ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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巨神、降臨

 勝利の雄叫びが彷霊界の薄い空へ吸われていく。

 

 その余韻が消えるより先に、妙な静けさが落ちた。

 

 ゼッツを斬り伏せたはずの場所で、空気だけがまだ濁っている。さっきまで散っていた霊気の残り滓が、風に流されるどころか、逆にその一点へ引き寄せられていた。

 

「……何だ」

 

 思わず、そう呟く。

 

 地面に溶けていた黒い染みみたいなものが、ふつふつと浮き上がる。彷霊界のあちこちに漂っていた怨霊の欠片が、煙みたいに集まり始めていた。細い腕のようなもの。歪んだ顔。口だけが裂けた影。そういうものがいくつもいくつも滲み出て、互いに重なり、噛み合い、ひとつの塊になっていく。

 

「おい……おいおい、何だよあれ」

 

 朱莉の声が、さっきまでより低い。

 

 軽口の混じらない声だった。伊吹丸を構え直す気配が背後で強くなる。

 

 俺も、無意識にテガソードへ手をかける。さっきまでの戦いで息は荒い。アクセルの余熱がまだ左腕に残っている。けれど、そんなことを言ってる場合じゃないと、目の前の光景だけで分かった。

 

 怨霊の群れは、もう人の形をしていなかった。

 

 最初は寄せ集めだったはずのものが、次第に輪郭を持ちはじめる。腕が生える。脚が伸びる。だが、そのどれもが一本じゃ足りないみたいに、幾重にも折り重なっていた。巨大な胴体の表面で、無数の顔が呻きながら浮かんでは沈む。肩口からは骨みたいな角が突き出し、腹の辺りでは口がいくつも開閉している。

 

 でかい。

 

 それだけで嫌になるくらい、でかい。

 

 木立より高い。彷霊界の薄い空気の中で、そいつだけが異様な圧を持って立ち上がっていく。重さのないはずの霊の集合体なのに、地面が軋んで見えた。

 

「……冗談だろ」

 

 息を吐くみたいに漏らした声が、自分でも驚くほど乾いていた。

 

 雪庭が前へ出る。

 

 いつもの柔らかい顔のまま、けれどその目だけが鋭く細まっていた。

 

「気を抜くな。あれは、もう普通の怨霊じゃない」

 

「見りゃ分かるっての!」

 

 朱莉が吐き捨てる。

 

 だが、その声にもわずかに張りがあった。こいつがここまで露骨に警戒を滲ませるのは珍しい。つまり、それだけまずい相手なんだろう。

 

 巨大な怪物が、ゆっくりとこちらへ顔らしきものを向ける。

 

 顔と呼ぶには歪すぎた。幾つもの怨霊の表情が無理やり押し固められていて、目の位置も口の位置も定まっていない。なのに、こちらを見たとだけはっきり分かる。

 

 背筋が冷える。

 

 さっきまでのユニバースライダーとの戦いとは違う。あれは意思を持って戦っていた。今、目の前にいるこれは違う。怨みだけで肥大化した何かだ。理屈が通じる感じがしない。

 

 怪物の足元から、また新しい怨霊が這い上がる。吸い寄せられるように胴へ溶け込み、さらに膨らむ。

 

「まだ集まるのかよ……!」

 

 俺は舌打ちし、構えを深くする。

 

 ゴジュウウルフへ戻ってなお、身体は重い。けれど、立てないほどじゃない。まだ動ける。まだ噛みつける。そう思った、その時だった。

 

 腰の辺りで、熱が跳ねた。

 

「……っ?」

 

 視線を落とす。

 

 ライダーリングだ。

 

 前に手に入れたガヴ。そして今しがた奪ったゼッツ。二つのリングが、触れてもいないのに同時に脈打っている。淡い光を放ちながら、小さく震えていた。

 

「何だ、今度は……」

 

 朱莉が怪物から目を離さずに言う。

 

「吠! 何かしたのか!」

 

「してねえよ!」

 

 言い返した瞬間、光が一段強くなる。

 

 ガヴとゼッツ。二つの力が、まるで互いを呼び合うみたいに共鳴していた。音じゃない。けれど、確かに響いている。指輪の奥から、何かもっとでかいものを引っ張り上げようとしているみたいな、嫌に重い感覚だった。

 

 その時、頭の奥へ直接落ちてくるように、あの声が響いた。

 

「遠野吠」

 

 低く、重い。

 

 聞き間違えるはずがない。

 

「……テガソード!」

 

 思わず叫ぶと、朱莉と雪庭の空気がわずかに揺れた。だが説明している暇はない。声は続く。

 

「ガヴとゼッツ。二つの力で呼ぶ事が出来る」

 

