ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
朝の光が障子越しに差し込んでいない。まだ夜明け前の薄暗さが部屋を支配している。俺は机に向かい、ジオウライドウォッチを置いて眺めていた。
金色の王を模した意匠。昨夜の夢の中でオーマジオウから投げ渡されたこの時計は、夢から覚めても掌の中に残っていた。金属の冷たさと内側から滲む熱さ。その矛盾した感触だけが、あの遭遇が幻ではなかったことを証明している。
「…で、どうすりゃいいんだってんだ」
俺は独り言を漏らした。理由を知るには戦い抜け。使えば答えに近づく。だが使い方がわからねえ宝の持ち腐れじゃ意味がねえ。
指先でウォッチの表面をなぞった。王の顔を模した意匠の下に、微かな継ぎ目があることに気づいた。中央を縦に走る一本の線。最初は装飾の溝かと思ったが、指でなぞると明らかに段差がある。
「分割できるのかよ」
俺は両手でウォッチを挟み込み、左右に引いてみた。最初は抵抗があった。だが、爪を継ぎ目に引っ掛けて力を込めると、カチリと硬い音が鳴った。
「おっ」
ウォッチが二つに割れた。
瞬間、金色の光が溢れ出した。
「うっ…!」
目を細める。部屋の薄暗さが一瞬で吹き飛び、壁も天井も障子も全てが黄金色に染まった。まるであの夢の空間に引き戻されたかのような眩しさだ。
分離した二つのウォッチが、俺の左右の掌に吸い付くように収まった。左手に半分、右手に半分。磁石が引き合うみたいに、指から離そうとしても離れない。掌に食い込む金属の感触が、さっきまでの冷たさとは違う。熱い。脈打つように熱い。
二つのウォッチが同時に光を強めた。金色の光が俺の指を腕を肩を飲み込んでいく。
「なっ…!」
光が俺を包み込もうとしていた。
光が晴れた。
部屋には静寂が戻っていた。だが、その静寂は先ほどまでの薄暗いそれとは違う。もっと輝かしく、透明な静寂だ。
俺は目を瞬かせた。目の前に誰かが立っている。
「よう、ボクの相棒!」
男がいた。
俺と同じ顔をした男が、そこに立っていた。
だが、俺じゃない。俺はこんな派手な白いジャケットなんぞ着ねえし、第一こんな爽やかな顔をしてねえ。男が纏っている白いジャケットは清潔感そのもので、部屋の空気までも浄化してしまったみたいだ。
男はニコリと笑った。その笑顔には曇りがない。俺の眉間の皺が嘘みたいな、太阳みたいな笑顔だ。
そして、男は両手を頭の上で組み、指先でハートマークを作った。
「Lovely&Friendly!」
高らかな宣言が、静寂を切り裂いた。
俺は呆気にとられた。思考が停止する。何が起こった? これは誰だ? なんでこいつがハートを作って俺の前に立ってる?
「…は?」
間の抜けた声が出た。同時に、椅子がガタゴトと音を立てて後ろへ倒れた。俺はそのまま尻餅をついた。無様だ。だが仕方ねえ。突然自分と同じ顔の男が現れてハートポーズ決められたら、誰だってこうなる。
男は尻餅をついた俺を見下ろし、ちっとも悪びれず、むしろ楽しそうに首を傾げた。
「おや? ボクの登場にインパクトありすぎちゃったかな?」
「てめえ何者だっ!」
俺は尻餅をついたままテガソードに手をかけた。柄の冷たい感触が指先に伝わり、ようやく自分が冷静さを取り戻しつつあるのがわかる。同じ顔の奴が目の前にいる。しかもハートポーズを決めてきやがった。不気味だ。だからといって油断はできねえ。
俺は立ち上がりテガソードを抜き放ち刃先を男に向けた。
「答えろ。てめえは何だ。俺の顔を真似て何のつもりだ」
男は全く動じなかった。俺の刃が鼻先三センチにあるというのに、その笑顔は微塵も崩れない。むしろ嬉しそうに目を細めた。
「ボクは君だよ」
「あ?」
「いや、より正確に言えば」
男は胸に手を当てた。白いジャケットの胸元を掌で押さえ、誇らしげに目を閉じる。その仕草は堂々としていて、どこか芝居がかっている。だが、そこに嘘はない気がした。
