ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「待ってほしい」
陸王が静かに声をかけた。刃郎の立ち上がりかけた身体が一瞬だけ止まる。
「ジオウってのは何者なんだ。君が調べた範囲でいい。教えてくれないか」
陸王は穏やかな表情のまま、組んでいた足を組み直した。計算された所作じゃない。だが、相手を引き留めるには十分な柔らかさがあった。元アイドルの人心掌握は、こういう時に地を這うように効いてくる。
刃郎は立ち上がりかけた姿勢のまま、俺たちを振り返った。街灯が点いたばかりの白い光が、彼の輪郭を冷たく縁取っている。
「まだ調べ中の範疇だ。名前と、ライドウォッチを集めてたって噂くらいしかつかめてねえ」
刃郎はベンチの背もたれに手をついた。剣道の握り癖がついた指が、無意識に組まれる。
「ただよ」
刃郎の声が少しだけ変わった。気怠さの裏に、別の何かが透けて見える。
「俺はライトノベルを書いてる。最初は趣味だったが、編集者に拾われてデビューした。で、小説を書く上でいつも気になるのは『物語の根幹』なんだ」
「根幹?」俺は眉をひそめた。
「誰が、何のために、この話を始めたか。ってことだよ」
刃郎は俺の目をまっすぐに見た。
「あんたたちが戦ってる理由。ライドウォッチが集められてる理由。ジオウが何者なのか。全部繋がってると思わねえか?」
俺は答えなかった。だが、胸ポケットに手を突っ込んだ。指先がリバイとバイスのウォッチに触れる。冷たい。金属の冷たさが指先から掌へと伝わってくる。姉妹の願いの温度がまだ残っているはずのものが、もう冷えきっている。
「あんたらの狙いは何?」
刃郎が逆に問いかけてきた。俺の沈黙を待たずに、鋭く切り返す。
「指輪? 時計? どっちを集めてるんだ?」
「俺は指輪に用はねえ」
俺はぶっきらぼうに答えた。
「借りを返したいだけだ」
刃郎の目がわずかに細まった。俺の顔を観察するように、数秒だけ沈黙が流れる。その沈黙の間に、俺はペットボトルがベンチの下で風に転がる音を聞いた。
「あんた、思ったより真っ直ぐなんだな」
刃郎の口元が緩んだ。笑みとも冷笑ともつかない、奇妙な弛み方だった。
「借りを返す、か。シンプルでいいな。小説の主人公にすると地味だが」
「うるせえ」
「でも、そういう奴の方が最後に裏切らねえんだよ。経験上」
経験上、ね。ガキのくせに何様の経験だと思ったが、口には出さなかった。
「私も」
芹亜が口を開いた。声が少し震えている。頬に冷たい夜風が触れ、白い息が小さく漏れた。
「ジオウのことが気になります」
芹亜は胸元に手を当てた。その奥にいる偉人たちの気配が微かに反応しているのを、俺は感じ取った。
「だって、私たちが持ってるライドウォッチが全部、同じ誰かのための道具だとしたら…」
芹亜の声が途切れた。言い淀みじゃない。自分の言葉の重さに気づいて、息を呑んだのだ。
「私たちは歌で偉人たちと向き合ってるけど、その偉人の力を宿した時計が、誰か一人のために作られたものだとしたら。その誰かは、何を望んでるんだろうって」
公園の時計がカチッと一つ鳴った。夜の空気だけが、四人の間に漂っている。
「ふん」
刃郎は鼻で息を吐いた。組んでいた指を解き、制服のポケットに手を入れる。
「近いうち、もっと面白い情報見つけたら連絡してやるよ」
「連絡?」俺は眉を上げた。
「ああ。スマホ出せ」
刃郎は自分のスマホを取り出した。画面の光が夜の公園を青白く照らす。俺は渋々自分の端末を取り出した。熊手と陸王は既に自分のを出している。芹亜は少し遅れて、恐る恐る画面をタップしていた。
「送った」
刃郎は短く言い、スマホをポケットに戻した。
「また会おうぜ」
彼は背を向け、公園の出口へと歩き出した。その背中は街灯の光の中に溶け込み、やがて闇の向こうへと消えていく。
「ただし面倒な時に限ってな」
最後に投げ捨てられた言葉だけが、夜風に乗って俺の耳に届いた。
家々の灯りが坂道の両脇に並び、その温かな光が俺たちの影を長く伸ばしていた。風が落ち葉を足元に巻き寄せカサカサと乾いた音を立てる。商店街の喧騒はもう遠く、子どもの笑い声も夜の深い闇へ溶けて消えていた。
「仮面ライダージオウ…」
芹亜がぽつりと呟いた。彼女は歩きながら、胸元のライドウォッチをそっと掌で包み込んでいる。その目は閉ざされ、何か遠い記憶を辿るような顔つきだった。
「どこかで聞いた気がしました」
「時間を司る、とかそういう名前だな」
陸王が空を見上げた。雲の切れ間から覗く月が、冷たい銀の光を投げかけている。彼はその月を見つめたまま、俺に問いかけた。
「君はどう思う? 吠くん」
「俺が一番嫌いなタイプだな」
俺は即答し、舌打ちを一つ叩いた。
「自分勝手に時計で歴史をいじくり回しそうな名前だ。時間だの歴史だの、そういう大層なもんを玩具みてえに扱う奴はロクなもんじゃねえ」
俺の言葉に芹亜が目を開けた。その瞳の奥に、不安と好奇心が混ざり合った色が揺れている。
「でも、私たちが持つあの時計も、元を辿れば行き着く人なんでしょうね」
芹亜の声は静かだった。胸元のウォッチが、夜風に冷やされて微かに震えているように見えた。
「どちらにせよ、持ってる以上逃げられないな」
陸王が淡々と言った。その言葉に迷いはない。ただ事実を突きつめるような、歌手としての彼女とは違う冷徹な響きがあった。
坂道を登り切ると、前方に寺の門が見えてきた。門前の提灯がオレンジ色の光を揺らめかせ、暗闇の中に浮かび上がっている。
芹亜がふと足を止め、背後を振り返った。俺たちが歩いてきた坂道の向こう、加宮刃郎が消えた公園の方角を見つめている。
「あの人、また会えますかね」
「連絡先知ってんだろ」
俺は肩をすくめた。
「それより、あいつが来たって騒ぐなよ」
俺は顎で寺の門をしゃくった。そこには予想通り、左の袖をヒラヒラさせた男が仁王立ちしていた。熊手真白。右の手で腕を組み、不機嫌そうに眉を寄せている。待ちくたびれた犬みてえな顔だ。
「ふん」
俺は鼻で笑った。あいつがいるってことは、とりあえず寺は無事ってことだ。
三人の足音がバラバラに夜の静寂に溶けていく。俺たちは揃って門をくぐった。
その直前、芹亜が小さく呟いた。
「ジオウ」
その名前だけが、夜風に乗って消えた。提灯のオレンジ色の光が彼女の背中を包み込み、門の内側へと吸い込んでいった。
俺もまた、その光の中へ足を踏み入れた。胸のポケットの中で、冷たい金属の塊が微かに重みを増したように感じられた。