ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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夢の氷が冷める時

真白の冷気が、夢を塗り替えていた。

 

ゴジュウポーラーの拳から放たれる白銀の冷気は、ただの物理現象じゃねえ。夢そのものの法則を凍らせている。セピア色の砂漠が足元から氷の平原へと変わっていくにつれ、影の動きが目に見えて鈍くなっていく。

 

「動きが止まったか」

 

真白が低く笑う。影の足元に霜が這い、移動のたびに氷が砕ける音が響く。さっきまで俺の目すら捉えられなかった速度が、今は完全に読める。夢の法則が凍結すれば、影の優位性も消えるってわけだ。

 

だが、凍るだけじゃねえ。真白の冷気は影の輪郭そのものを侵食し始めていた。黒い影の縁が白く濁り、ぼろぼろと剥がれ落ちていく。

 

「くっ…この冷気…夢の法則が機能しない…」

 

影が後退しようとする。だが足場は氷。滑って体勢が崩れる。その隙を真白は見逃さなかった。右のジャブが影の顔面を捉え、続くストレートで輪郭を砕く。

 

「久し振りに会って早々にこれか真白!」

 

俺は氷の平原を蹴りながら真白の横へ並んだ。真白は右拳を引いたまま、チラリと俺を見た。

 

「久々に合わせられるか二代目」

 

その口調に、一万年の時なんか最初からなかったみたいな軽さがあった。前の世界で一緒に喧嘩してた頃と変わってねえ。この男はそういう奴だ。

 

「減らず口を叩いてねえで働け」

 

「はっ、言われるまでもねえよ」

 

真白が右のグーデバーンを構え直す。その左肩――何もないはずの左肩から白銀の光が溢れた。

 

氷の義手だ。

 

ゴジュウポーラーに変身した瞬間、真白の失われた左腕のあった場所から透明な氷で形成された義手が展開する。前の世界で見た時と同じだ。氷の能力で作られた左腕。見た目は氷の彫刻みたいに美しいが、その一撃は右腕と同等以上の破壊力を持つ。

 

「相変わらず不便そうじゃねえな、その腕」

 

「不便だと思ったことなんざねえよ。神の腕だからな」

 

真白は氷の左手を握った。パキンと硬い音が鳴る。その拳から冷気が溢れ出し、周囲の温度がさらに下がる。

 

「おい、俺が氷で足止めする。その隙にあんたの力で夢の理を書き換えろ」

 

真白が俺の方を見ずに言った。影を睨んだままだ。

 

「あんたのその力は夢と現実の境界を操るものだ。俺が夢の法則を凍らせている間なら、その凍った法則ごと書き換えられるはずだ」

 

なるほど。真白の冷気で夢の法則が凍結し固定される。その固定された法則を、ゼッツの力で別の法則に塗り替える。二人の力が噛み合えば、夢の支配権を奪えるかもしれねえ。

 

(真白の凍結で影が止まる一瞬、そこが勝機だ)

 

「言われなくてもやる」

 

俺はテガソードを構え直した。ひび割れたゼッツの装甲の隙間から黒と白の光が漏れる。まだ使える。やるしかねえ。

 

「行くぜ二代目!」

 

真白が地を蹴った。右のグーデバーンを構え、影の正面へ踏み込む。影は黒い光の弾幕を放つが、真白は止まらない。氷の左腕を前に掲げると冷気の壁が立ち上がり、弾幕を凍らせて砕いた。氷片が散らばる視界の向こう、真白の右ジャブが影の顔面を捉える。影が後退しようとしたところを、今度は氷の左手で掴んだ。氷の指が影の肩に食い込む。影が悲鳴を上げようとした瞬間、冷気が影の身体を這い上がり、その輪郭を凍らせ始めた。

 

「今だ二代目!」

 

俺は走った。テガソードにゼッツの力を注ぎ込む。黒と白の光が刃に絡み合い、夢と現実の境界線そのものを刃に宿す。真白の冷気が凍らせた夢の法則が目の前に見える。セピア色の固定されたルールの塀だ。あれを書き換えれば、この夢の支配権を奪える。

 

だが書き換えには時間がかかる。その間無防備だ。影が俺の隙を突かねねえ保証はねえ。

 

(一発だ。一発で決める)

 

俺はテガソードを振り上げた。その瞬間、影が真白の氷を引き剥がそうと暴れ始めた。氷に亀裂が入る。真白が踏みとどまるが、影の力が強すぎる。氷が軋む音が響く。

 

「チッ手のかかる奴だ」

 

真白が舌打ちし、グーデバーンの拳ボタンを長押しした。力が蓄積されていく。白と水色のエネルギーが拳に集束し、周囲の氷がさらに厚くなる。空気が凍てつき、呼吸をするたびに肺が痛む。真白の殺意が冷気となって押し寄せてくる。

 

『フィニッシュナックル!』

 

音声が響いた瞬間、真白の右拳が影の胸に叩き込まれた。

 

ドゴォォンッ!

