ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「まだあるのか」
ゼッツの声が、初めて少しだけ低くなる。
「こっちは狩るもんが多いんでな」
俺はライダーリングを抜き、迷いなくテガソードへ装填した。
『ライダーリング! ファイズ! COMPLETE』
音声が鳴る。
次の瞬間、鎧武の果実めいた装甲がひび割れるみたいにほどけた。橙の意匠が砕け、剥がれ、光の粒になって離れていく。だが、その下のゴジュウウルフは消えない。あくまで上に重なっていた力だけが剥がれ落ちる。
そこへ、別の光が走った。
赤い線。
細く、鋭く、迷いなく。
全身の輪郭をなぞるように、赤い光が骨格を描き出す。黒い装甲がその線を追うように組み上がり、灰色のフレームが噛み合う。まるで無機質な鎧が、身体の上で一瞬ずつ完成していくみたいだった。
視界が締まる。
音が遠のく。
世界の輪郭だけが妙にはっきりする。
俺の身体を、冷たい赤が走り抜けた。
「……いい」
思わずそう漏れた。
鎧武の荒々しさとは違う。こっちはもっと硬い。もっと研ぎ澄まされている。踏み込むための獣じゃない。一直線に獲物を穿つ刃そのものみたいな感覚だった。
そして――
左腕に、ずしりと何かが現れる。
「っ?」
視線を落とす。
いつの間にか、俺の左腕にはリストウォッチが巻かれていた。見覚えのない形じゃない。あのファイズの力に触れた時から、どこかで引っかかっていた加速の予感。その答えみたいに、赤い機構が腕へ噛み合っている。
ファイズアクセル。
俺のリングと、ファイズの力が共鳴したように、それは当然みたいにそこにあった。
ゼッツの気配が僅かに張る。
「追加装備まで引き出すのか」
「追加装備ってのは、よく分からない」
俺は左腕の感触を確かめながら、口の端を吊り上げた。
「さあな。だが――」
右手を構える。
全身を走る赤いラインが、彷霊界の薄闇の中で冷たく光る。
「今度は、逃がさねえ」
左腕のリストウォッチへ指をかける。
次の瞬間、俺は迷いなく、そこにあるメモリーを腰にあるメモリーと入れ替える。。
『COMPLETE』
低く、研ぎ澄まされた音声が鳴り響く。
それと同時に、全身を走っていた赤い光が一気に膨れ上がった。熱じゃない。もっと鋭くて、骨の内側を直接焼き切るみたいな加速の衝撃。視界の輪郭が細く締まり、彷霊界の空気そのものが、急に遅れて見えた。
「――っ!」
身体の表面で、ゴジュウジャーの装甲が弾ける。
肩口。腕。胸元の一部。外殻だけが耐えきれず吹き飛ばされるみたいに剥がれ落ちた。赤い火花を散らしながら砕けた装甲の下から、より細く、より無機質な輪郭が露出する。
赤いラインが奔る。
黒い装甲が締まる。
灰色のフレームが、加速のためだけに組み替わっていく。
獣じみた荒々しさを残したまま、その上へ冷たい機械の速度が噛み合った。音が遠のく。風が止まる。いや、止まったんじゃない。俺だけが、その先へ踏み込んだんだと分かる。
左腕のリストウォッチが、短く脈打つ。
左腕のファイズアクセルへ、指を叩き込む。
『Start up』
起動音が鳴った瞬間、全身の奥で何かが爆ぜた。
「っ――!?」
熱じゃない。衝撃に近い。骨の芯へ、速度そのものを無理やり流し込まれたみたいな感覚だった。視界の端が細く擦れ、彷霊界に漂っていた霧も、ゼッツのまとう夢じみた気配も、一瞬で置き去りになる。
速い。
いや、速すぎる。
自分で踏み込むより先に、身体が前へ出ていた。地面を蹴った感触すら曖昧なまま、俺はもうゼッツの眼前へ飛び込んでいる。
