ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「歌っていい世界じゃない。それでも、この声が届くなら」
芹亜が、口を開いた。
最初は、か細い吐息のような音だった。だが、それはすぐに旋律となり、古びた本堂の空気を震わせ始める。
「……」
義経は、最初は驚いたような顔をしていた。だが、芹亜の声が高くなるにつれ、その表情から少年らしい無邪気さが消えていった。代わりに浮かんだのは、どこか遠くを見つめる、寂しげな眼差しだ。
「君は……わかるのかい?」
義経が呟く。
「勝てばすべてが届くと思っていた。一ノ谷も、屋島も、壇ノ浦も。僕が勝てば、きっと兄上は喜んでくれるって……」
芹亜は歌うのを止めなかった。ただ、一歩踏み出し、義経の手をそっと握った。その手は震えている。怖いのだ。歴史の偉人に触れることなど、彼女にとってはまだ重すぎる。それでも、彼女は逃げなかった。
「でも、勝つたびに僕のそばから人はいなくなった。功績は怨みに変わり、信じていた兄上に追われる身になった……なぜ? 僕はただ、兄上に認めてもらいたかっただけなのに」
義経の声が震える。その瞬間、彼の周囲の空気が変わった。剣呠な武将の気配は消え、ただ、兄の愛を求めて孤独に死んだ一人の少年の霊だけが残った。
「うわああああっ!」
義経が泣いた。平安の装束が風もないのに揺れ、彼の頬から涙がこぼれ落ちる。それは、何百年も封じ込められていた本音の涙だった。
芹亜は、その涙を見ても逃げなかった。逆に、義経の手を両手で包み込むように握りしめ、さらに力強く歌い上げる。
「あなたのこと、歴史の一行だけで終わらせたくない」
歌の中に、芹亜の言葉が混じる。
「あなたの悲しみも、未練も、全部私が受け止めるから」
義経が顔を上げた。涙で濡れた顔で、芹亜を見つめる。そこにはもう、迷いはなかった。
「芹亜……」
「歌っておくれ、義経さん。あなたが置き去りにしてきた思いも、消えない業も――私の歌なら受け止められるから」
その言葉に、義経はふっと笑った。さっきまでの強がりでもなく、心からの安堵に満ちた笑顔だった。
「ありがとう。君の歌、悪くないね」
義経の姿が、淡い光に包まれていく。光は芹亜の胸元へと吸い込まれていった。ジャンヌの時と同じだ。だが、今回はもっと自然で、穏やかな融合だった。
芹亜が目を閉じ、深く息を吸い込む。そして、ゆっくりと目を開けた。その瞳の奥には、確かに義経の意志が宿っていた。
「……終わった、みたいですね」
芹亜が呟くと、台座の刀が静かに光を失った。もう、あの禍々しい黒い霧は立ち上っていない。ただの古い刀に戻ったのだ。
「ふん、柄にもねえ感動ドラマだな」
俺はわざと毒づいて見せた。だが、内心は違う。こいつの歌は、ただ相手を鎮めるだけじゃねえ。相手の痛みごと抱え込んで、共に歩む道を選ぶ。そんな歌だ。
「へえ、やるじゃない」
角乃が腕を組みながら感心したように言う。
「ハイクラス名探偵の助手としては、まだまだ半人前だけど、そっちの方面なら一人前ね」
「助手じゃねえっての」
俺は肩をすくめた。
「すごい……」
杏子が目を輝かせて芹亜を見ている。
「あんな風に、誰かの心に届く歌が歌えるなんて、素敵です!」
芹亜は少し照れくさそうに笑った。その表情は、いつもの怖がりな少女に戻っていたが、どこか芯が強くなったように見えた。
「さて、と」
俺は刀を手に取った。
「これを爺さんに返して、俺たちの仕事は終わりだ。あとの小難しい話は、雪庭に任せようぜ」
「そうね。私はお風呂に入りたいわ。泥だらけだし!」
角乃が不満げに言う。
「あ、私もお腹空きました!」
杏子が手を挙げる。
「瑠衣も、お腹空いた」
瑠衣が小さく頷く。
俺たちは連れ立って庫裡へと向かった。背後には、静まり返った本堂と、穏やかな空気を纏った刀が残っていた。