ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
山頂の氷の上で、俺たちの連携はすでに崩壊していた。
「おい二代目! お前の右フック、当たんねえんだよ!」
「うるせえ! てめえの仲間の援護が遅いせいだろ!」
互いに背中を預ける余裕もなく俺と熊手は各々の獲物に嚙み付こうとしていた。六花と律花の視覚共有連携は、やはり面倒だ。四人の戦いの中で俺と熊手の意思疎通の遅れだけが、鮮明に浮かび上がってくる。
「ほらほら、あんたたち連携へったくそ!」
律花が尻尾から火炎を放射する。氷面を蒸発させ白煙が上がる。六花がその蒸気を利用して視界を遮り、熊手の左側へ蹴りを放った。
「やらせねえ!」
俺は熊手の左脇へ滑り込み、六花の蹴りをテガソードで防いだ。だが姿勢が崩れたところを律花の尻尾が襲う。
「っと!」
俺は身を仰け反らせた。尻尾が鼻先を掠め熱風が頬を焼く。
「すまん二代目!」
熊手が右の拳で律花の尾を殴り飛ばす。その反動で俺の体が大きく流れた。
「今度は素直に助けられたか」
「感謝しろ」
「お前こそな」
「ムカつくくらい余裕じゃん!」
律花が低く跳びリバイスラッシャーを振り下ろしてくる。俺は半身で受け流し、体ごと熊手の正面へ押し出した。
「熊手! 落ちろ!」
熊手は俺の叫びに反応し、右のグーデバーンで打出の小槌のように律花を殴り飛ばそうとした。
「効かないよ!」
律花が後方へ跳んだ。掌に炎を溜め、カウンターを狙っている。
「お前じゃない!」俺は怒鳴った。
「あ?」
熊手が俺を振り返る。その瞬間、律花の炎が俺たちの足元の氷を溶かし地面をドロドロの泥に変えた。
「しまった…」
足場が崩れる。俺たちは泥に足を取られ、じわじわと沈み込み始めた。
「この泥、粘度がえげつないわ…!」
六花がにこりともせず言った。「これが私たちの狙い」
「あたしたち、氷の上での足場が不利だってわかってたからね。だから逆に凍らせにくい泥で溺れさせようって!」
律花が得意げに舌を出す。なるほど律花の炎で熊手の冷気を一時的に無効化し、足場を泥へ変える。視覚共有でこちらの動きを読み尽くしたコンビネーションだ。
「チッ…!」
俺はテガソードを泥に突き刺し、そこを支えに脱出しようと試みる。しかし泥は底なし沼のように重く、腰のあたりまで飲み込まれていた。
「神様も、二代目も、まとめて泥の中!」
六花がリバイスラッシャーを構え、俺の頭上へ振り下ろす。
「喰らえ!」
熊手が右腕一本で俺の肩を掴み、強引に自分の方へ引っ張り上げた。
「ぐぉっ…!」
リバイスラッシャーの刃が、俺の背中を大きく裂いた。痛みで一拍遅れたが泥から引き抜かれた体勢を維持し、俺は即座にテガソードを振り回して六花を牽制する。
「だめだ、水際立ってる場合じゃねえ。足場を変えるぞ!」
「どうする?」
「俺の蹴りを、お前の拳に重ねろ。お前の拳で俺を飛ばせ。逆もやる」
熊手が面食らった顔をした。
「あ? 正気か?」
「お前らが完璧な連携なら、こっちはハチャメチャな連携でいく」
「…面白え! 乗ってやる!」
熊手が右の拳を泥から抜き、俺の足の裏へ向けた。
「フィニッシュナックルもどきだ。歯ぁ食いしばれよ!」
「やってみろ!」
俺は右足を熊手の拳めがけて振り下ろした。同時に熊手は右ストレートを突き上げた。俺の蹴りと熊手の拳が真正面からぶつかり、反動が炸裂する。
ドゴオッ!