 

爆発的な冷気が影を中心に広がり、影の全身が一瞬で氷漬けになった。黒い輪郭が氷の中に固定され、動きも声も封じられる。真白の必殺技はただの拳撃じゃねえ。相手そのものを凍結し無力化する力だ。影の反応速度を上回る圧倒的な一撃だった。

 

「はっこれで動けねえだろう」

 

真白が右拳を引き抜く。氷の柱の中に影が封じ込められている。その姿はもう影ではなく、ただの氷彫刻みたいに見えた。

 

俺は走った。残り二十歩。十歩。五歩。

 

(影は動けない。今だ)

 

「てめえの夢も法則も全部書き換えてやる!」

 

テガソードを上段に振り上げる。ゼッツの黒と白の光が刃に集束する。凍った夢の法則そのものを切り裂き、新しい法則を書き込む。その一撃だけが俺に残された手だ。

 

「うおおっ!」

 

テガソードを叩き込んだ。

 

刃が氷の柱を貫き、影の身体を捉えた瞬間、ゼッツの力が炸裂した。黒と白の光が爆発的に広がり、氷の中に閉じ込められていた夢の法則を根こそぎ書き換えていく。セピア色だった世界が色を失い、やがて白と黒の明確な境界線で分割されていく。

 

「が…ガ…」

 

影が声を漏らした。氷の中で固定され、書き換えられた法則に縛られ、その存在が維持できなくなっている。夢の支配者が夢の法則に縛られる。皮肉なもんだ。

 

「終わりだ」

 

俺はテガソードを引き抜き、残った力を全て注ぎ込んだ。ゼッツの力が影を夢から追い出す。現実へ強制的に送り返す。

 

光が弾けた。

 

氷の柱が砕け散り、影の姿が消えていく。最後に見えたのは影の中にあった人間の輪郭だった。サングラスと黒いマスクの下から覗く童顔。だがそれも一瞬で白い光に包まれ消え失せた。

 

夢が揺れた。

 

セピア色の砂漠が崩れていく。空に亀裂が走り、現実の光が漏れ始める。夢の世界が終わる。俺たちの勝ちだ。

 

「ふんまあまあだ」

 

真白がグーデバーンを下ろし、変身を解除した。氷の義手も消え、再び左腕のない姿に戻る。彼は右の手で髪をかき上げながらニヤリと笑った。

 

「まあまあだと? てめえのおかげで助かったんだぞ」

 

「へっ借りだな二代目。世直し料は後で請求するぜ」

 

「知ってたよ」

 

俺はテガソードを下ろし、ゼッツの装甲が光となってほどけていくのを見届けた。ひび割れだらけの手。だがまだ動く。

 

その時、遠くから声が聞こえた。

 

「吠さん…?」

 

芹亜だ。

 

夢の崩壊と共に黒い霧も消えていた。芹亜が膝をついたまま顔を上げ、こちらを見ている。その喉を塞いでいた黒い霧はもうない。

 

「芹亜!」

 

俺は駆け寄った。芹亜の目に光が戻っている。胸元に宿っていた三人の偉人の気配も戻り始めていた。

 

「大丈夫か?」

 

「はい…声が…出ます」

 

芹亜が小さく口を開き、ため息のような旋律を漏らした。か細いだが確かに歌声だ。

 

「よかった…」

 

俺は肩の力を抜いた。その背中に真白の声が飛んでくる。

 

「感動的な再会シーンだな二代目」

 

「うるせえ熊手」

 

俺は振り返らずに答えた。

 

「神に正気も狂気も関係ねえよ」

 

真白は笑った。左腕のない肩をポンと叩く。

 

夢の世界が完全に崩壊し、白い光に包まれていく。芹亜の歌声が少しずつ強くなり、三人の偉人の共鳴が戻ってくるのがわかる。

 

「帰るぞ二代目」

 

真白が背を向け歩き出す。

 

「芹亜起きろ。帰るぞ」

 

俺は芹亜の手を引いた。彼女はよろめきながら立ち上がり、俺の手を握り返してきた。

 

「吠さんあの人は…?」

 

「ああいう奴だ。説明すると長くなる」

 

「…はい」

 

芹亜は不思議そうな顔をしながらも、真白の背中をじっと見つめていた。

 

白い光が完全に俺たちを包み込み、夢の世界から現実へと送り返していく。

 

目を開けると寺の天井が見えた。

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