ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「うおおおおっ!」
俺は雄叫びと共に地面を蹴った。朝露に濡れた苔が爪先で砕け泥が跳ねる。獣だ。獣のように四肢を使って低い姿勢から飛び込む。遠慮も容赦もいらねえ。正面から一直線に、牙を剥いて飛びかかる。
右手のオルカブースターが先に火を噴いた。
ドドドドッ!
銀色のエネルギー弾が朝日の庭を切り裂きながらセイントゴジュウウルフへと殺到する。牽制だ。当たれば儲けもんだが、当てるつもりで撃ったんじゃねえ。隙を作るための弾幕。俺の獣じみた勘がそう告げていた。
だが。
セイントゴジュウウルフは動かなかった。一歩も。白いローブを朝風にひらひらと揺らしたまま、ただ静かにウルフデカリバー50を掲げた。その刃が空中を一閃した瞬間、空間に裂け目が生まれた。
次元の穴だ。
俺の弾幕がその穴へと吸い込まれていく。銀色の光弾が痕跡すら残さず消え失せた。まるで最初から存在しなかったかのように。
(次元斬りかよ…!)
俺の足が止まりかけた。だが止まれば死ぬ。俺は舌を鳴らし速度を落とさず突っ込んだ。オルカブースターを腰に構え直し、テガソードを右手に握り直す。
「ちっ、遠距離は効かねえってことか!」
「気づきが早くていいね。でもね」
セイントゴジュウウルフの声が届いた。穏やかで、どこか楽しげだ。それが余計に癪に障る。
「近距離も同じだよ」
俺はテガソードを振り抜いた。下から上への切り上げ。獣の本能が狙わせた喉元への一撃だ。だがセイントゴジュウウルフはウルフデカリバー50でそれを受けた。金属同士がぶつかり合い火花が散る。
「くっ…!」
重い。同じテガソードのはずだ。同じウルフデカリバー50のはずだ。だが受けた瞬間の衝撃が違う。俺の剣は野蛮に、力任せに振り抜いている。セイントゴジュウウルフの剣は、最小の力で最大の効果を引き出す。受け流す角度が、俺の力を逆利用して倍返しにしてくるのだ。
俺は歯を食いしばり、押し返そうとした。だがセイントゴジュウウルフは既に次の動作に入っていた。俺の力を利用してテガソードを弾き、即座に逆袈裟斬りを放ってくる。
「しまっ…!」
刃が俺の肩を掠めた。ワイルドゴジュウウルフの装甲が悲鳴を上げ、火花と共に浅い傷が刻まれる。痛みが肩から腕へと走る。だがそれは前菜に過ぎなかった。
「無駄だよ」
セイントゴジュウウルフが呟いた。その声に嘲笑はない。ただ事実を述べるだけの平坦な響きだ。それが余計に腹立つ。
「今のボクには君の力をほとんど持っている。君が今、戦えているのはオルカブースターの力で成立しているだけさ」
「…なんだと?」
「オルカブースターが君の底力を引き出している。それがなければ君はただの荒っぽい素人だ。でもボクは違う。ボクは君の光。君が持ってる力の洗練された姿。純粋な戦闘技術なら、ボクが上だよ」
俺は返そうとした。だが言葉が出る前にセイントゴジュウウルフが動いた。
ウルフデカリバー50が閃光を放った。横薙ぎの一撃。だが速い。俺の反応速度を上回る速度で刃が迫ってくる。テガソードで受けようとした。間に合わない。
「ぐあっ…!」
衝撃が胸板を直撃した。
俺の身体が浮いた。地面から足が離れ、庭の空を切り裂くように吹き飛ばされた。苔も土も関係ねえ。背中が石灯籠に叩きつけられる鈍い音が響き背骨がきしむ感覚が全身を駆け抜けた。
石灯籠が半分砕けた。俺は瓦礫の上に倒れ込む。胸の装甲に亀裂が入っているのが見えた。呼吸が浅い。肋骨のどこかがイカれたかもしれない。痛みが肺の中まで食い込んでいる。
「はっ…はっ…」
荒い息を吐きながら俺は立ち上がろうとした。足が震える。地面が揺れている。いや揺れてるのは俺だ。
セイントゴジュウウルフは静かにこちらを見ていた。白いローブが風に揺れている。青緑色の複眼が、倒れた俺を見下ろしている。そこに哀れみも侮蔑もない。ただ静かに、待っていた。
「さあ、どうする? このまま終わらせる? それとも…」
俺は地面に手をつき、震える腕で体を押し上げた。口の中に鉄の味が広がる。だがまだ立てる。まだ剣を握れる。
「ふっ…ふざけやがって…」
セイントゴジュウウルフが動いた。
倒れた俺を見下ろす青緑色の複眼が、静かに掲げられたウルフデカリバー50に映る。刃が朝日を反射し白い光の帯を描く。トドメだ。あの一撃を受ければワイルドゴジュウウルフの装甲ごと俺の身体が両断される。そう確信できるほどの気迫が、刃の先に凝縮されていた。
「終わりだ。君は強かったよ。でもね」
光の吠が静かに告げた。白いローブが風に膨らむ。
「君では、僕には勝てないさ」
俺は動けなかった。いや動こうとした。腕に力を込めテガソードを持ち上げようとした。だが肋骨の軋みが脳に響き指先から力が逃げていく。間に合わない。わかっている。間に合わない。
刃が振り下ろされた。
来る。死ぬのか。夢の中でオーマジオウに言われた通り戦い抜けなかったのか。借りも返せねえまま。
俺は目を閉じた。
金属音が響いた。
だがそれは俺の装甲が砕ける音じゃなかった。刃と刃がぶつかり合う鋭い共鳴だ。衝撃波が頬を叩き露が舞い上がる。
目を開けた。
そこにあったのは黒い刃だった。
ウルフデカリバー50。だが俺が知っているそれとは色が違う。漆黒の刃。闇を溶かして鍛えたみたいな純黒の刀身がセイントゴジュウウルフの一撃を受け止めていた。その刃からは冷たい気配が滲み出している。俺のウルフデカリバー50とは対極の、夜そのものを固形化したような黒。
俺は知っていた。その刃に驚きを隠せなかった。
「お兄ちゃん、参上」
声が響いた。
背後から。俺とセイントゴジュウウルフの間に割り込んだ影から。その声は俺と同じで違った。低くもなく高くもない。ただ静かで、温かく、そしてどこか懐かしい。
俺の呼吸が止まった。
お兄ちゃん。
その単語が胸の底を叩いた。鍵をかけた扉を内側から開けるみたいに、忘れていたはずの何かが溢れ出す。
「兄ちゃん…」
俺は呟いた。声が震えているのがわかった。だが止められなかった。俺の口から勝手にこぼれたんだ。脳が判断する前に喉が音を形作った。