ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
夜が、重かった。
寺の廊下を歩く足音がやけに大きく響く。俺はふと、芹亜の部屋の前で足を止めた。いつもなら、この時間帯は彼女の歴史の本をめくる音が聞こえるはずだ。だが今夜は、静かすぎる。
「芹亜? まだ起きてるか?」
返事はない。もう寝たか。そう思いかけた時、中から微かな音が聞こえた。うなされ声だ。それも、ただの寝言じゃねえ。まるで喉を押さえられながら叫ぼうとしているような、苦しげな声。
「芹亜!」
俺は扉を開けた。
布団の中で芹亜が苦悶の表情を浮かべている。その顔は蒼白で、額に冷や汗がびっしりと浮かんでいる。口がパクパクと何かを訴えているが、声が出ていない。
「おい! 芹亜! 起きろ!」
肩を揺さぶる。だが、目を覚まさない。まるで、夢の中に鎖で繋がれているみたいだ。
「チッ、どういうことだ…」
俺は舌打ちし、芹亜の顔を覗き込んだ。その瞬間、胸の奥で何かがざわついた。ゴジュウウルフの勘じゃねえ。もっと別の、内側から湧き上がるような違和感。
『吠さん…』
声が聞こえた。芹亜の声じゃない。だが、芹亜の中から聞こえる。
『彼女の夢が、侵されている』
ジャンヌだ。
『夢の中で歌おうとするたびに、黒い影がそれを阻んでいる。声を奪われているのだ』
「夢の中で歌を…? 誰がやってるんだ?」
『わからぬ。だが、彼女の歌声が封じられているのは確かだ。あの子の魂ごと』
次いで、義経の声が重なる。
『面白くないね。僕の歌姫が誰かに絡まれてるっていうなら、助けに行くのが筋だろう?』
「夢の中に入れってか? バカ言え。俺は夢の渡り方なんて知らねえよ」
『あら、それは問題ないわ』
ナイチンゲールの声が、静かに響いた。
『あなたの持っている指輪の中に、夢と現実の境界を渡れる力があるはずよ』
夢と現実の境界。俺はポケットの中を探った。指先が触れたのは、冷たい金属の感触。取り出したのは、見慣れぬ意匠が刻まれたライダーリング。黒と白、そしてデジタルな光の線が走るデザイン。
「これは…」
『その指輪は、夢と現実を繋ぐ橋を架ける力を持つ。仮面ライダーゼッツ。彼の力なら、芹亜の夢へ潛入できるはずだ』
ナイチンゲールの言葉に、俺は息を呑んだ。ゼッツ。仮面ライダーゼッツ。夢を現実にする、あるいは現実を夢にする力。そういうライダーだったか。
「食えねえ爺さんだぜ、雪庭のやつ…」
あの坊主、俺にお守りだとか言って、いろんなリングを仕込んでやがったな。だが今は、それに感謝するしかねえ。
俺はテガソードを掲げ、ゼッツのライダーリングを装填した。
「エンゲージ!」
『ライダーリング! ゼッツ!』
テガソードが激しく振動し、黒と白の光が爆発的に噴き出す。全身に走る衝撃は、今までのどんな変身とも違った。身体が軽くなるというか、重力から解き放たれるような浮遊感。視界が歪み、現実の輪郭が溶けていく。
『クラップユアハンズ! ゼッツ!』
変身音声が響き渡ると同時に、世界が反転した。
降り立ったのは、灰色の砂漠だった。
空も地面も、すべてがセピア色に染まっている。まるで古い写真の中に放り込まれたみたいだ。遠くに、歪った遊園地のシルエットが見える。だがさっきの廃遊園地じゃねえ。もっと抽象的で、不安定な、夢特有の不安な景色だ。
「ここが…芹亜の夢の中か」
俺は自分の手を見た。黒と白の装甲が纏われている。ゼッツの力は夢の中でこそ本領を発揮するらしい。だが、感覚は鈍っていない。むしろ、現実よりも鋭くなっている気がする。
「芹亜!」
叫ぶ声は、砂漠に吸い込まれていく。だが、遠くから微かな音が聞こえた。歌だ。か細く、途切れ途切れの、でも必死に歌おうとしている声。
「あっちか!」
俺は砂漠を蹴った。ゼッツの脚力が、現実とは比べ物にならないほど軽快に身体を運ぶ。砂丘を越え、歪んだ遊園地の跡地へ。
そこにいたのは、芹亜だった。
だが、様子がおかしい。彼女は膝をつき、喉を押さえながら必死に口を開いている。声が出ていない。歌おうとするたびに、彼女の口から黒い影が溢れ出し、声を飲み込んでいく。
「芹亜!」
俺は駆け寄ろうとした。だが、足が止まった。
芹亜の周囲に、黒い影が渦巻いていた。影が、人の形を取る。黒いマントを纏い、サングラスをかけた…いや、違う。それは影そのものだ。輪郭が定まらない。だが、確かにそこに誰かがいる。
「ようこそ、夢の世界へ」
声が響いた。低く、平坦で、感情の抜け落ちた声。
「ここは私の庭だ。夢を見る者の墓場であり、歌を奪う者の楽園だ」
影が、ゆっくりとこちらを向く。
「夢なんかじゃ上がらない。悪夢なんて下らない。歌いたいという願望こそが、人間の最も愚かな症状だ」
俺はテガソードを構えた。こいつが芹亜の声を奪っている犯人か。だが、正体がわからねえ。仮面ライダーか? それとも、ただの怨霊か?
「てめえ、何者だ」
俺の問いに、影は微かに笑ったような気がした。
「名乗る必要はない。あなたはただの侵入者だ。夢の中で私を止めることはできない」
「やってみなきゃわかんねえだろ!」
俺は地を蹴った。ゼッツの力を信じて、テガソードを振り抜く。
だが、刃が影を切り裂いた瞬間、影は霧のように散り、すぐ背後で再構成された。
「無駄だ。夢の中では、私がルールだ」
背後からの衝撃。俺は砂漠へ叩きつけられた。
「ぐっ…!」
痛みはある。だが、現実の痛みとは違う。夢の中の痛みは、精神への直接攻撃だ。
「芹亜、起きろ!」俺は叫んだ。「おい、歌え! 歌い続けろ!」
芹亜が顔を上げた。その瞳に、微かな光が宿る。
「吠…さん…?」
「そうだ! 俺だ! 歌え、芹亜! てめえの声は誰にも奪わせねえ!」
その言葉に、芹亜の口から震える旋律が漏れ始めた。か細く、弱々しい。だが、確かに歌だ。
影が、初めて狼狽した。
「歌うな。歌えば、夢が壊れる」
「壊してやるよ! てめえのルールも、この夢も、全部ぶっ壊してやる!」
俺は立ち上がり、テガソードを握り直した。芹亜の歌が、少しずつ強くなっていく。胸元の中にいる三人の偉人が、その歌声に共鳴し始めているのがわかる。
「夢の中だろうが何だろうが、俺の仲間の声を奪う奴は許さねえ」
俺はゼッツの力をテガソードへ注ぎ込んだ。黒と白の光が刃を包み込み、夢の法則そのものを切り裂くような気配が放たれる。
「これが、俺の流儀だあっ!」