ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「ナイチンゲール…!」
芹亜が息を呑んだ。その名前に俺はピンと来なかったが歴史バカの彼女にとっては息をするより自然な反応らしい。
「白衣の天使、そして統計学の母。クリミア戦争で活躍した看護師の…」
芹亜の言葉に呼応するように気絶した奈緒の身体から白い光がふわりと浮き上がった。光が収束していくとそこにはランプを持つ一人の女性の姿があった。だがその姿は聖女というよりは戦場を駆ける将軍のような鋭さを纏っている。
「その通りだ。私がフローレンス・ナイチンゲール」
声は静かだった。だがその奥には押し殺した激情が渦巻いている。
「なんで暴走してたんだ? てめえみたいなのがなんでこんな廃遊園地で暴れてた?」
俺が問うとナイチンゲールはランプを握りしめた。
「この世界の業だ。あまりにも汚れている。病原も不潔も不幸も全てが混ざり合い澱んでいる。それを見ているだけで消さずにはいられなかった」
彼女の目がぎらりと光る。そこには狂気が近づいていた。
「衛生こそが全て。不潔なものは排除し清潔な世界を作らねばならない。その強迫観念が…奈緒の使命感と共鳴してしまったのだ」
「奈緒ちゃんはね、誰よりも患者のことを想って看護師になったのよ」
凛空が気絶したままの奈緒の髪を撫でながら言った。その声には後輩への誇りと哀れみが混じっている。
「だからこそ引きずられた。彼女の『全てを救いたい』という願いが、私の『不浄を焼き払いたい』という怨念と結びついてしまったのだ」
ナイチンゲールはきつく目を閉じた。
「彼女は優秀だ。私の力を受け入れ操ろうとした。だが人間の器には限界がある。結果彼女は私の『浄化』の衝動に飲まれ廃墟の公園ごと焼き払おうとした」
なるほどな。奈緒の想いは本物だったがゆえにナイチンゲールの狂気を増幅させちまったってわけか。皮肉なもんだ。
「…もう大丈夫です」
芹亜が一歩踏み出した。まだ少し足が震えている。だがその目は真っ直ぐナイチンゲールを見つめていた。
「あなたの『清めたい』という気持ちも、奈緒さんの『救いたい』という気持ちも、どっちも本物です。でも今はもう暴れなくていいんです」
芹亜が優しく両手を差し出す。
「あなたのそのランプの火を私に預けてくれませんか?」
ナイチンゲールが目を見開いた。
「あなたに?」
「はい。私の歌ならその熱を燃やし尽くさずに小さな灯りにできますから」
その言葉にナイチンゲールはふっと笑った。それは戦場の将軍ではなくただの一人の女性の笑顔だった。
「君は不思議な子だな。まるで私の患者のようだ」
彼女は奈緒の横に膝をつき頬に触れた。
「ありがとう奈緒。君のおかげで多くの不浄を清められた。だがもう休んでいい。君の身体はもう限界だ」
奈緒は意識がないまま小さく頷いた気がした。
「私は君と共にいたかった。だがこのままだと君を殺してしまう。だから…」
ナイチンゲールは立ち上がり芹亜に向き直った。
「君の力になりたい。その歌声で戦場を駆ける許可をくれ」
「はい! 歓迎しますナイチンゲールさん!」
芹亜が力強く頷くとナイチンゲールの姿が白い光に変わった。ランプの炎だけが一瞬強く燃え上がりそしてふわりと芹亜の胸元へと吸い込まれていく。
ジャンヌ義経に続いて三人目のゴーストだ。ちびまる子ちゃんじゃねえんだから大所帯になってきたな。
「ふう…」
芹亜が胸に手を当てて深く息を吐いた。その顔には疲れが見えるが安堵の色が濃い。
「奈緒ちゃん、起きなさい」
凛空が奈緒の頬を軽く叩いた。
「うう…先輩? 私…」
奈緒が目を覚ました。その目にはもう狂気の色はない。ただの疲れ切った看護師の目だ。
「大丈夫よ。全部終わったわ」
凛空が優しく微笑む。
「あなたの看護はここからよ。まずは自分の身体を休めなさい」
奈緒は涙を浮かべて頷いた。
俺はテガソードを鞘に収め闇に沈む観覧車を見上げた。まだ夜は長い。だがこの廃遊園地を包んでいた狂気の霧は晴れたようだ。