ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
夢を見ていた。だがそれは先日のセピア色の砂漠ではなかった。
俺が立っていたのは、漆黒の空間だ。上も下も左右も、すべてが墨を流したような闇に沈んでいる。だが、完全な暗闇というわけでもない。空間には絶えず金色の粒子が舞っていた。まるで砂嵐のように、だが静かに、ゆっくりと。その光の粒が闇を切り裂き、俺の目の前に立つ男の輪郭を照らし出していた。
男はそこにいた。
玉座に座っているわけではない。ただ立っている。それだけだ。だが、その「ただ立っている」ことだけで、この空間の空気すべてが男に向かって跪いているように感じられた。
黒いボディスーツの上に、荘厳な金色の装甲が全身を覆っている。顔面や装甲には「王」を示す細かな意匠が刻まれ、赤く鋭い複眼が、静かに、絶対的な威厳を持って俺を見下ろしていた。背中には、巨大な大時計を背負っている。長針と短針が、ゆっくりと時を刻む音だけが、この静寂な空間に響き渡っていた。
カチ。カチ。カチ。
俺は反射的に体を低くした。獣が威嚇するように、膝を落とし、重心を沈める。目の前の男が何者かなど問う余地もない。俺の野生が、この男は尋常ではないと警鐘を鳴らしている。全身の毛穴が開き、背筋に冷たいものが走った。
テガソードに手をかける。まだ抜かない。だがいつでも抜ける。指先が金色の柄に触れた瞬間、胸ポケットの中でリバイとバイスのライドウォッチが微かに光を放った気がした。あの双子の願いを宿した時計が、目の前の王の気配に共鳴しているのか、それとも恐怖を感じているのか。
男は微動だにしなかった。俺の警戒も、殺気も、すべて受け入れる余裕がその立ち姿から滲み出ている。まるで、群れを率いる狼の王が、子供の牙を前に「よく来た」とでも言わんばかりに。
「よく来た」
男の声が響いた。低く、重厚で、一切の揺るぎがない。声の響きだけで、この空間の重力が変わったように思えた。
「てめえ誰だ」
俺は低い声で問い返した。警戒を解かず、男の死角を探る視線だけを忙しく動かす。だが、死角がない。どこを見ても、そこには金色の装甲があり、赤い複眼がある。
男は俺の問いに答えない。その赤い眼が俺の胸元、ライドウォッチを収めたポケットを一瞥し、それから再び俺の目を真っ直ぐに見据えた。
「お前は、何を背負ってここに来た」
カチ。カチ。時計の音が心臓の鼓動と重なる。
「……俺の背負ってるもんは、俺の問題だ」
俺は唸るように答えた。柄を握る手に力がこもる。
「てめえに答える義理はねえよ」
男の複眼が、わずかに細められたように見えた。嘲笑でも感心でもない、ただ値踏みするような光がそこに宿る。
「義理か。だが、その重さがお前をここへ導いた」
男の口元が微かに動いた。名乗ろうとするように。
テガソードが微かに振動した。
カチ、カチという時計の音とは違う。もっと低く、もっと内側から湧き上がるような振動が、柄を握る俺の掌に伝わってくる。金色の光が刃の表面を這い始めた。それは男の装甲と同じ色だった。
俺は眉をひそめた。
「てめえ…テガソードと同じ匂いがする」
男の複眼がテガソードの光を反射した。赤いガラス面に金色の光が映り込み、一瞬だけ、この空間が燃え上がるように見えた。
テガソードが反応している。俺の剣が、目の前の男に反応している。こいつはただの通りすがりの夢の住人じゃねえ。この剣が認める何かを持ってる。
同じ匂い。同じ金色。そしてあの加宮刃郎ってガキが口にした名前。
ジオウ。
ライドウォッチを集めていた奴。それを作った奴。
俺の中で点と点が繋がった。脈絡もへったくれもねえ直感だが、俺の獣じみた勘はこういう時に限って外れねえ。
「ライドウォッチをばら撒いたのはてめえか」
俺の声が漆黒の空間に響いた。低い。だが鋭い。テガソードを握る手に力がこもり、金色の光が一際強く明滅する。
男は答えなかった。
だが、その沈黙には重さがあった。否定の沈黙じゃない。肯定の沈黙だ。言葉を飲み込んだのではない。言葉など必要ないと判断したのだ。その沈黙が、俺の問いを全て飲み込み、重たい鉛の塊として胸に落ちてきた。
空間の金色の粒子が一斉に渦を巻き始めた。男の名が空気そのものを変えたかのように、漆黒の闇が黄金の嵐へと変わる。テガソードの振動が激しくなる。俺の指先が痺れるほどだ。
オーマジオウ。
その名前が空間を満たした瞬間、俺は確信した。こいつが元凶だ。芹亜が抱える偉人たちの魂も、水無月姉妹の願いも、加宮刃郎が追う謎も、すべての糸がこいつに繋がっている。
「答えろ」
俺は一歩踏み出した。テガソードを構え直し、刃の光を男に向ける。
「てめえがライドウォッチをばら撒いた理由を聞いてるんだ」
オーマジオウの赤い複眼が、ゆっくりと俺を見下ろした。その視線に怒りはない。あるのは、静かな、あまりにも静かな観察の色だ。俺を値踏みしている。俺の覚悟を、俺の重さを、俺がこの問いに値するかどうかを見定めている。
男は名乗った。ただ一言、その名を告げた。それだけで空間が変わった。金色の粒子が渦を巻き、俺のテガソードが共鳴し、この夢の世界そのものが男の名前に跪いた。
だが理由は語らない。
代わりに男が動いた。微かに、だが確かに。その金色の右手がゆっくりと上げられ――