 その一言と同時に、二つのリングの光が激しく噴き上がった。

 

 彷霊界の薄い空気が、今度は別の意味で張り詰める。目の前の巨大な怨霊はなおも膨れ上がり、こちらへ腕を伸ばそうとしている。だが、その圧へ押し返すように、俺の手の中のリングが確かな熱を持った。

 

 呼べる。

 

 今なら。

 

 巨大な怪物を睨み返しながら、俺は歯を食いしばった。

 リングの熱が、掌の奥で脈打つ。

 

 ガヴとゼッツ。二つの力が噛み合い、引きずり上げようとしているものの重さだけは、嫌でも分かった。目の前では、巨大な怨霊の塊がなおも膨れ上がっている。無数の口が呻き、幾つもの腕がこちらへ伸び、彷霊界そのものがそいつの怨念に引きずられて軋んでいた。

 

 もう迷ってる暇はない。

 

 俺は歯を剥き、上空を睨みつける。

 

「来やがれ! テガソード!」

 

 吠えた瞬間、光が裂けた。

 

 彷霊界の薄い空を、巨大な金色が真正面から割って降りてくる。闇でも霧でもない。もっと強引で、もっと馬鹿げた質量を持った何かだ。上空に現れたそれは、巨大な右手――見慣れたはずの異形だった。指先から掌まで、神像みたいに歪みなく、けれど生き物じみた威圧をまとっている。

 

「なっ……!?」

 

 朱莉が息を呑む。

 

 さっきまで巨大な怨霊を前にしても啖呵を切る気配を失わなかったあいつが、今だけははっきり驚いていた。伊吹丸を構えたまま、目だけが上へ向いている。

 

「何だよ、あれ……!」

 

 その声には、軽口の混じる余地がなかった。

 

 雪庭もまた、珍しく言葉を失っていた。

 

 普段なら一拍置いてから何か言いそうな男が、今は黙ったまま細く目を見開いている。穏やかな仮面の奥で、計算ごと崩れたみたいな沈黙だった。

 

「……まさか」

 

 ようやく漏れた声は、いつもよりずっと低い。

 

 テガソードは答える代わりに、さらに存在感を増した。

 

 上空に浮かぶ巨大な右手が、彷霊界の景色を圧し潰すみたいに影を落とす。その金色の輪郭だけで、さっきまでこちらを呑み込もうとしていた巨大怨霊の異様さが、別の意味で塗り替えられていく。でかさなら向こうも負けていない。だが格が違う。怨みの寄せ集めが膨れ上がった怪物と、最初からそこに君臨することを前提に生まれたみたいな存在。その差が、見ているだけで分かった。

 

 巨大怨霊が、初めてたじろぐように身を揺らした。

 

 無数の顔が軋む。口が呻く。腕が空を掻く。さっきまで一方的に膨れ上がっていた怪物の輪郭が、ほんのわずかに不安定になる。

 

 俺はその変化を見逃さず、口の端を吊り上げた。

 

「ようやくだ」

 

 掌の中で、リングの熱がさらに強くなる。

 

 ガヴとゼッツ。二つのライダーリングはまだ脈打っていた。呼べると言われた意味が、今さらみたいに骨の奥へ落ちてくる。こいつはただの援軍じゃない。俺が今、こいつを呼んだ。二つの力を使って、引きずり出した。

 

 朱莉が、まだ空を見上げたまま呟く。

 

「おい、吠……あれ、本当にお前が呼んだのか」

 

「そういうことらしいな」

 

「らしいな、で済ませるなっての……!」

 

 半ば叫ぶみたいに返してくる。けれど、その声にいつもの噛みつくような勢いは薄い。驚きが勝っている。

 

 雪庭はようやく視線を上空から外し、俺を見た。

 

「……テガソード。さっき言っていた神様みたいなもの、というのは」

 

「これだよ」

 

 答えながら、自分でも少し笑いそうになった。

 

 確かに、説明するならこれ以上ない。神様みたいなもん。あまりにも雑で、あまりにも正しい。

 

 上空のテガソードが、鈍く唸るみたいに光る。

 

 その気配だけで、彷霊界の空気がまた一段張り詰めた。巨大怨霊が押し潰されまいとするみたいに全身をうねらせ、無数の腕を広げてこちらを威嚇する。けれどもう、さっきまでみたいな絶望感はなかった。

 

 こっちには、まだ切れる札がある。

 

 しかも、とびきりでかいやつが。

 

 俺はテガソードを見上げたまま、低く息を吐く。

 

「さて」

 

 巨大怨霊が吠える。空気が震える。金色の影が、その咆哮を真正面から押し返すように空を塞ぐ。

 

 だったら、やることは一つだ。

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