ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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夢の白

テガソードを振り抜く。黒と白の光が刃を包み込み、夢の法則そのものを切り裂くような気放ちが放たれた。

 

「これが、俺の流儀だあっ!」

 

刃は空を切った。

 

影は既に背後にいた。まるで最初からそこにあったかのように。俺の視線が影を捉えた時には、肋骨に鈍い衝撃が走っていた。

 

「遅い」

 

その声は耳元で聞これた。ゼッツの装甲が悲鳴を上げ、背中から砂漠へ叩きつけられる。セピア色の砂が舞い上がり視界を埋め尽くす。

 

「ぐっ…!」

 

痛みはある。だが現実の痛みとは違う。夢の中の痛みは神経を経由せず、精神の芯を直接叩り据える。骨が軋むような感覚が脳の奥底まで浸透していく。嘔吐感が喉を突き上げた。

 

俺は片肘を砂に突っ立て体を起こそうとした。その判断は悪くなかった。だが、足元の砂が忽然と泥に変わった。

 

「なっ…」

 

泥が足首を捕らえる。冷たく重たい。現実の泥とは違う。これは夢そのものの粘度だ。膝まで這い上がってくる。

 

「夢は自由だ。だがその自由は、私が支配している」

 

影の声が左右同時に響く。姿が見えない。いや見えているのに捉えられない。視界の端に影が揺らぐたびに首をひねるが、そこには何もいない。俺のゼッツの力を使っても、影の存在を掴み取れない。まるで影そのものが法則化しているような、不条理な存在感だ。

 

「ふざけやがって…!」

 

テガソードを振るおうとした。だが腕に力が入らない。泥が膝を超え腰に達しようとしている。ゼッツの装甲が軋み、ひび割れ始めた。

 

(くそ…ゼッツの力でも捉えきれねえのか)

 

夢の中で無敵と呼べるはずのゼッツの力が、ここでは借り物に過ぎないらしい。相手が夢そのものを支配している以上、夢を渡る力だけでは足りない。そのことに気づいた時、背筋に冷たいものが走った。

 

「芹亜! 歌え!」

 

俺は叫んだ。芹亜の歌声がこの夢の法則を歪める唯一の武器だ。あいつの声が届けば、夢の支配に綻びが生まれるはずだ。

 

だが。

 

「歌うな」

 

影が指を鳴らした。その音は小さかった。だが夢の中でその音は物理的な衝撃となって響き渡った。芹亜の口から溢れていた旋律が、断ち切られた。彼女の喉を黒い霧が塞ぎ声を物理的に封じ込めていく。

 

「ぁ…ぁ…」

 

芹亜が喉を押さえて苦しむ。その瞳が虚空を見つめ光が薄れていく。胸元に宿っていた三人の偉人の気配も黒い霧に飲み込まれ始めていた。ジャンヌの聖旗も義経の刀もナイチンゲールのランプも、すべてが闇に沈んでいく。

 

「歌は不要だ。夢の中で歌いたいという願望こそが人間の最も愚かな症状だ」

 

影の声に初めて感情が混じった。それは軽蔑だ。

 

「だから私は処分する。その歌声もその魂も」

 

「やめろ…!」

 

俺は歯を食いしばり泥の中でテガソードを握りしめた。だが指先から力が抜けていく。握ることさえままならない。ゼッツの装甲のひび割れが広がり肘から先が重みを失っていく。

 

(どうすりゃいい…)

 

夢の中。こいつのルール。こいつの庭。俺の力じゃどうにもならねえのか。ジャンヌの声も、義経の声も、ナイチンゲールの声も、もう聞こえない。芹亜の歌声も消えた。残されたのはセピア色の砂漠と俺を締め上げる泥と黒い影の嘲笑だけだ。

 

「終わりだ。夢から覚めることはない」

 

影が手を振り上げた。その手から黒い光が収束する。歪んだ光が俺の頭上に影を落とし振り下ろされようとした。

 

死ぬのか。夢の中で。

 

借りも返せてねえのに。芹亜も守れねえまま。俺はただの野良犬だ。野良犬が夢の中で殺される。笑えねえ冗談だ。

 

俺は目を閉じた。

 

その時だった。

 

空が割れた。

 

正確には空から何かが降ってきた。巨大な青白い塊が。隕石みたいな速度で俺と影の間に叩きつけられた。

 

ドゴォォンッ!

 

衝撃波が砂漠を爆裂させた。泥も影も黒い光も全部吹き飛ばされる。俺は地上へ弾き出されセピア色の砂の上を転がった。肩を打ち付けた痛みが肺の空気を絞り出す。

 

「な…なんだ…?」

 

砂煙が舞い上がる中、その中心に鎮座していたのは巨大な氷塊だった。真冬の氷河から切り出したみたいに青白く夢のセピア色の空気を凍てつかせている。周囲の砂が一瞬で霜に変わる。足元の泥がカチカチに固まり俺の足を解放した。冷気が頬を刺し、肺に入る空気が氷のように冷たい。

 

ただの氷じゃねえ。夢の法則すら凍らせている。それがわかったのは、さっきまで俺を縛り付けていた泥が、ただの硬い氷塊に変わっていたからだ。

 

