ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
日が傾き始めた町外れの公園は、夏の終わりを告げるみたいに蝉の声が弱々しく鳴いていた。
俺たちは買い出しの帰り道だった。熊手が「米が切れた」だの「味噌がねえ」だのと騒いだ結果、芹亜と陸王も巻き込んで四人でスーパーまで行く羽目になった。手にはレジ袋。俺の人生のどこにこんな庶民的な光景があったかと思うと不思議なもんだ。
「吠くん、醤油はこっちの銘柄がいいよ。寺の料理に合うから」
陸王が器用に片手で袋を揺らしながら笑う。元アイドルのくせにスーパーでの品定めが妙に的確だ。主婦力が高すぎる。
「はいはい。言う通りにしますよ」
「ふん、主役が食材選びとは芸がねえな熊手」
熊手は右の手だけでレジ袋を振り回し、左の袖を風に遊ばせながら大口を叩いている。目立つんだよお前は。
「吠さん、あの…今日は本当にありがとうございました。重かったでしょう?」
芹亜が俺の袋を心配そうに覗き込む。重くもなんともねえよ。ただの米五キロだ。
「気にすんな。それより早く帰って雪庭の爺さんに飯作らせてえんだ。腹が減った」
俺は雑談を交わしながら公園の脇道を歩いていた。その時だ。
公園のベンチに一人の少年が座っていた。
制服姿。ブレザーを着崩し、ネクタイは緩い。背もたれに深く凭せかかり片手には文庫本。表紙は見えない。夕日に照らされた顔立ちは整っているが、どこか気だるげで面倒くさそうな空気が纏わりついている。
その少年が、俺たちの方をちらりと見た。
視線が合ったのは一瞬。だが、その目は通りすがりの他人を見る目じゃなかった。何かを探り当てるようなそれでいて興味は薄い、奇妙な温度の目だ。
少年が片手を軽く上げた。文庫本を揺らしながら、投げやりな声が届く。
「お前ら、ライドウォッチ持ってんだろ」
歩みが止まった。俺は反射的にレジ袋を左手に持ち替え、右手を腰に伸ばした。テガソードの位置を確認する。まだ抜かない。だがいつでも抜ける。
「誰だてめえ」
俺の声に、少年は眉一つ動かさなかった。文庫本のページを右手でめくりながら、ベンチに深く座り直す。
「誰でもいいだろ。名前なんざ後でいくらでも教える」
気のない口調。だがその目は俺たちを正確に観察している。特に俺の手元と熊手の左肩、芹亜の胸元あたりに視線が走ったのがわかった。偶然じゃねえ。こいつは知ってる。ライドウォッチのことも、俺たちがそれを持っていることも。
「おい小僧、人に物を聞く時はもうちっと礼儀ってもんをだな」
熊手が一歩前に出ようとした。俺は左腕でそれを制した。
「待て熊手。こいつ、ただのガキじゃねえ」
俺の視線は少年の手元に留まっていた。文庫本を持つ右手。その指を見てくれ。人差し指と中指の第一関節の腹、そこに硬い繭が出来ている。それも鉛筆の持ちグセじゃねえ。もっと密度が高い、定期的に何かを握り続けている手だ。
(剣道の握り癖か? いや、もっと実戦的だ)
竹刀の癖とも違う。もっと重いものを、もっと長い時間握り続けてきた手だ。それに左の手首には微かに赤い痕がある。防具の紐が食い込んだ跡にしては位置が高い。手甲か何かを巻いていたのか。
「吠くん」
陸王が静かに声をかけてきた。俺の腕を掴む手は柔らかいが、その目は鋭い。元アイドルの洞察力はこういう時に光る。
「話を聞こう。ここで警戒して暴れるより、相手の意思を知る方が先だろ」
「…チッ」
俺は舌打ちし手を離した。陸王の言う通りだ。公園で暴れれば芹亜に迷惑がかかる。それにこいつからは敵意が感じられねえ。警戒は必要だが、ここで仕掛ける必要はねえ。
芹亜は俺の背後で少し緊張した表情を浮かべている。だがその目は少年を逃さず見つめていた。胸元に手を添える仕草。中にいる偉人たちが反応しているのかもしれない。
刃郎は無造作に文庫本を閉じた。表紙を右手の指で挟み、パタパタと扇ぐように揺らす。その動作の間も、彼の目は俺たちではなく、ベンチの脇を通り過ぎた柴犬を追っていた。散歩中の柴犬が匂いを嗅ぎながら去っていくのを、なんとはなしに見送るその横顔には、緊張感のかけらもない。
「加宮刃郎。それが俺の名前だ」
自己紹介にしてはあまりにも気怠げだった。
「で、お前は何者だ」俺は短く問うた。
「剣道部。あと、小説家」
「はあ?」思わず間の抜けた声が出た。「小説家だぁ? てめえ見たいなガキがか?」
「ガキで悪かったな。一応デビューもしてる。題材はあんたたちみたいな『異常』な日常だ」
刃郎は鼻で笑い、文庫本を膝の上に放り投げた。
「で、なんでそんな小説家様がライドウォッチなんて単語を知ってるんだ?」
「見ちまったんだよ。あんたたちみたいなのが変身してぶっ殺し合ってるのを」
刃郎の声が一瞬だけ低くなった。気怠さの裏に隠れていた冷たい輝きが、そこだけ鋭角に尖る。
「夜の公園でよ。派手な音がするから見に行けば、仮面被った奴らが雷とか炎とかぶっ放してる。普通なら見なかったことにする。でもよ」
刃郎は俺の方へ、わずかに顔を向けた。
「面倒くさいけど、理由がわからないまま放っとく方が気持ち悪いんだよ。ああいうの、放置すると後で面倒なことになるだろ? だから調べた。そしたら、あんたたちの顔とライドウォッチって単語が出てきた」
なるほど。勘が鋭いだけでなく、行動力もあるってわけか。厄介なガキだ。
「それで?」陸王が静かに口を挟んだ。「ただの好奇心でここに来たわけじゃないよね?」
「ああ。一応忠告しときたくてな」
刃郎は右の手で髪をかき上げた。その仕草のまま、何気ない口調で爆弾を落とした。
「俺が調べた限りじゃ、そのライドウォッチってのは元々は仮面ライダージオウって奴のアイテムらしいぞ」
「ジオウ…!」
芹亜が小さく叫び、胸元へ手を当てた。陸王も顎に手を添え、微かに目を細める。俺は黙って刃郎を睨み据えた。
「ジオウだと? 王みたいな名前だな」
「だろう? 詳細はまだつかめてねえ。だが、そのジオウって奴がライドウォッチを集めてた、あるいは作ったって話だ」
刃郎は再び文庫本を拾い上げ、ページをめくり始めた。まるで話はこれで終わりだとでも言うように。
「俺はあくまで傍観者のつもりだ。だが、知らないで巻き込まれるのは御免だからな」
「ふん。随分と都合のいい傍観者だな」俺は吐き捨てた。
「お互い様だろ。あんたたちも自分たちの都合で戦ってる」
言い返せなかった。確かに俺は芹亜を守るために戦っている。それは自分の都合だ。
日が沈みかけていた。公園の時計の針が動く音だけが、やけに大きく耳に付く。カチッ、カチッと規則的な音が沈黙を刻んでいる。
「でもまあ、これ以上は自分の足で調べる。今日はお前らに忠告だけしときたかった」
刃郎は立ち上がった。制服の裾を払い、文庫本をポケットにねじ込む。
「じゃあな」