ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
六花と律花の背中が山道の曲がり角へ消えていくのを見送ると、山頂は急激に静寂に包まれた。風が木々の間を吹き抜ける音だけが、耳の奥に残る轟音の余韻をかき消していく。日は既に山の稜線の向こうへ沈みかけており、空には冷たい紫色の帳が降りようとしていた。
俺は手の中にある二つのライドウォッチを見つめた。
リバイ。バイス。
赤と青の意匠が刻まれた冷たい金属の塊。指先で表面をなぞるとひんやりとした感触が伝わってくる。さっきまで双子の姉妹が握っていたものだ。彼女たちの体温はもう残っていない。あるのは昏睡する妹を救いたいという願いの重さだけだ。
(他人の願いを背負う立場になっちまったな)
俺は自嘲気味に鼻を鳴らした。俺は願いなんて持たないように生きてきた。持ったところでロクなことにならねえと思っていたからだ。野良犬は自分の尻尾に噛みついて生きるのが関の山だ。それなのに今じゃこうして他人の夢をその手に握りしめている。自分の生き様とは裏腹に随分と人間臭い真似をしてるもんだ。
ふと視線を感じて顔を上げると熊手がいた。
彼は数歩離れた岩場に腰掛け右の手で左の失われた肩を押さえている。いつもの尊大な態度はなりを潜めただ静かに夕闇に沈んでいるように見えた。その眼差しは俺の横顔に向けられていた。値踏みするようなあるいは何か確かめるような深い目だった。ただの野次を飛ばす時の目じゃない。
風が吹き抜けた。俺の手の中で二つのウォッチがカチリと鳴った。
「……」
沈黙が流れる。軽口を叩く気力も今は起きない。俺はただ手の中の冷たさと背中に乗った見えない重荷を噛み締めていた。
沈黙を破ったのは熊手だった。
「おい二代目」
熊手の声が、暮れなずむ山頂に低く響いた。
「他人の願いを背負い込むのは、お前の悪い癖だ」
俺は振り返らなかった。手の中のリバイとバイスのライドウォッチを握り直し、鼻で笑う。
「知るか。こちとら借りを返すだけだ」
「へっ、どの口が言ってやがる」
岩場から降りた熊手が、右の手で俺の肩を小突いてくる。その拍子に欠けた左肩の辺りで空気が動いた。
「まあ、らしくていいんじゃねえか。野良犬が願いを咥えて走る姿も風情があらあな」
「てめえ、褒めてんのか貶してんのかどっちだ」
「神はな、どっちでも取れる言葉しか吐かねえんだよ」
熊手はニヤリと笑った。俺はその手を振り払わずただフンと鼻を鳴らす。うぜえ男だ。だが、拒絶するほど不快でもない。この妙な距離感が俺たちの間にはちょうどよかった。
俺たちは並んで山道を下り始めた。夕闇が背後から山を沈めていく。鳥の声は途絶え、残るのは二人分の足音だけだった。
ザッ、ザッ。ザッ、ザッ。
右脚と左脚。互いの歩調が、いつの間にか揃っていく。石段を踏むリズムが山の斜面に小さく反響した。
「なあ、二代目」
「なんだよ」
「あの双子の願い、お前が運ぶつもりか」
「運ぶっつーか…まあ、巻き込まれちまったからな。なら最後まで付き合うだけだ」
「その言葉、忘れんじゃねえぞ」
「うっせえ。忘れるかよ」
俺は顔を動かさず視線を正面の下山道に据えたまま言った。熊手もまた前だけを見ている。互いに顔を見合わせることはなかった。だが、それがちょうどよかった。顔を見たらたぶん、互いにらしくない顔をしていた気がするからだ。
途中、足元の小石が崩れた。危ねえと思う間もなく熊手が右の手で俺の背中を軽く押さえた。
「足元クソな山だなこの山。世直し料に足場整備も含めとくか」
「要らねえよ。黙って歩け」
「心配されたくない奴だな、相変わらず」
「犬に世話される方がまだマシだわ」
「失敬な。神様の手だぞ」
「神様の手がこの世で一番胡散臭いわ」
互いに軽口を交わしながら、石段を下りる。空気は冷えてきたが不思議と苦ではなかった。
山を下りきる頃には、辺りはすっかり闇に沈んでいた。寺の方角にはかすかな灯りが揺れている。芹亜たちが待っているはずだ。
「今日の世直し料、高くつくぜ」
「知るか。いま持ち合わせはねえよ」
「ツケといてやる。代わりにちゃんと返しにこいよ」
「上等だ」
俺はライドウォッチを握りしめ暗い道を寺へと歩き出した。隣には、片腕の男が同じ速さでついてくる。
月のない山道に、二人分の足音だけが静かに消えていった。