「なっ――」
ゼッツの驚きが、ひどく遅い。
その遅さごと切り裂くように、俺はテガソードを振るった。赤い残光が一線となって走り、ゼッツの前へ引き伸ばされた影の幕を、装甲ごとまとめて断ち割る。
斬り抜けた瞬間にはもう背後だ。
振り向こうとする動きが、やけにのろく見える。霧を帯みたいに引いて絡め取ろうとした腕も、伸び切る前に横薙ぎの一閃で弾き飛ばした。
違う。
今までの加速とは、まるで違う。
ガヴの跳躍も、鎧武の踏み込みも、速いというより獣じみた勢いだった。だがこれは違う。もっと冷たい。もっと一直線だ。狙った場所へ最短で届いて、そのまま次へ繋がる。まるで自分が一本の刃になったみたいだった。
「このっ……!」
ゼッツが空間を引く。
背後の霧が幕になり、足元の影が帯になり、左右の景色そのものが布みたいにたわんで俺を呑み込もうとする。
けれど遅い。
あまりにも遅い。
俺は踏み込み、斬り、抜ける。右へ。左へ。正面から懐へ潜り込み、次の瞬間には頭上から落ちる。ゼッツの周囲で夢の小道具みたいに引きずり出されたものが、形になる前に全部切り裂かれていく。
『3……2……1……』
響き始めた音声に、そこで初めて眉をひそめた。
「は?」
カウントだ。
しかも妙に短い。嫌な感じがする。加速の熱はまだ全身を満たしているのに、その奥で何かが急かしてくる。早く終わらせろと、機械みたいな声が神経へ食い込んでくる。
まさか。
時間制限か。
「ちっ……!」
分かった瞬間、焦りが胸を焼いた。
こんな速度を、いつまでも維持できるわけがないとは思っていた。だが、思っていたより短い。夢だの影だの、鬱陶しい手品に付き合ってる暇はねえ。
なら、さらに前へ出るだけだ。
「逃がすかよ!」
吠えながら、俺はもう一度ゼッツへ突っ込んだ。
ゼッツの目がようやく俺を捉える。だが遅い。ブレイカムゼッツァーを構え直した時には、俺の斬撃がもうその腕を叩いていた。受け止めた衝撃で体勢がずれる。その隙間へ踏み込み、返す刃で肩口を裂く。
ゼッツが後退する。
影を引く。霧を捲る。景色を歪める。
全部まとめて斬り飛ばす。
「何だ、この速さは……!」
「今さらかよ!」
叫び返し、さらに加速する。
肺が焼ける。脚が軋む。左腕のアクセルが短く脈打つたび、残り時間が削られていくのが感覚で分かる。長くは保たない。だったら、その前に噛み砕く。
俺はテガソードを深く構えた。
加速の熱が刃へ集まる。赤いラインが唸る。ゴジュウウルフの獣じみた殺気と、ファイズアクセルの冷たい速度が一点へ噛み合った。
『ウルフソードフィニッシュ!』
テガソードの音声が、鋭く鳴った。
もう迷わない。
俺は真正面から地を蹴った。
いや、蹴るというより世界を置き去りにした。視界が痩せる。ゼッツだけが、獲物みたいにくっきり浮かび上がる。その背後へ、銀色の狼の幻影が現れた。俺の加速と牙が形になったみたいに、巨大な狼が口を開く。
「噛み砕けぇっ!!」
斬る。
飛び込む。
銀色の狼が、俺の一撃と重なってゼッツへ喰らいつく。
装甲が軋む。影が裂ける。夢ごと食い破るみたいに、ゼッツの身体が真正面から吹き飛んだ。遅れて轟音が走り、彷霊界の空気がまとめて震える。
俺はそのまま斬り抜け、数歩先で着地した。靴底が地面を抉る。呼吸が荒い。左腕の機構が焼けるみたいに熱い。
『Time out』
音声が、静かに終わりを告げる。
その瞬間、張り詰めていたものを全部吐き出すみたいに、俺は天へ向かって吠えた。
「――オオオオオオオオオッ!!」
勝利の雄叫びが、彷霊界の薄い空を震わせた。