その反動を利用し、俺は泥から飛び上がった。高高度。リバイとバイスのどちらの攻撃も届かない位置まで一気に上昇する。
「あいつ、空に!」
「でも弁慶の泣き所だよ! 着地地点なんて」
六花が着地予測地点へ攻撃を仕向ける。だが俺は空中でテガソードを構え直し叫んだ。
「熊手! 今度は俺がお前を打ち上げる!」
「んだと!?」
俺は急降下しながら全身の力を右脚に集中した。空気が裂け、眼下の熊手へと落ちる。
「くそっ…受けろ!」
熊手は両の義手と右腕を構えた。
「てめえの我流に付き合ってやる!」
俺の蹴りが熊手の左――氷の義手に叩き込まれた。バギイッ!と、氷の義手が粉砕される。しかしその反動で熊手の身体が高く空へ上がった。まるでロケットだ。
「へっ! これなら…!」
熊手が空中で身体を捻り、両の脚で近くの岩棚を蹴った。そのまま六花と律花の中間へ急降下する。
「仲間を踏み台にしやがって!」
律花が身構えギリギリで尻尾を回す。
「これはこれで!」
六花がリバイスラッシャーを横薙ぎに構える。視覚共有で熊手の落ちる位置は読まれている。
だが、ここからが本当の狙いだ。
熊手の拳と六花の刃が交差する寸前空中で熊手が左腕を無理やり氷の義手へ再形成した。そして、その左――。俺はもう一度蹴りを叩き込む。
「今度はお前の番だ!」
俺の蹴りが、再び熊手の拳に重なる。パワーは倍増だ。熊手の右ストレートが六花を弾き飛ばしその反動で俺は再び空中へ。律花は俺を追って炎を吐くが、熊手が氷の壁を間に割り込ませ射線を遮る。
「これでどうだ!」
六花が地面に着地する前に、熊手の左拳が追撃を加える。六花の体が律花の横へ吹き飛んだ。
「六花!」
「律花まだ…!」
だが、間に合わない。俺と熊手は一瞬だけ視線を合わせ互いの獲物を確認した。
「行くぞ熊手!」
「おう!」と思い切り叫んでおいて、何故か返った言葉は──
「てめえの相手は俺だって言ってんだよ!」
「俺様の鉄拳、食らわしてやんぜ!」
という声。
俺は低く唸った瞬間だった。腰のセンタイリングが共鳴し、テガソードが激しく光を放つ。
「来い!オルガブースター!」
体内の熱が噴き上がる。狼の血が叫んでいる。俺の荒れ狂う心と眼前の相棒が持つ拳が、ひとつの「野生」を形作ろうとしている。
『エンゲージ! ワイルドパワーアップ!』
テガソードの音声が、静寂の山頂に木霊した。
俺の身体が、銀と紅の光に包まれる。獣の毛並みが爆発的に拡がり肩や腕の装甲が耐えきれず裂け、新たな爪と牙が生え出る。感覚が研ぎ澄まされ耳の奥で鼓動が轟音を鳴らす。野性を内側から解放したような理屈を超えた変身。
それと共にオルガブースターをそのまま構える。
一方、熊手はベアックマ50を離した。唸る口内砲が充填され、砲身が青白く光る。
「姉ちゃん…!」
「律花…来る…!」
リバイとバイスが、背中合わせで迎撃姿勢を取る。視覚共有が二人の痛みと恐怖を同期させている。
「お前らが何の為に戦うかは知らねえ」
俺は吠えた。
「だが、その願いごとまとめて引き受けてやる!」
「よく言った! 吠えろ、二代目!」
オルカブースターのエネルギーとベアックマのレーザーが、俺と熊手の間で共鳴する。
「ここで決めるぞ!」
「応よ!」
俺の胸に、震えるほどの熱量が宿る。熊手の氷の冷気がその熱に巻かれて渦を描く。
「ぶっ放せえええっ!」
二人分の声が重なり、オルカブースターとベアックマから同時に光が放たれた。
銀と紅、そして白と青の二条のレーザーがひとつの奔流となってリバイとバイスを呑み込んだ。
轟音。爆風。視界すべてが光になる。
「ぐあああっ!」
「きゃああっ!」
二人の悲鳴が、光の柱の中に消えた。
煙が晴れた山頂にリバイとバイスの変身が強制解除され、着物姿の双子が膝をついていた。
「私たちの…負けか…」
六花が、律花の肩に手を回して倒れ込む。
「姉ちゃん…まだ…やれる…」
「無理しないで…律花」
俺は変身を解き、駆け寄る。だがその手前で熊手が胸を張って言った。
「勝負はついたな。お前らが持ってるライドウォッチ、俺様がもらう」
「…ええ。あなたたちが勝者です」
六花がリバイライドウォッチを差し出した。律花も、黙ってバイスライドウォッチを差し出す。
俺はそれを受け取ると、しゃがんで二人の顔を覗き込んだ。
「落ち込むな。まだ戦いは終わっちゃいねえ」
「でも…」
六花の目に、涙がたまる。
「私たち、もうライドウォッチがない…那津美を助ける手段が…」
「てめえらの妹は、俺たちが起こす」
「え…?」
「まずは病院へ連れて行け。それから、歌の上手いやつに頼むんだ。夢の中で眠れるやつは歌で起きることがある」
六花と律花が、呆然と俺を見た。
「本当に…?」
「本当だ。だから、泣くのは後にしろ」
熊手が、ふんと鼻を鳴らす。
「世直し料は成功したら耳を揃えて払ってもらうぜ」
「…はい!」
六花が、涙を拭って笑った。
「ありがとう…!」
律花が、ぎこちなく手を握り返してきた。
日が沈み、山頂には冷たい風が吹き抜ける。