎧武の鎧が軋む音ごと前へ叩き込む。ゼッツがまた影を引こうとする、その前へ無理やり踏み込む。
「甘えた手品ばっか見せてんじゃねえ!」
「手品ではない。これは夢だ」
ゼッツの声は静かだった。