「何者だ!」

 

影が叫んだ。初めてその声に動揺が混じった。氷塊の冷気が影の輪郭を侵食し始めている。影の足元が霜に覆われ、移動速度が鈍るのが見えた。

 

氷塊に亀裂が走る。バキッ。バキバキッ。砕け散る氷の破片がセピア色の空気を切り裂きながら舞い上がる。その中から一人の男が姿を現した。

 

黒い髪。鋭い目つき。だが何よりも目を引いたのは左腕が肩から先、何もないことだった。袖が空虚に揺れている。右腕だけの人間が、氷塊の中から現れたのだ。

 

男は余裕たっぷりの笑みを浮かべ、欠けた左肩をぽんと叩いた。

 

「二代目、てえへんぼりだな」

 

低く、豪快で、人を食ったような声。俺は痛む肩を押さえながら顔を上げた。

 

「…真白っなんでここにっ」

 

「ふっ、神である俺様に不可能だと思っているのか」

 

「邪魔をするな。ここは私の夢だ」

 

影が苛立ったように叫ぶ。その声に先ほどまでの余裕がない。氷の冷気に輪郭を侵食され足元が霜に覆われているのが見える。

 

真白は鼻で笑った。

 

「夢? だから何だ? 夢の中だろうが関係ねえ! 俺様の拳がルールだ!」

 

男は右手で何かを握りしめた。拳型の武器。グーデバーンだ。その表面に白と水色のセンタイリングがはめ込まれる。

 

「エンゲージ!」

 

真白が叫ぶと同時にグーデバーンが激しく振動した。ウォーミングアップのモーションが始まる。右手を引いてターン、そして拳を突き上げる。その拳が空中の氷を砕くように打ち抜いた時、白と水色の装甲が爆発的に展開した。

 

『ゴジュウポーラー!』

 

変身音声が響き渡り夢の砂漠を白銀の冷気が覆い尽くす。シロクマの意匠を纏った戦士がそこに立っていた。左腕がないままでもその存在感は圧倒的だ。氷を拳で砕く変身の余韻が夢の空気そのものを凍らせている。

 

影が攻撃を仕掛けた。黒い光の奔流が真白へ向かって殺到する。だが真白は動かなかった。いや、動く必要がなかった。黒い光が真白の目の前まで届いた瞬間、白銀の冷気が壁のように立ち上がり光を凍らせて砕いた。砕けた氷の破片がセピア色の空に散る。

 

「軽いな。夢の力ってのはこんなもんか?」

 

真白は軽快なステップで影との間合いを詰めた。右のジャブ。影が回避しようと体をずらすが、霜に覆われた足場が滑り回避が半歩遅れる。その半歩の遅れを真白は見逃さなかった。

 

ドガッ!

 

右ストレートが影の腹部にめり込んだ。物理的な拳圧が影の輪郭を歪ませる。夢の中で無敵を自称した奴が物理的な拳の一撃で弾き飛ばされたのだ。影が砂漠を転がり、起き上がろうとした瞬間、その足場が氷に変わる。真白の周囲の砂漠がことごとく氷の平原に書き換えられていく。

 

「なっ…夢の法則が…」

 

影の声に初めて狼狽が混じった。自分の支配しているはずの夢の法則が、別の力に侵食され始めているのだ。

 

「法則? 俺様が法則だ」

 

真白は右だけでグーデバーンを構え直した。左腕のない肩を前に向け体を半分ひねるボクシングの構え。その構えができるだけで、影の攻撃軌道が見えるようになる。右腕一本だがその分、体重の乗せ方が洗練されている。

 

「夢の中だろうが関係ねえ。俺様の拳が届く場所、全てが俺様の領域だぜ」

 

ジャブ、ジャブ、そして右ストレート。三連打が影の輪郭を削り取っていく。每一撃に氷の冷気が纏わり影の姿が少しずつ薄くなっていく。

 

真白が影を殴り飛ばしながら、俺の方を振り向きもせず言った。

 

「なに寝転がって見てるんだ二代目」

 

その声は苛立ちではなく挑発だった。俺の目を見ないまま影を殴り続けながら言葉を投げてくる。

 

「見せ場を奪われたくなけりゃ拳を握れ。お前のその剣、飾りじゃねえんだろ?」

 

拳を握れ。そう言われて俺は自分の手を見た。ゼッツの装甲がひび割れ泥に汚れた手。だがまだテガソードは握れる。まだ立てる。さっきまで俺を縛っていた泥は、真白の冷気で固まって砕け散っていた。

 

俺はテガソードを握り直した。ゼッツの力が再び刃に灯る。ひび割れた装甲の隙間から光が漏れるが、まだ使い物になる。

 

「芹亜、待ってろ。今助ける」

 

俺は氷の平原を蹴り真白の隣に並んだ。左腕のない先代とひび割れた二代目。無様な組み合わせだ。だがやるしかねえ。芹亜の歌声はまだ封じられたままだ。だがあいつが時間を稼いでくれている今、俺にできることがあるはずだ。

 

「いい度胸だ二代目」

 

真白がニヤリと笑った。その笑みが妙に頼もしく見えたのは気のせいじゃねえだろう。

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