ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「君が死ぬには良い日だ」
光の吠がそう言った直後のことだ。
俺の思考がまだその言葉を咀嚼しきっていなかった。死ぬに良い日だ? なんだそりゃ。詩人かてめえは。困惑が顔に張り付いたまま、俺は立ち尽くしていた。
その隙を、光の吠は見逃さなかった。
「いただき!」
無かった。
テガソードが、俺の机の上に置いてあったテガソードが、光の吠の右の手にあった。いつの間に。いや、それより。
刃が、俺の首元へと迫っていた。
「ちっ…!」
俺は反射的に腰のテガソードを抜き放った。金属同士が激突し火花が散る。衝撃が腕から肩へと走り、痺れが指先まで駆け抜けた。
「なっ! てめえ何しやがる!」
「あはは! 驚いた? でもね、ボクは君の一部。君が強いか弱いか、それを確かめるのはボクの役目さ!」
光の吠は笑っていた。満面の笑みで。まるで遠足の前日の子供みたいな無邪気さで剣を振り回しやがる。
俺は二撃目を弾いた。だが三撃目が来る。上段からの袈裟斬り。俺は半身逸らしてかわし、テガソードを横に薙ぐ。
「廊下じゃ狭すぎんだろ!」
「じゃあ外で踊ろうか!」
光の吠は軽やかに跳んだ。白いジャケットを翻し、障子を蹴り破る。ガラスの破片が朝日の中でキラキラと舞い散る。まるで花びらみたいに綺麗だ。だが蹴り破ったのは俺の部屋の障子だ。怒りが湧いた。
「おい! 俺の部屋を壊すんじゃねえ!」
俺は床を蹴った。廊下を駆け抜け、縁側へ。裸足の足に冷たい木板の感触が伝わる。だが構っていられるか。光の吠は既に庭へ降り立っていた。
朝露に濡れた苔の上に、白いジャケットの男が立っている。テガソードを片手に、涼しい顔で俺を待っていた。
「さあ、お手並み拝見と行こうか」
「ふざけやがって…!」
俺は縁側から飛び降りた。着地と同時にテガソードを構える。苔の上で足元が滑る。だが獣のように重心を低くすれば問題ない。
俺は低い姿勢から飛び出した。
「うおおっ!」
テガソードを振り抜く。荒っぽい。教科書なんて知らねえ。喧嘩で磨いた我流の斬撃だ。刃先は正確さより威力に任せている。
光の吠はそれを最小限の動きで流した。まるで水が石を避けるみたいに、身体をわずかに逸らすだけで俺の斬撃をいなす。
「もっと腰落として。君の獣みたいな動きは嫌いじゃないけど、隙が多いよ」
「うるせえ!」
俺は間髪入れず二撃目を叩き込む。右から左への逆袈裟。光の吠はテガソードでそれを受けた。だが受けるだけでなく、刃を滑らせて俺の力を逃がし、同時に半歩踏み込んでくる。
綺麗だ。
悔しいがそう思った。光の吠の剣は、まるで騎士の舞みたいだった。無駄が一切ない。刃の軌道は常に最短距離を描き、足運びは流水のように滑らかだ。俺の荒削りな暴力と光の吠の洗練された剣術。同じ顔をした二人だが、剣の肌触りは正反対だった。
「君は力で押し切ろうとする。でもね、力だけじゃボクには勝てないよ」
「黙れ! 力でねえなら何で勝つってんだよ!」
俺は地面を蹴った。苔が剥がれ、土が剥き出しになる。テガソードを下段から突き上げる。光の吠は後退しながら刃を弾き、即座に反撃の突きを放ってきた。
鋭い。刃先が俺の頬を掠めた。熱線が頬を走り、血が一滴滲む。
「甘いよ。君は感情で剣を振ってる。怒りはいい燃料だけど、エンジンが壊れるよ」
「壊れねえよ! 俺は壊れるために生きてるんじゃねえ!」
俺は吠えた。遠吠えみたえに叫びながら、テガソードを上段に振り上げた。全身の筋肉を限界まで絞り出す一撃。
だが光の吠は、それすらも待っていた。
「そう。それでいい。その言葉、君らしいよ」
光の吠はテガソードを正面に構えた。騎士の構え。俺の全力の一撃と、光の吠の静かな構えが、朝の庭で激突した。
光の吠が、跳躍した。俺の全力の一撃をいなした反動で大きく宙に舞う。朝日を背に受けて、白いジャケットが帆のように膨らんだ。
「さあ、本番だ!」
光の吠は空中でテガソードに手を伸ばした。いや、テガソードじゃねえ。腰のポーチだ。そこから取り出したのは、白銀に輝く一つのリングだった。
ワイルドゴジュウウルフリング。だが俺の持ってるもんじゃねえ。俺のは赤と銀だ。そいつは白と金。純白の毛並みを模した意匠が、朝日を受けて神々しく光っている。
「エンゲージ!」
光の吠が叫び、白いリングをテガソードに装填した。
『ワイルドパワーアップ!』
テガソードが激しく振動し、爆発的な白い光が噴き出した。庭の苔も露も草も、全てがその光に飲み込まれていく。まぶしい。まるで直視できないほどの純白の奔流が、光の吠を包み込み、その姿を変えていく。
白い装甲が全身を覆う。ゴジュウウルフの意匠だが、どこか神聖だ。そして何より目を引いたのは、その背中だった。純白のローブがマントのように翻っている。聖職者の法衣か、あるいは聖騎士の外套か。兜の奥から覗く複眼は、優しげな青緑色に光っていた。
光が収束し、そこには白い狼の騎士が立っていた。
「聖なる光の使者、セイントゴジュウウルフ!」
名乗り上げた声は、鐘の音みたいに澄んでいて、どこか人を安心させる響きがあった。
「…聖なる光の使者だぁ?」
俺は舌打ちした。気に入らねえ。同じ顔をして派手な登場しやがって。聖だの光だの、俺には縁遠いもんばっかりだ。だが、負けてられねえ。
俺はポケットを探った。指先が触れたのは、熱を持ったリングだ。ワイルドゴジュウウルフリング。さっきの夢の中で手に入れた、俺自身の野生の塊。
俺はリングを取り出し、テガソードの装填部へと叩き込んだ。
「エンゲージ!」
『ワイルドパワーアップ!』
テガソードが唸りを上げた。
「ふん、聖なる光の使者ね。俺は…」
俺はテガソードを構え直した。荒々しい吐息が、口から漏れる。
「はぐれ一匹、ゴジュウウルフだ」
セイントゴジュウウルフとワイルドゴジュウウルフ。
白い聖なる騎士と、赤き野良犬。
朝日の下、二匹の狼が向かい合った。
「さあ、始めようか。ボクたちの本気を!」
「上等だ。その綺麗な顔、引き裂いてやるよ!」