ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

13 / 32
ウルフシンパシー

「まだあるのか」

 

 ゼッツの声が、初めて少しだけ低くなる。

 

「こっちは狩るもんが多いんでな」

 

 俺はライダーリングを抜き、迷いなくテガソードへ装填した。

 

『ライダーリング! ファイズ! COMPLETE』

 

 音声が鳴る。

 

 次の瞬間、鎧武の果実めいた装甲がひび割れるみたいにほどけた。橙の意匠が砕け、剥がれ、光の粒になって離れていく。だが、その下のゴジュウウルフは消えない。あくまで上に重なっていた力だけが剥がれ落ちる。

 

 そこへ、別の光が走った。

 

 赤い線。

 

 細く、鋭く、迷いなく。

 

 全身の輪郭をなぞるように、赤い光が骨格を描き出す。黒い装甲がその線を追うように組み上がり、灰色のフレームが噛み合う。まるで無機質な鎧が、身体の上で一瞬ずつ完成していくみたいだった。

 

 視界が締まる。

 

 音が遠のく。

 

 世界の輪郭だけが妙にはっきりする。

 

 俺の身体を、冷たい赤が走り抜けた。

 

「……いい」

 

 思わずそう漏れた。

 

 鎧武の荒々しさとは違う。こっちはもっと硬い。もっと研ぎ澄まされている。踏み込むための獣じゃない。一直線に獲物を穿つ刃そのものみたいな感覚だった。

 

 そして――

 

 左腕に、ずしりと何かが現れる。

 

「っ?」

 

 視線を落とす。

 

 いつの間にか、俺の左腕にはリストウォッチが巻かれていた。見覚えのない形じゃない。あのファイズの力に触れた時から、どこかで引っかかっていた加速の予感。その答えみたいに、赤い機構が腕へ噛み合っている。

 

 ファイズアクセル。

 

 俺のリングと、ファイズの力が共鳴したように、それは当然みたいにそこにあった。

 

 ゼッツの気配が僅かに張る。

 

「追加装備まで引き出すのか」

 

「追加装備ってのは、よく分からない」

 

 俺は左腕の感触を確かめながら、口の端を吊り上げた。

 

「さあな。だが――」

 

 右手を構える。

 

 全身を走る赤いラインが、彷霊界の薄闇の中で冷たく光る。

 

「今度は、逃がさねえ」

 

 左腕のリストウォッチへ指をかける。

 

 次の瞬間、俺は迷いなく、そこにあるメモリーを腰にあるメモリーと入れ替える。。

 

『COMPLETE』

 

 低く、研ぎ澄まされた音声が鳴り響く。

 

 それと同時に、全身を走っていた赤い光が一気に膨れ上がった。熱じゃない。もっと鋭くて、骨の内側を直接焼き切るみたいな加速の衝撃。視界の輪郭が細く締まり、彷霊界の空気そのものが、急に遅れて見えた。

 

「――っ!」

 

 身体の表面で、ゴジュウジャーの装甲が弾ける。

 

 肩口。腕。胸元の一部。外殻だけが耐えきれず吹き飛ばされるみたいに剥がれ落ちた。赤い火花を散らしながら砕けた装甲の下から、より細く、より無機質な輪郭が露出する。

 

 赤いラインが奔る。

 

 黒い装甲が締まる。

 

 灰色のフレームが、加速のためだけに組み替わっていく。

 

 獣じみた荒々しさを残したまま、その上へ冷たい機械の速度が噛み合った。音が遠のく。風が止まる。いや、止まったんじゃない。俺だけが、その先へ踏み込んだんだと分かる。

 

 左腕のリストウォッチが、短く脈打つ。

 

 左腕のファイズアクセルへ、指を叩き込む。

 

『Start up』

 

 起動音が鳴った瞬間、全身の奥で何かが爆ぜた。

 

「っ――!?」

 

 熱じゃない。衝撃に近い。骨の芯へ、速度そのものを無理やり流し込まれたみたいな感覚だった。視界の端が細く擦れ、彷霊界に漂っていた霧も、ゼッツのまとう夢じみた気配も、一瞬で置き去りになる。

 

 速い。

 

 いや、速すぎる。

 

 自分で踏み込むより先に、身体が前へ出ていた。地面を蹴った感触すら曖昧なまま、俺はもうゼッツの眼前へ飛び込んでいる。

 

「なっ――」

 

 ゼッツの驚きが、ひどく遅い。

 

