ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
俺たちは、泥だらけの山道を下って寺へ戻った。
手の中にある義経の刀。冷たい鋼の感触と、微かに残る黒い霧の気配。こいつを盗んだ男は「歴史の影」とか何とか喚いていたが、確かにこの刀には、ただの鉄以上の何かが宿ってる。ずしりと重い。それは物理的な重さじゃなく、数百年の時を駆け抜けてきた武将の生き様そのものの重さのように思えた。
「ふん、まあまあの働きね。ハイクラス名探偵の助手にしては上出来でしょう」
角乃が、境内の石段でヒールの泥を叩きながら言った。その腰のポーチには、杏子から譲り受けたダブルウォッチが入っている。あいつ、まさか本当に使う気か?
「助手じゃねえって言ってんだろ。それに、あのガキの方がよっぽど役に立ったぜ」
俺が顎で指すと、杏子が「えへへ」と照れ笑いを浮かべた。
「私もお役に立てて嬉しいです! でも、あのお兄さんがかっこよく飛び回ってたから目立ちませんでしたけどね!」
「褒めになってねえよ」
俺は鼻を鳴らし、本堂の方へ足を向けた。雪庭の爺さんに、こいつを返してやらなきゃならねえ。
庫裡の前に立つと、住職の姿は見えなかった。ただ、薄暗い室内に線香の匂いが充満している。俺は刀を両手で持ち、台座の上に置こうとした。
その瞬間だ。
刀身が、鋭く青白く輝いた。
「なっ…!?」
思わず手を離しそうになる。だが、刀は俺の手に吸い付いたように離れない。光が強まり、刀身から黒い霧が噴き出す。あのルパン野郎が抽出しようとしていた「歴史の影」じゃねえ。もっと純粋で、強烈な、武将の魂の匂いだ。
『面白そうだね!』
軽やかな声と共に、光の渦から一つの影が飛び出した。
青と緑を基調とした平安武者風の装束。烏帽子を被り、中性的な顔立ちに赤い差し色の入った少年。彼は空中で軽やかに一回転すると、俺の目の前に着地した。
「僕は源九郎義経。戦の道なら、少しくらいは力になれるよ」
義経のグレート・ゴースト。
盗まれた刀に宿っていたのは、歴史の影なんかじゃなく、本物の源義経その人だったのだ。
「お、お前が…義経?」
俺は呆然と呟いた。歴史の授業で聞いた壇ノ浦の武将が、今、目の前で少年みたいな笑顔を浮かべて立っている。
「驚かせてごめんね。でも、君たちが僕の刀を取り返してくれたのはわかったよ。ありがとう」
「あ、ああ…」
俺は間の抜けた声を出した。こんな軽いノリの歴史上の人物を見るのは初めてだ。
「ちょっと! いきなり飛び出してきて挨拶なんて!」
角乃が叫ぶが、義経は気にした様子もなくケラケラと笑っている。
「ごめんごめん。でも、面白そうだったからさ」
その時、本堂の扉が開く音がした。
「何事ですか? すごい光が…」
芹亜だった。
彼女はエプロンをつけたまま、目を丸くして立ち尽くしている。その視線は、俺ではなく、俺の前に立つ義経に釘付けになっていた。
「その人は…」
芹亜の声が震える。霊能力者である彼女には、義経の正体がはっきりと見えているはずだ。いや、それ以前に、彼女は彼を知っているのかもしれない。歴史好きの彼女なら。
「あれ? 君、もしかして…」
義経が芹亜の方へ歩み寄る。芹亜は一歩下がりかけたが、すぐに踏みとどまった。その瞳に、恐怖ではなく、懐かしむような光が宿る。
「源義経…さん、ですか?」
「そうだよ。君は…なんだか、僕の知ってる誰かに似てるね」
義経が首を傾げる。芹亜は胸の前で手を組み、深呼吸をした。そこには、いつもの怖がりな少女の姿はなかった。まるで、古い友人に再会したかのような、静かな決意を感じさせる表情だった。
「私は相葉芹亜です。あなたのことを、歌いたいと思っていました」
芹亜の言葉に、義経の目が輝いた。
「歌? 面白そうだね! 是非聞かせてよ!」
俺は刀をようやく台座に置き、二人の様子を黙って見守ることしかできなかった。この出会いが、何を意味するのか。まだわからねえ。だが、俺の直感が告げている。こいつは、ただの歴史の授業じゃ済まねえってことを。