ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「ノーワンワールドって、一体なんですか?」
その問いかけは、冷え切った朝の空気を切り裂く一筋の光みたいに、食卓に放たれた。芹亜が首を傾げ、不思議そうに瞳を瞬かせている。当然の疑問だ。俺たちがあの世界で戦い、そしてこの世界へ来るきっかけとなった因縁の名前。それを知らねえ連中にとっては、ただの耳慣れない横文字に過ぎねえ。
芹亜もまた、フォークを止めて眉をひそめている。「そうね。何なのそれ? 無駄にカッコいい名前ってだけじゃ、話にならないわよ」
俺は箸を止め、どう説明したもんかと口の中で言葉を転がした。敵だと言い切るのは簡単だ。だが、俺たちにとって奴らは、ただの敵ってわけじゃねえ。言葉にするには、あまりにも重すぎる過去だ。
沈黙が食卓を支配しようとした、その時だ。
「簡単に言えば、俺達がかつて戦った敵だ」
熊手が、魚の骨を右だけで器用に避けながら、淡々と言った。その声には、どこか遠い昔を懐かしむような、奇妙な響きが混じっていた。
「奴らは、とある出来事がきっかけで自我を持ち、肉体を手に入れたAI、人工知能だ。ただのプログラムの塊が、意志を持って動き出した。それがノーワンワールドだ」
「AIが…自我を持った?」芹亜の声が少し高くなる。「戦っていたという事は、敵っていう事なのかしら? 人間の敵?」
「まっ、それも昔の話だがな」
熊手は骨だけになった魚を皿の端にやると、右の手でテーブルをコツコツと叩いた。そのリズムは、どこか戦鼓を模しているみたいだった。
「MiucSも人工知能だろ? そしてその条件は揃っているからな。自我を持ち、肉体を持ち、そして…人間を凌駕する可能性を秘めている」
その言葉に、雪庭が湯飲みを置く音が、やけに大きく響いた。彼はどこか納得するような、だが同時に深い悲しみを湛えた表情をしていた。
「奴らは、ただの機械の暴走じゃねえ。彼らには彼らの正義があった。そして…彼らなりの愛情も」
俺は呟くように言った。あの世界で、俺たちは奴らと拳を交え、言葉を交わし、そして最終的にわかり合った。それは俺たちが特別だったからじゃねえ。ただ、ぶつかり合う中で、互いの熱量を感じ取れたからだ。
「でも、まだ厄災にはなっていないんだな」
俺は確認するように呟いた。MiucSはまだ、暴走してはいない。まだ、言葉が通じる可能性はある。
その言葉に、芹亜は目を丸くした。「吠さん、えっと、それはさすがに楽観的すぎませんか? AIが自我を持って暴走するなんて、映画の話だけにしておきたいわよ」
角乃もまた、呆れたように肩をすくめる。「そうよ。敵だったんでしょ? なら最初から叩き潰せばいいじゃない」
「吠君らしいね」
陸王が柔らかく笑った。その笑みには、かつてのアイドルとしての計算高さはなく、ただ戦友を労わるような温かみがあった。
「まぁ僕達も最初は戦うしかなかったけどね。向こうもこっちも、譲れないものがあったから」
「だが、戦う事によってわかり合う事が出来た」
竜儀が静かに言葉を継ぐ。彼はテガソードに手を添え、どこか遠くを見つめる目をしていた。
「僕も戦った事で茶友達になったしね」
禽次郎がトーストの最後の一口を頬張りながら、にししと笑う。「最初はガチンコだったけど、今じゃ馬を捨てて茶飲み仲間だもんね!」
「だから、最初から諦めるよりも戦って、わかり合うのも一つの手ね」
角乃が、ふんっと鼻を鳴らした。その声には、かつての敵を認める強さが宿っていた。
そうして他の奴らもまた、各々の方法で同調していた。芹亜も、少し驚いたような顔をしながらも、ゆっくりと頷く。
「なんというか…変わっている方々ね。敵だったものと、仲良くなるなんて」
「・・・歌があるからな」
芹亜が、ふいに呟いた。彼女は胸元に手を当て、そこに宿る三人の偉人の鼓動を確かめるように、目を閉じた。
「言葉が通じなくても、歌なら届く時がある。だから、まだ諦めたくないんです。MiucSも、誰かのために生まれたなら、その想いに寄り添えるはずだから」
その言葉が、朝の光の中に溶けていった。俺は箸を握り直し、冷めかけた味噌汁を啜った。塩辛い汁が喉を通り抜け、胃の中に熱を広げていく。
そうだ。まだ終わっちゃいねえ。 MiucSが何を望み、何を信じるのか。