「ボクは光の遠野吠さ!」
高らかに宣言した。まるでアイドルの挨拶みたいにキラキラと。
「光の…俺だと?」
俺は眉をひそめた。テガソードを下ろさない。だが刃先がわずかに揺れた。混乱している。光の遠野吠だと? 俺の中に光なんざあるのか? 野良犬に光もへったくれもあるか。
「ふふ、信じられない顔をしてるね。まあ無理もないけど。でもね」
光の吠は一歩近づいてきた。俺は反射的にテガソードを突き出す。だが、男はその刃の上を指先でちょんと弾いた。金属音が小さく響く。
「ボクは君が持ってるジオウライドウォッチから生まれた。君の中にある光が形になったのさ」
「俺の中に…光…」
俺は口の中で呟いた。言葉が空回りする。俺の中に光? あるわけがねえ。俺は願いも持たず信じるものも持たず、ただ借りを返すために生きてきた。そんな俺のどこに光があるっていうんだ。
「あるよ。君が気づいてないだけ」
光の吠はまるで俺の心を読んだみたいに言った。その目は真っ直ぐで、嘘も方便もない。
「君は芹亜ちゃんを守るために夢の中へ飛び込んだ。水無月姉妹の願いを背負った。それって全部君の中の光がそうさせたんじゃないかな」
「…黙れ」
俺は低く唸った。テガソードを握る手が震えている。怒りじゃない。こいつの言ってることは全部図星だからだ。
「ボクは君の一部。だからボクがここにいるってことは、君の中に光があるってことさ。Lovely&Friendly!」
再びハートポーズ。今度は片手で。余計に腹が立つ。
だが剣は下ろせなかった。下ろせば、こいつの言うことを認めることになるみたいで。俺の中に光があるなんて、そんな都合のいい話信じられるか。
「それでさ、ボクたちこれから一緒に戦うんだよ」
「はあ?」
「ジオウライドウォッチは二つに分かれた。君は闇を、ボクは光を。二人で一つ。それがこのウォッチの本当の使い方さ」
俺は言葉を失った。二人で一つ。光と闇。ジオウライドウォッチの本当の使い方。あのオーマジオウが投げ渡した時計の意味が、ようやくわかりかけた。だがそれと同時に、目の前でハートを作っているこいつと二人で一つだと言われている事実に、言葉が消えた。
「…おい」
「ん?」
「そのハートやめろ」
「ええー? 痛いところ突くね君は」
光の吠はしょんぼりと手を下ろした。だがその顔はまだ笑っている。こいつは本当に俺なのか。俺はこんなに明るくねえぞ。
俺はテガソードをゆっくりと下ろした。まだ警戒は解けていない。だが、こいつが敵じゃないことだけはわかった。同じ顔で、同じ匂いで、ただ光と闇が違うだけ。
会話が終わると、部屋に朝の静けさが戻ってきた。
机の上に置かれた二つのライドウォッチが、呼応するように微かに光を放っている。金色の粒子が、朝の空気の中でゆらゆらと漂う。二つに分かれたウォッチが、互いに共鳴し合っているようだ。まるで、この部屋にいる二人の吠の存在を示唆するかのように。
俺は自分の手を見た。
節くれだった指。胼胝だらけの掌。喧嘩とバイトで磨り減った、粗野で無骨な手だ。それから、視線を上げる。光の吠の手が見えた。俺と同じ形をしているはずなのに、あちらの手は清潔で、指先一つ一つが磨き上げられたように滑らかだ。
(こいつ本当に俺かよ)
同じ顔、同じ声、同じ匂い。だが手が違う。生きてきた時間の質が違う。俺の手は闇を切り裂くためにあった。こいつの手は何のためにあるんだ。
光の吠は動いた。俺の視線など気にも留めず、すっと立ち上がり、部屋の窓に歩み寄る。そして、障子を開け放った。
朝日が、一気に部屋へ流れ込んだ。
「んーっ! いい朝だね!」
光の吠は窓枠に手をつき、朝日に向かって深く息を吸い込んだ。白いジャケットが風に揺れ、逆光の中に立つその姿は、まるで希望そのものを形にしたみたいだった。
眩しい。
「君が死ぬには良い日だ」