 その遅さごと切り裂くように、俺はテガソードを振るった。赤い残光が一線となって走り、ゼッツの前へ引き伸ばされた影の幕を、装甲ごとまとめて断ち割る。

 

 斬り抜けた瞬間にはもう背後だ。

 

 振り向こうとする動きが、やけにのろく見える。霧を帯みたいに引いて絡め取ろうとした腕も、伸び切る前に横薙ぎの一閃で弾き飛ばした。

 

 違う。

 

 今までの加速とは、まるで違う。

 

 ガヴの跳躍も、鎧武の踏み込みも、速いというより獣じみた勢いだった。だがこれは違う。もっと冷たい。もっと一直線だ。狙った場所へ最短で届いて、そのまま次へ繋がる。まるで自分が一本の刃になったみたいだった。

 

「このっ……!」

 

 ゼッツが空間を引く。

 

 背後の霧が幕になり、足元の影が帯になり、左右の景色そのものが布みたいにたわんで俺を呑み込もうとする。

 

 けれど遅い。

 

 あまりにも遅い。

 

 俺は踏み込み、斬り、抜ける。右へ。左へ。正面から懐へ潜り込み、次の瞬間には頭上から落ちる。ゼッツの周囲で夢の小道具みたいに引きずり出されたものが、形になる前に全部切り裂かれていく。

 

『3……2……1……』

 

 響き始めた音声に、そこで初めて眉をひそめた。

 

「は?」

 

 カウントだ。

 

 しかも妙に短い。嫌な感じがする。加速の熱はまだ全身を満たしているのに、その奥で何かが急かしてくる。早く終わらせろと、機械みたいな声が神経へ食い込んでくる。

 

 まさか。

 

 時間制限か。

 

「ちっ……!」

 

 分かった瞬間、焦りが胸を焼いた。

 

 こんな速度を、いつまでも維持できるわけがないとは思っていた。だが、思っていたより短い。夢だの影だの、鬱陶しい手品に付き合ってる暇はねえ。

 

 なら、さらに前へ出るだけだ。

 

「逃がすかよ!」

 

 吠えながら、俺はもう一度ゼッツへ突っ込んだ。

 

 ゼッツの目がようやく俺を捉える。だが遅い。ブレイカムゼッツァーを構え直した時には、俺の斬撃がもうその腕を叩いていた。受け止めた衝撃で体勢がずれる。その隙間へ踏み込み、返す刃で肩口を裂く。

 

 ゼッツが後退する。

 

 影を引く。霧を捲る。景色を歪める。

 

 全部まとめて斬り飛ばす。

 

「何だ、この速さは……!」

 

「今さらかよ!」

 

 叫び返し、さらに加速する。

 

 肺が焼ける。脚が軋む。左腕のアクセルが短く脈打つたび、残り時間が削られていくのが感覚で分かる。長くは保たない。だったら、その前に噛み砕く。

 

 俺はテガソードを深く構えた。

 

 加速の熱が刃へ集まる。赤いラインが唸る。ゴジュウウルフの獣じみた殺気と、ファイズアクセルの冷たい速度が一点へ噛み合った。

 

『ウルフソードフィニッシュ!』

 

 テガソードの音声が、鋭く鳴った。

 

 もう迷わない。

 

 俺は真正面から地を蹴った。

 

 いや、蹴るというより世界を置き去りにした。視界が痩せる。ゼッツだけが、獲物みたいにくっきり浮かび上がる。その背後へ、銀色の狼の幻影が現れた。俺の加速と牙が形になったみたいに、巨大な狼が口を開く。

 

「噛み砕けぇっ!!」

 

 斬る。

 

 飛び込む。

 

 銀色の狼が、俺の一撃と重なってゼッツへ喰らいつく。

 

 装甲が軋む。影が裂ける。夢ごと食い破るみたいに、ゼッツの身体が真正面から吹き飛んだ。遅れて轟音が走り、彷霊界の空気がまとめて震える。

 

 俺はそのまま斬り抜け、数歩先で着地した。靴底が地面を抉る。呼吸が荒い。左腕の機構が焼けるみたいに熱い。

 

『Time out』

 

 音声が、静かに終わりを告げる。

 

 その瞬間、張り詰めていたものを全部吐き出すみたいに、俺は天へ向かって吠えた。

 

「――オオオオオオオオオッ!!」

 

 勝利の雄叫びが、彷霊界の薄い空を震わせた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。